モルガンさん家は今日も騒がしい   作:あーさぁ

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【登場人物】
千子村正(視点)
キャストリア
エクター


そういうとこだぞ村正ァ

 

この"千子村正"とて、苦手な物はある。本当なら矢でも鉄砲でも持って来いと言いたいところだが、こればっかりは性分だから仕方ねぇ。

 

やっぱり"手持ち無沙汰"ってのは駄目だ。

 

商店街の寂れた"金物屋"、されど"商屋"。たかだか店番といえど、売り子もいねぇし番頭もいねぇってんじゃ商売上がったり……とはいえ、だ。毎日毎日、同じ場所へ座って来るかも分からない客を待ち続けるってのは頭が呆けちまう。

 

やることといえば爺さんの世話、店先と店内の掃除、あとは常連さんの依頼で包丁を研ぐくれぇ。ちょいとでもいいから体を動かねぇと、あっという間に鈍っちまう。

 

「おい、爺さん。そろそろ交代じゃねーか?」

 

店の奥の工房へ目をやると、木製の椅子へ腰掛け、作業台を前に拡大鏡を注視しながら小物を削る小熊のような御仁。毛むくじゃらの頑固な金物屋店主エクター老には、儂の言葉なんざ届いちゃいねぇってか。

 

まぁ元から耳が遠いってのは分かってるし、どうせ聞こえてようが聞こえてなかろうが奴さんは応えねぇだろう、店番なんざ儂だって御免だからな。

"作業中は必要以上に話し掛けるな"って儂等の暗黙ルールがある以上さらに突っ込むのは止めといた、うるせぇからな……が、しっかし……暇だなぁ。

 

「………っ…」

 

と、そんな時分、店先が騒がしいことに気付いた。

耳を澄ますと聞こえてきたのは、対面で商いしてる婦人服店の婆さんの声と………無駄に通りの良い透明感のある声質のくせに、不遜で礼儀のなってねぇ喋りのキンキン声。

 

あぁ、もうそんな時間だったか。

 

壁掛け時計を見上げ気付いた、っつーか気付いちまったのと同時に、ひょっこり軒先から現れた"ちんちくりん"が視界の端に留まる。

 

「たのもぉー!! お客様ご来店だぞー!!」

 

「ほとんど買い物もせず、ただただ店内ぶらぶら物色するだけの場違い女子高生を客とは呼ばねぇよ、冷やかしなら帰りな」

 

キャストリア、それがこの"ちんちくりん"の名前だ。数日おき、飽きもせず学校帰りに商店街の寂れた金物屋へ来ては"物色"と称して店に入り浸る、とても花の女子高生とは思えねぇ変わり者。

 

もう何百、何千回と繰り返された儂の塩対応にも慣れたもの。こーの色モノ嬢ちゃんは『ふふーん』とドヤ顔したり顔、本当に可愛げがねぇ。

 

「閑古鳥よりは冷やかし客の方がマシでしょ、だいたい顔に『暇だー』って書いてあるぞ村正ァ。このキャストリアちゃんがお喋り相手になってあげようってんです、お茶の一杯でも以て迎えるのが正しい接客ですよ?」

 

「だーかーらー、茶ァしばきたいなら茶屋へ行けっての。年頃の嬢なら、学友と下校途中に色恋沙汰で花ァ咲かせるくらいしやがれ」

 

暗に『こんな処へ来てる場合じゃねぇだろ』って歳上の助言にも馬の耳、こんな応酬も何度目だったか覚えちゃいねぇ。気付いたら過ぎ去っていく二度と戻ってこない"今"は、エクター老や儂なんぞと一緒にいる事に費やすほど価値があるのかって話だ。

 

「おい、村正。茶ァ……あん? 来てたのか」

 

なんて儂とキャストリアの押し問答を聞いてか聞かずか、のっそりと奥の工房から出てきたエクター老。顔面が毛むくじゃらで微細な表情は分からんが、怒ってる風じゃねぇな。

 

っつーかジジイ、このタイミングで茶の催促ってことは確実にキャストリアが来たの気付いてただろ爺バカめ………まぁ、さっきのままじゃ収集が着かなかったろうから、手打ちにするにゃ良い頃合いってか。食えねぇ爺様だよ、ホント。

 

「あ、じーさん。お邪魔してます」

 

「おう。昨日までに上がったヤツは"そっち"に置いてる、見たいなら勝手にしな」

 

顎でエクター老が示したのは工房への入口の脇、主にエクター老が作った小物やら細工を纏めて置いてる棚。そして棚の前には、簡素なパイプ椅子。キャストリアの"特等席"だ。

 

おっと見張ってる場合じゃねぇ、茶淹れねぇと。

 

つっても作業上がりのエクター老には冷蔵庫から茶でも取り出せば良いし、キャストリアには出涸らしで十分だろ。エクター老が愛用してる湯飲みに茶淹れて、キャストリアの分はテキトーにポットの湯を急須へ入れるだけ。あとは勝手にどうぞってなもんよ、セルフサービスってやつだ。

 

「ほらよ、爺さん。進捗はどうだい?」

 

「ま、ボチボチだな。それより、もういい時間だし店仕舞いだ。戸締まりやら何やらはやっとくから、アイツが満足したら近くまで送ってやんな」

 

「あ? 早くねぇか? それに、なんで儂が?」

 

「いいから行け」

 

おいおい、珍しいな。

 

キャストリアが満足したら颯爽と帰ってくのを儂と爺さんが見送るのが常だが、今日は送ってけってか。何やら企んでるってワケでもなさそうだが、ちィと気になるな。

 

「そりゃあ、別にいいが……なんでさ?」

 

「馬ァ鹿、いつまで"それ"懐で暖めておく気だ?」

 

おっ、と……そういうことか。

爺さんが言う"それ"ってのは、儂が常に懐へ忍ばせてる"作品"。遠い昔に約束した、儂と爺さんで作り上げた……あの可愛げのねぇ嬢ちゃんへの"餞別"のことだ。

 

気恥ずかしい、タイミングが悪い、なんて幾つもの不恰好な言い訳で伸びに伸びた機会。とうとう爺さんの方が、先に痺れを切らせちまったようだ。

 

「ワシからすれば、お前さんも人様に『こんなことしてる場合か』って叱れる立場じゃねぇって話だ……もっとも、馬に蹴られるのもゴメンだがな」

 

「……? あー、いや、ぐぅの音も出ねぇよ」

 

「そう思うなら、とっとと行け」

 

ビッ、と太い親指で外を示すエクター老の顔は笑っているようで笑ってねぇ。儂が言えた義理じゃねぇが、歳取ると気が短くなっていけねぇ。

 

しかし、まぁ……もう、誤魔化すのは終いだ。

 

着物の上から"餞別"に手を重ね、覚悟を決める。別に約束を果たすだけだってのに、まるで大仕事を前にしてるような気分だ。『言うは易く行うは難し』とは、ホント良く言ったもんだ。

 

「おい、キャストリア。店仕舞いだ、とっとと出るぞ」

 

いまだパイプ椅子へと座り細工を眺めていたキャストリアの傍らに立ち、放ってあった鞄をひょいと持ち上げてやる。駄々をこねられても、鞄を持ち逃げしてやりゃ連いて来ざるを得ねぇだろ。

 

「えぇ、まだ、もう少……ちょ、なになに?」

 

「店仕舞いだっつってんだろ、ほれ行くぞ」

 

「あ、こら、ドロボー!!

乙女の鞄を持ち逃げとかギルティですよ、ぎるてぃ!!

…あっ、じーさん、細工すごく綺麗だったよ!!

また新しいの出来た頃に来るね!!」

 

一足先に店を出ると、ほぼ同じタイミングで飛び出してきたキャストリアが並ぶ。そして「ん、鞄」と手を出してきたのが見えたが、あいにくと返してやるつもりはない。そのまま儂が歩きだすと、慌てたように連いて来た。

 

「送ってく」

 

「ほぇー、珍しい。刀でも降らせる気です?」

 

ほんっっっと、一言も二言も余計だ小娘が。我ながら、なんで"こんなの"を気に入っちまったかねぇ。儂もヤキが回ったもんだ。着飾るのもガラじゃねぇし、早々に終わらせるに限る。

 

空いた手で懐へ手を伸ばし、平べったい"餞別"を取り出しキャストリアへ差し出す。

 

「………ん」

 

「…? なにこれ?」

 

大袈裟に首を傾げながらも"餞別"を受け取ったキャストリアは最初こそ鳩が豆鉄砲でも喰らったような表情をしていたが、それが何なのかを理解すると目を輝かせ笑みを深くしていった。

 

「む、村正……こ、ここ……これっ……髪飾り……ッ!?」

 

「約束してた"餞別"だ、儂と爺さんで作った。あー、まぁ、なんだ……少し前に出来てはいたんだが、ちィと渡すのが遅くなっちまった」

 

ガラでもねぇが、約束だったからな。儂も爺さんも妥協はしてねぇ。キャストリアの輝く黄金の髪に負けねぇように銀をベースとして、"花"と"星"を彫刻した装飾を付けた渾身の一輪だ。

 

「えへへ……どう? どう? 似合う?」

 

キャストリアは髪飾りを自身の頭に当て、嬉しそうにこちらを見上げてくる。そりゃあもちろん似合うように作ったんだから、似合うに決まってるだろ。ただまぁ、作ってる側の儂達からすりゃ想像するしかなかったからな。実際に見てみると、まぁ……似合ってる、我ながら良い仕事したもんだ。

 

「………ああ、似合ってる」

 

「……ッ……そ、そういうとこだぞ村正ァ!!」

 

………なんでさ。

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