異世界転生で白魔導士   作:3148

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風里「えーと、初めまして。風里って言います。この物語の主人公……ということらしいので、挨拶することになりました。所謂異世界転生というらしいもので、俺が地球とは違う異世界に転生して、活躍?する話みたいです。あの、取りあえず最初だから本編は始まらなくて、プロローグだと思います」
手元の台本を捲る。
風里「えっ、趣味? 趣味って言っても……ああ! 体感系のVRゲームにはまってます。時間があればログインするぐらい! 本当に楽しくって、是非皆さんにも……えっ、時間ですか!?」
もう一度手元の台本を捲る。
風里「それでは、物語を語る前の物が始まる……みたいです」


第零話 転生と神のお話

 眼下に広がるのは、緑色の地球。いや、地球というのは比喩表現で、写真でしか見たことの無い宇宙から見た地球を、緑色に変えている様な感じだったからだ。

「君の願いは―――なんだ?」

 後光差すその存在や、その光景を表す言葉を、俺は知らなかった。

「君の―――望む姿を」

「―――」

言葉を発しようとした俺は、そうして初めて自分の姿を見た。

「この場では、考えるだけで私に伝わる」

そう言った、まるで神の様な存在はまるで豪華な服装を身に纏った人間に……見えた。

「そう、それで―――」

「貴方は、何者なんだ?」

恐らく、俺の言葉は伝わった様だ。

「……君は、話が出来るのか」

後光差すそれは、自らを神と名乗った。

「私はこの星を管理する存在。これから君はこの星に生きて貰う。これまでの体は……捨て置いてということになるが」

その言葉に自分の体に目を向けようとしたが、それは意味をなさなかった。そもそも俺が感じていた空間は、自分の目で見た物ではなく、俯瞰的に見られた物で、体は無くぼんやりと光が漂っているだけの様な存在だったからだ。

「驚いたのは、言葉や感情を交わそうとする存在がこの星に来たのは久しぶりだからだ。多くの場合は、欲求こそあれど他者を知覚することはない」

饒舌に言葉を告げるそれは、顔こそ見えないが喜んでいるのではないか。

「ああ、何故望む姿を聞いて居たか、だな。それはこれから君が新しい姿を得るからだ」

神と名乗る存在が言うには、この星で新しく生まれ変わるらしい。

「異世界転生、っていうことか」

小説かアニメでしか聞いたことが無い様な事が、自分の身に降りかかることになるとは、思いも寄らなかった。だが、その言葉に驚くのは、神の方だった。

「ほう、こういった事象すら知っているとはな。君の事を聞かせてくれないか?」

その言葉に、自分の記憶を掘り起こす。思うだけで伝わるのだから、楽で良いのかも知れない。

 

 失敗した。

俺の今までの人生を思い出した時に、一番最初に出てきた言葉は、失敗した、だった。思い返すのは、小学生高学年頃だ。大きな病気も無く、至って健康に育っていた俺は、内向的な性格以外は平凡だったはずだ。

「やーい、根暗」

虐め、と言えば簡単だろうか。友達も少なかった俺は、一部の同級生から嫌がらせを受けた。思い返せば小学生の何処でもある嫌がらせ程度の物だ。内向的な性格も合わさって解決することもなく、大事になることも無く。日々は過ぎていった。

「お前、根暗なんだって?」

俺の日々が大きく変わるのは、中学生になったころだろうか。もう少しまともに変化すれば良かったものを、人との関係を避ける様に本に夢中になっていた俺は、教室で嫌がらせを受ける様になった。今更になって思えば、もう少し自分から友人を作る様な性格なら、嫌がらせを受け続ける様な事は無かったのかも知れない。対して抵抗することもなく、俺は逃げることを選んだ。

「……ちょっと、調子が悪い、かも」

歯切れ悪く呟いた言葉に、部屋の外の母親は少し考え込んでいる様だった。

「体調が良くなったら、学校に行くのよ」

そう言うと、母親は離れていった。階下からは話し声が聞こえる。断片的に聞こえる言葉から恐らく、学校の先生に俺が休む事を伝えているのだろう。

「……」

俺は何も言わずに部屋に戻った。何か、親に悪いことをしている気分になって、何かをすると言うこともなく、布団に潜り込んだ。

 

 窓の外は暗く、いつの間にか時間が経っていた。聞こえてきたのはドアをノックする音。

「起きているか?」

その言葉に応えると、父親が入ってきた。

「体調は……良くなったか?」

話す言葉を選んでいる様だった。時間を見ると、夜中だったが、スーツを脱いで居ないところを見ると、仕事から帰って直ぐに着たのかも知れない。

「あんまり……良くは無い」

嘘をついた。もしも、仮病だと怒られるのが怖かったからかも知れない。父親はただ、頷いた。

「そうか、今日はゆっくり休むと良い。無理はしなくて良いからな」

そういうと立ち上がり、部屋を出て行く。何故自分を叱らないのか、その理由を聞くことはできなかった。

 

 最初に仮病を使って、次の日は学校に行って、そしてまた仮病を使って休んで。それを繰り返しているうちに仮病のほうが多くなっていくのに、それほど時間は掛からなかった。特に何かをするわけでも無く、ただただベッドの中で本を読んだり、適当なテレビを見たり、意味の無い時間を過ごしていたと思う。学校に行かなくなって一ヶ月、毎日声を掛ける母親と、時折姿を見せる父親は、どちらとも俺を無理に外に引き出そうとはしなくなっていた。仮病だと言うことは既にバレてしまっているのだろうが、その事を追求したりはしなかった。

「誰でも辛いことはある、そういう時に体を休めることは必要なことだ」

「何かお母さんに出来る事があったら、何でも言ってね」

追求も叱咤もなく、ただ俺は沈んでいく毎日を過ごして気付いたことは、何もしないでいるには日々は退屈過ぎると言うことだ。

「……ねぇ」

父親に、珍しく物をねだった。別に特別欲しい物だったわけでは無い。単純にテレビでCMしているのが面白そうだったとか、教室で誰かが話していたとか、そんな程度の物だった。

「わかった」

そうして、据え置きのゲーム機と体に取り付ける機器が部屋に来ると、早速準備に取りかかる。

「うわっ」

体感型RPG健康促進ゲームらしい。フィットネスとゲームを高度に組み合わせたとか何とかテレビでは宣伝されていたが、オンラインゲームの操作方法を体に取り付けた連動機器にしたというだけである。

「おっと……意外と難しいな」

言葉にすれば簡単なことだが、自分の動きに合わせて動く画面上のキャラクターは、想像以上だった。勿論、自分の動きをそのままにしてしまっては何も面白くないので走ったり崖を登ったりなんて動作はかなり簡略化されている。それでも運動不足だった自分には三十分もすれば限界が来る。

「はぁはぁ、水」

水を飲むために部屋の外に出る。もう昼間だから、両親は仕事に出て誰も居ないが、それでも少し違って見えた、気がした。

「……なんだろう」

違和感の正体には気付かなかった。見慣れたはずの風景が違って見えるのは、自分が変わっただけだと言うことに。

 

 ゲームにのめり込んで、どれ位が経っただろう。オンラインゲームだからか、ログインすれば大抵誰かがいる。入れ替わり立ち替わりでキャラクターと出会うが、直ぐに別れて自分の事を始める。大抵一時間やそこらでログアウトをしていく人達は口々に呟いていた。

「そろそろ明日があるから」

「仕事が忙しいから」

「宿題をしないと、親が……」

離れて行く人達に、また遊ぼうと声を掛けると、残されていく。一人でも出来る事はある、少しずつ積み重ねていくことは嫌いでは無かったから、ゲームの中のキャラクターは順調に成長していく。誰かに頼られることは嫌いではなかったから、手伝いも進んで行った。キャラが成長していって居ることも合わせて、ゲームの中でそれなりに名を上げていくことに、熱中していた。それ以外で熱中していることと言えば、

「こんばんはー」

「あっ、こんばんは。シオンさん」

白髪の腰まで伸びたポニーテールを揺らして現れたのは、シオンと呼ばれている白魔導士だ。

「シオンさんが来たなら、探索系のクエストもいけそうですね」

このゲームでは、アイテムでの回復以外に白魔導士という職がある。強化魔法もあるので、一部のクエストでは必須であったりするのだが、絶望的なまでに人気が無い。

「いえいえ、そんなこと無いと思いますよ。でも、行きたい人がいたらお手伝いしますね」

朗らかに笑みを浮かべる。キャラクターは人気なのだが、如何せん操作に制限が多い。攻撃手段が少なくサポートが多い。その上、高難度になればなるほど、強化と回復が重要になる。爽快感は無く、難易度は高く、責任は大きい、哀しいかな人気は少ないし、白魔導士をやりたがる人間は減っていく一方だが、ゲーム的にはかなり優遇されていたりする。必要とされているが需要と供給は釣り合っていない。

 

 有り体に言えば、俺は彼女に惚れていた。見た目は勿論ドストライクだったというのはある。長く美しい髪は、座っていても、歩く姿も目を引いた。めりはりのある体つきはとても女性的で、誰が見ても美しいと息を呑むほど。彼女と冒険していくうちに、心引かれていくのは無理の無い話だったと思う。

「君、学生なんだって?」

シオンが何気なく話しかけてきて、身の上話を始めた。最初は躊躇っていたが、じょじょに打ち解けると、虐められていた話、学校に通ってい無い話もした。

「そう、両親はなんて言っているの?」

親身に耳を傾けてくれている彼女に、思って居るままを伝える。

「そっか、君が思うままにしていい、かぁ。羨ましいな」

そう言う彼女の横顔は少し寂しく見えた。

「良い両親じゃ無い。学校に行くって言ったら喜んでくれるんじゃない?」

 

 あまり話したくない内容になり、思い出すのを少し躊躇う。

「どうした?」

神の言葉に、少し気分を変える為に、別の言葉を探した。

「どうして転生を?」

彼は、気分が良いのか、躊躇わずに応えた。

「魂が他の星から飛来することは珍しいのだ。基本的には、肉体と魂と精神は一つとなり、星の中で生命は循環する。従って、星の魂の上限は生まれた時からある程度は決まっているのだ」

「じゃあ、俺がココに来たのは、例外ってことか?」

神は頷く。

「例外だが、全くない訳では無い。強い執着が肉体の死後に魂のみになって突き動かすことはある。星間を移動となると極稀にしかないが」

その珍しい魂がこの星に辿り着く可能性を考えると、更に貴重だと言う。

「その中でも、知性を持つものとなれば……少ないな。数えるほどと言っても良い」

遙かなる時の中で、自分一人で星を管理するのは、確かに暇を持てあますのだろう。別に俺自身何か急いでいるわけでは無い。身の上話を語るぐらいはしても良いのかも知れないな。

 

 久しぶりに玄関に降りると、出かけなくなる前と殆ど変わらなかった。

「靴も、ずっと出してあるのか」

放置されていたのかと思ったら、汚れていない。両親が洗ったのかも知れない。

「……行くか」

玄関の扉がやけに重たく感じた。

 

 制服を着ていた訳じゃない、普段着だ。午前中とはいえ、この時間に制服で外を出歩けば流石に目立つ。なるべく人目の付かない道を選んで学校の近くまで向かう。

「……っ!?」

近づくにつれ、動機が早くなっていく。室内とはいえ、運動はしていたのだ。歩いたからとは考えにくい。そうして、サボっていたのか、それとも遅刻したのか、生徒の姿を遠目で見た瞬間理解し、身を隠した。

「……ああ」

学校に行くことそのものが、恐怖なのだ。

 

 「どうかしたの?」

食卓に着き、母親と食事をとる。あまり普段からも話す方ではないが、違和感を感じたのだろう。

「ごめん。学校には行けない……かも」

その時の感覚は、鮮明に覚えている。虐めていた奴らの顔も、俺を避けるクラスメイトの顔も、何もかもが恐ろしくなった。こうやって遠ざけた事で、近づくことすら恐ろしくなった。

「……そう、仕方ないわよね」

母親は、深くは追求しなかった。

 

 シオンに話した。辛かったこと、息が詰まる思いをしたこと、家族と思いがすれ違っていたこと。彼女は何も応えず、ただ黙って頷いてくれた。

「そっか、辛かったね」

彼女の言葉はそれだけだった。一息呑んで、別の話題へと変わった。

「そうだ、この前のRTAの動画見た?」

共通の趣味の話題へと移る。

 

 「RTA?」

神の疑問に説明を行う。

「リアルタイムアタック、ルールを決めて時間を競う競技だよ。内容に決まりはない、ゲームでも何でも良い、なんだったら登山でもオナニーでもね」

話し続けるのも疲れたので、神に尋ねる。

「そういえば、どうして俺の望みの姿にしてくれるんだ? 魂が貴重って言ったって、勝手に放り込めば済む話じゃ無いのか?」

神は首を横に振る。

「さっきも言ったとおり魂は肉体に引かれる。仮に死別していたとしても、だ。引き合う力が弱くなるだけだ。だからこの星に定着して貰う必要がある」

「定着するのに、何が必要になるんだ?」

「魂とは容れ物の貌を決めるモノ。つまり、魂が望む貌、願いを叶えるとそこに定着する」

そうして、俺は理解した。俺の記憶を遡ることも俺の願いを知ることにも繋がるということだろう。

 

 「ねぇ、貴方もRTAに挑戦してみない?」

シオンのその言葉に俺は首を横に振る。

「どうして?」

俺は動画を見るだけで、決してゲームが上手い訳じゃない。

「リアル楽しく遊ぶ、って言葉もあるくらいだし、やってみる事に意味があると思わない?」

出来る事は手伝う、というシオンの言葉に心が惹かれた。理由もなく彼女を誘うことが出来る、彼女と話をする理由も時間も多くなる。

「……やってみるだけ、なら」

そうして、俺のRTAに向けての挑戦が始まった。普通のゲームとは違うのだ。ルールにもよるが、何時間も画面の前にただ座ってコントローラーを操作する訳じゃない。体を動かし続ける必要がある。休む事も許されない。なるべく時間を短縮する事が目的なのだから。極限まで切り詰めて初めてその世界へと挑戦権を得ることが出来る。

 

 まずは体力作り、ゲームを行う際も時間を念頭に置いて、目標がどれぐらいで出来るのかを時間を計る。ある時は通して、ある時は区間を区切ってラップタイムを出す。一つ一つ作業を確認していく。

「うーん、こっちの方がタイムは速くなるかも?」

シオンの助言を頼りに、一つ一つ効率化していく。友人と共に協力して作業をしていくのは、楽しい時間になった。

「それじゃ、始めよっか」

RTA本番の日が訪れた。本番とは言え、個人で行うモノなので、日程も何もなく、ただその日に始めようと決めただけなのだが。

「……よしっ、計測スタート!」

俺は練習通りにゲームをこなしていく。例え、全ての区間で自己ベストを出したとしても世界最速にはほど遠いだろう。だがそれでも、友と過ごした時間を無駄にしたくない一心で、諦めずに走り続けた。心臓が早鐘を打つ。

「練習よりも……きつい、な」

練習と本番では、感覚が全く違う。プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、必死に最善を尽くそうとする。ふらつき、手足が言うことを聞かなくなるが、それでも尚立ち上がり、歩み続ける。

「頑張れ! 頑張れ!」

友の声援が聞こえる。いや最早それ以外が俺には耳に入らなかった。練習で身につけた感覚だけで、走り抜けた。

「……終わった、のか?」

結果は散々だった。練習で行ったモノよりも大幅に遅い記録だった。それにも関わらず、シオンは励ましてくれた。

「お疲れ様、頑張ったね! とりあえず、ゆっくり休もう」

その言葉に、頷くと俺はゲームをログアウトした。

「あっ」

視界が歪み、手足のふらつき、頭痛が襲いかかってくる。取りあえず横になろうとしてベッドを目指すが、その前に倒れる。心臓がやけに早く感じるのに、それ以外の感覚がなくなっていき、次第に意識が闇に染まっていった。

 

 「そっか、俺は死んだのか」

限界を超えた運動、長時間の緊張状態、極限に迫った俺の肉体は耐えることが出来なかった。

「心臓が止まり、脳が死に向かっていく中、お前はその無念と友への罪悪感が、魂を突き動かした。星間を越えてここまで来るほどに」

神の言葉に、ようやく自身の死を納得出来た気がする。

 

 そうだ、俺が成りたかったモノは。

「英雄じゃない、カースト上位の存在じゃ無い、ただ俺は」

神がすっと、耳を澄ましている。俺はただ、誰かに聞いて貰いたかったのかも知れない。

「辛い時に手を差し伸べてくれた、あの白魔導士みたいに、成りたかったんだ」

急激に意識が遠のいていく。どこかに堕ちていく、いや、引っ張られているのだ。重力に。

 

「その願い―――聞き届けた」

 




読了ありがとうございました。

これから毎日小説をアップしようぜ(某ジ風
区切りがつくところまでは出来ていますので、読んで下さった皆様の暇つぶしになれば幸いです。

それでは、また明日以降のお暇時に。
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