オリジナル展開あります、ご注意下さい。
人も居ないダンジョンで、彼―――ベル・クラネルは自身の弱さに歯噛みしていた。
弱い、だから
そんなの、考えずとも解りきっていた事だ。
あの
何階層に居るかも解らない一本道をひた走り、敵をナイフで斬って蹴り上げて殴って更に走る。
それに、それにだ。
自分は彼女を―――
「(ミーシアを……置いて逃げたじゃないか)」
羞恥心を言い訳にして
その事が彼の脚に拍車をかける。
「(くそっ……くそっ、くそっ、くそっ!!)」
何が英雄だ。
何が出会いだ。
これじゃあ、何一つとして見れないままじゃないか。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………今、何階層だろう」
ありったけの悔しさを吐き出してようやく、彼は今の自分の位置を確認した。
彼が今居るのは六階層。
そこは初心者の、それもソロの冒険者にとっての
「…………ウォー、シャドウ」
ビキリという音に振り向けば、鋭い三本指を持った異形。
初心者殺しとして有名なウォーシャドウが、振り向いた先に二体。
いや、
四対一という完全に不利な状況で、ベルの頭の中はひどく冷静だった。
ここからどうやって凌いで上に戻るか。
傷だらけになった身体がじんじんと痛むが、その感覚を考えないようにしてキッと前を見る。
孤軍奮闘、背水の陣、その他諸々。
彼は覚悟を決める。
―――彼とウォーシャドウが動き出すのは、同時だった。
――――――そして。
「【ショット・ファイア】!!」
凛とした声と炎が乱入してくるのも、同時だった。
「―――え?」
突然の
「…………まさか、六階層まで進んでいたなんて思いませんでしたよ」
「えっ、ミーシ…ろ、六階層!?」
気付いてなかったんですね、と苦笑いをするのは、同じ《ファミリア》のミーシア。
なんでここに、と考えてから、また置いていったことに彼は気付く。
「み、ミーシア!ごめんっ、また僕、君を……―――む」
あわあわと慌て謝る彼を、彼女は人差し指を彼の口に当てて止めた。
「謝るのは、また
そう言ってふわりとした笑顔からすぐに真顔に変わったミーシアを見て、ベルも慌てて気を引き締めた。
「……うん、二人で帰ろう」
「ええ……ですので、少しだけ時間を頂けませんか?」
「?いいけど、どうして……」
スカートを揺らめかせてジリジリと警戒を続ける敵の方を向いた彼女は、不敵に笑って。
「勝つ為の、
―――剣と爪が交差する。
三本もある大きな爪をいなし、避け、弾いていくベルの視界ははかつてない程に良好だった。
「(落ち着いて、全体を見ろ)」
決して慢心はしないが、それでも。
「(大きな突きの後は多少の隙ができる……だけど)」
深追いせずに腕を傷付けて。
当てたら引いて、を繰り返し。
「(ミーシアの準備が整うまで、僕が耐えないと!)」
―――そして、ミーシアもまた冷静であった。
「【我は奏者、その手を振れ】」
その詠唱に応じるように、右手に持った
「【息を吸え。今始まらん】」
続いた詠唱が、彼女の周囲の一切の音を消した。
敵はまだ気付かない。
ベルもまた、気付かない。
「【それは女教皇。黙する生者に冠を、笑う死者に智識を】」
謳う楽曲は、精神の成長を示す女教皇。
そうしてゆっくりと、彼女にしか知覚できない異変が起こっていく。
あれ程溌剌とした動きをしていたベルとウォーシャドウが、まるでスロー映像でも見ているかのように遅くなっていくのだ。
聴覚も、触覚も、ぐぐぐと引き伸ばされる。
だが、その中でミーシアだけは正常だった。
見えるものすべてが遅く、そしてはっきりと見える。
―――そう、
生物は集中力が一定の地に辿り着くと、知覚できる感覚が遅れていくような現象に見舞われることがある。
それがゾーン。
つまり今の彼女は、極限状態での集中力を展開していることになるのだ。
―――だが、これで終わりはしない。
「【それは愚者。笑みを纏う我は、旅の最中に偽りを被る】」
更に謳った楽章は、始まりを示す愚者。
その効果は、対象の模倣。
彼女が模倣するのは、視界に映るベルただ一人。
それが確定した時、彼女の持つ
この光景に、戦いの最中だったベルもウォーシャドウも動きを止めた。
敵と仲間から不思議な視線を当てられるミーシアはそんなのを気にもせず、そのハープの変形を見守る。
彼女の手の中で形を変えるハープは、すぐに完成形を作る。
それは―――
「―――お借りしますね、ベルさん」
―――ベルの持つ支給品のナイフ、そのものだった。
原作との相違点は
・ダンジョン内でのベルの後悔が簡略化され、ミーシア置いていったことについての後悔が追加
・ウォーシャドウが二体→四体へ
・ソロではなくミーシアとの
です。
次回、ミーシア無双(多分)(きっと)(恐らく)(maybe)