ランサーで第5次聖杯戦争 作:指が痛い人
「なぁ相棒、俺がんばったよな」
「えぇ確かに。普段の貴方にしては頑張った方だと私は思いますよ」
男と女二人。黄昏の空の下、男が女に肩を貸してもらいながら足を引きずり丘を登って行く。足跡は赤い色で染められ、長い一本を描き続けている。
それは何故か、男の後ろ姿を見るに明らかだろう。背中や腹には何本もの剣や槍が刺さっており見るからに痛ましい。
彼の脳はとっくの昔にキャパシティーを超え麻痺しており感覚は無く、痛みを感じない。そんな中、無駄と頭の隅で分かっているが震える片手を動かし傷口を抑えるがそこから流れ出す血液の流れは止められそうにもない。
「すまないな、せっかく助けに来たってのにこんな結果になって」
男は弱々しくも拳を強く握りしめる。その時の彼の脳裏にはこの悲劇の起こった経緯、そして自身の行った行為の結果の数々がまるで走馬灯のように走り続ける。その中には嬉しい結果も苦い経験も、辛すぎる出来事もあった。今ではただの過去の思い出の、記憶の一遍に過ぎない事ではあるが。やり残したこともあるし後悔も懸念も心配事や心残りもある。全部を救うことは出来ず、一番防ぎたかった事も防げなかった。彼は顔で笑いながらも暗く、気持ちが沈み込んでいくがそんな彼にも優しく彼女は語り掛ける。
「そんなことありませんよ」
彼女は彼の軌跡と自身の人生図を知っていた。本来の道筋から少し脇道へと逸れ、本来の彼女とは全くの別人と言っても過言ではない彼女は女性特有の優し気な笑顔を向ける。
「あなたが私に待ち受ける運命を変えようと頑張っていた事は知っていますから、助けに来てくれた事は大変うれしく思います」
「っへ、そうかい」
恥ずかしそうな顔をしながらも歩く男。しかし次第にその歩みはおぼつかないものとなっていき呼吸が浅くなり段々と光を失っていく。彼女はそんな彼の瞳を悲しそうに見つめるしかない。それは彼女が知っているから、彼がこれまで経験してきたの挫折を苦難を絶望の数々を。そしてこれから待ち受ける終焉を。
「今思えばあなたとは随分と遠くへ来ましたね」
「──―あぁ、そうだな」
彼女もまた彼と過ごした思い出を浮かべる。
幼い頃から一緒だった彼は私の兄と同等なほどに親密な関係であり、遠慮のない……家族のような存在。
出会いこそ最悪──―いま思うと子供っぽい理由が切っ掛けで知り合い、そして仲を深めていたけど彼には本当に世話になった。
選定の剣を抜くと決まった場合は彼は真っ先に反対し、周りの人に止められながらもそれでも無理矢理瞳に涙を浮かべながら私へ駆け寄って来ていた。
私がマーリンと修行の旅へと赴く際にはスムーズに王を継げる為の下地作り、余計なトラブルを防ぐ為に嫌だ嫌だと言っていたはずの城へ、私のあずかり知らない所で赴いていた。それから王を継いだ後の再会は私もビックリでしたよ。てっきりその手腕を生かした料理人にでもなっているかと思いきや意外な才能を生かして騎士になっていたのですから。
立場が変われば態度も変わると思っていたのですが……‥‥彼は全く、不服ながら昔と同じでまるで妹を相手にしているかのような態度であり変えることはありませんでした。他の騎士達の前では最低限猫を被っていたようですがそれ以外。例えば二人っきりの時などは昔と変わらずの接して来てくれました。
その態度にどれだけ私が救われたか、貴方は知らないでしょうね。普段から兄さんにも言う事の出来ない相談事や愚痴など、付き合わなくてことにも紳士的に付き合ってくれていた事によってどれだけ私への負担が軽減されていたかなんて……あなたは変な所で鈍感なので気付いてはいなかったでしょうね。
彼女は身の丈ほどありそうな真っ赤に染まった槍を杖替わりに扱い彼を抱え歩き続ける。途中に点在し、騒然とした光景を作り出している騎士達の遺体を背に丘を登りきる。そこからはブリテン島が一望でき、遠くまでよく見えた。故郷の村に彼とよく遠征へと赴き、色々と楽しかった立ち寄った大きな町に加え我らが城、キャメロットまでもがこの場所からは見える。しかしそのどれも自身の記憶にあるような光景ではない。村は戦の影響で廃れ、町からは離れているはずのこの場所まで聞こえて来る数々の悲鳴に怒号。そして城は────崩壊していた。幾度となくピクト人からの侵攻に耐えた強固な城壁は崩れ火の手が周り、白く美しかったはずの光景は見るも無残な光景へと変わっている。
普通の人ならばこれに何か思う事があるだろう。しかし、彼女は何も思わない。だってこれら全ては自身の行動による結果であり、王となる前に予め示唆されていた事なのだから。
ブリテンは本来早くからこうな結末を辿る運命だった。しかし、彼女が延命処置を施しそれが偶然上手くいってしまったが為に長々と続いて行ってしまっただけの事。その事を彼女は分かっているからこそ後悔はない。
「―――今思えばもっといい方法があったんじゃないかと俺は思うんだよなぁ……こんな酷い結果は至らない、な」
──無いのだが、それは彼女だけのようで彼女の抱える男は別だった。亡びの運命に対抗するためにひた走り、解決案を提示するが毎度上手くいかず苦悩していた彼からしたら受け入れてはいるものの納得はいかない。文字道理命懸けて努力、奮闘していたから直の事だ。
「──っけ」
そんな光景を見つめ、感傷に浸る彼女の足元から声が聞こえた。目を向けるとそこには今にも死にそうな騎士が仰向けに、夕暮れの空を光の無い瞳で見上げながら倒れていた。この者も他の騎士と同じで傷があり肩から胸にかけて大きく斬り傷が確認できる。そしてそこから流れる血液により作られた水溜まりの大きさから見て手遅れである事が分かった。
「決死の覚悟で父上に挑んだってのに……それが操られた結果だったなんてやり切れねぇよな」
けれど彼女はそんな状態にあるにも関わらず何処かスッキリして憑き物が落ちたかのような表情を浮かべていた。
「でも、鈍感でニブちんな父上と本気の喧嘩が出来たからスッキリしたよ……」
「―――そうですかモードレッド、それは私もです」
彼を担いだ状態の彼女が倒れている者、モードレッドに話しかけるとだんだんと青く顔色を変えながらも驚く。
「うぉ!? 父上そこにいたのかよ……てっきり兄さんかと思ってたのによ」
その声に少しばかり笑顔を浮かべながら彼女の隣に彼をゆっくりと座らせながら自身もその隣へと腰掛ける。
「モードレッド……私も貴方とはこのような形になったものの感情と感情をぶつけ合い、語り合えた事は嬉しく思う。しかし出来るなら剣ではなく言葉で語り合いたかった」
彼女の言葉には後悔の念が籠っていたように感じられた。
「かの、アーサー王が弱くなったもんだな。反逆者にそんな言葉を語り掛けるだなんて」
そんな彼女の答えをモードレッドは別の言葉が返って来ると思っていた為に面白くないと感じ、アーサー王と呼ばれた彼女は驚いたような表情を浮かべた後、ふふふと笑みを浮かべる。
「ふふふ」
「なっなんだよ」
彼女の脳裏には彼のいなくなった後にとった自身の行動を思い浮かべる。突然の侵攻による戦。本来ありえざる赤き竜との戦い。物資不足による民たちの謀反。2番目に信頼を置いていた最強の騎士の反乱。彼が聖杯を取りにギャラハッド、パーシヴァルと共に旅立った後自身が考え、選択した結果は全て悪い結末へと至ってしまった。
「私は弱い。彼が居ないと間違った選択をしてしまうほどに私は彼に依存していたようです」
それを悪い事とは思わない。むしろ彼の存在が無ければ私はとうの昔に心を壊し、民の事すら考えられない冷酷な王へとなっていただろう。だが、それを彼は防いでくれていた。だけど私が彼と離れた途端にコレだ。今回だって彼が急いで駆け付けてくれなけばどうなっていたか―――本当に彼には迷惑をかけてばかりですね。
「本当に、本当に感謝していますよ。ファルシオ」
アーサー王は彼、ファルシオへと語り掛けるが答えは来ない。それもそのはず、彼は既にこと切れている。とても安らかでまるで寝ているような表情を浮かべた彼は友より託された槍へと寄りかかる状態で風に吹かれる。
「あぁ~兄さん先に逝っちまったか……まぁそうだよな俺の剣も思いっ切りぶっ刺さってるもんな」
モードレッドも薄れゆく意識の中、彼が黄泉へと旅立った事を察する。
「そう、ですか……そろそろ私も、のようです」
彼が先に旅立った事を確認すると限界を迎えたのかアーサー王も彼に寄りかかる。段々と意識が薄れ体に力も入らず強い睡魔が襲って来た。
「ほんと……あなたは……鈍い、ですか……ら――――」
そんな薄れゆく意識の中、自身が向ける好意を伝えることが出来なかったとちょっぴり後悔しながらアーサー王の人生は此処で幕を閉じた。
「っけ、父上ももう少し素直だったらこんな事にならなかったのかね」
後に残されたモードレッドはそのような事を呟き、息を引き取った。三人の眠る丘には季節外れの穏やかで、温かい風が吹いていたという。
こうして彼と彼女らの人生は幕を閉じた。しかしそれは彼の人生にとって始まりにしか過ぎない長い長いプロローグ。
さぁ、幕は開いた。物語を始めよう。
これはお節介が厄介事を呼ぶ、運の無い男の物語。
「で、俺が生まれたって訳」
「いや、いきなり何言ってるんだよ佐藤。って言うかストーブの上に座りながら奇行に走らないでくれよ」
「うっせぇ衛宮! ワサビ鼻に突っ込むぞゴラァ!」
「な、なんでさッ!!?」
千数百年後のある学校でそんなやり取りが行われたって言うのは余談である。
原作ルートはどれがいいですかね?
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セイバー
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遠坂チャン