運命には従えない   作:りさ_ハーメルン

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4日目

◇

 

翌朝のメインコンソールに私は遅れずに滑り込んだ。

調査機器を持ち直して、ゆっくり席に座った。全員揃うといつものように話し合いが始まる。

とはいえ残りのドクターは沙明だけ。今日の投票先は決まっていた。

でも、そうすることはできなかった。私は口を開いた。

 

「私から報告。SQは、グノーシア」

 

皆の注目が私に集まった。今まで疑われていなかった人物なだけに意外だったと思う。

私も調査するまで彼女に何か思うところがある訳じゃなかった。

 

 

昨夜、調査機器を並べたテーブルの前で私は考えていた。

 

(…そういえば)

 

初日は余興として夕里子が人間と言えと宣言させたのだった。

あの時は全員が参加したし、誰かが嘘に気付いた様子もなかった。

それならグノーシアは嘘が上手な人かもしれない。そこである投票先が目にとまった。

ジナだけがSQに投票していた。彼女のどこかにいやなものを感じたのかもしれない。

ドクロのアイコンが画面に表示されたのはその後だった。

 

「ちぇー、バレちった? ざんねーん」

 

SQはいたずらっぽく笑った。

思わずこちらも微笑んでしまいそうになる彼女の愛嬌は、かわいい。でも今は和んでいる場合ではなかった。

セツがてきぱきと場を纏めてくれる。

 

「報告ありがとう。今日は迷う必要はないみたいだね。投票しよう、SQに」

 

そこに異論のある人はもちろんいなかった。

 

「おやすみー」

 

手を振ってSQは出ていく。

私はふうとため息を吐いた。よかった、今日は沙明を凍らせずにすんだ。

彼がただ運命に流されるままにならなかったことが嬉しかった。

 

◇

 

結論がすぐに出たせいか今日の解散は早かった。

今夜はゆっくりできそうだと私はのんびりシャワーを浴びて、ベッドでくつろいでいた。

だから驚いた。突然ドアが開いて沙明が入ってきた時は。

ノックはしてほしいと言っても沙明は気にとめた様子もない。

当然のように私の隣に座っている。あまり聞いていなさそうで、私は抗議の言葉を飲み込んだ。

 

「今日は凍らずに済んでよかったね」

「お前がいなきゃアウトだったからな、感謝してる。礼にイイ酒持ってきたぜ」

 

沙明はお酒を注いでくれた。グリーンのそれがグラスの中でかき混ぜられる。

控えめなフルーツの甘さが口の中に広がった。

 

「おいしい」

「だろ」

 

満足そうに沙明は目を細めた。

温まっていた身体に冷えたお酒はなおさら美味しかった。

結局、せっかくだからと私は前にしげみちや夕里子から貰ったおやつも追加してしまった。

他愛ない話を沙明とするのも楽しかった。

 

 

 

あれからどれくらい時間が経っていたかわからない。ただ、それなりに遅くなってきたらしい。

たくさん話して、笑って、飲んでいると頭がふわふわしてきた。

昨日まで緊張していたのもあるし、毎晩空間転移のぎりぎりまで調査機器をいじっていたせいもあるかもしれない。

 

「ユーリ?」

「ちょっと酔ってきたかも。でも大丈夫」

「無理すんなって。眠いならそのままオネンネしとけ」

 

手の中のグラスをやんわり引き抜かれる。肩を押されて私はベッドに埋められた。

沙明が気遣うように私を見下ろしている。けれどここは私の部屋で、彼は客人だ。

 

「せっかく来てくれたのに沙明を放って寝るなんて、」

「そんな気使うような相手じゃねーだろ。っても、覚えてねーか」

 

少し寂しそうに沙明は顔を曇らせた。ずしりと罪悪感に襲われる。

なぜって本当は自分でも、もう気付いていた。私は沙明のことが好きだから。

沙明がゆっくり髪を梳く。お酒のまわったところにこれはかなり眠気を誘う。

手つきが慣れているように感じるのはよくこうしていたからなのか。記憶のない私にはわからない。

 

(…私は、)

 

ドクターにあまり肩入れするのは危険だと忠告されても駄目だった。

それどころか、ジナに相談してまで彼を信じられる道を探してしまって、

その結果グノーシア発見まで達成してしまって。

こうなってしまっては、薄着のレムナンと一緒にいたと私のせいで面白くなさそうにした沙明も、記憶がないと告げられても前向きだった沙明も、ひとつひとつが心に突き刺さって抜けやしない。

 

(…)

 

私にはもう彼が嘘を吐いているとは思えない。思いたくない。

そしてその可能性のために彼を切り捨てることはできなくなってしまった。

ふと見上げると沙明と目が合う。彼は優しい目をしていた。見つめ合っているのはなんだか恥ずかしくて私は目を閉じた。

 

「じゃあ、ちょっとだけ。10分だけ」

 

深呼吸するとますます力が抜けて、すぐに眠れそうだった。

私が眠りに落ちるまで沙明は静かに撫でてくれていた。

 

 

 

再び目を開けたとき、部屋には誰の姿もなかった。そのままにされていたグラスもおやつも片付いている。

時間を確認すると、空間転移まですぐだった。10分どころか随分寝てしまったけれど、沙明は起こさなかったらしい。

 

(寝かせてくれたんだ)

 

ぎゅっと胸がうずいた。

私はむくりと起き上がると少しだけ水を飲んだ。もう一度眠ってしまいたいが、今日の調査はまだ終わっていない。

 

残りのグノーシアは1体。

それを見つけられなければ次の投票では沙明を凍らせることになるのだ。

今日は結果的に少し時間稼ぎができただけで状況は昨夜と変わっていない。

航海日誌を読み返しても、ドクターの中で誰が怪しいかという話ばかり。潜伏しているグノーシアの手がかりはほとんどない。

これでは私の調査は勘やくじ引きと変わらない。

 

(とりあえず、ラキオは人間だと思う。…でも)

 

もし私がグノーシアだったら皆を纏めてくれる優秀な人間は早く消したいと思うだろう。

けれどラキオは今日まで無事だ。

それに投票先にも違和感があった。

ラキオはジョナスには投票しない。ドクター全員を凍らせるなら誰だって変わらないはずなのに。それはSQも同じだった。

 

(2人はジョナスには凍ってほしくなかった? ・・・グノーシア同士だから?)

 

私は調査機器を操作した。ラキオはグノーシアだった。

 

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