いつからだろう、俺が唯一の姉である透子を憎むようになったのは。
小さい時から見慣れた真っ白な天井。また今日もここから俺の生活は始まる。しかしながら、ここは自分の家ではない。病院である。
心臓とかその他の臓器だとかで身体が弱かった俺はこの15年間の大半を病院で過ごしていた。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日だってずっと此処。外の世界は触れてみたいけれど命と引き換えだと思うと気が引ける。
でも、そんな中で俺には楽しみがあった。月に1回、1年で12回。回数は少ないけど姉に会える。姉と言っても双子だから歳は変わらないけど。
外の流行りとか、嬉しかった事とか、腹がたったこととか、そんな小さな事だけど俺は楽しかった。自分の知らない事を笑顔で自慢げに話す姉が好きだった。心から綺麗だと思えた。
だけどあの日、俺はその綺麗なものに触れてはいけないことを理解したんだ。
あれは確か俺の10歳の時のこと。体の調子が少しだけ良いので長期退院していて、親族の集まりに行った時の話である。
どこを見ても知らない人だらけで姉の後ろで身を潜めていたが、姉は親族の子供と遊びに行くと言って外に出かけてしまった。遊びに行きたかったが、遊んだことによりまた病院送りになるのは嫌だったので我慢をした。
姉が居なくなって居心地が悪くなってしまった俺はどこか安堵できる場所はないのかと敷地内を歩いていると大人の話し声が聞こえてきた。いけないことだと理解していたけど、好奇心を抑え切れず聞き耳をたてた。それが間違えだった事にまだ気付かない。
『あ……子、唯一の……の子……に、どう……て────』
『もしか……たら、あの子って……んとうに──子』
何となく自分の話をしているな、と思った。ツギハギのようで全ては聞こえなかったが、最後の言葉だけはハッキリと聞こえた、聞こえてしまった。忌み子って。恥ずべきなんだって。ただ生きてるだけなのに。誰よりも辛くて、独りなのに。友達なんか当然居ない。話し相手と言ったら点滴を変えるナースや検診をするドクターぐらいだ。だからか、声を出したり歌ったりするのは得意じゃない、というか苦手だ。笑顔だって手鏡がないと笑えているかも分からない。
でも透子はずっと笑顔で、友達も沢山いて、皆から大切にされていて。俺が持ってない物、欲しい物はなんでももっている。それが悔しくて妬ましくて、仕方なかった。
それでいて俺に笑顔を振りまいていたのだと思うと気持ちが悪い。もしかしてあれって俺にストレスをぶつけてただけ? 俺の中の透子の像が瓦解していくのを感じた。
でもそれは一瞬。すぐに正気を取り戻したけれど、その時に抱いたキモチは消えなくてやがて罪悪感に変わっていく。
高校に通わせてもらっているだけでも贅沢なのに、一人暮らしをさせてもらっている。あの日の夜にお祖母様には全てを知られた。それだからか沢山支援をしてくださって感謝してもしきれない。家具も揃えてやろうかと聞かれたけどそこまで面の皮は厚くなかった。だから家具とかも買わないと。ちゃぶ台と冷蔵庫しか置いてないし、あまりにも殺風景過ぎる。
まぁ取り敢えずは目先の事を重視すべきだろう、飯だ。コンビニ行って弁当でも買ってこよう。あー、問題が多すぎて困る。
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種類多いしなんか体に悪そうだしコンビニの店員がギャルで怖かったんですけど。ゆーて姉も同じようなものか。
ん? そういや布団ないよな。明日体バキバキになってそう。少しだけお祖母様に甘えてしまおうか?
……あれ、鍵が空いてる。泥棒!? いや、鍵掛け忘れたか。
あれ、え、あ、な、んで? 外で生活し過ぎで疲れてんだ、きっと。だから幻覚なんて見えちまう。いや、でも鍵はかかってなかったし、こんな所にいる訳ないって。だってここはお祖母様以外知らないし、お祖母様には誰にも言わないように約束してもらった。なのに、なんで、なんで姉がここにいんだよ!!
「よっ、おかえり! いつの間に一人暮らししてるんだっつーの。大好きなおねーちゃんが来て放心状態か?」
「なんで居るんだよ。なんだよその笑顔!」
本当はこんなこと思っていないのに口から零れてしまう。大好きな姉に。俺はまた1つ罪を重ねてしまった。