英雄の歌姫   作:珱瑠 耀

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「神様……僕、強くなりたいです」の次といえば、そうですよね。


十六小節目

———そういえば、もう怪物祭(モンスターフィリア)の季節なんだな。

 

道行く冒険者の会話を聞いて、私ももうそんな季節になったんですねぇと時の速さに憂いだ。

 

「……?ミーシア、怪物祭(モンスターフィリア)って何だろう?」

 

隣で首を傾げるベルさんに、そういえば彼は最近来たんだったと思い出す。

 

「怪物祭(モンスターフィリア)は……一言で言えば、調教済(テイム)モンスターの喜劇といったものでしょうか」

 

ガネーシャ・ファミリアが主導して行われる、迷宮で調教したモンスター同士で戦わせたり自慢の技を披露したりする大規模なイベント。

 

その期間に合わせるように、この一年間で『偉業』を成し遂げランクアップをした冒険者の「二つ名」……うん、「二つ名(痛い名)」を決めるんだそうな。

 

私としてはかなり……とてもかなり痛々しくて自分がその時になったら平凡なものを付けて欲しいと切に願っているのだが。

 

「いいなぁ……僕もカッコいい二つ名が欲しいよ、【ブラットファイア】とか【ホライゾン】とか」

 

「そ、そうですか……いつか、ランクアップしたら貰えますよ」

 

しかし、ベルさんはどうやらあちら側(カッコいいと思っている側)だった様だ。

 

そんな会話が終わる頃に、摩天楼(バベル)の入口へと辿り着く。

 

「じゃあ、今日も頑張ろっか」

 

「そうですね。程々に、私達のペースで」

 

うん、と頷き合う私達の意識は、既に切り替わっていた。

 

 

 

 

 

言うのを忘れていたが、現在【ヘスティア・ファミリア】の主神であるヘスティア様は数日程知り合いであるガネーシャ様の所に行くと本拠(ホーム)を空けている。

 

その間はステイタスの更新が出来ず、増えているであろう魔法の種類もわからない為少々歯痒い思いをしているが、まぁ深い階層に行くわけではないのでそんなに考えなくても大丈夫だろう。

 

むしろ魔法が増えたらベルさんからの視線に耐えられない。

 

「神様、何の用事なんだろうね」

 

「雰囲気は神会(デナトゥス)じゃなさそうでしたので、単純にガネーシャ様から神の宴(パーティー)に誘われたのかもしれませんね」

 

ガネーシャ様が主神となり纏めている【ガネーシャ・ファミリア】は民間人への思い遣りを強く持っている人達が多く所属しており、他の神達からの評価も悪い訳ではないらしい。

 

事ある毎に『俺が、ガネーシャだッ‼︎』と自己主張をし続けるのは流石にやめて欲しいと思われているらしいが。

 

「神の宴(パーティー)かぁ……どんな感じなんだろうね、食べ物とか美味しいのかな?」

 

「どうなんでしょう……でもヘスティア様の事ですから、神の宴(パーティー)の料理をタッパーに詰めて持って帰ってきそうではありますね」

 

これ美味しかったから二人も食べようよ!とタッパーを掲げて帰ってくる主神(ヘスティア様)が頭に浮かび、二人してふふふと微笑み合う。

 

日替わり制で今日は私がベッドで眠る日だったので、ベルさんにおやすみなさいと一言告げて眠った。

 

 

 

 

 

——— ——— ——— ——— ——— ———

 

 

——— ——— ——— ———

 

 

——— ———

 

 

 

 

 

「———ッ、ごふっ、ごほっ!!」

 

脇腹を刺す痛みで現実な引き戻された。

 

触手に叩き付けられて死ぬ事は免れたが、今度は失血死の危機。

 

身体の回復が出来る魔法はあっても発動出来ないし、ポーションなんてとっくに全部割れた。

 

揺れる視界が自分の思考を曲げてゆき、痛みを伴って意識を削りにくる。

 

どうしてこうなったんだっけ、と焦る脳内が思い出せたのは度々の記憶。

 

———シルさんに財布を渡せと言ったアーニャさん。

 

——— 怪物祭(モンスターフィリア)。

 

———疲れ切ったヘスティア様。

 

———人、人、人、人、人、人、人、人、人、人。

 

———逃げ出した体温。

 

———白銀色の誘惑。

 

———逃げろと叫ぶ誰かの声。

 

———溢れ出す脅威。

 

———逃げ遅れた子供。

 

———死んだコボルトの瞳。

 

———身体に奔る激痛。

 

———植物の異形。

 

———助けてくれた人。

 

———油断。

 

「……ぁあ…………つまり」

 

つまり、自業自得。

 

植物の異形が地面から飛び出させた触手に脇腹を貫かれ、大した行動もできずに倒れ込んだ雑魚。

 

それが私だ。

 

視線をずらせば、【ロキ・ファミリア】の団員が異形相手に善戦しているところ。

 

その後ろでひっそりとやられた私の事など、二の次だ。

 

無理もない、あんな触手の猛攻の中で私に気を遣えなんて到底言えない。

 

そもそもこれは私の不注意が招いたものなのだから、【ロキ・ファミリア】のお世話になるなんて以ての外。

 

痛みを堪えて、魔法で回復をしなければ。

 

———ほら、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】様が魔法を放って植物の異形が焼き払われた。

 

これで大丈夫、大丈夫だから、ゆっくり起き上がって、壁に寄り掛かって、息を整えて、それで———

 

その時、ググッという嫌な音を私は聞いた。

 

「———ッ!!皆さんっ、そこから逃げて下さいッ!!」

 

咳き込む事も忘れて叫ぶ。

 

その声に【ロキ・ファミリア】の面々が反射的に飛び退いた直後、地面を突き破って先程の植物の異形が再び姿を現した。

 

「あの子は———って、まだ居たーっ!?」

 

「しかもまた2体って、多過ぎじゃないの!?」

 

【大切断(アマゾン)】様と【怒蛇(ヨルムンガンド)】様が悪態を吐きながら戦闘体勢を取る。

 

飛び出した地盤に当たらない様にしていたのだが、地面の揺れに耐えられず再び地面に転がった。

 

「っ、かふっ!」

 

ズキンと脇腹が痛み、気が遠くなるが再度の痛みで再び覚醒する。

 

【剣姫】さ———アイズ様も【大切断(アマゾン)】様も【怒蛇(ヨルムンガンド)】様も先程の様に対処をしようとしているが、如何せん【千の妖精(サウザンド・エルフ)】様と植物の異形との距離が近過ぎて詠唱の時間が取れない。

 

どうすればいい、何か相手の目を惹かなければ。

 

少しだけ、注意を別の方向に逸さないとこの状況を打破できない。

 

考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ———

 

「っぐぅ!?」

 

刹那、脇腹からではない痛みに悶える。

 

無意識に抱えたのが頭だと理解し、これが頭痛だと認識した。

 

短時間で大量の知識を埋め込んだような激痛。

 

どうして今なんだ、と耐えて呼吸を整える。

 

そうして前を向いて、

 

「———あ」

 

霧が晴れた様に、自分のすべき事がすとんと降りてくる。

 

見なければいけないのは、目の前で猛威を振るう植物の異形。

 

この瞬間に、私が今で(・)き(・)る(・)こ(・)と(・)。

 

脇腹の痛みすら遠のいて、静かに動く心臓の音だけの空間で、私の口は詞を紡いだ。

 

 

 

「【———絡まり縛れ】」




という事で、ソード・オラトリアに捩じ込まれましたミーシアちゃんです。

時系列としては
神様と再会する
↓
人混みで二人とは逸れてしまう(ベルとヘスティアはそのまま怪物祭へ)
↓
まぁ後で会えるだろうと楽観視して適当に見回っていたらフレイヤを見かけた
↓
モンスターが脱走、ミーシアは【模倣(イミテーション)】を使いコボルトを仕留める
↓
ソード・オラトリアの植物の異形に横からぶっ叩かれる(魔法に反応する為いの一番に狙われた)
↓
【ロキ・ファミリア】に助けられるが地面から飛び出た触手に脇腹を貫かれる
↓
後は物語の通り
という感じの流れです。

ミーシアちゃんしなないで!いきるのよ!あなたならだいじょうぶ!(無責任な筆者)
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