英雄のその後の話   作:暗黒騎士

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FF14をプレイしていたら思いついた書き散らしです。後悔はしていない。メインストーリーの漆黒のヴィランズとジョブクエストについてのネタバレがあります。注意してお読み下さい。

間違えて一回消してしまったので再投稿です。感想と評価してくれてた方々、ごめんなさい。


何故かフレイが台所に立って夕飯の支度をしている

 少女は困惑していた。それはつい先程脳内に流れ込んできた前世の記憶の奔流に対してでもあるし、今目の前の光景に対してでもある。

 

 それほど広くない室内から見える台所。そこには室内にも関わらず黒と青を基調とした全身鎧を纏った男が立っていた。手にはお玉が握られている。鍋の中身をかき混ぜているらしい。

 

 少女はその鎧姿の男に違和感を感じない。何故って、記憶を思い出す前の少女にとって、その光景は見慣れたものだったからだ。

 

「……フレイ?」

 

 恐る恐る彼の名を呼べば、すぐに落ち着いた声が返ってくる。

 

「ああ、テラス。もう少しで完成しますから、ちょっと待っててくださいね」

 

「もう! あなたはいつもちょっとって言い出してからが長いのだわ!」

 

 何も無かった場所に突然光が弾けて、羽の生えた小さな人間の様な生き物が姿を現した。少女はその羽の生えた小人―――妖精のことも知っている。

 

「私のかわいい若木がお腹を空かせているのに、あなたという人は!」

 

「静かにしてください。あとは仕上げだけですから」

 

 忙しなく飛び回る妖精――フェオ=ウルを適当にあしらっているフレイ。少なくとも、先程思い出した記憶には二人が顔を合わせている場面は存在しない。けれど、記憶を思い出す前の少女には、確かにその光景を見たことがある……というか、ほぼ毎日目にしていた。

 

「えーと、フレイ、フェオ=ウル」

 

「丁度完成しましたよ、テラ……」

 

 ピタリとフレイの動きが止まる。彼は少女の変化に気づいたのかもしれない。

 

「はあい、どうしたのかしら、私のかわい……ちょっと待ってほしいのだわ!?」

 

 フェオ=ウルが笑顔を向けたかと思えば、妖精は霞んで見えるほどの速度で少女の眼前に迫り、ぶつかる寸前で停止した。伸ばされた小さな両手が、少女―――テラスの両頬にそっと触れる。

 

「若木、あなた……思い出したのね!?」

 

「う、うん」

 

「て、テラス。大丈夫ですか? 記憶を思い出した影響で、気分が悪くなったり身体の具合が悪くなったりしていませんか?」

 

 お玉を置いたフレイが落ち着かない様子でゆっくりと近づいてくる。彼はテラスの前世の記憶が、明るく楽しいものばかりではないことを知っている。

 

「大丈夫、どこも悪くないよ。流石に少し混乱してはいるけどね」

 

 その気遣いに平気だと笑みを見せると、フレイは目を緩めた。最も、その表情は兜に隠れて見えなかったけれど、彼とは前世では長年の付き合いだ。雰囲気で彼が安堵しているのがわかる。

 

 僅かに開いた会話の空隙を、くうぅ、という小さな音が埋めた。その鳴り所は少女の腹からだ。

 

 顔を見合わせて笑いあったのち、三人は食事の支度に移るのであった。

 

 

 

 

 光の戦士と呼ばれた英雄の生涯は、最高の仲間達に看取られて確かに幕を閉じたはずだった。

 

 先に旅立っていった賢人達と同じく、寿命だった。テラスはそれぞれ自分の手を握る双子に最期の言葉を伝えて、ゆっくりと眠りについた。

 

 戦いと苦悩の連続で苦しくなる時もあった。けれど、この道を選び進んできたことを後悔したことは一度として無かった。我ながら満足できる、素晴らしい人生だったと思っている。

 

 だから、今こうして光の戦士として生きた記憶と自我を持っていること。そして何より、今目の前で楽しそうに会話をしている二人―――フレイとフェオ=ウルが何故ここにいるのかが不思議だった。

 

「ねえ、二人はどうしてここにいるの?」

 

 フレイの作ってくれたシチュー───とても美味しい───を味わいつつ、テラスはそれぞれの顔を見つめる。

 

「僕は、そうですね。確かに君と共に最期を迎えた筈だったのですが……」

 

「あなたの魂は確かにエーテルに還ったはずなのよ。けれど、あなたには何故か魂が二つある。それが関係しているのかどうかは私にもわからないのだわ。けれど、確かにあなたはあなたの魂のまま、私との契約は繋がったまま、この世界へとやって来た。私はあなたの魂を追ってここへ辿り着いたのだわ!」

 

 これはきっと運命なのだわ! とフェオ=ウルが嬉しそうにしているのを見て、ふと疑問が湧いた。

 

「フェオ=ウルはあの世界に帰れるの?」

 

「ええ、ええ。勿論よ。でもね、悲しまないで聞いてほしいけれど、若木は……」

 

「大丈夫。わかってるよ」

 

 自分は一度死んで、この世界で生まれ直している。戻ることが出来ないのはわかっていた。けれど、どうしても知りたいことがある。

 

「アルフィノとアリゼーは、どうしてるかな?」

 

「……大丈夫よ。あの双子は、天寿を全うして穏やかに、安らかに旅立っていったのだわ」

 

「そっか。……そっかぁ」

 

 良かったと思う気持ちと、寂しいと思ってしまう気持ちが混ざって、声の震えを抑えることが出来ない。どうしようもなく視界が揺らぐ。精神が少女の身体の年齢にひっぱられているからか、感情の制御が難しい。

 

 随分遠くまで来てしまった。かつての仲間は皆旅立ち、何の因果かテラス一人だけがこうして取り残されてしまっている。どうしようもない寂しさに胸を打たれた。

 

 そんなテラスの様子を見ていたフレイが優しく言った。

 

「テラス、君さえ良ければの話ですが。もしよかったらどこかに旅へ出ませんか? この世界もなかなか、興味深いものですよ」

 

「旅?」

 

「ええ、旅です。ゆっくりと気ままに旅をして、美味しいものを食べたり、楽しい思い出を作ったりしませんか?」

 

「まあ、それはいいわ! ねえ若木、どうかしら。また旅をしてみない? 今度は私達があなたの側にいるのだわ!」

 

「そう、だなぁ……」

 

 フレイとフェオ=ウルの言葉を聞いて、テラスはまた旅をすることを考えた。確かに、まだ見ぬ世界を冒険したい思いはある。けれど───

 

「あのね、二人とも。確かに旅をしたいとは思うし、記憶を思い出しはしたけれどさ。わたしって、まだ七歳なんだよね」

 

 そう。かつて光の戦士として生き、各地で様々な伝説を打ち立てた英雄テラスの現在の身体は、まだ七歳だった。おまけに自我が芽生えた頃にはフレイとフェオ=ウルと一緒にいた記憶が僅かに残っている。親が誰かもわからない。そもそも存在しているのだろうか。

 

「わたしの親って、いるの?」

 

「えっとね、若木の魂がどこかへ行くのを感じたから、すぐに追いかけたのだけれど……私があなたを見つけた場所は、深い森の奥、大きな木の根本なのだわ。そこで、一人で泣いていたの」

 

「えーと……その場合、わたしの親はその木ってことになるのかな?」

 

 三人で暫く話し合ってみたが、結論として、テラスは急にその場に赤ん坊の姿で出現したのではないか、ということになった。これまでに度肝を抜かれるような経験は何度もあったが、これにはテラスも何かを叫びたい衝動に駆られた。

 

「ま、まあわたしがこの世界に()()した話は置いとこう。というかさ」

 

 テラスは(おもむろ)に自分の即頭部へと手を伸ばす。そこには後頭部へすらりと伸びる角がある。角だけではなく、後ろ腰から伸びる長めの尾の感覚も、エオルゼアではアウラ・ゼラと呼ばれている種族であるテラスにとっては慣れ親しんだものだ。

 

「アウラって、この世界にもいるの? 他のエオルゼアにいた種族とかも」

 

「いいえ、今のところ見かけたことはありませんね。それと、この世界にはどうやらエーテルと呼べるものが存在しない様です」

 

「え……?」

 

 テラスは驚きのあまり言葉を失った。エーテルが、ない。どんな生き物でも多少なりともエーテルをその身に宿しているのが常識の世界で生きてきたテラスにとって、エーテルが存在しないということはとんでもない衝撃だった。

 

「……じゃあこの世界の人達は、魔法を使えないの?」

 

「そうなりますね」

 

「はー……」

 

 テラスの脳裏に仲間達の顔が浮かんだ。エーテルの存在しない世界があると知ったら、彼等はいったいどんな顔をしただろうか。

 

(皆、わたしはとんでもないところに来てしまったよ)

 

「かわいい若木。あなたにはちゃんとエーテルがあるから魔法は問題なく使えるし、言ってくれればあなたの持ち物だって運んでこれるのだわ!」

 

「ありがとう、フェオ=ウル。でもわたし、魔法職は殆どやったことないからなぁ……剣も槍も、この身体じゃ扱えないし」

 

「むーっ!」

 

 ぼんやりと虚空を見つめるテラスの頬を、フェオ=ウルが拗ねた様にちょんちょんとつつく。お返しにテラスはフェオ=ウルの頭を人差し指で撫でてやった。フレイはそんな二人の様子を微笑ましく思いながら眺めていた。

 

「では、もう少し君が成長するまではここで過ごし、それから旅に出るというのはどうですか?」

 

「賛成なのだわ! それまでの間、若木には私が魔法を教えてあげる!」

 

「お、お手柔らかにお願いします」

 

 

 

 

 

 

 かくして、光の戦士は新たな旅に向けて一歩を踏み出した。

 

 




登場人物紹介

光の戦士テラス
かつてエオルゼアで光の戦士と呼ばれていた英雄。ゲームではプレイヤーのことを「ヒカセン」と呼ぶことが多い。
黒い角と鱗、尻尾が生えたアウラ・ゼラの女の子。名前の由来はギリシャ語でτέρας【teras】。意味は「怪物」。なお、新約聖書では「奇跡」という意味で使われている。メインクエスト「紅蓮のリベレーター」に登場するコウジン族のおまじないにより海神の加護を得ている為、水中でも呼吸が出来る。

影身のフレイ
暗黒騎士のジョブクエストを進めると登場する全身鎧の男。
その正体は、死んだフレイの持ち物だったソウルクリスタルにヒカセンが触れたことで、クリスタルに残っていたフレイの生への渇望とヒカセンの負の感情がヒカセンのエーテルに混ざり合うことで生まれた存在。めっちゃシンプルに言うとヒカセンの暗黒面のような存在。普段はヒカセンの心と同化している。が、この小説のフレイは心配性なので割と良く出てくる。

『狂い咲き』のフェオ=ウル
メインクエスト「漆黒のヴィランズ」にて登場するピクシー族の少女。特徴的な喋り方をするかわいいやつ。ヒカセンのことを「かわいい若木(スネエク)」と呼び、自らを「美しい枝(イスナピシ)」と呼んでいる。ゲームではフェオ=ウルに「かわいくて美しい我が枝フェオちゃん」と情熱的に呼びかけるイベントがある。
テラスの側にいるのは分身で、本体はエオルゼアの第一世界「妖精郷イル・メグ」にて立派に妖精王をしている。

暁の血盟メンバー
悩みに悩んだ末、彼等は天寿を全うして、安らかに旅立っていったことになりました。皆可愛くて大好き。
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