ランサーで第5次聖杯戦争 作:指が痛い人
「あ────クソ。一体全体何が、起きたって言うんだ」
化け物みたいな女に胸を貫かれた俺は目が覚めた。喉からこみ上げる吐き気を我慢しながらも俺は何故か自然と血痕などを片付けていた。
多分貧血と混乱で頭働いてなかった結果なんだろうけど、何故証拠隠滅を自然とやってしまったのか……今では分からない。ゾンビの様な足取りで学校を後にし、家に帰る頃には日付が変わっていた。屋敷には誰もおらず、何時も遊びに来ている藤ねぇと佐藤はとっくに帰った後だ。
「はあ、はあ、はぁ……」
思わず力が抜けて床に腰を下ろす。そのまま床に寝転がるとようやく気持ちが落ち着き、頭が整理出来て来た。
「────」
深く息を吸い込み、肺に空気を送り込む。肺を大きく膨らますと、傷口を抉るかの如く心臓が痛んだ。だけどそれも仕方ない事なのか、穴の開いた心臓が塞がれ、治療されたばかりなのに膨張させた結果、傷が開きかけているんだろうから。
「……俺、殺されたのか」
月の光を背にし、俺を槍で貫いた女。その女に俺は成す術も無く蹂躪され、最終的には心臓を一突きされて俺は死んだ。けど、今こうして生きているのはその直後に誰かが助けてくれたからだ。
「一体誰が助けてくれたんだ……出来たら礼ぐらいは言わせてほしいもんだけど」
あの場に居合わせた、という事はあの女の関係者かもしれない。けど、それでも助けてくれた恩人には変わりない。いつか見つけ出してちゃんと礼を言わないと。
「それにしても佐藤に回復魔術を習っておいてよか……ぐ……!」
気を抜いた途端、痛みが戻って来た。胸を文字道理割くような激痛はこれでも回復魔術で和らいでる方だから恐ろしい。同時にせりあがって来る嘔吐感に身を任せたくなる。
「あ……ッぐ、ッ! ‥‥‥‥」
体を何とか起こして吐き気に堪える。制服のボタンを無理矢理外し、胸へと手を触れた。助けられたとはいえ、この胸には穴が開いていた。あの感覚を、あの不快感を忘れたいが強烈過ぎる為に忘れられそうにない。
「あぁーっくそ、コレは夢に出て来るだろうな」
まだ槍が刺さってる気がする。錯覚にも幻痛にも似た感覚を振り払って、とりあえず冷静になろうと努め何度か深呼吸を繰り返す。
「……よし、落ち着いた」
これは佐藤から習った技で心を落ち着ける呼吸法。これを何度か繰り返す事によって曇った思考はクリアになり、嘔吐感も無くなってくる。
「にしてもあの女、一体何者だったんだ?」
軍服にも似た服を着た槍使いの女。アレは単なる感だけど人間だけど人間じゃないと思う。どっちかというと姉弟子がよく相手にしていた幽霊の類に近い者だと思う。確か姉弟子が言ってたよな、幽霊の中には実体を持って生きている人間へと直接干渉出来る意志の強い霊もいるって。
「名前、名前、名前……少なくとも精霊ではなかったよな?」
でもよく考えてみるにそれよりももっと根本的な問題が残っているよな。アレは何者かと殺し合っていた。つまりはあれと同等の存在が少なくとももう一人いると言う証明に他ならない。それに最近続く不幸な事件に近所へ押し入ったとされる強盗殺人……
「────」
これだけ関連付けて考えて、解ったのは自分の手には余る問題と言う事だけだ。
「……もしかしたら佐藤なら何とかなるのか?」
もしくは親父。まぁ親父は既に墓の中だから頼る事は出来ないが。
「────クソ、俺はバカだ。例え理解できない事にあっても自分に出来る事をやると決めてたじゃないか」
弱音を吐くのはそれからでも早い。
「とりあえずはアイツに電話だな」
外間に設置してある固定電話を手に取り、電話番後を入力。既に日を跨いでいる時間帯でありながら数回のコールで佐藤は出てくれた。
「ふぁ~、はいはい佐藤です。どちらさま?」
声に覇気は無く、明らかに寝起きの声だと分かるが大丈夫だろうか?
「俺だ、衛宮だ」
「おぉ~しろぉ~、こんな夜遅くにどうしたの?」
「たすけ──」
そう口にしようとした瞬間、天井に吊り下げられた鐘が鳴った。ここは腐っても魔術師の家、それに佐藤の奴が早期警戒にと組んでくれた魔術を張り巡らされている場所だ。だから警報ぐらいの結界は張ってある。
「──クソ、こんな時に泥棒──」
口にしてから俺自身の愚かさに嫌気がさす。そんな筈ない、奴が追って来たんだ。俺の命を刈り取りに来た暗殺者が。
思わず耳を離した受話器をゆっくりと耳に当て、マイク部分は人差し指を当てる。そして二人でオフザケ半分で覚えた緊急事態を知らせるSOSのモールスを送った。
「……今行く、十分持たせろ」
俺の意図は伝わったようでうれしい返事を最後に通話が切れた。受話器を戻す暇も無く、そのままゆっくりと手放すとこの静まり返った屋敷がいっそう不気味に感じた。物音は全くしない。けれど、確かに──―あの校庭で感じた殺気が近づいて来ているのが分かった。
「────ッ」
思わず息を飲む。背筋に悪寒が走りコレが幻でも何でもなく、確かに現実で起こっている事だと認識させられる。恐らくこの部屋から出ると俺は────死ぬ。
「ッ────」
悲鳴をあげたい。けれど、そんな物を溢した瞬間には暗殺者は意気揚々と俺を殺しに飛び込んでくるだろう。そうなれば学校で起きた出来事の繰り返し。俺はまたあの女に蹂躪されて、槍を心臓へと突き刺さされるだろう。
「──────ッ!」
そう考えた瞬間、呼吸が乱れて来る。
何とも頭にくる話だ。恐怖を感じて怯えてる自分と、助けられた命を簡単に捨てようとしている自分、それと助けに来てくれている友達の思いを無下にしようとしている自分が情けない。
「────落ち着け」
これで二度目、いい加減に慣れるべきだ。それに殺されようとしているのも二度目だからな、今度はあんな無様な姿は見せられない。それに俺、衛宮士郎は魔術師だではないか。ならこんな非常時にぐらいこれまで学んで来た事を生かせなくてどうする────!
「……やるしかない。佐藤が来るまで時間を稼いでみせる」
やる事は単純。今は来た奴を叩き出して時間を稼ぐだけ。正直何の根拠も無いが、佐藤さえ来てくれればこの最悪な状況だって何とかしてくれると思う。
「でもまずは武器をどうするか、だ……」
俺は魔術師だが、出来る事と言ったら自身の治癒力を少し強化するか物を強化する事だけ。つまりは戦うには武器がいる。一応この屋敷には佐藤がいざと言う時にと隠していった物があるが、生憎とそれは外蔵か俺の寝室内に隠した奴しかない。このまま居間から出て寝室や蔵に向かってる時、丸腰では学校で起きた事の二の前になる。……と、すると武器はこの部屋で調達するしかない。できれば長物、できれば物干し竿のような棒状のものが好ましいが、当然の如くこの部屋にはそんなもの置いてない。そうなるとこの条件で合致して、武器になりそうなモノは────
「うわぁ……藤ねぇが持って来たヘンテコポスターしかない」
無駄に鉄板で作られたポスター。まさかこんな時に役立つだなんて予想外すぎる。
がっくり、と肩の力が抜けるが、逆にこの絶望的状況に腹が座って来た。ここまで最悪な状況、どう転んでもこれ以上悪い事になる訳ないんだからな。なら後、俺に残されたのは力尽きるまで足掻き続けるだけだ。
「────トレース、オン」
魔術のトリガーを引き、長さ60㎝ほどのポスターに魔力を通す。あの異質な槍と打ち合おうって言うんだ、すべての魔力を回して固定しないと武器としては使えずに撃ち負けるだろ。
「構成材質────解明、補強──トレース、オフ」
ポスターの隅々まで魔力が行き渡り何時も以上の成功の感触に、思わず身震いした。コイツの強度は今や鋼鉄並みには上がってると思う。それでいて軽さはそのままだから急造の剣としては文句なしの出来栄えだ。
「これで────なんとか」
なんとかなるかもしれない。一応佐藤に剣術は仕込まれてる。だから上手く行けば撃退だって可能かもしれない。
両手でポスターを握りしめ、中心にて待つ。どちらにしても何処に留まっても殺される。例え屋敷から出てもあのスピードだ、逃げ切れず直ぐに捕まって死ぬだけだ。
「────時間を、稼ぐだけ」
来るなら来やがれ、そう身構えた瞬間。
「──ッ!」
背筋に悪寒が走り俺の本能が、爆音で警告を鳴り響かせ命の危機を知らせて来た。