英雄の歌姫   作:珱瑠 耀

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生きてます。

崩壊スターレイル楽しくて気付いたら六万課金してました((


十七小節目

頭の中で濁流のように流れていた痛みと知識が凪のように堰き止められ、痛みはおろか音さえも感じさせない刹那を見た。

 

急激に自分の身体が重くなるのは、おそらく自分が感じている以上に流れている時間が遅くなっていたからだろうか。

 

目の前に透明な共通語(コイネー)で綴られるその短い言葉は、酷く滑らかに私の口を転がった。

 

 

「———【絡まり縛れ】

 

 

今回だけ、特別だよ。

 

そんな、聞いたことのあるような言葉が重なった。

 

———ぞわり、と影が蠢く。

 

沼のように広がった影が数本の槍のように鋭くなり、地面を駆けていく。

 

その魔力の動きで向こうが反応するが、()()

 

その化け物が地面に根を突き刺すよりも速く。

 

その化け物が大き過ぎる蔦を振るうよりも疾く。

 

 

 

『———ッ!?!?』

 

 

 

地面を走り抜けた影がその化け物の影に触れ、まるで蛇のように巻き付いてその動きを阻害した。

 

「っ!?レフィーヤ、今!!」

 

一瞬戸惑った【怒蛇(ヨルムンガンド)】様だが、これを大きなチャンスと瞬時に判断した彼女はすぐに激を飛ばす。

 

「ッ……【ウィーシェの名のもとに願う 森の先人よ———】」

 

その身を弾くように、私とは反対側に離れて杖を構えた【千の妖精(サウザンド・エルフ)】様が集中し始めた。

 

「これ、なら……!」

 

地面についた左の掌が、ぐぐぐと力を増す。

 

私のひょろっちい力じゃそんなに意味もないが、今も戻り始めている脇腹の痛みを誤魔化す位なら出来る。

 

だから。

 

どうか。

 

「———保って、下さいよ……っ!!」

 

あのエルフが、詠唱を終わらせるまで。

 

私の無謀が続けば———

 

「———っ、う、ぶ」

 

———続、けば。

 

いつの間にか、私の頭は垂れている。

 

なんで?

 

揺れ動く視界と焦点が定まらない瞳が、その理由を明確に示しているのに。

 

「(精神(マインド)、が)」

 

足らない。

 

圧倒的に、時間を稼げる程の量がない。

 

瓶の中の残り滓を掻き集めようと必死になる私を他所に、少しずつ拘束も弱まっていく。

 

「(———いや、止めちゃ、だめ)」

 

ギリィ、と口の中から変な音がしたような気がしたが、そんなものは今更どうだっていい。

 

「(今、ここで縛るのを止めたら……()()後悔する)」

 

そんな事はしたくない。

 

「(死んでもッ、離さない!!とことん足掻いてやります!!)」

 

だんだんと制御が外れていき、気合いでそれを束ねる度に脳の奥が痛んでゆく。

 

もう一度、もう一度、もう一度、もう一度、もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ねて束ね———

 

 

 

そうして、ボンッという音で私の左手と左耳の感覚が吹き飛び、私の意識も引き摺られるように無くなる。

 

その意識が完全に閉じられる直前に、災害のような地揺れが厭に安心感を引き立てた。

 

「あぁ、上手くいったんだ」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様、本当に良かったのですか』

 

『良いんだ、これは必要な事だから』

 

『よりにもよってこんな奴に⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様を……』

 

『こんな奴、だなんて言い方は止めておくれよ。()()()もれっきとした家族さ』

 

『…………⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様がそう言うなら、良いのですが』

 

『安心していい。彼女達はきっと———』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喧騒が遠くに聞こえる。

 

ゆらゆらと、水の中にいるような浮遊感を理解した。

 

とても懐かしい記憶を思い出した気がしたが、起きなければ……

 

「…………」

 

知らない天井。

 

あのボロ天井(ホーム)では恐らく数十年以上は見れなさそうな、えらく高級な天井。

 

もふもふのベッドと、その隣の机に置かれた林檎を順番に見やる。

 

「ここ、は…………?」

 

そう呟いて、自分の声が酷くか細い事に気がつく。

 

無意識に右手で喉に手を当て、あれ、と違和感を感じると同時に、扉が開かれた。

 

「ん、起きたわね。気分はどう?痛む所はない?」

 

黒髪の中から生え出たような猫耳……猫人(キャットピープル)の女性、見てわかる位歳上だがかなりの美人。

 

確か、見たことある人だ……名前は、

 

「ぁ、【貴猫(アルシャー)】、様……?」

 

「それくらい正常な判断を出来るなら、大丈夫そうね……でも、しばらくは安静にしててよ?貴方の身体……特に脇腹と左腕、あと左の顔と首、酷いことになってたんだから」

 

間違いない、《ロキ・ファミリア》Lv.4の【貴猫(アルシャー)】、アナキティ・オータムだ。

 

「ぁ、の……ここ、って、げほっ、げほっ!」

 

「あぁもう、首が酷い事になってるって言ったばかりじゃない、あまり無闇に喋っちゃうともっと悪くなるわよ……一応答えると、ここは《ロキ・ファミリア》の拠点(ホーム)の客室よ。貴方、今にも死にそうな傷で焦ったアイズに運ばれてたんだからね?」

 

そこまで言われて、やっと安心したような気がした。

 

多分、あの化け物は倒せたんだ。

 

それで、違うファミリアの私をわざわざここまで運んで頂いて……

 

恐らく、治癒もして下さったのだろうか?

 

そこまで考えが行ってから、私の顔から血の気が引く。

 

「え、ど、どうしたの?まさかまだ痛む所が……」

 

ぶんぶんぶん、と心配して下さる【貴猫(アルシャー)】様に全力で首を振って否定して、少しだけ考えを巡らせる。

 

……まず大前提として、ヘスティア様とロキ様は仲がとっっっっっっっっても悪い。

 

それはもう最悪と言っても良いレベルだ。

 

そして私は《ヘスティア・ファミリア》の所属で、ここは《ロキ・ファミリア》のホーム。

 

そして私は恐らく()()()()()()()()()()()()()()治療された。

 

ここから導き出されるその後の展開は、恐らく一つ。

 

「(『ロキ様との仲が壊滅的に悪いヘスティア様の眷属である私を治療させたこと』をダシにして、色々やらされる……!?)」

 

オラリオで一二を争うほどに巨大なファミリアの一角に借りを作ってしまった私が、果たしてどんな事をされるのだろうか?

 

いや、もしかしてヘスティア様のファミリアに何か不利益な事を……!?

 

そこまで思考が行き着いて、おろおろする【貴猫(アルシャー)】様の前で布団から降りて脚を揃えた。

 

「えっ、ちょ、何を」

 

「わだっ、私はどゔっ、なってもいいっ、げほっ、ので、ファミリアに、手を出ずっ、ごほっ、の、だけはぁ……」

 

「そっ、そんな事しないわよ!?その体勢もしなくて良いからベッドに寝てなさいって!」

 

地面に頭がめり込む程に強く擦り付け、くぐもった声で懇願する。

 

東洋で最大限の謝罪を意味する『ドゲザ』、覚えていて良かったと思う。

 

貴猫(アルシャー)】様が何か言っていたが、いっぱいいっぱいな私の耳には何も入ってこなかった。




土下座を覚えさせたのは何処のタケなんだ(こなみ)
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