訳あり美少女を集めてチームを作ろうとした男の末路   作:たんきー

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OP Ⅴ

 ――俺とメイドの関係は、当初敵同士だった。といっても、当時の俺に仲間なんてヒメミヤしかいなかったし、メイドは俺の二人目の仲間だ。

 ヒメミヤがとんでもない爆弾だったために、早急に仲間を必要とした俺が、次の訳あり美少女を求めてメイドのいる地域にやってきたのがことの始まり。

 次なる訳ありに、俺は心当たりがあったのだ。

 

 メイドは“モジャコ”である。

 

 何を言っているかわからないと思うので、超未来都市サイバータウンにおける“市民階級”について知ってもらわないと行けないだろう。

 超未来都市サイバータウンは格差社会だ。市民階級の名の通り、市民にはそれぞれ階級が存在し、市民はその階級で許された生活しか送ることができない。

 上流階級の人間は上流階級の生活しか許されていないし、下層の人間は上流階級の人間が暮らす地域に侵入することは許されない。

 

 そんな市民階級の呼び名が、出世魚であるブリから取られているのが、この超未来都市サイバータウンの特徴だ。理由はダイヤモンドブリの存在。実はあのダイヤモンドブリ、一つで超未来都市サイバータウンすべての電力を十年まかなえる凄まじいエネルギーリソースなのである。

 ブリにそれほどの力があるわけだから、自然とコンピューターAGI様はブリを元に階級の仕組みを作った。

 

 その中で、最上級の階級はブリ、そこから順にハマチ、イナダ、ワカシ、モジャコの順で下っていく。最下層がモジャコ――メイドはそこの出身だ。

 ここでのポイントは、ブリは出世魚なので、超未来都市サイバータウンの市民も階級を“出世”させることができる。モジャコを除いては。

 

 他にもブリ階級は長年のブリ市民の腐った努力のかいあって、よほどの理由がなければ出世できないくらいに凝り固まっているが、制度上出世は可能だ。しかし、モジャコ階級はワカシ階級への出世は制度上不可能であり、モジャコ階級は言ってしまえば奴隷階級。モジャコは他の市民にたいして絶対服従、もし道端で声をかけられたら、あらゆる命令――性交渉だろうが、自死の命令だろうが――受け入れなくてはならない。そもそもモジャコが自身の生活可能区域の外に出る権限は基本ないのだが。

 なぜそんなことに成ったかと言えば、もともとモジャコは超未来都市サイバータウンと敵対していた者たちが降伏した際にあてがうための階級だったからだ。その後、その階級が子孫に受け継がれ、今の奴隷階級としての立場が出来上がった。

 

 結果、俺はそこに目をつけて、次の訳あり美少女を探そうと考えた。現代の倫理観で言えばできるだけやりたくはなかったのだけど、ヒメミヤのことで追い詰められていて、他に方法もなかったんだ。

 なのでメイドの“訳あり”はすなわち『奴隷』。俺はそれを現代の感覚で甘やかすことで懐かせようと考えた。

 

 ――結果俺の元へやってきた“奉仕者”は、“死を奉仕”する狂人だったわけだが。

 

 話を戻そう。

 いや、これも大事な前フリではあるのだけど、そもそも俺が今気にするべきは、目の前の敵のことだ。

 そう、敵。わざわざなんで遠回りしてメイドの話をしたかといえば、ここにつなげるため。かつてモジャコは敵勢力の捕虜を表す言葉だった。

 超未来都市サイバータウンは発展の最中に多くの国や都市と対立し、勝利してきた。これは敵が多かったというのもあるが何よりも――勝利しなければ、生き残れなかったからだ。

 

 当時、世界は滅亡の瀬戸際にあった。人類はその中で結束することも叶わず、個別に撃破されていき――“ダイヤモンドブリ”を取り入れた技術を有するコミュニティだけが生き残った。

 

 その最大勢力が超未来都市サイバータウンなわけだけど、そもそもどうしてこの世界は滅亡の瀬戸際にあったか。

 理由は単純、ダイヤモンドブリがこの世界に出現するのを時同じくして、“そいつら”が宇宙からやってきたからだ。

 

 

 宇宙生物。

 

 

 エイリアンだとか、プレなんとかだとか、ベーなんとかだとか、そういった名前がつけられるような人類を襲う怪物。

 それらはまたたく間に人類を追い詰め、しかし既のところでダイヤモンドブリによって制圧された。

 

 今、俺達の目の前にいる存在は――その生き残り。かつて人類を滅ぼしかけた怪物を、今度は人類が使役して、人類に対してけしかけようとしている、その現場だった。

 

 

 ――――――――

 

 

「ご主人さまぁ! どどど、どうしましょう! メイド、対宇宙生物装備は持ち合わせていません!」

 

「流石にこんなの読めねぇよな! しょうがねぇよ!」

 

『ハッハッハー、ごめん!』

 

 宇宙生物というのは非常に厄介で、専用装備を使わないと如何にメイドでも安全に戦うことは叶わなくなる。理由は色々あるのだが、問題は装備を用意できなかったことだ。

 ヒメミヤなら、宇宙生物の存在は事前に察知できたはずだ。実際、ヒメミヤが俺達に宇宙生物の存在を伝えた時、彼女は“なんてものを投入するのか”と叫んだ。知っていたのだ、当然である。

 

 しかし、投入するとは考えていなかったのだろう。

 

 当たり前だ、宇宙生物とは万が一解き放ってしまえば、最悪そこから世界が滅亡する可能性すらある存在だ。ダイヤモンドブリ由来の技術を使った装備がなければ傷つけることは不可能に近く、現在メイドは見ての通り素手である。

 常識的に考えて投入するはずがないのだ、そんな劇物を。

 

 ヒメミヤは優秀なハッカーではあるが、弱点もある。最終的に彼女は自分が得た情報を自分の考えで俺に伝えなくては行けないという点だ。

 今回、そこを突かれて向こうの行動を読めなかった。流石にそれを責めるのは酷というもので、俺達はすぐに対処へ動かなくてはならない。

 

『まずはこの放送を見ている視聴者諸君、中でもこのエリアに隣接する区域にいる市民は即座に逃げたまえ! これは警告ではない、命令だ! この命令に反した者は階級剥奪の処分がくだされることを忘れないように!』

 

「メイド、最悪宇宙生物がメイドでも対処できるかもしれない可能性はある。すぐに確認するぞ。ただドジるとマジで死にかねないから、調査は俺がするからな?」

 

「ご、ごめんなさいご主人さまぁ、メイド、メイドこういうときにヤクタタズでぇ」

 

「普段十倍助かってるからいいんだよ」

 

 ――俺達の行動は迅速だ。

 過去に何度か宇宙生物とやりあった経験があるために。ただ残念ながら宇宙生物という単語事態が歴史の教科書くらいにしかなかった市民たちにはピンと来ていないようで、『必死過ぎて草』というコメントがあちこちで見受けられる。

 流石に階級剥奪――つまり一個下の階級に落とされることになる市民たちは文句を言いながらも従っているが。

 

 それでも、温度差はあった。

 俺とメイドが恐る恐る、反応のあった方向へ進み、様子を伺う様を視聴者たちは楽しげに眺めている。そんな、チグハグな状況で――――

 

 

「……グララじゃねぇか」

 

 

 ――――一瞬にしてそのコメントが停止した。

 同時接続人数、0人。

 俺の発言と同時に、視聴を打ち切って市民たちが避難を開始したのである。今ここに、俺達の配信を見ている人間は――否、日常生活を行っている市民は途絶した。

 市民たちは即座に逃げ出して、俺達は目の前に立ちはだかる最悪へ、唾を飲みながら視線を向けていた。

 

 グララ。

 

 そもそも宇宙からやってきた生物は一つではない。一斉に――数百という種類の宇宙生物がこの星へと突如やってきたのだ。原因はダイヤモンドブリという凄まじいエネルギーリソースであると推定されているが、根本的な結論はいまだ出ていない。

 その中で、“最悪”と言われる種族が存在していた。

 それがグララだ。

 

 その姿かたちは、無骨な狼のような姿をしている。白銀の、美しい毛並みをした狼だ。しかし、口には異形とも言える牙を有し、その目は四つ、左右に二つずつ存在している。

 宇宙生物の中では、比較的地球に存在する生物に近い姿をしており、当初グララは数多の宇宙生物の中ではそこまで危険度は高くないとされてきていた。

 

 数が少なかったからである。見かける機会がなかったのだ。

 

「数は……一体か、幸いってわけじゃないが、まぁ異常個体じゃないだけマシ、か」

 

「で、でもご主人さま……成体ですよ……あの子」

 

「メイドにもそう見えるか? 俺もなんだよ……目が壊れてんのかな」

 

 そして同時に、この世界にやってきた当初、成体のグララは存在しなかったから。グララの特性は成体になってから発揮される。故に人々が認識した頃には、成体のグララは世界各地に存在してしまっていた。

 

 

 結果、世界の半分がグララによって“食い殺された”。

 

 

 もともと、この世界は宇宙生物によって滅ぼされ、人類同士の内輪もめで終焉へと一気に向かっていたのだが、ある時とある科学者が気付いた。

 人知れず滅んだとある国家。これはグララとは別の宇宙生物による仕業だと考えていたが、実際にはグララであった――と。

 

「それにしてもぉ……相変わらずすっごい綺麗です……」

 

「おいまて、グララでスイッチを入れるな、最悪死ぬぞ!?」

 

 ガクガクと、メイドが揺れていた。自身の中で殺人衝動がふつふつと湧き上がっているのだろう。先程まで殺さずに制圧してきた反動もあってか、メイドは限界を迎えつつあった。

 しかしだとしても、装備のないメイドにグララは倒せない。無謀極まりないので止めるしかない。なんてことだ、止めようとすると最悪俺に矛先が向くぞ。メイド本人にも制御はできないんだからな。

 

「だってだって! グララ様といえば、生命の絶対殺害権と情報過食! 奪って奪って奪い尽くす、メイドの憧れなのでございますよぉ!!」

 

「落ち着けー!!」

 

 いよいよもって耐えきれなく成ったメイド。痙攣は更に激しくなり、いよいよ限界だ。

 んで、そんなメイドの発言の通り、グララには二つの特性がある。どちらも成体にならないと発揮されない特性で、それぞれ名前の通り非常に物騒な代物である。

 

 生命の絶対殺害権。

 これはグララにふれることで発揮される。グララは触れた相手を殺害することができる。殺害の方法は任意。病気を植え付けることも、最初からいなかったことにすることも、普通に噛み殺すことも可能。

 恐ろしいことに、ヒメミヤはSDヒメミヤロボを操っているわけだが、このロボにふれることで操縦者であるヒメミヤを殺すことが可能だ。

 

 情報過食。

 グララが対象を噛み砕いた場合、その対象はこの世界からいなかったことになる。グララはデータを食べているのだ。その最大が、この過食。人をいなかったことにする食事。

 厄介なのは、グララが別の方法で対象を殺害した後に、それを飲み込んでも効果は発揮される。噛み砕く必要はあるが、噛み殺す必要はないのだ。

 

『いやしかし、こちらにはすでに気付いているだろう。対処はしなくてはいけないぞ』

 

「けどなぁ、いくらメイドだからって、グララの相手は無理だ」

 

「あうう……ぐ、グララ様……い、いえダメです。メイドは楚々なメイドに生まれ変わると決めたのです。心は清純であらねばならないのです……!」

 

 いや、メイドの場合肉体は清純でも心が腐ってるじゃないか、と思ったものの、努力を否定することはできないので黙っておいた。

 

『……手は打ってある。まもなく対抗手段がそちらに到着する』

 

「え? ガルルちゃんが来てくれるんですか!?」

 

 ヒメミヤの言葉に反応したのはメイドだ。そりゃそうだ、ヒメミヤの言葉からできる推測と、今日非番である人間の逆算から、俺達が取れる手はそもそも一つしか存在していない。

 

 ガルル・グララララ。

 俺達のチームに所属するパンカーの一人で、グララに対して、“常に有利を取れる”唯一の存在。それを知ったメイドが、ぱぁっと顔を輝かせる。

 

『ただし、三分だ。三分、グララを抑えてガルルくんに繋げないと行けないぞ』

 

「……じゃ、じゃあ」

 

 触れただけで対象を殺害できる存在相手に、素手で三分。いくらメイドがブリ・テクを有する殺人者だとしても、メイドは殺人者であり、殺害の概念ではないのだ。

 無茶もいいところ。

 

 ――いや、

 

「や、やっていいんですかぁ!? グララ様とそ、その……致しても!?」

 

『清楚はどこ言ったんだ!?』

 

 ……メイドはスイッチをすでに入れていた。

 つまり発情していた。体を何度も震わせながら、一歩前に出る。グララは――動かなかった。油断していないからだろう。相手がブリ・テクであることを、あいつは理解している。

 言語を発さないだけで、その知能は人間以上であると言われるグララなのだから、当然のことだ。

 

「――――メイド」

 

「ぴゃあああああああああああああ!!!」

 

 俺は、完全にあっちにイっちゃっているメイドに声をかける。

 ――結果、正気に戻った様子で、目をぐるぐるさせながら、顔を真赤にしてこっちを見た。彼女いわく、また不貞を働いてしまったということだろう。

 が、しかし。

 

「俺は、お前の殺人癖や殺人嗜好は正直どうかと思う。可能なかぎり殺すときに拷問しようとするのも頭おかしいんじゃないかと思うし、殺されたときに至福の快楽を得るとか漫画の読みすぎじゃないかと思う」

 

「ぐさっ! ぐさぐさっ! ぐささーーーっ!」

 

 ――しまった前置きで本音を口に出しすぎてメイドに刺さりまくった。ほら、そこでへたり込むとやばいだろ! グララくんちょっと困ってるじゃないか。

 ……じゃない、刺したのは俺だ。

 

「――でも、お前の腕は疑ってない」

 

 正直、殺人嗜好にはついていけないし、それを他人に向けることを不貞と言われても、俺としては困惑するしかないのだが、それはそれとして。

 メイドは俺の仲間だ。俺を殺したい、殺すことで快楽を得たい。そう常々口にしていようと、

 

「お前は俺の“メイド”だ。俺はその言葉を、曲げるつもりは絶対にない、だから。――行って来い、俺はお前を信じてる」

 

「――――あ」

 

 かつて、口にした約束があるから。

 

「――はい! 行ってきます!」

 

 メイドは俺のメイドで、俺はメイドのご主人さまだ。

 

 

「……でも、別に私が倒しちゃってもいいんですよね?」

 

 

 ――――いや、それは死亡フラグだからやめような?

 

 

 ――――――――

 

 

 ――メイドにはご主人さまがいます。

 ヒューゴ・ハジメマシテ様。

 

 かつて私はご主人さまの敵でした。いえ、正確には違います。私は最初、ご主人さまとお互いの立場を知らずに知り合ったのです。ヒメミヤちゃんの件でモジャコエリアに逃げてきたご主人さま、モジャコの一市民だった私。お互いに偶然から知り合って、そしていくつかの交流を行いました。

 ご主人さまも私も当時は幼く――私はドジでダメなメイドでしたから、ご主人さまには色々と迷惑をかけてしまったと思います。

 

 そんな中で、私はご主人さまがハマチ市民であることを知ってしまったのです。色々あって、モジャコに逃げてきたのだと聞きました。

 ――信じられませんでした。曲がりなりにも超未来都市サイバータウンのハマチ市民が、モジャコエリアにやってきて、それを隠せるはずがないのです。モジャコ市民に、嫌悪感を隠さず話せるわけがないのです。

 

 それでも、ご主人さまは言いました。

 

『それで死んだら元も子もないからな』

 

 なんてことのないように。

 ――今にして思えば、ご主人さまの人間性を考えれば、本当にそう考えていたのでしょうが、当時の私にしてみればそれは青天の霹靂でした。

 

 死にたくないから、という理由だけでモジャコに対する偏見は無視できるものではないのです。子供の頃から、そう認識するよう教育されるのですから。

 ですから私には、そんなご主人さまの言葉が、他とは違う隔絶した意志の強さに思えたのです。

 

 ああ、だから――

 

 その時、私は一度ご主人さまに惚れてしまったのでしょう。

 

 そして、こう考えたのです。

 

 

 ――そう考える素敵なご主人さまを、私は殺してしまいたい、と。

 

 

 当然の考えだったと思います。

 それこそが私の美学、芸術観だったのですから。

 

 それが、今。

 

 ご主人さまを背にして、私は私が殺されるかも知れない相手と相対しています。

 かつての私に、殺せない相手はいなかった。――いることを知らなかった。ご主人さまは殺したい相手で、今は守りたい相手。

 何もかもが違います。私は私であるがまま、ご主人さまへの思いは、当時とは何もかも。

 

 でも、ご主人さまは何も変わっていない、変わってないんです。

 あの頃から、その意志を変えず、今も生きるために必死に頑張っている。そんなご主人さまを好きになれて、私は嬉しい。

 

 こんな淫らでふしだらな女ですが、私はご主人さまが世界で一番大好きです。

 

 

 ――貴方と、貴方の大切なすべての仲間たちを、私は守りたいと思うのです。

 

 

 だから見ていてくださいご主人さま。

 メイドは、今から――眼の前の強大な敵を、貴方のために殺して見せます。

 

 ――――と、そう考えた時。

 

 

 突如として天井が崩落、とっても大きいご飯茶碗が落ちてきて、グララ様を閉じ込めてしまいました。

 

 

 あ、これ、私が木彫りのクマ(鰹節)を朝食にする際に使ったお茶碗ですね。

 なんて思っていると、

 

 更に続けて降ってきた“なにか”によってお茶碗は粉微塵となり、

 

 

 中に収まっていたグララ様は、死亡が確認されるのでした――――


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