壊れた蝶は今日も華の蜜を吸う   作:斉藤努

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第3話

 初めて秀と添い寝をした。秀は嫌々、って感じだったんだけど私はお構い無しでギューッと力を込めて寝た。

 秀がいたからアタシは今まで頑張って何事も取り組んで来れた。秀が悩んでいる事があるならなんだって解決したい。もしかしたら重いって思われるかもしれない。けど、それは今まで秀に何もしてあげられなかったせめてもの償いだと思っている。結局何が言いたいかと言えばアタシは秀が大好きで全力で守ってあげたい。それだけなんだ。秀の腕の中でそんな考え事をしていたら目が覚めて、そこに秀の姿はなかった。

 お味噌汁の匂いがする。秀が朝ごはんを作ってくれてるのだろう。秀のために食材を買ってきた甲斐があるというものだ。

「しゅう、おはよう。朝ごはん作ってくれたんだ」

「あ、うん。透子食べてて。俺昨日買った弁当食うから」

「ダメ、それアタシが食べる。そういうの体に良くない」

「もうそんなひ弱じゃないっての。それに……なんでもねえから食え!」

 

 なんか少し怒ってるけど関係ない。秀はちゃんとしたもの食べないと倒れてしまう。けど、少しだけ秀の作ってくれたご飯を食べたいとも思ってしまう。少しだけなら甘えてもいいよね。そう言い訳を作り、アタシは卵焼きを口に入れる。甘くて、アタシの大好きな、ばあちゃんの味。秀の作ったご飯は食べれば食べるほど体が暖かくなっていって少しだけ心臓がキュッとする。

 

 

 

 

 

 どうしたら、アタシの大切で大好きな弟に笑ってもらえるか、ずっと、何年も何年も考えてた。でも、どんなことをしても秀はアタシに笑顔は向けてくれなかった。できる事なら、秀が幸せになるんだったら、アタシの体を差し出してでも笑顔にさせたかった。

 そんな時に出会ったんだ、バンドと。初めてギターを抱えて弦を弾いた瞬間『これならイける!』そう思えた。だから、ずっと、ずーっと命を注ぎ込んでギターを、バンドを楽しんでる。

 ちょっと諦めかけたけどこの切符を秀に渡したい。これなら、秀は笑ってくれる。きっと、きっと。

「あのさ、秀? じつはアタシバンド始めたんだ。だからね、明日の日曜日、ライブがあるんだよ! だから、来て!! これ、チケットだから」

「おお、ありがとう。透子楽器始めたの? 本当に透子はなんでもできて憧れるなぁ」

「そーいう事を言わせたい訳じゃねぇっての。来てくれるんだ、ありがと」

「そりゃもちろん。透子の晴れ姿、見てみたいからね」

 今ちょっとだけ秀の口角が上がった。マジで嬉しい、ヤバい、涙出てきそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 透子にライブのチケットを貰ったけどどんな服装で行けばいんだろ? てか俺外に出かけられるような服持ってないじゃん。うーん、でも見たいしな……制服で行く事にするか。

透子はもう行ってるか、そりゃ演者なんだから早く準備するよな。もうそろそろ頃合だし俺もライブハウスに向かうか。

 

 

 こう、なんていうかオシャレな所だな。隣にカフェテラスあるし、なんかキレイ。もっと暑苦しい所を想像してたけど意外だ。

チケットは……あそこが受付かな? どうすればいいか分からないな。えっと……

「君、もしかしてライブ初めて? チケットは、持ってるんだ。じゃあそこの階段降りてまっすぐ行けば扉があるからそこ入ってね。高校生でしょ? 楽しんできてくださいね」

やや営業気味ではあったけど優しいお姉さん(?)だった。早速ライブスペースに行くとしよう。

薄暗い道を進んだ後、真っ黒な扉を開けると飛び込んで来たのは熱気だ。熱い、けどその熱さは決して嫌気はしない。

 お、どうやらタイミングが良かったらしい。透子が出てきた。衣装は可愛らしいフリフリみたいなのが付いてていつもの我の強い、男勝りな透子は窺えない。カッコイイ、それでいて可愛い。

今の俺は絶対笑えてる。心から楽しいって思えてる! めっちゃ嬉しい。

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……あ、完全に調子乗った。やっぱり俺はこんなキラキラした所には似合わないんだよ。頭がいい訳でもなく、だからと言って運動で誰かに勝てる事もなく、何かへ頑張ろうとする夢さえもない。そんな俺がこんなにも輝いている人に憧れちゃったらその人に迷惑だろう。帰ろう、そう出口の扉に手を掛けた時だった。

 雷鳴が走るような、強い刺激が俺の背中に直撃した。間違いなく先程まで透子が弾いていたギターと同種の音。

 勿論透子の演奏は素人目から見てもカッコよくて綺麗だった。けど、この音は同じようでどこか違う。人の魂を揺さぶるような鋭さ。俺の目線をもう一度舞台に戻す程の力がその音にはあった。

 聞いた瞬間はこの音を奏でているのはイケメンなお兄さん方なのかと思っていた。でも、そのバンドはどこかで見たことがあるような少女を含む可愛らしい衣装を身にまとったガールズバンドだった。

 その音一つ一つを聞く度に俺の心臓がドクン、ドクンと脈を打つ。もっと、もっとこの音を聞いていたい。なんでだろう、自分がこんなことを思うのかが本当に不思議でたまらない。ひとつ言えるとすると、その時の俺は周りの熱気に飲まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 “透子”

 直前までドキドキしてた。秀が来てくれているか、来てくれていたら秀を乗り気にさせる演奏ができているのか。それも全て杞憂だった。だって、笑顔で子供みたいにはしゃいでいる秀の姿が見えたから。

 演奏とかそれどころじゃなくてミスっちゃってたけど多分バレてないよ! ……絶対るいに怒られるやつだ、やらかした。

『桐ヶ谷さん、今日のあの杜撰な演奏はなんだったのかしら?』

「あの、えっと、それはですね……あの、わー!! なんでもないです!」

『もしかして今日秀君来てたの? それなら舞い上がってたのは分かるけどね』

『誰なの、そのシュウ君? もしかしてとーこちゃんのカレシだったり?』

「ち、違うって! 秀は……その、アタシの弟、なんだ。その、だからちょっとアガっちゃってました。ごめん!!」

 そういえばふーすけにだけは秀のこと話してたんだった。でも勘づかれるとは……流石にブラコンって引かれるよね。あー、もうアタシのバカ!!!! 

『そう、理由があったとしても先程の演奏は頂けないわ。次はしっかりしなさい』

『秀君来てくれたんだ、良かったね。ん、じゃあ行ってあげたら? 待ってるんじゃない?』

 ふーすけのクセに大人ぶってるのすげームカつくけど事実だから我慢する。秀の所行こっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秀は……アレ、香澄さんと話してる? どうしたんだろ、道に迷ったとか? 可愛いかよ。

 

「おーい、秀〜」

『秀くんのお姉さんって面白い人なんだね。そうそう、私の知り合いの子でもそんな子が……あっ、噂をすれば。透子ちゃーん!』

「香澄さん! 秀も何話してたんですか?」

『あれ、えっと、透子ちゃんが秀君の名前知ってて、あれ?』

『あ、香澄さん。さっきまで話してた俺の姉です。もしかして知り合いですか?』

『うん、そうなの! モニカはポピパの後輩っていうか、可愛いライバルって言うか……』

「そーだよ。秀って知り合いいたんだね、少しほっとした」

『うん、まぁ、成り行きっていうの? ちょっとした顔見知りでたまたま会ったから。世間話』

「……そうなんだ。じゃあ、もう帰ろ。遅くなるとダメだからさ」

『えー! もう帰っちゃうの? 秀くんも透子ちゃんももっと話そうよ』

「そうしたいのは山々なんすけど、コッチの事情もあるんで。また今度にしてください」

『あっ、透子!? 引っ張るなって……香澄さん、また今度!』

 

 完全に八つ当たりだし香澄さんに嫉妬してる。こんなの理不尽の他なんでもなくて理屈なんて全くもってない。けど、笑顔の秀と話した事アタシだってない……のにズルい。なんで、なんでアタシには笑顔の一つも見せてくれないんだよ。

 

 そっか、普通に考えれば分かるじゃん。アタシは秀の事何よりも好きだけど秀はそうじゃない。たったそれだけの事なんだよね。今思えば昔から病院でだって秀はつまらなそうにしてたもんね。今まで頑張ってきたのバカバカしいじゃん。

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