訳あり美少女を集めてチームを作ろうとした男の末路 作:たんきー
この世界には、現代では考えられないような飛んでもない才能、技術の持ち主がいる。突破したくなくても電子の壁をすべて突破してしまうヒメミヤのように。
それらは、ある時期から突然出現するように成った。まるでこの世界の法則が書き換わったかのように。
原因は当然ながら存在する。ダイヤモンドブリだ。
あのブリは、今から数百年前に突如として出現し、それと同時に人類の中に驚異的な才能を有する超人が生まれるように成った。
彼らの特性は、“理由が付けられない”ことだ。ヒメミヤは最強の電子ハッカーだが、どうしてああも簡単にセキュリティを突破できるのか、彼女本人にも説明がつかない。
同じように、世界各地でわけのわからない技術を持つ人間が現れて、世界は大きなパニックになった。
それから数百年、現在この世界は超未来都市サイバータウンとその外で区別される。数千万人が暮らすこの超未来都市サイバータウンと、そんな超未来都市サイバータウンに暮らすことのできない外界の人間。
そんな世界でも、当然ながら超人たちは現れる。
彼らは、ダイヤモンドブリが現れたときに出現したことから――一般にはその由来が知られているわけではないが――こう呼ばれている。
――ブリ・テク、と。
「――おまたせしましたご主人さまぁ」
今、俺の目の前では信じられない光景が広がっている。
一人の少女が立っていた。旧メイド服姿の少女、俺のパンカーチーム『DDB』のメンバー。彼女は両手に包丁を手にした状態でこちらに振り向いている。
旧メイド服の白いエプロンは、シャケを解体したときに付いたのか、返り血に染まっている。
――笑みを浮かべて、彼女は後方に佇む朝食を背に立っていた。
そう、彼女の後ろには巨大な巨大な朝食が並んでいる。
銀シャリ、焼鮭、そして味噌汁。クマの鰹節を使って作られたのだろうそれは、香ばしい香りとともにこちらの食欲を誘ってくる。
驚くべきことは、これを彼女が一瞬で為したということ。どこから銀しゃりと味噌を取り出したのか? そもそもあの食器はどうなっているのか? 一瞬でどうやればあそこまで完璧に食事を作れるのか? そもそも木彫りのクマが鰹節なのどうやってわかったの?
などなど、説明できないことは山ほどある。
その上で――その全てに説明がつかない技術。それこそがブリ・テクの真髄だ。
まさしく俺は今、神話の光景を見せられているのではなかろうか。
ただ、やっているのはあくまで俺の仲間である――
「――ありがとう、助かったよメイド」
メイド・メイドインアリス。
俺のチームでは、三人しかいないブリ・テクを有するパンカーの一人。そして俺のチームにおける古参枠の一人でもあり、同時に――俺が間違えてしまった訳あり美少女の一人、でもあった。
――――――――
『殺しって、美学であり芸術なんですよ』
むかし、そんなことを十字架に拘束された状態で、ペンチとハンマーをくるくると弄びつつ、笑顔でそんなことをメイドが俺に語ったことがある。
その時俺とメイドの関係は敵対関係で、メイドは俺を殺すために拷問の準備をしていたのだ。
なんでそんなことをするかと言えば、彼女の言葉が何よりの答えだろう。
『人が一番美しいのは、死ぬときだと思います。人が死ねばドラマになりますし、皆さんはそれに感動しますよね?』
破綻した考え方だった。
それは、メイドが破綻しているということでもあり、破綻してしまうくらい彼女のブリ・テクが凄まじいものだったということでもある。
『じゃあ、殺人はそれを彩る脚本のようなものだということですね?』
確認を取るような物言いだが、彼女は否定を許さなかった。当然であるということを確認したかったのだけだから当然だ。
多分うなずいてたらそのまま殺されていたと思う。
『ここで大事なのは、殺すことの意義です。殺しは美学、芸術。これは色んな人が言っていますが、そこに見出す意義は異なります』
まぁ、確かの物語のシリアルキラーが言いそうなことではある。
この辺り、スイッチ入ってるメイドは結構自覚しているのだ。
『私は――殺しとは、一つの愛の営みであると思うのですよ』
そうやって、豊満な胸を抱えて妖艶に笑うメイドは、まさしく百戦錬磨という雰囲気を漂わせている。
『実際の行為を行った経験はないのですが……むしろ、必要ないとも言えるでしょう。私はこんなにもご主人さまを愛せるのだから』
実際はそんなことはないのだが。
『ですから――ご主人さま。どうか私に、最高の奉仕をさせてくださいませ? 貴方を愛して愛して愛して愛して、壊して壊して壊して壊して、最高の死をもたらすお手伝いを、私にさせてくださいませ』
ゆっくりと、彼女は俺に近づいてくる。
死を覚悟して、絶望すらも通り越し、恐怖なんてかなぐり捨てていたその時の俺は、強くメイドを睨んだはずだ。そして彼女に対して吐き捨てるように言い放った。
――それは、絶対に愛などではない。
そんな愛、俺は絶対に認めない――と。その言葉に嗜虐心をそそられたのか、一層笑みを深めるメイドが、やがてハンマーを振り上げて――――
――――――そして、現在。メイドは俺の目の前で凄まじくきれいな土下座を披露していた。
「ごごご、ご主人さまぁ、申し訳ありませんんんん! メメメメ、メイドはまたも不貞を働いてしまいましたぁああああ!!」
というのも、メイドは快楽殺人者だ。一瞬にして対象を拷問し、殺害し、“至福の笑みを浮かべた”状態で殺す拷問殺人のスペシャリスト。
それこそがメイド・メイドインアリスのブリ・テクだ。
彼女は対象を殺害することを“不貞”と呼ぶ。彼女にとって殺害とは愛の営み。俺はそれを否定したが、未だに彼女にとって殺しが最高の快楽であることに変わりはない。
俺以外を拷問すること、殺害することは浮気と変わらないと彼女は考えているのだ。
実際、彼女が人を殺すとき、殺される相手は至上の快楽とともに殺される。身体的に絶頂を覚えるわけではないが、多幸感に包まれながら死亡する様は、見ていて明らかにヤバイものを服用しているようにしか視えない。
以前その後リスポーンした者が中毒症状を発症し、メイドに襲いかかってきたことがある。流石にこのときは彼女の健康のためにも記憶洗浄を行わざるをえず、少しだけ俺も申し訳ないと思わざるを得なかったが。
ともかく、そんな理由もあってか、正気に返った後のメイドは非常に卑屈だ。
わかっていてもスイッチが入ってしまったら、一度誰かを殺すまでその興奮を鎮めることができない。他の方法で代用することもできないものだから、彼女はそうなったらサイバー空間にログインして気が済むまでゲームで人を殺しまくっている。
まぁ、
「メイドはご主人さまのものなのに! ご主人さまだけに愛を向けなくては行けないのに! またしてもそれが叶いませんでした! メイドは! メイドはダメな侍従なのですぅ!!」
――その場合でも、俺を殺せなかったことで不貞だなんだと自己嫌悪するのだから、もう少し欲求に正直に生きてもいいと思うんだけど。
とはいえ、そこがメイドのアイデンティティでもあるから、俺が否定できることはなにもない。
「ありがとうメイド。俺はメイドが助けに来てくれて嬉しいよ。メイドは俺のメイドなんだ、そこは自信を持ってくれていい」
「ご主人さまぁあああああ!」
メイドが勢いよく抱きついてくる。となりでヒメミヤがなにやら騒いでいるが、こういうときは少しくらい堪能しても許されるよな?
あと配信のコメント欄もひどいことに成っている。基本的にいじられキャラのヒメミヤ以外が俺と絡むと、コメント欄が燃える。当たり前といえば当たり前だが、たまに本気でキレてる人がいるのはご愛嬌。俺のアンチスレは今日も勢いよく伸びるだろう。
まぁ、ガチでキレてるタイプの人は、大抵ヒメミヤがそいつの犯罪歴をぶち抜いて逮捕されるんだが、まぁそれはそれ。ネット上での罵詈雑言は犯罪だから気をつけよう。
「んで、ここはどういう場所なんだ?」
『もちろん、アンチツナマヨネーズのアジトさ! ここにたどり着くように先回りして準備してきたんだから、褒めてほしいな!』
「いや助かるけどさ……おもっくそ警報がなりまくってるんだけど、メイドが来なかったらどうするつもりだったんだ?」
――と、俺が言う通り、現在あちこちで警報が鳴り響いていてとてもやかましい。分かりきっていることではあるのだが、確認したのは配信のためだ。
その後の確認は、まぁしておかないと命に関わるからな。
『その時は……はははは!』
「おいこら!?」
――ちなみにヒメミヤも戦えなくはないが、基本パンカーはチーム行動が基本。一人のパンカーでアジトを攻略することは難しい。ましてやヒメミヤはサポート要員なのであるからして。
俺を守って行動する――無茶もいいところだ。
『いや、ちゃんとたどり着けるようにはしてたんだって……』
「……あのねヒメミヤちゃん」
と、そこでメイドが恐る恐る手を挙げる。とても申し訳無さそうに、胸だけは揺らしながら。ヒメミヤの目がすごいことになっている。
「その……ですね? 急に呼び出されちゃって、えっと……その」
『……うん』
「…………端末の充電ができてなくって」
そうやって、メイドはおずおずと動かなくなった端末――腕輪型だ。ここからホログラムが投影されてその画面を見ることができる――を取り出すと、ヒメミヤに見せた。
『oh...』
「oh...」
よくたどり着けたなぁ、と思いながら、おれは冷たい目でヒメミヤを見るのだった。
――――――――
まぁ、合流してしまえばこっちのものだ。メイドはうちのチームでも単独戦闘力ではツートップの片割れ。一般の黒服に負けることはない。
大変なのはスイッチを入れないことだ。一度でもスイッチを入れてしまうと、メイドの殺戮は気が済むまで終わらない。止めようと思えば止めれなくもないが、明らかに労力が見合わないので、そのまま好きにさせるかそもそもスイッチを入れないようにしたほうがいい。
相手はガチのテロリストだ。慈悲はないが、かといって虐殺は彼らの量刑を逸脱している。簡単に言うと過剰に罪の精算をすることになってしまい、下手をするとリスポーンしてしまう。生きた状態で捕まえて、檻に打ち込まないとテロリストは無限に湧いてくるのだ。
その上でメイドは――
「――あうっ」
びたーん。
「だ、誰だ!!」
――とてもドジである。なにもないところで転んで、その衝撃で周囲に気づかれた。周囲にはクマの被り物をした黒服が十名、絶体絶命である。
当然彼らは俺達が侵入者で分かると発砲してくる。まずい、と思ったときにはもう遅い。
――直後、メイドが無傷で彼らを制圧していた。
一瞬の出来事だ。メイドは発砲された黒服の弾丸を、俺達に届くものは弾き、残りは回避して接近。手刀で彼らを気絶させた。ちなみに弾いたのも手刀である。
「ふぅ……あ、だ、大丈夫ですかご主人さま! 申し訳ありません!」
「いや、ありがとう……そっちもスイッチ入ってないな? ならよかった」
――まずい、と思ったときには、すでにメイドは敵を制圧している。
ブリ・テクを持たない敵に対して、メイドの力は圧倒的だ。一般人では見ることも敵わないそれを、配信では超スロー再生で見直すことができるので、なんとか視認できているという状態。
俺達は完全に知覚できなかったね。
つまるところ何がまずいかと言うと、何かの拍子に敵が死んでしまって、メイドのスイッチを入れてしまうことだ。メイドのスイッチが入る条件は二つ。敵を殺したとき、もしくは俺が死にそうになったときだ。前者でも後者でも構わず興奮して発情してしまうところに彼女の業の深さがある。
『ふむ、思ったより大したこと無いな。これならメイドくん一人で制圧できるんじゃないか?』
「またそうやってフラグを立てる……」
「そ、そうですよ。それにさっきだって私のミスのせいで……人が死なないなら、それに越したことはないです」
えへへ、と頬を掻く彼女は、殺戮者となっているメイドとは別人のようだ。
実際そのようなものなのだが――とまれ、この場合気にするべきは、ヒメミヤの不用意な発言だ。彼女はフラグを立てると、だいたい十秒以内に回収する。
本人が気付くのだ。
『っておい、ちょっとまて――?』
何やら、不穏なものを探知したらしいヒメミヤが、怪訝な声を上げる。
――まぁ、何が来るかはおおよそ想像がつく。メイドはブリ・テクの持ち主、ブリ・テクにはブリ・テクでなければ対抗できない。もしこのアジトにブリ・テクの持ち主がいるのなら、最初からそれを投入しているはずだ。他の抵抗は無意味なのだから。
そうしていない、かつ敵が焦っている様子が見られない。ならばブリ・テク以外の対抗手段を彼らが有しているということで。
――そして、この世界にそれに該当する存在が一ついた。
それは、
『――宇宙生物が接近してる! くそ、アイツラなんてもの投入してるんだよ!』
宇宙生物。
――この世界を、この星を“滅ぼした”存在。ダイヤモンドブリがなければ、人類を星ごと地上から消し去っていたであろう怪物。
それが、今回の俺達の敵、というわけだった。