英雄の歌姫   作:珱瑠 耀

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ミーシアチャンガンバエー(コナミ)


十五小節目

支給品の簡素なナイフ。

 

彼女を今勝たせる為の力。

 

詩人が謳った最初の物語。

 

「ミーシア……それ……」

 

「ベルさんっ、余所見していないで片付けますよ!」

 

「!!っ、うん!!」

 

一瞬だけ呆けたベルを叱咤して向き直り、背中合わせでお互いにナイフを構え、同時に前へ飛び出す。

 

その様子にようやく我に返ったような動作をするウォーシャドウが、この二人を串刺しにせんと長い爪を伸ばした。

 

―――が、しかし。

 

「おぉぉッッ!!」

 

「はぁっ!!」

 

二人は速度を落とすことなく、向かってくる爪の下にナイフを走らせる。

 

ギャリギャリと甲高い声を上げ軌道をずらして爪をいなし、そのまま勢いを落とさずにウォーシャドウの胸元へとナイフが吸い込まれた。

 

刹那、パキンという小さい音を耳が拾う。

 

「(動ける……!!足りてなかったステイタスが、模倣によって底上げされてるのでしょうか……?)……いえ、それより、もっ!!」

 

走り抜けた自分の脚への考察を振り払った彼女が、横から見えた爪を屈んで避け、そのまま低い姿勢を維持して突っ込む。

 

その際ナイフから手を離してしまったが、彼女には。

 

「【振り返るな】!!」

 

引き寄せ(アポート)が、あった。

 

『―――!?』

 

空間がブレたように右手に現れるナイフに狼狽えたウォーシャドウの隙を逃さず、推進力と体重をそのままかけた突貫(ペネトレイション)

 

二回目の割れた音が鳴ったのは、その直後だった。

 

「あ"うっ……っ、ベルさん!」

 

「はぁぁッ!!―――…………ふ、ぅ」

 

ごろんとブレーキを忘れて一回転したミーシアが後ろを振り向くと、丁度ベルも二体の処理が終わったところだった。

 

そのまま周囲の警戒をし、敵が湧かない事を確認した二人は揃ってその場に崩れ落ちた。

 

「よ、よかった……ミーシアが居なかったら、どうなってたか……」

 

「そちらこそ、こんなに深く潜ってしまっては……ウォーシャドウに囲まれているベルさんを見て、肝が冷えましたよ」

 

「そ、それはその……ごめんなさい」

 

互いの健闘よりは怖かった瞬間を上げていく二人。

 

その会話の刹那に、ミーシアはそういえばと口を開いた。

 

「……先程の件なんですが」

 

「っ、はい」

 

途端に先程のふわふわした雰囲気が霧散したのを感じ取り、ベルがその場に正座する。

 

思い出すように、慈しむように目を閉じるミーシアが、至極ゆったりと喋り始めた。

 

「貴方がどんなに後ろ指を刺され、笑われようとも……あの時ミノタウロスに立ち向かったベルさんは、紛れもなく私の()()でしたよ」

 

そうして目を開き、怒ってませんから正座しなくて良いですよ、と笑い声を零す。

 

「あ……」

 

「ですが……この後ホームに帰れば、ヘスティア様からの雷が落ちそうですね」

 

「あッ……」

 

慌てて今の自分を見やるが、その服は上下共にかなり傷や血の跡が目立つものとなってしまっている。

 

これをヘスティアに見られたらどうなるか……想像は容易だった。

 

「……まぁ、私もかなり汚れてますし。今日は二人仲良く怒られてしまいましょう?」

 

「……はい、そうします」

 

敵の現れない六階層は、小さな笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 

「ところでミーシア、さっきのナイフってさ」

 

こつこつと二人分の足音がなるダンジョン内に、ベルの声が唐突に響く。

 

「あぁ……あれは以前までやっていた模倣ですよ」

 

()()が成功なのかもしれませんね、と冥府下り(オルフェウス)を撫でるミーシアは、先程の変化について考察を巡らせていた。

 

「自己……というより、イメージが確立していたからかもしれませんね」

 

「えっ……と、つまり……その人の事を強く頭の中に浮かべればいいってこと?」

 

そのベルの指摘に、はいと頷く。

 

「あのときは深くまで集中していましたから次はわかりませんが、恐らくステイタスにも補正がかかってますね」

 

「そういえば、さっきのミーシアは動きが僕と似てたね」

 

「そうですね……ですが、先程のようにベルさんをイメージに出しても、恐らくベルさん本人には追い付けないと思います」

 

その言葉に一瞬だけベルはん?となるが、その理由がすぐに分かったようであ、と溢していた。

 

「お考えの通り、これが『複写(コピーペースト)』ではなく『模倣(イミテーション)』だから、ですね」

 

成り代わっても本人には成りきれず、精々が本人の下位互換。

 

だが、愚者の私にはこれでも上出来だろう。

 

「そうなんだ……じゃああれは?来たときの魔法!」

 

「あれは―――」

 

二人は帰宅の最中、適度に警戒をしながら話に花を咲かせていた。

 

 

 

 

 

―――ちなみに、だが。

 

「もうっ、二人共なにしてるのっ!!」

 

ダンジョンから出た後に、摩天楼(バベル)の窓口でエイナさんに見つかって怒られ。

 

「…………馬鹿?」

 

ばったり出会ったナァーザさんからはジト目を貰い。

 

「ふっ、二人共どうしたんだいその傷はぁ!?」

 

少し痛む胃を擦りながらホームのドアを開けて、ヘスティア様から本気で心配された。

 

お風呂に入って血を流さないとぉぉ、と焦って奥へと引っ込むヘスティア様を見送りながら、私達は誰となく微笑み合い。

 

―――まぁ、これも一つの小さな成長ということで。

 

言葉にせずとも、また一つ絆が深まった気がした。




ベル君はあの後ちゃんと「強くなりたい」って言ってます。

ドルフロを始めて、パズドラをタブレットに移したらグーグル開発者サービスとかいう存在が消えたらしくパズドラが死んで、体力がどんどん減って、今に至る。
生きてはいるけど横になるとすぐ寝落ちするようになってしもた(お陰で生活リズムボドボド)
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