キセキ「……自己紹介? 冒険者のキセキだ」
言葉を短く区切る。
キセキ「今回は、勇者か。勇者というのは冒険者の一部だ。これという決まりがあるわけじゃ無い。あるのは一つ、過去に功績を残した者がその栄光を称え、勇者と賞賛する、それだけだ。誰が決めるということはない、協会やギルドも否定も肯定もしない、ただ自分が名乗る者に関しては、気をつけた方が良いだろう。詐称目的の者も少なくないと聞く」
話を区切ると一息つく。再び台本を捲るとほっとした表情だ。
キセキ「話は終わりだ。後はフーリの働きでも見ていくと良い」
「助けて下さいっ!」
自分よりも大きな男性を担いだ青年が入ってきた。フーリが駆けつけると、片腕が無く既に体温も低く、脈もなかった。
「俺を助けて、先輩がっ……ここなら助かるかもって」
手の施しようもない状態だった。せめてまだ息をしていれば、だが言葉にせずに男性に黒い布を巻く。
「この人を連れて奥へ。青年は休憩所に連れて行きます」
周囲にいた村人に男性を預ける。
「あ、あのっ……」
「安心して任せて下さい。貴方も傷と疲労がありますので、治療してから休んで……ね」
そう言うと連れて行かれる男性を心配そうに見送る青年。極端に疲労し、たどりついた此処で気が抜けたのか、放心したような状態で休憩所へと連れて行く。
「……ひっ」
運び込まれてきた患者は腹部が大きく損傷している。恐らくワイバーンに噛みつかれたのだろう。肉を削がれ、内臓が見えているが、欠損しているのは血管と肉だけで、致命傷ではないらしい。
「ただ出血は酷いから、直ぐに血管を塞がないといけない。縫合はこっちでやるから、死なない様に回復術式で体力の回復と、傷口の消毒を御願い」
そういうと、殺菌したピンセットと縫合用の糸と針に手をつける。
「……助かるの?」
回復術式を唱え、体力の維持に努める。だが、それに合わせて血管からの出血が増える。
「回復術式はそのまま、縫合が終わるまで続けて! 傷口の消毒を、感染症にならない様に!」
フーリの言う言葉通りに動く。溢れた血を拭き取るために清潔な布をとろうと振り返ると、いつかの子供達がそこに居た。
「はい、布!」
「頑張って!」
自分が助けた命が、繋がっているのだ。自分がやっていることの意味が、少しだけ理解出来たかも知れない。ふと感じて泣きそうになるのを堪えて、フーリの手伝いをする。
「縫合完了! まだ、しっかりと繋がっていないから回復術式を一旦抑えて!」
回復術式の出力を抑えると、血流が静まる。その一瞬でフーリが別の回復術式を唱える。血管と肉が再生していく。
「傷口は回復した。あとは、黴菌が入らない様にガーゼと包帯を! 体を起こすから巻いてくれる?」
「は、はい!」
力強く上半身を起こすと、傷口にガーゼを当て、包帯を巻き固定していく。
「よし、これで処置は完了だね」
そう言われると、戻ってきたイェーガーに処置した患者を任せて、次の患者に向かう。
「わ、私も手伝います!」
今は、今だけは考えるを止めて行動をしていたかった。
ワイバーンが襲撃してきてから一週間、フーリが来てから四日目。
「おい、女王を討伐したって連絡が来たぞ!」
大声で野戦病院に響き渡る。それは、人類側の勝利だという報告だった。
「やった……やりましたね、って、あれ?」
クレアがよろこんでいたら、フーリとイェーガーが出発の準備をしている。
「あ、あの」
「それじゃ、ここは任せるね」
肩に手を置かれ、そのままフーリは去ってしまう。
「いや、あの……まだ患者さん一杯……えー!?」
野戦病院を出て、ワイバーンが出てくる洞穴に向かいながら話す。
「おう、女王が死んだなら、残りが一斉に出てくるはずだ。そいつをなんとかする案はあるのか?」
イェーガーはハルバートを肩に持ち、首を鳴らす。
「これで勝ったも同然なんだから、怪我人減らす方が楽になるでしょ。いけるいける」
そう言うと、フーリは白衣を脱ぎ捨て、肩を鳴らす。
「へいへい、それじゃいっちょやりますか」
洞穴の中からワイバーンが飛んでくる。
「行ったぞ!」
その内の一体が、フーリに向かって飛んで行く。真半身に構え、露出している腕と足に魔方陣が光る。ワイバーンが飛ぶ角度に合わせて正確に正拳が頭部捉え、一切力が分散されず、首の骨が折れ、首があらぬ方向に曲がる。
「ワイバーンは鱗が硬いが、軽く脆い……とはいえ、拳一つでああなるものかね」
ハルバートでワイバーンをたたき落とし首を切る。
「爪や牙の傷を見れば、攻撃のパターンも見えてきますよ」
フーリは冷静というよりは、感情のブレが見えなかった。淡々とワイバーンを殺していくその姿は、余りにも普段と様子がちがいすぎる。身動きを封じて、首を折る。その姿には、殺意しかなかった。
「おっそろしいな」
ワイバーンクイーンを討伐した冒険者達は急いで村へと向かっている。
「ど、どうして? こんなに急いでいるの?」
魔導士が戸惑いの声を出す。冒険者達が知らないのも無理は無い。ワイバーンの牙や爪、飛行能力が有名でも生態系まではそれほど知られていない。女王を失った群れは統率を失い、個々に活動する様になる。寿命等で女王を失った場合、新たな王を決めるために争い合う事もある。ある程度に別れ、それぞれで群れを再形成する個体も存在するが、今回の様に女王が巣を形成している時に死亡した場合、行動は一定している。
「女王を殺した種族に対し、強い警戒心と闘争心を抱く様になる。今回だと俺達、人間だ」
勇者の言葉に、武闘家が疑問を浮かべる。
「俺達が狙われることに何の問題があるんだ? 女王クラスならいざ知らず、そこらの雑魚が来たところで……」
そうして気付く、女王を殺した勇者一行がそれ以降ワイバーンに襲われていない事に。
「あくまで、その種族に対して、だ。奴らは女王を誰が殺したかなんて、判別がつかないのさ」
弓手が呟くと、勇者が苦虫を噛み潰した表情で呟く。
「村が危ない! 急ぐぞ!」
そう叫んで勇者は洞窟の入り口に向かう。遠くからでもワイバーンの鳴き声耳に入り、戦闘になっていることが分かる。
「大丈夫か!?」
低空を飛んで襲い来るワイバーンの首にかかと落としをたたき込むと、衝撃で跳ね上がった尻尾を掴み、上空を飛んでいるもう一匹に放り投げる。上手く飛べずに地上に落ちるワイバーンの腹部に、フーリの貫手が刺さる。
「やはり、腹部の鱗が無い部分は柔らかい」
貫手を抜くと、そのまま臓物もついてきた。程なく二匹とも絶命する。背後を襲おうとする個体の牙を半身で避け、肘と膝で胴と首の付け根を挟み撃ち、首の骨を外す。
「おい! 勇者様が戻ってきたぞ!」
洞穴の入り口の方から叫び声が届く。その声を聞くとフーリは翻す。
「おっ、どうした?」
イェーガーがフーリに尋ねると、手を振って野戦病院の方に戻っていく後ろ姿が見えた。
「勇者が戻ったなら、戦力は足りてるでしょ。あっちが心配だし、あとは御願いね」
勇者と魔導士の広範囲の魔術があれば、有象無象の雑魚は一掃される。これでワイバーン殲滅戦は人類側の勝利に終わった。
遠くで人の声が聞こえる。祭り囃子の音ともに。時間はもう夜だが、それでもその騒ぎが収まる気配はない。
「おう、嬢ちゃん達まだいたのか」
イェーガーが祭の料理を両手一杯に持ち、野戦病院ののれんをくぐる。
「そりゃそうでしょ。皆帰っちゃうし、誰か居ないとこの村の人達誰が治すの?」
フーリがへそを曲げる振りをする。実際の所、他の白魔導士達にはそれぞれのチームやギルドがある。今回の依頼は村の護衛とワイバーンの群れの撃退。それら全てを完了した以上、彼らがこの地に留まる理由は無い。
「そうかい、それじゃ個々にいる物好きは、嬢ちゃんと……おや、もう一人いたか」
クレアがフラフラとした足取りで歩いてくる。
「あれ、祭に行ってたんじゃなかったんですか? こっちは一通り終わったんで、あとは経過観察で大丈夫です~」
ベンチに腰掛けると、フーリとイェーガーも休憩を取る。
「凄かったんですよ。来てた白魔導士さん達は皆、フーリさんに挨拶をして帰って行ったんですから」
来てないのは勇者組の白魔導士さんぐらいだと、クレアは言う。
「そりゃあ、とんでもない奴が来たって、冒険者組でも噂だったからな。まぁ、そいつらは祭の方に行っちまっているが」
イェーガーは、酒を煽る。
「……え、依頼って完了してたの?」
フーリの一言に、二人が驚く。
「……内容見てないんですか?」
「いつまでだと思ってたんだ?」
そう言われると、考え込んでしまうフーリ。
「いや、治療に夢中で依頼のこと忘れてたわ」
そもそも、それ以前の話だった。
「はっはっは、面白いお嬢ちゃんだ!」
そういうとイェーガーは更に料理を勧める。
「それで、そっちの白魔導士さんはどうしてまだいる?」
クレアは、目を伏せると俯いたまま話を始める。
「フーリさんと、話をしたかったんです」
フーリが、首を傾げる。
「私と?」
クレアが力強く頷く。
「どうすれば、貴女みたいになれますか?」
読了ありがとうございました。
これから毎日小説をアップしようぜ(某ジ風
ブリーチはいいぞ(唐突
虚圏編とか、破面編とか、オサレの塊みてぇなモンだからな。
お前が、かぁちゃんの腹ん中に居る時からや、って言いてぇな(予定無
それではまた、明日以降の暇時に。