異世界転生で白魔導士   作:3148

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魔術書を読み進めていく手が止まり、漸く台本に手を伸ばす。
ココ「はぁ、自己紹介? 魔導士のココ、職業は冒険者、以上だ」
苛立たしげに台本を捲ると、顔を顰める。
ココ「ワイバーンについて? 翼竜種、比較的に多い、以上」
そう言って台本を置いて魔術書を再び読み始める。少し時間が立つと再び台本を開く。
ココ「終われば戻れるんだね、さっさと面倒ごとは済ませてしまおう。さっきは比較的に多いと言ったね。何と比較して、と言う話だが、魔物全般における発見例だ。普通はマナを求めてダンジョン深くを目指していくのだが、ワイバーンはマナが少ない場所での繁殖例が多い。従って、ワイバーンクィーンが地表近くに巣を作り、被害に遭う村落は多い。そしてもう一つ、亜種が多い。マナに適応するために進化した種が多いから、見た目は然程違わない翼竜種が各地で見られる。内蔵の一部が変わるから、火を噴いたり、毒を持っていたり、食料とする獲物が変わったり、様々な形の翼竜種がいる」
顔を上げると、丁度時間が来たようだ、と呟いた。
ココ「僕は魔導書を読むよ、君たちは好きにするといい」


第十一話 ワイバーンと辺鄙な村 上

 ワイバーンの群れに襲われた村についてから三日目。心身共に憔悴していた。

「被害が多いのもそうだけど、ワイバーンの爪の毒なんて、どうしようもないのよ」

毒蜂や毒蛇のように、体内に毒を生成する器官を持つものならば、血清や特効薬が存在する。ようするに一定の形があるのだから準備も出来るのだが、ワイバーンの爪の毒とは、表面に付着した細菌が増殖したものであったり、そこに生息している微生物なのだ。

「風邪とかと一緒。破傷風や高熱で体力を削られる。出血や闘いで消耗している体で耐えられないに決まってるじゃ無い」

どれだけ回復魔術を行ったとしても、無限に回復出来る訳では無い。多くは体の回復機能の後押しをするだけなのだ。傷口を治そうと回復を後押しすれば、再生するだけの体力が無くなっていってしまう。かといって、体力を保とうとすれば出血や細菌が体内に入り込んで病状が悪化していく。一人や二人であれば、力業でどうにか出来なくは無いが、野戦病院に運び込まれてくる怪我人は次々に増えていく。

「……もうちょっと、休めないかな」

白魔導士が取れる休息は僅かなものだ。交替で数時間休まなければ、集中力も落ちるし、ミスも増える。だがその間も、怪我人は増えるし、病状は悪化していく。ワイバーンの群れを殲滅するまでは、このサイクルは終わることはない。

「……なにこれ」

重い足を引き摺り休憩所から野戦病院に近づいていくと奇妙な感覚を覚える。異様なまでに魔力が満ちているのだ。本来、外部の魔力も使う回復魔術が行われれば、外部のマナを消費する。その上、回復魔術を受けた人間は体力を消費している場合が多く、空気中のマナを取り込もうとすることがある。そういったことで、大気中のマナは枯れてしまい、白魔術の効果が薄れて悪循環に陥ることが多く、昨日までは最悪の環境だったはずだが。

「この魔方陣、大地のマナを魔力に変換している? いや、大地のマナじゃない……だけどこれだけの量のマナをどこから?」

断片的な情報では分からない。野戦病院に入れば分かるかも知れない。その疑問が、鈍っていた足を少しだけ軽くする。

 

 野戦病院の簡易間仕切りををくぐると、相変わらず地獄が広がっていた。何十人の怪我人が傷口を抱えながらうめいている。その中に怒号を発しながら白魔導士達や衛生士等が走り回っている。だが、一つ変わっている様に見えるとすれば、

「動きが良くなっている?」

休憩前の自分には誰が何をすれば良いのか分からない。その為に白魔導士も手当たり次第回復魔術を使用し、直ぐに力尽きていく、という感じだった。

「次、運ばれてきた患者は!?」

怒号の中でもチームワークが取れている様に見える。

「ワイバーンの爪で肩から背中まで切り裂かれています!」

運ばれてきた冒険者は肩から背中まで真っ赤に染まっている。屈強な体つきではあるが、息も整って居らず、仕切りに小さな呼吸を繰り返すだけ。

「清潔な布を持ってきて! 違う、こっちは使用済み! 洗ってきたやつを持ってきて!」

回復魔術により、傷口の再生を速める。それと同時に、傷口の消毒を清潔な布と消毒液で行っていく。マナが充分にあることで、順調に回復していく。

「呼吸も正常になってる。これで大丈夫、復帰までは八時間ってところかな」

色分けされた布を腕に縛り付ける。村人の青年が担いで休憩所のほうに運び込む。

「次!」

的確に処置を行い、怪我人を治療していく白魔導士に見覚えはなかった。いや、休憩に入る前に誰か白魔導士が応援に来るとは聞いて居たが、こんな腕利きが来るとは聞いて居ない。新人が来ると、それを差し引いても、この環境の中で冷静に対応出来る人間など知りはしなかったが。

「あ、あの子達」

洗い立ての布を籠に入れて運んでいるのは、若い白魔導士が初日に助けた子供達だ。その子供達が冒険者達を助ける為に懸命に働いている。

「……あ、あのっ」

考えているよりも先に足が動いた。なんて言えば良いのか分からないが、こんな自分でも力になれるかも知れない。

「大丈夫? 極度に疲れてるみたいだけど。休むなら……」

額に手を当てられ、熱を測られる。感染症はなさそうだと言われた瞬間に、若い白魔導士は首を横に振る。

「違う、私も手伝うわ」

 

 時は遡り、フーリが野戦病院に足を踏み入れた時刻。

「なに……これ」

そこはまさに地獄のようだった。怪我人が叫び、衛生士も白魔導士も足りていない。

「見たままさ、地獄の一丁目だ」

そう呟くと、その場を管理している白魔導士にフーリを紹介する。

「彼女が応援だ。よろしく頼む」

そう言うと、患者の血で汚れた前掛けを外し、高齢の白魔導士が挨拶をする。

「すまないね、こんな状況で。人手が全く足りていない、手伝って貰いたいことが……」

高齢の白魔導士が言い終える前に、フーリが口を開いた。

「魔方陣を作成します。患者の受け入れ先はココだけですか? 他にあればそこも教えて下さい」

高齢の白魔導士は驚き、フーリに尋ねる。

「怪我人はココ一カ所に集めている。他に場所も人材も足りていないよ。何の魔方陣を?」

フーリは魔方陣の準備をしながら答える。

「ここにはマナが溢れている。これらを人間が扱える魔力に変換すれば、白魔導士の魔術の底上げと患者の体力の補助に繋がる。ここは昔からマナが高いんですか?」

それにはイェーガーが答える。

「いや、近くにダンジョンがあるから他よりはマナはあるが、何せ農村を作れる程度にはマナは落ち着いた地域だ。今、マナに溢れているというなら……」

その言葉に、答えをフーリが見つける。

「ワイバーンを殺した遺骸や血液からマナが流れている、ってことね。それなら、ワイバーンのマナを基準にしてよさそう」

高齢の白魔導士が、フーリを制止しようとしている。

「ワイバーンのマナを解析して、魔力に変換する? そんなものを待つより、一人でも多くの患者を……」

高齢の白魔導士の言葉よりも先に、魔方陣の式を完成させる。

「多少の誤差はあります、変換効率も悪いかも知れませんが状況は改善されるはず。定期的に私も確認します、異常があれば私に教えて下さい」

高齢の白魔導士が絶句する。白魔導士はマナを感知する能力が高くなければ、治療に魔力を用いる事が難しいが、ここまで魔術に適正が高い白魔導士は上位の者しか不可能だろう。

「これが、新人?」

 

 高齢の白魔導士がフーリに状況を説明する。

「ワイバーンは爪と牙が主な武器よ。稀に火球を吐く個体もいるけれど、全体数や怪我人の傾向としては少ないわ。切り傷や裂傷であれば、止血と治癒促進を行える白魔導士は七人、止血を行える衛生士は村人を含めて十五人」

魔方陣を正確に起動させると、フーリと高齢の白魔導士は集落へと向かう。

「重傷者の殆どは爪や牙の毒に犯されている。高熱、嘔吐、治療法が明確化されていないから、被害は拡大する一方」

その言葉に、フーリは首を横に振る。

「ワイバーンに毒なんてない。正確に言えば、体内で製造する器官を持っていない。要するに決まった形の毒ではなく、不衛生の極みだったというだけ。細菌や毒性の物質が染みついている牙と爪から感染してるだけ。治すには傷口を消毒して体力を回復させる。内側と外側から同時に回復すれば良い」

その言葉に高齢の白魔導士は驚く。

「それが出来ると?」

村長と呼ばれた人物に酒が無いか尋ねる。

「やった分だけ、人を助けられます」

 

 作業自体は単純な事が多い。傷口を消毒し、破れている血管を縫合し、傷口の処置を終えた者から回復魔術による回復の補助。快方に向かった患者を別室に移し、清潔な環境で栄養補給を行う。適切な処置を行えば大体5~8時間程度で現場に復帰することが可能だ。怪我の範囲、深さ、そしてそれに至るまで患者がどれだけ体力を消耗しているかによって変動する。

「……凄い」

フーリが参加し、魔方陣と処置の指導の効果は覿面だった。それまで命が助かるかどうかの野戦病院が、今では復帰までどれだけの時間が掛かるかに変わってしまっている。

「戦況が変わったよ。嬢ちゃんのおかげでな」

傷口の処置を終えた患者に回復魔術をかけながら、野戦病院の護衛をしているイェーガーと話をする。

「闘いに行く奴も、生きるか死ぬかって恐怖が薄れている。新人共は相変わらす危なっかしいが、ワイバーンと闘う経験をもった連中が増えていけば、いずれ女王にまで手が届くだろう」

そうなるまでの辛抱だと、イェーガーは告げる。

「私なんかとは大違いですね」

クレアと名乗る若い白魔導士の言葉に、イェーガーは鼻で笑う。

「あんたも一緒だよ。俺達冒険者や村の人間を助けてくれる白魔導士様ってことに変わりはない。だがまぁ、嬢ちゃんは例外というか、特別だろうがな」

回復術式を止めることなく、クレアは話を続ける。

「私は孤児院の出身なんです。その時から虐められてたんですけど、白魔術の素養が見つかって、大人達は大喜びだったなぁ」

クレアが育った孤児院は決して裕福とは言えなかった。その日に食べるものも人数分あるかどうか、そんな世界だった。その為引く手数多の白魔導士は誰からも喜ばれた。

「へぇ、確かに孤児院の連中からすれば棚ぼただろう。余所の連中からすれば、貴族達から高額で雇うより、安上がりだろうしな」

クレアは今でも孤児院にお金を入れている。孤児院出身だとしても白魔導士は高給なのだ。自分が食べる分を差し引いてもなんら問題の無い額を受け取っている。

「まぁ、でも。協会に所属して、こういう風に色々手伝いに来るんですけど……私不器用だし、他の白魔導士さんと比べたら知識も無いし、闘える訳でも無いから、やっぱり足手まといで」

話している最中にクレアの瞳に涙が浮かんできた。

「まぁ、誰にでも向き不向きがあるからなぁ」

何度もその言葉を自分に向けてきた。自分に冒険は不向きなのだ。クレアも素養があったとしても、それを活かす事は出来ないのだ、と。

「それなら、何で私は生まれたんだろう、って」

冒険に着いていく度に、モンスターに怯え、時には怒り狂った同行者に刃を突きつけられた事もある。自分の力不足で、助けられなかった命も、両手の指では数え切れない。

「……回復術式は終わったな。俺はこいつを連れて行くよ」

イェーガーが担いで患者を運んでいく。辛くても、苦しくても、白魔導士を辞めることの出来ない自分は一体何だのだろうと、自分に問いかけても答えは出なかった。

「クレアさん、患者さん大丈夫だった? よかった、ちょっと手伝ってくれる?」

フーリが声を掛ける。それに返事をして、フーリに着いていく。ふと気になって、話をしてみた。

「そういえば、いつ休憩とってるんですか?」

自分が休憩を終えると何時も顔を合わせている。というか、常にどこかにいる印象があった。

「ん、五時間前に食事は取ったかな」

「……え」

ふと、嫌な予感がした。会話がすれ違っている様な、そもそも大きな勘違いをしている様な。

「もしかして、休憩無しで働きづめですか?」

フーリはいつもと同じ笑顔で答える。

「肉体と脳にも回復魔術を自動でかけてるから、睡眠は取らなくても動けるんだ」

確かに、での見張りでそうしなければならない時があり、それに対応した魔術があるとは聞いた事はあるが。

「……大丈夫なんですか?」

「大丈夫、今は患者さんを助ける方が優先だからね」

自分の事を疑がっていない様だった。

 




読了ありがとうございました。

これから毎日小説をアップしようぜ(某ジ風

競馬に絶対は無い(絶望
競馬に絶対は無い(二度目
あぁ~、馬券が舞う音(幻聴

それではまた、明日以降の暇時に。
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