―――正直なところ、あの後の記憶は若干曖昧だ。
「…………あれ、ここ」
ベルを探して上の階層を駆け抜け、ギルドの受付窓口で彼がエイナさんになにか問答をしているところまでは見た。
しかし、その後気が付いたらギルドの医務室、そのベッドの上だった。
「あ、ミーシアちゃん起きた?ロビーでいきなり倒れたっていうから皆あたふたしてたよ〜」
と、ここでタイミングよくエイナさんが入ってきた。
「はい、大丈――っ」
お礼を言おうと起き上がると、右足に小さな痛みが走る。
「あ、右足はちょっと腫れてたから……よっこいしょ」
そう言って布団を捲ると、右足首の方が少し赤くなっていた。
「あぁ……多分、ミノタウロスにやられたんだと思います」
「……そう、そのミノタウロスなんだけどね」
エイナさんの顔がきりっと引き締まる。
「あっ、《剣姫》様に助けて頂いて……」
「そうだったんだ……だからさっき」
なんか一人で理解されて良く分からないので、何がと聞いてみると。
「うん、ベルくんがさっき血塗れのまま『アイズ・ヴァレンシュタインの情報を教えて下さい』って言ってくるからびっくりしちゃったよ……まさかそんな事が」
「それは……申し訳ないです……」
同じ
「あの……ベルさんは……」
「今はシャワーを浴びてるから、取り敢えず下に行こっか。歩き辛かったら松葉杖で行くかおぶるかになるけど」
「ま、松葉杖でお願いしますっ」
即答だった。
―――しかし。
「まさか松葉杖の使い方が分からないなんてね〜」
「その、忘れてください……」
ミーシアは今、エイナにおぶられている。
エイナがそう言っていたように、彼女は松葉杖が使えなかったのだ。
部屋の中で3回ほどコケそうになり、涙目で訴えてきた時は流石のエイナも罪悪感を感じたという。
しかもこの
そのため、階段を降りる途中にいくつかの冒険者にその姿を見られてしまう。
「お願いします、早く下ろしてください…そして一人でっ……!」
「足に響くからだーめ」
響きそうなのは事実だから強く言えず、押し黙ってしまう。
「うぅ……」
先程のベルと遜色ない程には顔が真っ赤になる彼女。
今すぐに走り去りたい(走れないけど)。
「は、恥ずかしいですから……!」
「我慢も成長の内だから、ね?」
そうウインクされては、こちらも従うしかなくなる。
周りの羨ましいだの妬ましいだの微笑ましいだの百合百合だのという声をエイナの背中に蹲る事でシャットアウトし、彼女ははぁーっとため息をついた。
数分後。
「三階層にミノタウロス……だったよね。二人共無事でよかったよ……」
ギルド一階の相談室、三人で向かい合う。
「そうですね……あの時アイズさんが来なかったら、ミンチだったかもしれないと思うと…」
あの時の光景を思い出して、ベルとミーシアはお互い身体を震わせた。
「あの時、ベルさんが一撃加えてくださったから時間が稼げたのかもしれないですね……」
「あ、あの時は必死で……守らなきゃって思ったら、身体が勝手に……」
その言葉にニヤニヤするエイナ。
ベルは何故にやけてるのかわかってないようでおろおろしている。
「でも、ミーシアちゃんもギリギリだったんでしょ?」
「あぁ、はい、まぁ……そうですね」
と、エイナは話題を変えると共にふっとにやけ顔を消した。
「そこは私のミスね……現在のステイタスから見てベルくんを敏捷特化に、ミーシアちゃんを器用特化にしすぎたから、こういう時の算段が頭から抜けちゃってた……」
彼女はアドバイザーって言ったのに失格だ、とまで言って頭を机にゴツンとぶつけ、彼女の周りにどんよりとした空気が集まってくる。
「そっ、そんなこと無いですよ!エイナさんの講習で楽に三階層を攻略出来ましたし、とっても感謝してますから!だから、失格とか言わないでください!」
そんなエイナにベルは捲し立てるように大丈夫だと言う。
「うん……ありがとう、ベルくん。それで、ヴァレンシュタインさんの情報だっけ?」
エイナはその言葉で立ち直り、続いて頬杖を付いてベルに問うた。
「は、はい……」
「……あぁ」
ベルに顔を向けたミーシアは、その表情から色々察する。
ここでようやくミーシアは彼がアイズに恋をした事をはっきりと理解する。
「ステイタスとかスキルとかは口外禁止だから……それ以外の、軽い噂程度のものしかないよ?」
それでもいいの?と問い掛けるエイナ。
ミーシアの隣からはいっ、と声が聞こえるまで、そう長くは掛からなかった。