ランサーで第5次聖杯戦争 作:指が痛い人
オーケーオーケー、状況を整理しよう。
俺は聖杯戦争なる戦いに巻き込まれ、偶然にも相棒を召喚した。そんでもって今日、友の助けに向かうとその相棒にと偶然にも再開し何故か。彼女が嫌ってたはずの聖剣を向けられ、割と本気の殺気を向けられている……っと。うん、まるで意味がわからない。
「オイオイ、これはなんの冗談だよ全く」
「その減らず口は死んでも治りませんでしたか、サー・ファルシオ」
いや減らず口の一つや二つでも呟いてないと正直、恐怖に呑まれそうになるから仕方ないね。前世ならまだしも今世では普通の人間なんだから。
心臓は激しく鼓動し、鷲掴みにされたのように痛い。少しでも油断したら即座に切り捨てられそうだぁ。
「お、おいセイバー。いきなりどうしたんだよ」
セイバー……あぁなるほど。つまりは目の前にいる相棒はアルトリア、つまりはアーサー王であって俺が出会った相棒とは別人って事ね。……いや、尚更剣を向けられる理由がわかんないんですけど。
「それになセイバー、こいつはそんなふぁるこんだかファミレスだか変な名前じゃないぞ。ちゃんと佐藤と言う名前がある」
苗字なんだが? もしかして士郎君。君ってば俺の事、佐藤としか認識してないな? 雰囲気は一触即発。油断のならないこの状況で士郎は動き、俺の前に庇うように立った。
「下がってくださいシロウ、この男は危険です」
「何故佐藤が危険なんだ、理由をちゃんと説明してくれ」
確かに。士郎の意見には俺も賛成だ。突然銃口を向けられる事は多々あっても、聖剣を向けられる覚えはない。あ、でも邪剣とかなら向けられる覚えはあるかな。
「どかなければ────貴方ごと、斬るッ!」
「────ッ!」
有言実行とはまさにこの事。目の前にいるあ……ではなくセイバーは不可視の剣を振り上げ、斬り込んで来た。
咄嗟に目の前にいる士郎の肩を掴み、後ろへ引っ張ると俺は懐から取り出した。
「おらぁ!」
取り出した物は伸縮式の特殊警棒。でもただの特殊警棒では無く特別製の物だ。材質はアトラス院に所属している友達から、わがままを言って提供してもらった星由来の特別なものを使用。組み合わせる事によって効果を発揮するルーンを刻み込み、とにかく頑丈でなんでも殴れる警棒に仕立て上げた。まぁ、本当はコレって弟子1号が暴走した時用の装備だったりするんだが……どんな物でもいつ、何処で役立つかわかんねーな。
「────ッく!」
振り下げられた聖剣を警棒の腹に当たる部分で受け止め、全身を使い踏ん張る。
だが、それでも備えは足りなかった。瞬間身を砕くような衝撃を感じる。あまりの衝撃に立っていられるはずも無く、思わず膝をついてしまった。
流石に正面から受けるには重いか!
剣は苦手だが出来ない訳じゃない。弾く事も出来たが、生憎とこれは弾きを想定して使ってない。むしろ正面から打ち合い。鍔部分にあるネズミ返しに相手の武器を引っ掛け、奪い取る事を主眼にして作られてるから無理だ。
「──く、そ────いちいち、重いんだよ!」
なんとか身体能力のみで対抗するが、相手はサーヴァント。特にアルトリアに至っては自身の足りない筋力を魔力で補ってるために剛腕。クソ、そんなんだからガレスに裏でゴリラの大王、略してキングコングなんて呼ばれるんだよ!
「ほう、やはり見えていますか私の剣が」
「────見えている訳じゃない、ただ知っているってだけだ」
そりゃマーリンと一緒に旅立ち、修行した時に嫌と言うほどその剣とは打ち合ったからね。体じゃなくて魂がその剣の間合いを覚えたらぁ。
俺とセイバーはこのままでは埒があかないと一度バックステップ、間合いを離す。
後ろにぶっ飛ばした士郎が心配だったけどそれは要らぬ心配だったよう、あの赤い男の肩の上でお米様抱っこの状態のまま、何か遠坂チャンと元気に2人で言い争ってるのが見て取れた。
「アンタのサーヴァントでしょ! は・や・く止めなさいよ!!!」
「だからどうやって止めるって言うだ遠坂ッ!」
「令呪の一角でも使えばいいじゃないのッ!」
「れいじゅってなんなんだッ!」
「あ、あのぉ……出来れば私の耳元で言い争いはやめてほしいなぁ、なんて────」
「「うっさい! お前(アーチャー)は黙っててッ!」」
なーにしてんだか。あの2人は? ほら、あの赤い人が見るからに困ってるでしょ。見てる方も恥ずかしいからやめなさいって。
「ならば────これはどうですか。ッはぁぁぁぁぁ──ー!!!」
セイバーの闘牛のような剣を振り上げながらのダッシュ。その動きにはなんだか既視感があって記憶の何処かに────って、まさかラッシュか!?
「こなくそッ!」
火花が2度散る。火薬が爆発したかのような音を発生させ、繰り出されたは、斬り下げからの流れるような斬り上げ。基本的な動作ではあるが、技量のある人間が行うとこうも違うのか。
反応できたのは言うに無意識的な防衛行動の賜物。野生の感に近い直感に従い、前世での記憶を元に動いたからだ。まぁこんな偶然二度もないと思うけどね。
セイバーはそれも考慮していたのか、その後も何度か俺へと斬りかかり。それから始まるは怒涛のラッシュ。
「────ぁ────く────」
それを悟った俺は咄嗟にもう一本。合わせて二刀流で対抗してそれを防ごうとするが────まぁ、うん。ぶっちゃけ無理ですね。
三回に一回。傷自体は浅いが確実に俺の体が斬られていっている。斬られた場所は熱く、まるで焼かれてるように痛い。てか、コレでもこいつ遊んでんだろ。騎士の風上にも置かない酷い奴だな。
最後の斬撃が終わると、再度セイバーはバックステップを取り後ろへ下がる。正直助かる、これ以上ラッシュに対応してたらどうにかなってたぜ。
「────ファルシオ、ウォーミングアップは終わりです。自身の獲物を出しなさい」
いや既に出してますし、その片方は二度と使用できないぐらいボロボロにされたんですけど。コレ作るのに結構時間かかってんだからな! どうしてくれんだこの野郎ッ! このゴリラー! キングコング! 王は人の心がわからない!
……そういえばあの二股野郎、ちゃんとイゾルデズに玉潰されたかな? 旅立つ前、2人に密告したのが俺だからかなり気になるわぁ。
「……なんだかバカにされた気がします」
「気のせい気のせい、ご自慢の直感は大外れを引きましたよ〜」
「ッ! やはり貴方は私を愚弄するのですか」
……いくらなんでも気が短すぎじゃありませんかね?
ボロボロになった警棒を捨て、俺は両手持ちで構える。
相手も刀身を後ろへ向けて、濃厚な魔力をその隠された刀身へと流し込んでいる。てか、セイバーを相手するなら持ってくれば良かったなぁ……槍。セイバー相手じゃ持ってきた銃火器も意味をなさないだろうし、警棒じゃなくて本当は槍が良かったなぁ────あ、そうだ。
「気が短いって事はカルシューム足りてないじゃありませんか? ペチャパイさん」
「ッな!」
こうなったら呼び出すか、ランサーを。
敵の気を散らし、俺は右手に刻印されてる令呪へと意識を向ける。
俺は知ってるぞ。聖剣を持ってた頃、お前が実はその貧相なペチャパイに悩んでいた事をなッ! あ、ちなみに情報のソースは俺の大親友サー・ケイさんです。前世ではよく三人でギャラハッドを怒らせ浮気の騎士、ランスロットを懲らしめてました。
まぁ、そんな訳でこの悪口は確実に彼女の地雷を踏み抜く訳で────
「ぺ────」
「ぺ?」
「────ペチャパイって、言うなッ!」
────そして結果、感情の大爆発を起こすのだ。
俺の狙いは見事に当たり、彼女は聖剣に貯めていた魔力をジェット噴射の如く解放して真っ直ぐこちらへ突っ込んできた。普通ならすっごくヤバイ状況なのだが────それとほぼ同時に俺の準備も完了した。
「うぉぉぉぉぉ!!!!」
「────令呪をもって我が友に伝う」
本来なら俺に無い魔力の昂りが右手を包み込み、転移と言う大魔術は発動────するかに思えた。
「令呪? をもって命じる、誰かアレを止めてくれッ!」
だが、それは衛宮が消費した別の令呪によって起こした奇跡により、書き変わる事となる。
「────へぇ、なんとも面白い事してるじゃねぇか。俺も混ぜろッ!」
それはまさに血のように真っ赤な稲妻。
突如飛来したそれは、セイバーの一撃を軽くいなし俺の前へと立つ。
「────初っ端から父上が相手とかテンション上がるなー、おい!」
楽しそうな声色で喋るは突如として現れた白銀と赤のツートーンの鎧を身に付けた騎士。俺はその人物に見覚えがあり、その手にするあの剣は俺が預け、そして死因の一つにもなった因縁の剣。
「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。んで、どいつが俺のマスターだ?」
2人目のセイバー、見覚えのある甲冑姿。
ゆっくりと俺たちの方へと振り返り、そう叫ぶ姿はまさに俺の記憶に焼き付いた前世の戦友そのものであった。