英雄のその後の話 作:暗黒騎士
何年かすっ飛ばしてます。この先は登場人物が増えるので、フェオ=ウルの声は斜体にします。
こじんまりとした小さな無人島の砂浜で、テラスは仰向けになってぼんやりと空を見ている。
十七歳になったテラスの身体はすっかり成長していた。後ろ向きに伸びた角に、少し無造作に切られた短めの銀髪。蒼い目。前世と全く同じと言ってもいい外見に成長したテラスだったが、身長は前世よりも伸びた。狂喜乱舞したことはまだ記憶に新しい。
「あー……」
そんな彼女の周囲に散らばっているのは、数時間前までは立派な船だった物の残骸。それを目にしたテラスのテンションは現在進行形で下がっていた。
「私の若木ってばまた船を駄目にしちゃったのだわ! これで何隻目かしら?」
「フェオちゃんやめて。あんまり上手くいってないのは自覚してるから」
「あんまり、じゃなくて絶望的なのだわ」
「ヴッ!」
心にとどめを刺してきたフェオ=ウルが楽しげにテラスの周囲を飛び回る。
そう、絶望的だ。テラスは比較的何でも器用にこなせると自負していたが、その考えは改めねばならないことを思い知った。この世界の海は前の世界の海に比べて過酷だ。巨大な怪物が何匹も生息していることに加えて、波や天気が非常に読みにくい。なんだよ常夏の気温だと思ったら一時間後には雪が降るって。気候がバグっているようにしか思えない。
テラスの胸元に座ったフェオ=ウルがウンウンと頷いているのが見える。
「まあでも、今回は一週間船が無事だったから最初よりは成長を感じられたのだわ」
「知識はあるはずだけど……やっぱり経験が足りないのかな」
経験を積もうにも、船を出すたびに沈没したり遭難したりしている。学べたのは遭難した際の心の落ち着け方くらいのものだ。テラスは幸い海神の加護を得ている為水中でも呼吸が出来るが、加護がなかったら普通に死んでいたかもしれない。
「というか、これまで聞かなかったけどわたしって今でも海神の加護が切れてないんだね。ちょっと不思議」
「いいかしら、私と貴方の契約も、海神からの
「へー……なんかすごいね」
「言ったでしょう。私は貴方の『
テラスはフェオ=ウルの言葉に少し頬を緩めた。世界は変わっても、エオルゼアで結んできた絆が切れていないことが嬉しかった。
水中で呼吸が出来るおかげで、怪物との水中戦闘にはもう慣れたものだ。というかこの世界の船旅危険すぎやしないだろうか。テラスはこの世界で海に出ている者達に対して尊敬の念を抱きつつあった。
「くうぅ……」
この世界は殆どの面積が海になっている。自由に世界を見て回りたいテラスにとって、誰かの船に乗せてもらって何処かの島へ行くというのはあまり取りたい手段ではない。折角なら自分の船で好きに旅をしたい。海底を歩いたり、延々と泳いだりして島を目指すのにはもう飽きた。
「大体、この海がおかしいんだよ。波の流れが読みにくいし、天気はコロコロ変わるし、バカでかい怪物がうじゃうじゃいるし」
「でも、あの大きなお魚達の縄張りは抜けたんじゃないかしら? 天気も安定しているみたいよ。それに、少なくとも島には着けたじゃない!」
「無人島、だけどね」
不意に小さな音がした。その音の出どころは、仰向けに寝転がったままのテラスの腹。
「……取り敢えず何か食べよう。ここ何日かマトモなもの食べてないし。疲れたから暫くこの島で休むことにする」
釣り竿をアーマリーチェストから取り出して、テラスはヨロヨロと砂浜を歩き出した。
二日後。
釣り場に定めた砂浜で、テラスは黒髪の少年を見下ろしていた。周囲にはひっくり返った小舟と樽、麦わら帽子が一つ打ち上げられている。どうやら近くで遭難してこの島に流されてきたらしかった。年は恐らくテラスと同じくらい。
掌を口元へ持っていくと、ちゃんと呼吸が確認出来たのでひと安心。テラスはこの少年に取り敢えず声をかけることにした。
「おーい、君」
幸い、少年はすぐに目を覚ました。黒い瞳と目が合う。
「……んん? 誰だ、お前」
「わたしはテラス。大丈夫? 君この島まで流されてきたみたいだけど」
「えっ、本当か? って帽子がねぇ!」
「これ?」
「それだ、俺の帽子!」
近くに打ち上げられていた帽子を渡すと、黒髪の少年は笑顔で麦わら帽子を被った。
「ありがとな!」
「わたしは拾っただけで何もしてないよ。えっと……君、名前は?」
「俺はルフィ! ししし、よろしくなテラス!」
麦わら帽子の少年───ルフィは快活に笑った。フレンドリーな性格らしい。きょろきょろと周囲を見渡している。
「ところでこの島、どこだ?」
「ちっちゃい無人島だよ」
「へー。テラスは何でこの島に来たんだ?」
「ちょっと色々あってね。ここまで流されてきちゃった」
「なはは、俺とおんなじじゃねぇか! って、それなんだ? 角?」
(しまった)
テラスはフード付きローブを着ることを忘れていた。角と鱗、尻尾が丸見えだ。いやしかし、彼も彼で気づくのが遅い気がする。
「あー、ごめんびっくりしたよね。普段はフードとかで隠してるんだけど……」
「ん? 何で隠すんだ?」
「……おお。怖がったりしない人には初めて会ったなぁ」
「怖くはねぇだろ。何か竜みたいでかっちょいいなー!」
「へへ、ありがと。アウラって種族は皆こうだけど、見たことない?」
「いんや、おれは初めて見たぞ」
仕方のないこととはいえ、これまでテラスの外見を不気味がったり怖がったりする人は多かったので、それがまさか褒められるとは思っていなかった。テラスの中で少年への好感度が少し上がる。
「あれ? 耳はないのか?」
「うん。角が耳の代わりみたいなものかな」
「へー! おもしれぇな、お前」
こんな無人島ではやることもない。テラスとルフィの会話は度切れることなく続く。いつしか日が落ち、美しい夕焼けが砂浜をオレンジ色に染め上げていた。砂浜に座って二人でその光景をのんびりと見ていると、ルフィが言った。
「なあ、おれは今一緒に海賊になる仲間を探してるんだ」
「へー、ルフィは海賊になりたいの?」
「いや、おれがなるのは海賊王だ!」
海賊王。テラスは記憶を探る。確か、それはこの世の全てを手に入れた者の称号だ。随分壮大な夢だ。しかし海賊か。テラスの頭に浮かぶのは、村を襲い金品を奪い人を殺す者達の姿。そういう海賊達の姿をもう何度も見てきた。この純粋で気のいい少年も、いずれはそうなってしまうのだろうか。それは少し、残念な気がする。
「テラス! おれと一緒に海賊やらないか!」
だからそうルフィに言われた時、テラスはもう断り方を決めていた。
「ごめんけど、海賊にはならない」
「えー! 何でだよ!」
「わたしの見てきた海賊は人の物を奪うし、戦意のない相手でも容赦なく殺してた。そうはなりたくない。わたしは誰かを助けられるようになりたいから」
テラスが英雄と呼ばれるまでに強くなれたのは、自分の原点を忘れなかったからだ。ただ大切な人を守りたいという原点を。
全ては救えないと知っている。救えなかった人だっている。救う為に奪った命すらもある。それでも尚、手の届く範囲の大切な人を守れるようにと強さを求め続けてきた。それは生きる世界が変わった今でも同じ。
(───最も、今では守りたい人はいないけれど)
そう内心で一人ごちた時、不意に風が吹いてテラスの頬を優しく撫でた。今は姿を隠している妖精の仕業だろうことは想像に難くない。
「失敬だな、おれはそんなことしねぇぞ! おれが海賊になりてぇのは冒険がしたいからだ」
「冒険?」
テラスは少し興味を惹かれてルフィの方へ身を乗り出しそうになるも、すぐに取り繕った。エオルゼアの英雄は冒険という言葉に弱い。何故ならその楽しさを己の身をもって知っているからだ。
ルフィはテラスが冒険という言葉に興味を惹かれているのを感じ取って、どんな冒険をしたいか、誰を仲間にするかなどを語りだした。その途中で自分が海賊になりたいと思ったきっかけや、片腕を犠牲にして助けてくれた恩人の話、悪魔の実を食べてゴム人間になったこと。育った村での出来事などを事細かにテラスに話して聞かせた。
「へー、本当に伸びるんだ……」
「おもしれぇだろ? 代わりに泳げなくなっちまったけどな。なあー、仲間になってくれよ。海賊は楽しいぞ! 歌うしな!」
「うーん……」
これまで一緒にいて、ルフィの人柄は大体理解した。テラスの人を見る目は外れたことがない。彼が戦意のない相手を攻撃するような人物ではないことは伝わった。
そして何より、ルフィには自分と同じような冒険好きの波動を感じる。船を動かす技術が欠けているテラスに、どのみち一人旅は出来そうにない。なら、この際海賊になってみるのも悪くはない。
「わかった。なるよ、海賊」
「本当か!? よろしくな、テラス!」
「よろしく、船長!」
こうして、テラスはルフィの仲間になった。ルフィが船長で、テラスが副船長。行動方針としては、まず仲間を集めることを優先すること。そして最優先事項は、何処かの島で肉を食べること。これにはテラスも賛成だったから、一も二もなく頷いた。
さて、そうとなればこの無人島からとっととオサラバだ。ルフィが乗ってきた小舟に二人で乗り込み、青い海へと漕ぎ出す。吹く海風が気持ちいい。
「ルフィ。早速で悪いけど、わたしは船を動かせないんだよね。どうにも才能がないらしくて」
「そうか。なら俺に任せとけ、船長だからな。よーし、あの雲を目指して出発進行だ〜!!」
「……? お、おー」
今一瞬おかしな言葉が聞こえた気がしたが、もしかしたらこの世界では雲を目指して航海することはごく普通のことなのかもしれない。テラスは己の心中に湧いた少しの不安感を押し殺した。
テラス達は二日間、海を小舟で航海したがその間に大きなトラブルに見舞われることはなかった。テラスの時はデカイ化け物に襲われたり、大雪が降ったりして散々だったが、やはり雲を目指すのが正解だったらしい。しかしここに来て問題が発生していた。
「なっはっは! うーん、これは困った!」
「どうしようかなぁ。ルフィは泳げないんだったよね?」
「うん。おれはカナヅチだ」
「そっか」
今現在、テラス達の眼前にはものすごい大きさの渦潮が広がっていた。テラスが少し昼寝をしている間に発生したらしい。流石に今からの回避は不可能だ。
「ルフィ、ちょっと酔うかもしれないけどごめんね」
テラスはカナヅチだという船長を、小舟に積んでいた樽に詰めた。あっという間の出来事に、ルフィは目を白黒させることしか出来ない。
「おい! テラスはどうするんだ!」
「わたしは水の中でも呼吸出来るから平気だよ! でも流されちゃうだろうから、また後で合流しよう!」
「わかった! 無事でな副船長!」
「そっちもね、船長!」
テラスは樽の蓋をきつく閉めた。直後、轟々と唸る波に揉まれて上下左右もわからぬまま振り回される。息は出来てもこの感覚は苦手だ。三半規管をめっためたに刺激され、気分が悪くなったテラスは遠くなっていく樽に手を伸ばしたところで気絶した。
登場人物紹介
沈没王テラス
あっという間に十七歳に成長した光の戦士。身長は170まで成長した。短めの銀髪に蒼い目を持つ。
角と鱗、尻尾を隠す為に人前ではフード付きローブを着るようにしている。理由は会った人を驚せてしまうからと、賞金稼ぎをしている時に相手に逃げられるようになったから。実は異名がつけられていることを本人はまだ知らない。
船で旅に出ようと頑張っているが、毎回沈没させたり遭難しかけたりしている。これはテラスに航海術の才能がないわけではなく、グランドラインの海がおかしいだけ。遭難後は近くの島を拠点に腕試しとして賞金稼ぎをやったり、漁師をしたり、木こりになってみたりしながら生活していた。ギャザラー、クラフター両方ともレベルがそこそこあり自給自足が出来る為、お金にはあまり困っていない。賞金稼ぎの賞金や、海底を散歩中に見つけた宝箱を持ち帰ったりして新たな船を買い、船旅に出るが遭難するのが一連の流れ。
ちゃっかりグランドラインからカームベルトを抜けてイーストブルーへと強引に入ってきた猛者。ルフィが結成する海賊の仲間になることが決まった。副船長予定。
ルフィ
言わずと知れた原作主人公。コビー、アルビダと遭遇する前に遭難し、テラスと出会う。その外見と、どこか自分と同じ冒険好きの波動を感じ取り仲間に勧誘する。
番外編 アイテム説明
アーマリーチェスト
見た目は小さな鞄。ベルトに取り付け可能。ポーチと言ってもいいかもしれない。その中にはこれまでテラスが手に入れてきた武器や鎧、服などが仕舞われている。
それ以外のアイテムは全て「所持品」としてもう一つの鞄に仕舞われている。これは恐らくエオルゼアで活動している全てのヒカセンにも言えることだが中身はカオス。定期的に片付けようね♡