ランサーで第5次聖杯戦争   作:指が痛い人

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お待たせー


紅茶と見落としの13話

「―――――つっかれたぁ」

 

ただいまも言えぬまま、家に上がってソファーへと倒れ込む。

ぽっふっとしたクッションの感触が顔を包み込み全身でソファーの柔らかさを感じ体をリラックスさせていった。

あのランサーの後を追わせたアーチャーはまだ帰って来ない。

 

そのままの状態で先ほどあったばかりの事を振り返る。

しかし、今夜は予想外の事が多すぎた。今回の聖杯戦争もセイバーが最強の札だと思っていたのに、まさか予想外な事にランサーがジョーカーだったなんて。アーチャーも勝てそうになかったし。あの時の宝具が放たれていたと思うと――――やっぱり負けてただろうなぁ

 

「――――ハァ」

 

それに加え私達の戦いを目撃してしまったアイツ。ホントなんでアイツがあそこに居たのよ。おかげで損傷した心臓の修復に、お父様のペンダントを使っちゃったじゃない。でも気になるのが――――

 

「―――心臓に半壊した状態とは言え、既に組まれていた魔術よね」

 

そう、アレだ。今回の場合は肝心のコアとなる部分が破壊されていた為に発動していなかったけど、あの魔術は何処か無性に既視感を覚える。

 

魔術は何でもできるイメージがあると思うけれど実は違い条件に応じて発動する魔術の使い手は多く、今回の他人の体内に干渉して発動する魔術を施す事が出来る魔術師は余りいない。

自分自身の内部への干渉はさほど難しくないけれど他人の中となると話は違い、他人からの干渉をあまり受けない魔術回路がある都合上難しいとされ、難易度の高い技術だ。だから同じような事をするならまだ魔術の刻まれた物を何かしら体内へ埋め込むか何かしらの技術を用いて内包する方がよっぽど簡単。でも、今回見た魔術はその難易度の高い物が重要部が破壊されているとは言え発動前の状態である詠唱途中だったモノだ。普通ならそんな状態になってしまったら発動するはず無いのに……アレは普通の魔術師じゃあ絶対出来ない世に言う神業の部類の物だ。例え出来る人物がいるとしてもそれは時計塔でロードと呼ばれる魔術師として頂点を行く人たちぐらいよね……本来なら。

でも、私は知っている。あんな人外の技を当然の如く出来てしまい、凄腕ではあるけれど障害を抱えたお隣に住んでいる欠陥魔術師を。

つまりあの魔術をかけたのは翔って事かしら? でも、そう考えれば色々と辻褄が合うのよね。

あんな凄い魔術、お父様のペンダントの力があったとは言え私が修復出来たって事は何処かで習った事のある証拠だ。それに私が会得している魔術の中でお父様の残してくれた宝石魔術以外って言ったら翔が教えてくれたMD式魔術とか言う正式名称不明な魔術と似非神父が教えてくれた魔術だけ。似非神父に関しては言う事無いけれど、問題はこのふざけた名前の魔術にあるのかしら……って、それしかないか。

MD魔術ってのはアイツが作り上げたふざけた名前の割に色々と謎が多い独自の魔術。自身でその術を施す時にどんな工程を得て、どんな方法で魔術を施すかを直後に全てに忘れてしまうって言う欠点があるけれど効果自体は極めて高い。短時間且つ少ない工程で極めて高い効果を得られる凄い魔術なのが、名前が変過ぎて何だかムカつくのよね。アイツは何故か私に回復や身体の強化系の魔術しか教えてくれなかったけど聞いた話じゃ攻撃系は特定の人物の殺害に特化したモノらしい。って事はその忘れてしまっている部分にヒントがあると言う事かしら? 

 

「うん~……とにかく明日聞いてみるか」

 

生憎と今は午後の10時過ぎ。アイツは既に眠っているだろう。一度眠ったらアイツ、寝起きの機嫌は毎度の如く災厄だから起こすのも面倒だ。ホントなんなのよ、何度か起こしに行ったらその度に誰かと間違えて襲ってくるだから、本当に最悪よ。憂鬱な気分でクッションに顔を押し付け、その柔らかさに虜になっていると一瞬ヒヤッとする風が部屋へと吹き込んで来る。

 

「戻ったぞ、凛」

 

アーチャーが帰還した。

 

「おかえりなさい、えらく早かったわね」

「ランサークラスには最速の英霊が選ばれると言うのは噂ではないらしい。隣町へ続く橋までは追跡出来たんだが見失ってしまったよ」

 

それもそうよね。人間じゃ到底出せない目を疑うほどの速さだったもの、アーチャーのクラスである私のサーヴァントじゃ難しいわよね。むしろ橋まで追跡できた事を褒めるべきだわ。

 

「ま、いいわ。これで少なくともこちら側の街にはマスターが存在しないと確認出来たのだから。それにそう簡単に尻尾を見せる相手だと思っていしね」

 

それに今回は予想外の出来事が立て続けに起こって流石に疲れた。何よ、初戦にルール違反である神霊って授業料にしては高すぎないかしら! まだ特売セール、一袋5円のもやし争奪戦の方が安いわよ! 

 

「はぁ…」

 

「どうしたんだマスター。ため息などついて気迫がないぞ、まさか怖気付いたのか?」

 

「そんな事はないけど……ただ、今回の聖杯戦争と週一であるもやし争奪戦が私の中で同列にある事が納得いかなくって」

 

「もやし争奪戦?」

 

うん、何言ってんだろ私。サーヴァントであるアーチャーにもやし争奪戦なんてわかるはず無いのに。

 

「……もしや特売セール一袋5円のあのもやしか!」

 

「何であんたが知ってんのよッ!」

 

自分の真名について何にも覚えてないくせに何でそんなどうでもいい事知ってるのよコイツわ! 思わず立ち上がって叫ぶのも仕方ないわよね、私悪くないわよね!

 

「いや、今朝台所を借りた時に置いてあったチラシが目に入ったのでな。日付も近いので次のセールに私も赴いてみようと思っていたのだ」

 

「サーヴァントがスーパーのセールに自主的に行くってそれでアンタはいいのかッ!」

 

アンタは私のママかッ! 

はぁーと呆れて、ぽすっとソファーへ腰掛ける。変わり者だとは思っていたけどまさか母性の働くそっち方面の変わり者だったなんて……なんと言うか、ギャップが凄い。

 

「それよりもあのランサーはどうする。君が命じれば私は隣町をしらみ潰しに探し、相手する所存だが」

 

恐らくそのスーパーの下見を兼ねているんだろうなぁー、なんて本当の目的が透けて見える講義をしてくるアーチャー。

 

「はぁー、そんなの今の所放置でいいわよ放置で」

 

「ん?放置? 何故なんだマスター」

 

「だってまだ全てのサーヴァントが出揃って無いんですもの。今夜のは単なる事故と考えて、少なくとも私は聖杯戦争の開始を知らせる合図があるまで戦う気はこれっぽっちも無いわよ。それにお父さんも言っていたわ、遠坂家の人間であるならばルール違反は許されないってね」

 

「……ほう、その説明を察するに君の父親もマスターだったのか」

 

なるほどなぁー、なんて手を叩いて納得するアーチャー。……なんだかコイツ、最初の態度と違すぎるんじゃないかしら。お茶目って言うか天然って言うか……

 

「なによ、何か文句でもあるの?」

 

「いや特にない。ただ一つ気になってな」

 

「気になる事?」

 

「あぁ。聞くが凛、君は生まれた時からマスターになるべく育てられた人間。この認識に間違いはないな?」

 

「ええそうよ。聖杯戦争を勝ち残る事は何代も過去から続いて来た遠坂家の悲願ですもの、突発的に選ばれるマスターとは違うわ」

 

「よろしい。だったら聞かせてくれ、君が聖杯に望む願いは何だ?」

 

聖杯に望む願い? そんなのーーー

 

「そんなの別に無いわよ」

 

「なッ!? そ、それは本当か!」

 

あ、アーチャーが変顔晒してる。おもしろーい。

 

「ここで嘘ついてどーすんのよ」

 

元々聖杯戦争に参加するのは塔坂家に生まれた人間が果たすべき義務みたいなモノ、私個人が望む願いなんてないわ。

 

「まぁ、強いて言うなら実績作りね」

 

「じ、実績ぃ」

 

「今回の聖杯戦争を終えた後私、時計塔に行くつもりだから。その際、聖杯戦争に参加して勝ち残った実績が入学に少しでも有利になったらいいなぁーって考えもあるわよ」

 

ま、そのためにはあのランサーもろとも他のマスターが従えるサーヴァントを全部なぎ倒して生き残る必要があるんだけどね。アーチャーは私の目的がよっぽどショックなのか間抜けずらを晒し続け、固まっている。

 

「そ」

 

「そ?」

 

「そ、そんなハズあるまいッ! 聖杯とは願いを叶える願望器だ。マスターになると言う事はそれを手に入れると言う事、叶える願いが無く参加した理由がそんなチンプなモノとは一体全体どういう事だ!」

 

アーチャーは真剣な表情で問いただしてくる。けれどチンプは言い過ぎじゃないかしら?

 

「そうは言うけどねアーチャー、実際過去に参加した魔術師の中には私のような実績目的で参加した人もいるのよ。だったら私の考えもあながち間違っては無いと思うのだわ」

 

「せ、聖杯戦争に実績目的で参加した者が過去にも……」

 

「えぇ、何ならその人とは月一のペースで連絡を取り合ってたりするわ。魔術師の道理に漏れず、変人だけどね」

 

それに彼には今、姉弟子が預けられている。姉弟子は普段はしっかりしてるけどちょっと抜けてるとこも多いから私が傍にいないと心配なのよね。

 

「――――」

 

言葉を失ってる様子のアーチャー。でも変ね、お父さんの話だとサーバントにも望みはあるって言っていたけれどそれはあくまでサーバント個人の望み。私の望みがおかしなものだって気にする必要はないと思うけど。

 

「よ、よし、そんな辺鄙な望みは止めてもっと大きな願いに変えよう。例えば世界征服のような――――」

 

「何でそんなめんどくさい事望まなくちゃいけないのよ。一人で世界を管理だんて絶対大変じゃない、そんなの嫌よ私」

 

「」

 

「それに私は既に征服してるわよ、世界。私だけの価値観が通じる、私だけの世界をね」

 

難しい顔で私を見てくるアーチャー。コイツ、天然かと思いきや案外考え方がかたいなー。

 

「……理解に苦しむな。私の考え方では到底理解出来そうにない価値観だ」

 

「はぁ。貴方、案外想像力が貧困なのね」

 

「余計なお世話だ凛。……ではそんな想像力の欠けた君の使い魔に教えて欲しい。凛、君は何のために戦う?」

 

「そこに戦いがあるからよ、私の使い魔さん。聖杯なんて物その戦いの副産物でしかないわ。まぁもらえる物はもらうし聖杯が何なのか分からないけどこの先、欲しい物が出来たら使えばいい話じゃない。人間って言う生き物は常に貪欲なのだから」

 

「……つまり君の目的は」

 

「ご名答。そう、ただ勝利を勝ち取る為に戦うのよアーチャー」

 

ふう、っと肩をすくめるアーチャー。呆れているの先ほどまで入っていた肩の力がようやく抜けたようだ。

 

「……これは参った。コレは本格的に認めなければならないらしい、君が私のマスターに相応しいと言う事を」

 

な、なによ。そんな偉そうにしてくれちゃって、そんな反応されるとこっちが対処に困るじゃない。

 

「……なら、逆に問わせてもらうけど何が貴方のマスターに相応しい要素に成りえたのかしら?」

 

「察しろ、私のマスターであるなら」

 

むぅ。察しろってわかんないから聞いてるんじゃない。それを察せって無理にもほどがあるわ。……けど、それぐらいに私を信用してくれてるってことよね。

私はもちろん彼の事を信用してるし彼もまた、私の事を信用してくれてる。この連帯感は悪くないわね。

 

「では、確認も終わった事だし一息入れよう。なに、君の話が正しいのであれば最後のマスターが現れるのは今すぐと言う訳でもあるまい。お茶の一杯……っと、待て凛。あのペンダントはどうした?」

 

「ペンダントってアレの事? ……あ! 学校に忘れて来ちゃった。ハァ……ま、いっか。何の力も残ってないんだし別に問題ない、か」

 

「そ、そうか。君がそれでいいなら別に問題無いが……」

 

「えぇ、一応お父さんの形見だけど。アレだけが形見って訳じゃないし――――「――――よくはない。例えそうだとしても無くなってしまった肉親の物だ。大切にしなくてどうする」

 

睨むようにそう言った後、私が学校で忘れて来たハズのペンダントを取り出した。

 

「あ、拾ってくれてたんだ」

 

「……もう忘れるな。それは君にしか似合わない物なんだから」

 

照れ臭いのだろ、視線を逸らし手渡してくるアーチャー。

 

「――――そう。ペンダント、ありがと」

 

何となく私はそれを受け取る。正直どんな反応でこれを受け取るべきなのか、私には分からなかった。

 

「ところで―――」

 

受け取った感触は二つ……二つ?

 

「これは、何?」

 

それは黒いブツブツの入った球体。強いて言うならパイナップルにも似た形をしていて、一本のピンが突き刺さっていた。

 

「あぁ、それはマークII手榴弾と言って―――って手榴弾ッ!?」

 

アーチャーは焦った様子で私の手からそれを奪い取った。

 

「な、何故こんな物が―――」

 

「何故ってアーチャーが渡して来たんでしょうが……それにしてもへぇ、マークⅡ手榴弾って初めて見たわ。本当にパイナップルみたいな形してるのね」

 

何時もM26しか使わないからこんな骨董品、初めて見るわ。 じろじろと観察していたらアーチャーは取り乱したかのような表情を見せる。

 

「き、君は爆弾と聞いても何故、動じてないんだ」

 

「だってピンが抜かれてないから安全だと分かってるからに決まってるじゃない。それにそれぐらいの爆弾、地下にたんまりと用意してるから馴れたわ」

 

「な、まさか凛。銃などを所持してるとは言わないよな?」

 

「ん? してるに決まってるじゃない。聖杯戦争は頭の固い魔術師との戦いよ、だったら正当方よりも銃などを使った絡め手の方が強いに決まってるじゃない」

 

「―――――」

 

ま、この戦法は翔の受けよりなんだけどね。魔術師相手に本気で勝ちたかったら常識を捨てろって。しかしアイツがまさか重火器の仕入れルートにまで詳しいだんて思わなかったわ。まぁ今ではそのおかげで今回の戦いに備えてその裏ルートを使って一個小隊規模の銃を仕入れる事が出来てるからありがたかったちゃ、ありがたかったわね――――

 

「――――ってちょっと待って」

 

何か引っかかる。翔の事を考えて関連的に思い出されたけど、今思えば不十分だ。アイツ、衛宮の記憶を弄らないと危険だし。何よりあのランサーは私達よりも目撃者排除を優先した。そしてランサーの考えはマスターの考えでもあるはずだから――――その用心深いマスターがもし、殺した筈の相手を取り逃がしたと知ったらどうするか。

 

「……そんなの決まってる、生かしてはおかない」

 

ソファーから立ち上がり時計を確認。……アレから恐らく三時間。間に合わない可能性が高いけど、アレだけのことをして助けたんだから可能性だの云々言ってる訳にもいかないじゃない!

 

「アーチャー、行くわよ!」

 

「い、一体どこへ行くんだ凛。私は今、凛と付き合い方について考えてだな―――」

 

「そんな事をしてる暇ないわ、急いで!」

 

今夜使うとは思わなかった靴箱に隠してあるM4A1を取り出すと私は夜を駆けた。アイツの家は知っている。下見にしか行った事は無かったが聖杯戦争に備え、すべての住所を把握しているのが今回は幸いした。

 

「――――お願いだから間に合って」

 

嫌な予感を頭に過らせ、私は走り続ける。まだ彼が生きているそう、信じて。

 

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