クレア「こんにちは! 私は白魔導士のクレアと言います、よろしくお願いします!」
頭を下げた拍子にテーブルに頭をぶつけ、ふらつく。
クレア「いたた……あ、白魔術についてですか? はい、それなら一杯勉強しましたので! 白魔術には大きく分けて二つ種類があります。一つは自身の体を修復するもの。そこから更に分けて肉体の自己修復機能を促進するもの。肉体そのものを再生するもの。或いは、別の特性を付与するものです。これらの枝分かれに関してはもう一つについても同じですね。もう一つの種類というのが、他人の肉体を修復するものです。何故これらが大別されているのか、というと、マナを取り込んで自身の魔力に変換するごく当たり前に行われている事の延長が一つ目だとすると二つ目はまずマナを他人に馴染む魔力に変換する、という行程が必要になります。得意なことや使用するマナに寄って柔軟に対応するべし、と教科書に書いてありますが、他人がどんな魔力が利用しやすいかなんて分からないし、感じるのも大変です……本当に大変なんです」
何か思い出したのか、見た目に分かる程落ち込む。
クレア「あ、はい、時間ですね。私の話より、フーリさんのを見た方が良い……いや、あれでも分かんないかな」
クレアは、流されるままに白魔導士になり、教会に所属し、どのギルドにもチームにも誘われないまま生きてきた。誰からも必要とされない事に、誰もがクレアを必要としない日々に、絶望していた。
「誰かに頼られる様な、そんな存在に」
フーリの働きを見て、そうなりたいと思った。同時に、なれないとも思った。だけど、少しでも近づきたい、その為ならば、今一度生きるのも悪くないと思ったのだ。
「えっ、そんなに?」
ちょっと嬉しそうにするフーリ。どうやら余り褒められることになれていないらしい。
「そうだなー、別に特別なことはしてないと思うけど」
そういうと、イェーガーにそんなことはないとつっこみを入れられる。
「普通の白魔導士はそこまで肉体を鍛えないんだよ。というか、俺は初めて俺より近接戦闘が強い白魔導士を見た」
そこで納得したかの様に、フーリは語る。
「あ、そうか。皆補助を自分に掛ける風習がないんだっけ?」
そういうと、クレアが疑問を浮かべる。
「補助って、身体強化とか回復魔術ですよね」
その言葉にフーリは頷く。
「回復魔術って、肉体の再生にも使えるでしょ? それを使えばトレーニングの効果が直ぐに出るの。具体的に言えば約三〇倍ぐらいまではいける」
イェーガーが目を丸くする。
「それじゃ、一日で一ヶ月の効果が出るって言うのか?」
半信半疑の問いに少し訂正を加える。
「大まかに言えばその通りかな。実際に一日に一度ある肉体の再生の回数を三〇回に増やしてるから、その分だけ肉体の負荷を上げる必要があるんだけど」
それをきいてクレアが一瞬血の気が引いた表情をする。
「それって、一日トレーニング漬けってことですか?」
イェーガーは、首を傾げる。冒険者である以上肉体を鍛えるのは珍しくない。
「まぁ、そりゃ一日丸々トレーニングする日ぐらいあるだろう」
クレアが首を横に振る。
「一日二十四時間全てトレーニングしてるんですよ、この人。休憩とか、睡眠とか、全部回復魔術に任せてるんです」
フーリが一言口をはさむ。
「食事はするよ? 肉体の再生に必要だから割と頻繁に」
どちらかというと、一日に一ヶ月分、というよりは二週間ほどで無理なく一年分の肉体作りが可能、という感じだ。
「それにしちゃあ、筋肉はそれほどついてないように見えるが」
腕にも足にも、健康的という範囲ではあるが脂肪もついている。
「そりゃそうよ。筋肉ばっかりだと燃費が悪いし、重くなるもの。一定まで筋肉をつけたら、エネルギー源として脂肪は必要でしょ?」
ある一点を凝視して、疑問を浮かべるイェーガー。
「肉体作りに白魔術使ってる人なんて、聞いた事無いです」
深く溜息をつく、クレア。
「やっぱり出来る人とは発想から違うんだなぁ」
そうやって肩を落としていると、フーリはクレアの手を掴む。
「どうしたの? 悩み事? あ、もっと美味しい料理食べたかった?」
ごめんね、食べちゃったと然程悪気がなさそうに謝る。
「いや、そうじゃないだろう」
イェーガーがクレアに言葉を促す。
「……私に、存在価値ってあるのかなぁ、って」
言いながら酷い言葉だと思った。これでは自己肯定をしてもらいたいだけの言葉ではないか。
「あるよ! すっごいあるよ! 一緒に居てくれて私嬉しいし!」
フーリは言葉を続ける。
「患者さんには丁寧だし、医療機器とか丁寧に手入れしてるし、私に優しくしてくれるしね!」
そう言いながら、もっとあると続けようとするフーリをクレアは止める。
「ちょ、ちょっと……もう良いです」
顔が熱くなるのを感じる。嬉しさが感極まって、涙が流れるのを止められない。
「良いんだよ、ここにいるだけでも。生きているだけで、私は嬉しい」
フーリの腕の中で、クレアは涙を流す。
クレアが疲れて眠った頃、イェーガーとフーリが焚き火を囲んでいる。
「これからどうする?」
イェーガーはフーリに尋ねた。
「協会に戻る。これでも、冒険者の一人だから」
イェーガーは、顎髭を手で摩る。
「しかし、これほどの能力を持つやつが一人で行動してるのか、ギルドに誘われないか?」
グラスを傾け、フーリは頷く。
「あぁ、冒険者になる前に何度かね」
意外そうな顔でイェーガーがフーリを見る。
「生まれた時から白魔導士だと思っていたが、違ったのか?」
フーリは微笑む。
「その通りよ。この世界に生まれた時から、ね。だけど、冒険者になるつもりはなかった。今は、なって良かったと思ってる」
成る程、そう言ってイェーガーはグラスを煽る。
「救えなかった、沢山」
イェーガーは、振り返りはしなかった。
「立派にやった方だ。お嬢ちゃんが居なきゃ、もっと被害は増えていた。村が残ってなかった可能性すらある」
違う、とフーリは呟く。
「白魔術で救えると思っていた。それだけの知識があるんだと……勘違いしていた。足りないの、それ以外にも必要なものがある」
フーリの瞳には、地平線の彼方のいつか昇ってくる太陽の方向を見ている。
「何処を目指す?」
少し嬉しそうにイェーガーが口を開く。
「冒険者達に、白魔術の知識を持って貰う。白魔術を扱える冒険者が増えれば劇的に志望者が増えるだろうし、扱えなくても医術の知識が広まれば、毒や病気に対しても犠牲者が減るわ」
「それで、協会の酒場でありがたいお説法を広めるのか? 敬虔なシスターなら、或いは耳を傾けてくれるかもな」
イェーガーの言葉に、ばつを悪そうにするフーリ。
「ああ、何にせよ、だ。お前には仲間が必要だ、そうだろう? その為にギルドに所属するのも、悪くないんじゃ無いか?」
そういうと、空になった酒瓶を持って歩き去って行く。
「知り合いに声を掛けておく、気が向いたら話してみると良い」
イェーガーの姿が見えなくなったら、フーリはグラスを煽る。空になったグラスを置いて、支度を始める。新たな旅を始める為に。
「おい、そろそろ起きてくんな!」
馬車の運転手に放り投げられ、荷物と一緒に地面に落ちて漸く目を覚ます。
「……あれ?」
ワイバーンに襲われた村を出る時に、馬車の中で休もうと毛布を羽織って眠りについたことまでは思い出せる。
「確か、片道三日ほど掛からなかったっけ?」
馬車が折り返して別の道に向かっていく。どうやら、丸三日起きること無く眠っていたらしい。
「まぁいっか。報酬の事もあるし、とりあえず久々の酒場かな」
凝り固まった体を伸ばしながら、軽い運動がてら歩いてく。
読了ありがとうございました。
これから毎日小説をアップしようぜ(某ジ風
異世界転生で良くある、天災みたいに扱われている魔物を軽々討伐! だったり、ドラゴンや強力な魔獣と一緒に冒険とか、ゴリラと共に! 見たいな展開が無い事に気付いた。需要はあるのか?
それではまた、明日以降の暇時に。