訳あり美少女を集めてチームを作ろうとした男の末路   作:たんきー

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OP Ⅲ

 ヒメミヤ・オクライリは一般的に二つの認識を持たれている。

 俺のチームに所属するパンカー、もしくはいつ爆発するかわからない不発弾。

 

 彼女が知っている情報は、多くの場合知っているだけでコンピューターAGI様から、“記憶洗浄”という処置を受けるような代物だ。つまり記憶を消されてしまうということ。それらは一つの情報を知るだけで強制的に行われてしまう。今彼女が口にした『ダイヤモンドブリ』はその中でももっとも秘匿度の高い情報だ。

 具体的に言うと、記憶洗浄の範囲が広範囲に渡る。少なくともここ一年の記憶は保持できないものと思ったほうがいい。知っているという事実だけでなく、それを知る切っ掛けになった情報源の記憶も消去しなくてはならない。

 

 ちなみに俺は、一応そういう情報を知ることのできる権限を有している。逆に、ヒメミヤはその権限を有していない。万が一彼女が捕まれば、それは記憶洗浄だけでなく、彼女の“人格”すらも一度洗浄しなくてはならないだろう。

 なので、彼女は今、この街のどこにいるかを誰も知らない。コンピューターAGI様から必死に逃げ回っている――ということになっている。

 

 彼女の性格は一言でいうと人見知りの超コミュ障。こうしてロボやバーチャル上の自分を噛まさないと、会話どころか目を合わせることすらままならない。

 この世界のすべての人間が嫌いとでも言わんばかりに、口が悪くシニカルで配信上でも、よく視聴者とレスバトルを繰り広げているが、根がコミュ障なのもあって興奮すると語彙が死んでクソザコになる。

 逆に、電脳上における彼女のスキルは凄まじく、彼女はあらゆるネットワークのセキュリティを突破してその秘密を知ることが出来る。歩く機密事項。彼女の存在はコンピューターAGI様だけでなく、あらゆる悪の組織が欲しがる代物だ。

 

 ――もちろん、彼女を見つけることはどちらにも叶わないのだが。

 

 彼女の性格にとっても、彼女の立場にとっても、逃げ隠れすることは理にかなっているのだが、そもそもヒメミヤが逃げ隠れするようになったのは、彼女が超未来都市サイバータウンの秘密を知ってしまったから。

 いや、知ったとAGI様に思われたから。

 ――冤罪だ。確かに彼女には電子ハッカーの才能があり、実際に世界の機密を丸裸にできるが、彼女が逃げ隠れするようになった最初の原因はAGI様の誤解なのである。

 ひどい話だ。まぁ、それを利用しようと思った俺も大概なのだが。

 

 俺とヒメミヤの関係はもう随分と長い。俺のチームにおける最古参は伊達ではなく、俺がパンカーチームを結成しようと思ったきっかけがある意味でヒメミヤなのだから。

 彼女こそ、俺が見つけた最初の訳あり美少女である。

 

 彼女の訳は『冤罪』。

 

 ――まぁ、今やそれは冤罪でもなんでも無く、事実以外の何物でもなくなってしまっているのだが。本当にこのスキルツリー、開放してよかったのかな?

 

『おいおいリーダー! 考え事をしている暇はないぞ、木彫りのクマがこっちを狙っている!』

 

「わかってるっての!」

 

 現在、俺はヒメミヤロボが変形した車を必死に運転しながら、木彫りのクマから逃げ回っていた。あのクマ、なにやら振動しながら凄まじい速度で接近してくる。口に収まっている生きたシャケがピチピチ跳ね回っているのがシュールだが、それはそれとしてその速度はこちらの最高速よりも早い。

 それが断続的にビームをぶっ放してくるのだから、正直どうしようもない。建物を盾にして逃げ回っているが、これもそのうち限界が来るだろう。

 

「畜生なんだあの木彫りのクマ、本当は木彫りじゃないんじゃないか?」

 

『鋭いね、あれの材質はスキャンしたところ、固形化した鰹節だったよ』

 

「すりおろされて粉々になっちまえ!」

 

 言った途端に高熱のビームがすっ飛んできた。このままではすりおろされるのはこちらの方だ。いや、こんがり焼かれて香ばしくなるというのが正しいか。

 どっちでもよろしい!

 

「このまま逃げるとして、どこに逃げる!? この辺りはうちの警戒範囲じゃねぇぞ!?」

 

『ここからボクたちのシマに逃げ込むとなると、アレを三十分は撒きながら逃げ続ける必要があるね』

 

「わかってる……非番のやつに来てもらうしかねぇか……」 

 

 ――パンカーには、自分たちのシマ、縄張りがある。今俺のいる場所は、俺のチームの縄張りではないので今日仕事をしているヤツは入ってくることができない。

 なんともふざけた話だが、一応抜け道はある。今日、非番の人間がもしここにやってきたとしても、それはたまたま偶然通りがかっただけ。そして巻き込まれたのも止むに止まれぬ事情ゆえ。

 正当防衛が成立するのでお咎めなし、というわけだ。

 

 まぁ、この抜け道最近まではなかったんだけどな。理由? AGI様は頭が硬いんだよ。

 

『もうすでに連絡はしてあるよ、後十分で到着さ』

 

 車に変形したヒメミヤロボのモニターに移るバーチャル魔法少女Vヒメミヤが指で十分を示して見せる。こういうところは現代から技術が進歩したことを感じて結構好きだ。

 イラストが口パクをしているだけでなく、ポーズや動き回ることが出来るので、見ていて飽きない。

 

 まぁ、このあざとい動作は集金用の動きなので、ヒメミヤがやってもなんとも思わないが。

 

『わぁ、リーダーの目が冷たい。ボクを可愛がれよ、魔法少女だぞ?』

 

「リアルのお前は可愛いと思うよ」

 

『ゔぇっ!?』

 

 ――まぁ、一度しか見たことはないのだけど。

 

 ヒメミヤの顔を知っているのは、実はこの世界で俺だけという事実。ヒメミヤは幼い頃に冤罪で人格洗浄の対象になって以降、両親は記憶洗浄でヒメミヤのことを忘れている。ヒメミヤの周囲にいたすべての人間がヒメミヤを忘れて、ヒメミヤはそれから一人で生きていた。

 

 だから、ヒメミヤの顔は俺しか知らない。

 

 この超管理社会において、ヒメミヤのような理不尽に排他される訳あり美少女がどこかにいるはずだと、ネット上をかき分けて探し当てた俺だけが、彼女の顔を知っている。

 ストーカーもいいところだが、俺としても当時は若く協力者が必要だったのだ。

 そこで出会った電子ハッカーとしてはブリテク級の実力を持つスーパーハッカー、ヒメミヤ・オクライリの存在は渡りに船。向こうとしても一人でAGI様から逃げることは不可能だと考え、俺とヒメミヤの共犯関係は始まった。

 

 そう、最初俺達はパンカーチームではなかったのだ。俺は安定のためにパンカーチームを作るのではなかったかって? そのつもりだったよ? ただ、少しだけ色々と想定外が過ぎたのだ。

 俺はヒメミヤをただの冤罪だと思って接触した。ちょっと優秀すぎる電子ハッカーが偶然何かしらの機密を知ってしまって、“それから守るために”AGI様が冤罪認定したのだと。

 

 幼い頃の俺にとって、この世界を統括するコンピューターAGI様は完璧なものに思えた。実際はとんでもねぇポンコツクソAIもいいところなのに。管理社会としては程よい管理をする管理AGIだと思っていたのだ。確かに職業の選択は制限されているが、それは適正のない職につかないための措置でもあるし、休暇だってきちんと与えられる。決してブラックではない。

 一見するとAGI様は素晴らしいAGIに見えるのだ。

 

 だが、実際には違った。AGI様は本当にうっかり当時四歳になる少女を冤罪で人格洗浄しようとしていた。それが1つ目の誤算。

 

 もう一つはヒメミヤのスキルだ。ヒメミヤは優秀過ぎた。確かに彼女は冤罪で機密情報を知ったということにされていたが、実際に彼女にはあらゆる機密情報を知ることの出来る技術があった。

 たとえ今が冤罪であったとしても、何れ彼女は人格浄化の対象になると確信してしまうような、飛んでもない才能が。

 

 ――そんな状況だったから、俺は覚悟を決めるしかなかった。彼女と接触した俺は、もれなく人格洗浄の対象。当時まだ八歳程度の子供だった俺も、だ。俺が転生者じゃなかったら、ヒメミヤはともかく俺は即人格洗浄を受けていただろう。

 当時のことは、思い出したくない過去だ。俺もヒメミヤも、普通に今、人として生活できていると言われても当時は信じられないだろう。

 

 そこから色々あって、こうしてAGI様にも認められてチームDDBとして活動しているのだから、人生とはわからないものだ。

 

『って、そんなこと言ってる場合かバカリーダー! このままだと追いつかれるぞ!』

 

 ともかく、一旦そこら辺は脇に置いて、今は木彫りクマからの逃走だ。あと十分逃げればいいとは言うものの、逃げるにしたって向こうもこちらを追い詰めるべくビームをぶっ放してくるわけで。

 いくらヒメミヤが運転サポートをしてくれるとしても、逃げ切れるかどうかは運が絡む。それを視聴者は求めているのだろうが、俺としてはそもそも死にたくないんだよ!

 リスポーンとか怖くてやってられるか、スワンプマンだぞスワンプマン。この世界の価値観じゃないから言っても誰にも伝わらないが。

 

「どうにかならないか、ヒメミヤ!?」

 

『んんー、とりあえずこのままボクが定めたルートを走っておくれよ! 勝算はある。話せないけど』

 

「話してくれよ!」

 

『それだと視聴者がガッカリするだろ!』

 

 そもそも説明すると失敗する。この世界の――というか物語のジンクス、説明は失敗フラグ。視聴者が先に種を知ってしまうとがっかりするのもあるが、それはそれとして俺には説明してほしいものだけどな!

 

 ――なんて言っている場合ではない。木彫りクマのビームが俺の目の前の建物を破壊した。その建物は横幅が百メートル近くある。とてもじゃないが突然のことで回避は難しい。

 

『オイオイ、このままじゃルートを走り切ることすら難しいぞ!?』

 

「難しかろうが……やるしかないだろ!」

 

 ああ、本当にこういうのはまっぴらごめんだ。

 死にかけるだけでもそうなのに、一歩間違えれば肉片すら残さず即死。焼死体になるほうがまだマシではないかという状況で、実際に焼死する可能性は依然継続。

 何より嫌なのは、ここから逃げ切ろうと思う場合――

 

「――手段が、一つしかなくってもな!」

 

 一つしか選択肢がないということだ。

 

 せめてもう一つ、可能性は同程度でもいい、ろくでもない選択肢でもいい。ただ、一つだけこれ以外の選択肢があれば、俺は迷えたのに。

 選択肢のない設問が嫌いだ。こうするしかないという立場が嫌いだ。それでもやるしかないという現実が嫌いだ。

 

 だって――

 

『――君なら何の心配もイラないさ。一つでも手段があれば、リーダーならやれるとボクは知っている』

 

 ――――ああ、まったく。

 そう言われたら、しょうがないよな。

 

 俺は車のボタンをいくつか操作して、迫ってくるビルに、正面から最高速で突っ込む。

 後方からはビーム、前方にはビルの瓦礫。回避は不可避、であればどうする?

 

 答えは簡単。

 

「っだ、らああああああ!!」

 

 

 俺はばいーんと車を跳ねさせて、ビルの落下面に車を置いた。

 

 

 ビルはビームで根本が吹き飛び、宙に浮いていた。その下を駆け抜けることは、ビームを回避する必要から不可能だった。だからビーム発射のタイミングでとんだ。ジャンプした後に着地していたら、その滞空時間でビルの崩落から逃げ切れない。

 

 だからジャンプのタイミングで車を反転させ、そのまま落ちてくるビルの落下面を地面にして、最高速で駆け抜ける――!

 重力操作すら可能になったこの超未来なればこその大技。ここからビームは連続で俺を狙えない。俺はそのまま車を奔らせて、激突のギリギリに駆け抜ける。くるりと空中で一回転。地面に落ちたビルで、俺と木彫りの熊を分断。

 

 そのまま駆け抜ける。

 

『よし抜けた! 目的地到着まで十秒! …………よし停止!』

 

「ここからどうする!?」

 

『車を対爆発防御に変更。そのうえで――見ていれば分かるさ』

 

 ああ、と察して色々と操作する。

 さて、木彫りのクマは現在ビルに阻まれてこちらにコレないわけだが、取れる手段は二つ。迂回するか、もしくは――

 

 ――直後、クマがビルを飛び越えてこちらに突っ込んできた。まぁ、後者だよな、こっちのほうが手っ取り早いし。

 それはそれとして横幅だだけで百メートルあるビルを飛び越えられる鰹節の木彫りクマってなんだろうな。いや木彫りじゃないんだが。

 

 んで、あいつは空が飛べないらしく、そのまま勢いよく落下してくる。

 そうなれば待ち受けているのは、

 

 

『んじゃ、これでチェックメイトだ』

 

 

 ――そうヒメミヤが言うと、

 勢いよく、俺達のいた地面が崩落した。当然、木彫りの熊もそれに巻き込まれて落ちていくのだった。

 

 

 ――――――――

 

 

 ――ああ、どうしてこうなってしまうのだろう。

 今日、リーダーは非番だった。楽しみにしていた新作ゲームをプレイすると昨日から豪語していた。彼を巻き込むべきじゃなかった。いや、巻き込んだのはアンチツナマヨなのだけど。

 

 でも、それを私は最初から知っていた。

 またこうして、彼を巻き込んでしまったのだ。

 

 ヒューゴ・ハジメマシテ。

 

 私達、チーム「ディープ・ディヴァイン・バーサーカー」のリーダー。超未来都市サイバータウンの核弾頭のスイッチ。

 私をこの世界に連れ出してくれた人でもある。

 

 父から、母から、友人たちから忘れられ、一人で生きていくしかなかった私を、彼は見つけ出してくれた。本気で隠れているはずだったのに、AGIにだって見つかっていなかったというのに。

 どうやって見つけ出したのか? その問に――

 

『足で痕跡を探したんだよ。電子上でしか探そうとしないのは、この時代の人の悪い癖だ』

 

 ――なんてよくわからないことを言う。

 きっと、私たちが知らないであろうことをどうしてか知っている、私のリーダー。

 

 ああ、それでも叶うことなら。

 

 巻き込みたくない。私の問題なんて触れないでほしい。彼は私を見つけてしまったことで普通に生きていくことはできなくなった。今も爆発に巻き込まれて地下に落ちている。

 決して、それを望んでいないのに。

 

 

 私のせいだ。

 

 

 私のせいだ。私のせいだ。

 私が悪い子だから、“ボク”がヒメミヤ・オクライリだから。――私が“ボク”の才能を持っていたから。

 

 もし、そんなものがなければ、今もヒューゴは普通に生きていたかも知れないのに。ただの冤罪だったなら、ヒューゴはこんなことにならなかったかも知れないのに。

 

 それでも、今もこうして私とヒューゴはパンカーとそのリーダーとして生きている。

 

 ――悪い子だ。

 私は、悪い子。

 

 そのことを嬉しいと思うなんて。こんなにも申し訳ないのに、一緒にいてくれることが嬉しいなんて――

 

 ――私はとっても悪い子だ。

 ああでも、

 

 

 私より悪い子が、私達のチームには何人かいる。

 

 

 今、私達の横を通り抜けて、木彫りクマに挑みかかった、“彼女”のように。

 

『リーダー、対ショック態勢だよ』

 

「そこはちゃんと揺れないように作れよ!」

 

 なんて話をしながら、“ボク”たちは地下へ着地する。

 そして、見た。

 

 一緒に落ちてくるはずだった木彫りのクマ。正確に言うと、一緒に着地するはずだった木彫りの熊。それが――地面に墜落した。

 何故か、

 

 両手両足を喪っていたからだ。

 

「……なぁ、そういえば今日の非番ってよ」

 

『おいおい、リーダーなんだからちゃんと、メンバーのシフトくらい覚えてるだろ?』

 

 そうだけどよ、とボクの言葉に頭をかくヒューゴ。

 ああ、そうやって面倒そうにしているところが可愛いんだよなぁ。

 

 ――それはそれとして、ヒューゴが呆れるのには理由がある。

 

 それは、目の前にあるものが原因だ。

 

 一つは、手足を“削り”取られた木彫りクマ。口に収まっていた生きているシャケが消えている。そして、ボクたちの目の前に――

 

 

 シャケと味噌汁に白米。ごきげんな朝食が並べられていた――

 

 

「――――おまたせしました、ご主人さま」

 

 

 カツン、と響く足音とともに着地する少女。

 旧メイド服の彼女は――

 

「メイド・メイドインアリス、只今到着いたしましたぁ」

 

 ――瀟洒な雰囲気とは裏腹に、華やぐような――というか明らかに発情してどこかイッちゃってる笑みで、ヒューゴにアイサツをしてきた。

 ああうん、木彫りクマを解体できて嬉しかったんだね。

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