英雄の歌姫   作:珱瑠 耀

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二小節目

ぼんやりと意識が浮上する。

 

暖かな陽射しと頭を撫でる優しい手に、眠りに落ちる前後の記憶を手繰る。

 

「(確か……オラリオに来てから、門前払いばっかりで……ヘコんでいたら、歌を……)……うたをっ!?」

 

そこまで思い出して、ようやく自分が寝落ちてしまった事に気付いて頭を上げる。

 

「あ、おはようございます。よくお眠りになられてましたね」

 

起きて後ろを振り向けば、先程の少女がハープを側に置いて微笑んでいた。

 

左手には小さな本。

 

そして右手を中途半端に上げている辺り、頭を撫でられていたのだろう。

 

なんだか子供みたいな振る舞いをされ、少し恥ずかしくなってしまう。

 

「あ、いえ、その……すみません、呑気に寝てしまって……あまりに優しい歌だったので、つい……」

 

申し訳ない、とベルは肩を落としながら二度目の「すみません」を零そうとした。

 

しかし、その口を少女の小さな指が止める。

 

「いいんですよ、お兄さん。それ程に優しい歌だったと言われるのなら、私にとってこの上ない幸せですから」

 

そう微笑む。

 

まったく、この少女にはドキドキされっぱなしだと言わんばかりにベルは顔を紅くする。

 

「は、はい……」

 

「あ、でもずっとお兄さんと呼ぶのも少し他人行儀だと思いますので、自己紹介をしましょうか!」

 

そうだ、とその少女は両手を合わせる。

 

なんだかこの縁も大切なものになりそうだ、と思ったベルは首肯した。

 

「そうですね……それじゃあ、僕はベル・クラネルといいます。今朝田舎からここに来たばかりなんです。《ファミリア》に加入させて貰って、冒険者になりたかったんですけど……」

 

ずっとこの調子で、と頬を軽く掻く。

 

「そうだったんですか……だから、肩を落としていらしたんですね」

 

「あはは……そこまで、分かっちゃいますか」

 

「歌う人にとって、人の反応には敏感なものですから……つい、見ちゃうんです」

 

そう言って少女は口元を本で隠す。

 

ずっと歌っていたからこそ付いた癖なのだろう。

 

「それで、ベルさんは冒険者になってどうしたいんですか?」

 

「僕は……その、おじいちゃんが言っていた出会いを見つけに……あとは、その……英雄譚とかに出てくる英雄に憧れて……」

 

どんどんベルの声が小さくなっていく。

 

その様子に、少女は思わずふふっと微笑う。

 

「う、ですよね……子供っぽいですよね……」

 

「あ、いえいえ!大きな夢だなぁって思ったんです。英雄、かっこいいですもんね」

 

「はい、すごくかっこいいんです!」

 

そう喋るベルの顔はとてもいきいきしている。

 

 

「優しくて、」

 

 

誰かのヒーロー

 

 

ずきり。

 

 

「困った人を守れて、」

 

 

弱気を助ける勇者

 

 

ずきり。

 

 

「強くって、」

 

 

愚かでも進み続ける主人公

 

 

ずきり。

 

 

「強大な敵を倒せて、」

 

 

自分の身を滅ぼしてなお語り継がれる英雄

 

 

ずきり。

 

 

「そんな英雄に憧れて、ここに冒険者になりに来たんです!」

 

「……とてもいい夢ではありませんか?ベルさんのお祖父様は、とても優しい方なんでしょうね」

 

英雄に憧れているベルに、少女の表情が一瞬曇ったのは見えなかったようだ。

 

「はい、おじいちゃんがずっと育ててくれて…英雄譚や夢も、おじいちゃんがずっと僕に話してくれた事なんです」

 

「そうだったんですね。とてもいい方を家族に持ちましたね、ベルさん」

 

「あ、ありがとうございます……なんか沢山喋っちゃってすみません、あなたの事も教えて下さい」

 

そうベルから言われ、少女は本を閉じた。

 

「そうですね……私の名前は、ミーシアっていいます。家名はあまり言いたくないので、伏せさせて貰えると嬉しいな、と……」

 

後半の部分で、ミーシアの目が申し訳無さそうに伏せられる。

 

自分の家族に、深い事情があるのだろうか。

 

「あっ、いえいえ全然大丈夫ですよ!言いたくない事もある筈ですし、嫌な事は話さなくても……」

 

安心させようと、ベルが両手をあたふたとさせながら早口でそう言う。

 

「ありがとうございます。ベルさんは優しいですね」

 

優しい、と言われてベルの顔がほのかに紅くなる。

 

まったくどんだけ初心なんだベル君よ(by 作者)

 

「ここに来た理由が、私の歌で街の人や冒険者さんを元気にさせればなぁ……なんて思ってるんですけど、上手くいかなくって」

 

声が掻き消されてしまうんですよね、と街の方を見る。

 

追って見れば、街はがやがやと賑わっていて静かになれそうな所が少ないように見える。

 

「だから、ここで?」

 

「はい。毎朝夜明け前にここに来て、一曲歌っているんです」

 

毎日歌ってるんだぁ、と感嘆の声を漏らすベル。

 

「あ、ミーシアさんは《ファミリア》に加入していたりとかは……」

 

「いえ、まだ加入させて頂けてないのですが……私もそろそろ、考えた方がいいですかね?」

 

歌い手が《ファミリア》に加入して、どうなるのだろうか。

 

「どうなんでしょう……スキルで歌に関するものが出てきたりとかはありそうですけど……」

 

すると、ミーシアの顔がパァッと明るくなる。

 

「あぁ……そう考えたら、私も《ファミリア》に加入しておけば皆さんの役にたてそうですね!」

 

サポート役だろうか、遠距離攻撃かどうかは分からないが、《ファミリア》に加入するメリットはありそうだ。

 

「ところで、ミーシアさんには小さい頃の夢ってあったんですか?」

 

「はい、実はありました。小さい頃から童話や物語も大好きで、沢山読んでたんです」

 

「どんな童話だったんですか?」

 

「えっと、よく読んでいたのは『悲劇の二人』*1と『十二時の鐘』*2、『塔の上の少女』*3でしたね」

 

他にも沢山あったんですよ、と少し誇らしげにするミーシア。

 

「それで、童話や物語を読んでいくうちにだんだん……その、私もこういう物語の主人公とかになりたいなぁ……って思いまして……」

 

先程はベルの声が小さくなっていたが、次はミーシアの番だった。

 

「あはは、ミーシアさんも小さくなってますよ」

 

「う、えと、その、しょうがないじゃないですか!今更こんなふわふわな夢……」

 

「いや、僕はとてもいいと思いますよ。僕も何回も物語の主人公になりたいって思ってましたし、おあいこです」

 

「ふふ、そうですね」

 

そうして小さく笑いあった後、ミーシアがおもむろに懐中時計を取り出す。

 

「あ、もう2時なんですね。ベルさんは今からまた《ファミリア》の拠点(ホーム)へ?」

 

「はい、あと何件か目処があるので、そこを回ろうかと…ミーシアさん?」

 

「あっ、えっと、その……」

 

時計を確認してから、ミーシアがそわそわしている。

 

人差し指同士をツンツンと突きながら、言いにくいのかしどろもどろだ。

 

「どうかしたんですか?」

 

そうしてたっぷり五秒息を吸い込んだミーシアが小さく「よしっ」と呟き、口を開く。

 

 

 

「あのっ、私…も、着いて行ってもいいですか?」

*1
「ロミオとジュリエット」をモチーフに童話として改変させてます

*2
「シンデレラ」をモチーフにしてます

*3
「ラプンツェル」をモチーフにしてます




追記 -- 2021/8/10 - 23:05
オリキャラの名前をアルフィアからミーシアに変更。
原作にアルフィアという名があった為です。
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