ランサーで第5次聖杯戦争   作:指が痛い人

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お・ま・た・せ。待ったかな?


運命の始まる15話

 一直線に走る閃光。それは俺を串刺しにせんと天井から降って来た。

 

「こ、の──っ!」

 

 ただ夢中に転がり前へと身を翻す。その直後たん、っと軽い着地音と共に俺を殺さんと放たれた凶器が、畳へと刺さる音が聞こえた。ゴロゴロと転がってしまった体を止め、すぐさま急増の剣を構えながら立ち上がった。

 

「ふむ、何故避けたのだ小僧。避けると殺せないではないか」

 

 天井から現れた人物、そいつは何ともつまらなそうにそうつぶやくとこちらへと振り返る。

 

「──っな!?」

 

 そして俺は驚いてしまった。その槍使いは確かに軍服のような服を着た女であった。けれど、殺される直前に見た人相とはまるで違い、完全に全くの別人であったのだ。

 

「──ほう。その反応を察するに貴様、私のルーンが効いていなかったと見える。一体何者だ?」

 

 気怠そうではあるが俺の顔をよく覗き込んだりと、油断しているのか俺なんて眼中に無いのか、校庭で感じたような覇気は全く感じない。

 

「しかし、この事がマスターに知られると少々面倒だな……この程度の人間に、効果が無かったとするとアーチャー陣営にも同様だろうが……ッチ、一度死んだ事で腕が落ちたか」

 

 今の状態であるなら、なんとか出し抜く事ができそうだ。

 白い槍を振り回すも俺など見ていないのか悪態を吐く女を前に、俺はジリジリと後ろへ下がる。俺も目的はあくまでも時間稼ぎだ。今の場合より多く時間を稼ぐ為に武器の調達が必須。すると自然に選択権は限られ、蔵へと走る事になるが……距離は約20メートルあるかないか、とどくのか? 

 

「はぁー。まぁいい、考えるは後だ。とりあえず──今度こそ死んでくれ、小僧」

 

「──ッ!?」

 

 右腕に痛みが走り、鉄と鉄とがぶつかり合う鈍い音が響く。

 

「……?」

 

 ほとんど一種の出来事。無造作に振られた槍を無意識的に自然と体は動き、それを防いでいていた。佐藤の剣術の訓練を受けていなければ既に2度目の死を迎えていたと確信出来るほどの、意識外の攻撃だった。

 恐らく女も俺が持っているのはただの紙切れだと思っていたのだろう、不思議そうに己の槍を弾いたポスターを見ている。

 

「……ふむ、少しだがその紙切れから微かだが魔力を感じる。貴様魔術師か?」

 

 微かって……一応俺の全力なんだけどなぁ。なんて余裕が起きるわけがない。人物は違うがコイツも学校で出会った奴と同じで常識外の生き物。ほら、見てみろ。俺が魔術師とわかった瞬間目付きが変わり、完全に獲物を狩る狩人のような目をしている。ミスったな、これなら一撃目を避けたタイミングで一目散に蔵へと走ればよかった。

 

「まぁ、マスターに心臓を破壊されて尚生きているという事はそういう事なんだろう」

 

「──ッ!」

 

 矛先が向けられる。だが次の一撃、俺は防ぎようがないだろう。閃光のように素早いリーチの長い点の一撃と、人間レベルの線の斬撃。どちらが有利かは言わずもがなだろう。

 

「いいだろう。正直私も無抵抗の相手を殺すのに少し物足りないたと感じていた所だ、抵抗を見せるのならそれはそれで好都合」

 

 女の華奢な体は槍を構え──────刹那。

 

「────ッく!?」

 

 突きではなく、横殴りに薙ぎ払らわれた。

 ほとんど条件反射。先程と同じく無意識的に弾いたが、ポスターを握る俺の手はその重い一撃の影響か痺れ、多分震えてる。

 

「ほう、一撃目は防ぐか。ならば──ーこんなのはどうだ?」

「く────ッ!?」

 

 槍が払われる事により起こる旋風。室内であろうと縦横無尽に弧を描くように払われるその矛先は、俺の命を遊びの延長線上のように刈り取ろうと狙っている。

 

「っ!!!!」

 

 胴を狙った一撃は間一髪で防げた。けれどアレはまぐれに近い。こんな奇跡、3度も起こってるんだからもう起こる保証はない。クソ、急増品の剣は既に折れ曲がってる。鋼鉄以上の硬度のはずなのにアイツ、どんな馬鹿力してんだ! 

 

「ぐ、このくそッ!」

 

「ふむ」

 

 剣を振るう、狙いは頭部。だけども奴は舐めているのか槍の柄で剣を弾いた。

 

「ッ畜生!」

 

 鍛えているはずの両腕が、明確にわかるほど痺れて来た。剣も先程より折れ曲がり、リーチはさらに短くなってしまっている。

 

「はぁー。小僧、少々期待外れだな。魔術師なら魔術師らしく何かしらの手を繰り出して来ると思っていたが……まさか斬りかかって来るとは」

 

 目の前の女にとって俺は、ただの暇潰し道具にしか過ぎない。あの二撃はただの様子見。俺が魔術を使うのを待っていたに過ぎない。……そして俺はそんな唯一にして最大の瞬間を単なるその場凌ぎに使っちまった。だからこそ──女は俺に価値など見出さない。

 

「────これでは興醒めだ……もう死ね、坊主」

 

 女は打ち上げられた槍を構え直す。だが、これはチャンスだ。

 

「勝手に────」

 

 背には襖、その先には大窓。この二つを打ち抜けばまだ勝機は、ある! 

 

「────言ってろマヌケ!」

 

 俺は背を見る事無く、襖をぶち破り窓ガラスへと突っ込んで庭へと転がりんだ。そのまま何度か転がりながらも立ち上がらんとする。よし、後は走るだけ──

 

「────おい小僧」

 

 だが、その考えは浅はかだったとの直後に思い知らされる羽目になる。

 

「──ッガハ!」

 

 いつの間に女は俺の間近まで、迫って来ていたんだろうか。直前に見た光景は差し迫る長い足。それが俺へと直撃し、激痛と共に体を浮かせた。視界は二転三転、ぐるぐると回り続け景色が流れていった。呼吸は出来ない、蹴り上げられた胸は酸素を取り込むのではなく、ただ激痛を走らせるばかり。単なる蹴りで体がここまで飛翔するだなるて、思ってもみな────

 

「──グハァ!」

 

 突如、背中に激痛が走る。恐らくは背中から地面に落ちたのだろう、地面の感触がやけに懐かしくも思えて来た。

 視界が歪み呼吸も出来ず、それでもなんとか目的地である蔵──その壁を頼りに中へと進む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 霞んだ視界に女を捕らえると、距離はゆうに20メートルほど。つまり、俺の体はそれほどの距離を蹴り飛ばされた事を証明してる。本当にふざけないでくれ。人外の相手はイギリスで散々、2人の姉弟子とやったからもう沢山なんだよ! 

 

「逃げるなら逃げろ小僧。その瞬間こそがお前にとって、最後の時間なのだから」

 

 四つん這いになりながらも何んとか、蔵へと入る──────が。

 

「コレで、終わりだ」

 

 その直後、俺の背に向かって避けようのない一撃が放たれた気がした。

 何故かはわからない。けれど、なんとなく、そう感じた。

 

「う──────う、うぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

 だからか俺は、その直感に従いそれを防いだ。丸めていたポスター、それを広げて一度きりの盾にした。

 

「ほう」

 

 ただでさえ薄い鉄板。例え強化を施しても強度的に攻撃が防げるかは微妙な所。でも、俺はその賭けに勝った。

 

「っく!」

 

 ゴン、っと衝撃共に砕け散るポスター。けれどその一撃を防ぐと言う役目は果たしてくれた。しかしそれでも元は鉄板、一撃を防いだ後は貫通、役目を終えると元の素材へと戻っていった。

 

「あ、ぐッ!」

 

 だが防げなかったモノもある。薄い盾では攻撃は防げても衝撃までは殺せなかったようで体までに達し、その衝撃で壁まで吹っ飛ばされてしまった。

 

「──ーッ!」

 

 尻餅を付き、激しく鼓動する心臓に喝を入れながら次の武器を取ろうと試みるが……顔を上げた時、俺は悟る。

 

「今度こそ終わりだ、変わり者の魔術師。最後のは中々に楽しめたぞ」

 

 俺自身の終わりを、明確な死を。

 心臓に突きつけられるはあの白い槍。そして俺を一度、終わりへ導いたあの槍。匂い立つは死の匂い。ピッタリと俺の心臓へ向けられた槍は、間違いなく数刻前と同じ通りに俺の心臓へ突き刺すだろう。

 

「筋はいい……が、若い。それに魔術師でありながら根は戦士だ。もし、私自ら貴様を鍛えていたらきっとセタンタと同等の実力者になっただろう。なんとも惜しい事だ」

 

 女の声は聞こえず、俺の意識はただ向けられている槍に注がれるのみ。当然だ。コレが突き刺さればまた、俺が死ぬと身をもって知っているのだから。

 

「だがコレもマスターの命令。ゲッシュに従い、私はただそれを実行するのみだ」

 

 女の腕が動く。先程まで見えなかったはずの動きは今はスローモーションのようにゆっくりと見えた。

 

 閃光の一撃。防ぎようのない無慈悲な閃光はただ真っ直ぐ、俺の心臓を目指して突き進む。後一瞬でもしたら血が出るだろう。肉をかき分け、その矛先が俺の心臓へと届くだろう。

 俺は知っている。知ってしまっている。体内に矛先が入る感触や

 痛み、胸から迫り上がって来る血の味。そして世界がモノクロとなり、消えていくあの瞬間も。

 ……それをもう一度味わえと? 冗談じゃない。なんで俺が、そんな最悪な事を受け入れなきゃいけないんだ! 

 俺には爺さんにあの災害から助けられた恩がある。なんだかんだと言いながら藤ねぇには俺を孤独にしまいと無理矢理にでも一緒にいてくれた恩がある。親友には未熟な魔術師だからと文句を垂れながらも、真剣に付き合い、師匠となって鍛えてもらった恩がある。姉弟子には俺が料理が出来なかったからと付きっきりで料理を教わった恩がある。もう1人の姉弟子からは自分があなただからと血だらけにのりながら、それでも俺へと笑いかけ、命を賭して死にかけで囚われていた俺を非情な生き物から助けられた恩がある。

 

「──────」

 

 頭にきた。

 そんな恩ばかり背負っている俺が、何も返せずにこんな所で死ぬのか。

 誰にも返せてない、増え続けるこの恩を抱えたままに死んでしまうのか。

 

「ふざけるなよ、俺は──ー」

 

 こんなとこで、意味もなく。よくわからない、テメェみたいな奴に──ー

 

「────殺されてたまるかぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「ッチ」

 

 それは、まるで魔法のように現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩く光る閃光の中。それは、俺の背後から現れた。

 

 思考が停止し、現れたそれが少女の形をしている事しかわからない。

 あろう事にそれは俺を貫かんとしていた槍を打ち弾き、躊躇なく女へ踏み込んだ。

 

「────ッな! このタイミングで新たなるサーヴァントだと!?」

 

 弾かれた槍を構える女と、手にした()()()()()()()()()()()()()()()()を一閃する少女。

 複数の火花が散り、鉄同士のぶつかり合う感高い音が響く。それはまさに剛剣一閃。現れた少女の一撃を受けた女は、たたらをふむ。

 

「ッチ、場が悪いッ!」

 

 この場所では不利と悟ったのだろう、女は目に纏まらぬ俊敏な動きで外へと飛び出す。それを自身の体を使って警戒しながら、それは静かに、振り返った。

 

「問おう、あなたが私のマスターか」

 

 月の光に照らされるその光景は奇しくも、数刻前に見た光景と瓜二つであった。

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