プイ「ふむ、先ずは自己紹介としようか。私はプイ、この世界では大白魔導士で名前が通っている。だがしかし、知られていない相手に話すように、と書かれているのでな。いや、慣れていない訳じゃない。魔術と縁遠い人達には知られていないことも屡々あるのだから」
台本を捲る。
プイ「ほう、魔術について、か。それならば語ることも多いが、先ずは基本だ。この世界はマナと呼ばれる物質、イメージとしてはエネルギーに近いが、そういったものが偏在する。多くの人間が感じる事は出来ず、それを知覚し、操る術を魔術と呼ぶ。天性の才とされる説も多いが、触れはしなくとも身近にあるものだ。訓練や学習でどうにでもなると考えているが……確かに感じる事が出来るかどうかは個人差が多い、そういう部分においては確かに才能が……もう時間か」
再び台本を捲る。
プイ「漸く本編が始まる、といっても右も左も分からない世界だ。息を抜いて飲み物でも準備するといい」
目を覚ますと、そこは森の中だった。見覚えは無く、起き上がると土のにおいが鼻をくすぐる。
「……ここは?」
目覚める前の記憶は酷く曖昧で、それまでの自分がよく思い出せない。確か自分は、家に居たはずで、いつもの様にゲームをしていて、
「どうして……外に?」
ふらつく足を何とか動かして、彷徨い歩く。木々をかき分け歩いていると、なんとなく一定の方向に誘われている様な、気がした。
「――――」
いや、気のせいでは無い。何かに呼ばれている。
「誰か、いるのか?」
肌がざわつく、と言えば良いのだろうか。目でも耳でも鼻でも無い。強いて言えば触覚なのだが、その感覚が何かは、分からない。それでも誘われるままに歩くと、不意に痛みを感じる。
「な、にが?」
太ももが熱く、痛みの原因を見ると小さいが間違いなく矢が刺さっている。
「はぁ!?」
直ぐさま引き抜き、流れる血に驚き手で押さえる。そんな事をしている間に、次々に弓矢が飛んでくる。
「なん……だよ! 聞いてないぞ、こんなの!」
痛みを堪えて、走る。いや、最早、恐怖と驚きで痛みを感じる暇すらない。ただただ、弓矢とは違う方向に走り続ける。どれだけ走り続けただろうか、弓矢は一旦収まった。だがしかし、何本も体に刺さる弓矢に、感じたことのない痛みに足下がふらつく。
「とり……あえず、座ろう」
太い木の幹に、背中を預け座り込む。刺さった弓矢は幸い深い傷にはなっていない様だ。
「……」
座っていると、聞いた事の無い言葉。いや、鳴き声の様な音が聞こえる。
(弓矢を撃ってきた奴か?)
その疑問がよぎると、静かに息をすませる。相手には気付かれていない様だ。人よりもかなり小さい立っていても腰ぐらいまでしかない、緑色をした小人が弓を持って二人組で歩いて行ってしまった。
(もしかして……ゴブリンか?)
驚きに呼吸が速く、心臓も早鐘を打つ。ゴブリン達はまだ自分を探している様だった。見つかれば殺されてしまうその恐怖の為だろうか五感が研ぎ澄まされ、僅かな声を聞いた。
「――――」
誰だろうか。少なくとも知っている人間の声ではない。人間に近い、とは思うが。
「……行くしかない」
ゴブリン達に見つからない様に、茂みに隠れながら声の方へ向かう。小枝を踏む度、小石を蹴飛ばし足音を鳴らす度に、震え上がり周囲を見渡すが、どうやら気付かれている訳では無さそうだ。
「多分、この辺だと思うんだけど」
声が聞こえた辺りの場所で周囲を見渡すが、それらしい人物は見当たらない。落胆に肩を落とすと、落ちている赤い石に目がとまる。宝石だろうか。人工物を思わせる整った形、どこか不思議な雰囲気を纏うそれを見ていると再び声が聞こえる。
「――――」
驚き、口を開くが声が出てこない。どうやら声を聞いたのはその石からだったようだ。それも、音がしているというよりは、直接頭に語りかけている様な、そんな感覚。
「なんだっていうんだ……?」
その事態を飲み込めないまま、赤い石に手を伸ばすと、再びフーリの声が聞こえる。
「よかった、ようやく言葉が通じた。あなた、不思議な人ね。言葉が分からないほど、学が無いわけじゃないのに」
彼女の声が理解出来た。赤い石に触れたおかげで聞き取れる様になったらしい。
「私と繋がっていれば、私の知識も流れ込んでいくからね。まぁ、断片的にはなるけれど……都合が良いし、そういうことで。それより、お困りみたいね?」
その声と同時に茂みが揺れる音が聞こえる。どうやらゴブリン達がこちらを探しに来た様だ。
「た、助けてくれ」
赤い石に向かって話す。それが何なのか、何者なのかも分からないが、少なくとも問答無用で弓を放ってくる小人よりは話が出来そうだ。
「私を受け入れて、そうすれば命は助かる」
赤い石の言葉の意味は深くは分からなかった。だが、どうすれば良いのかは理解出来た。
「死にたくないでしょう?」
震える指が、赤い石を喉奥に押し込む。
目を覚ますと、自分がベッドの上で眠っていた事に気付く。
「目を覚ましたか、あんな場所で眠っている等と珍しい事もあるものだ」
初老、というにはまだ早いだろうか。整った顔立ちに刻まれた皺は、彼の言動に貫禄という名の威圧感を与えている。簡素な衣服ではあるが、汚れやスリ切れは見えない、部屋を見渡しても調度品や家具に手入れは届いて居る様子だ。
「あ、あの……」
声を出そうとして、驚いた。それは大凡今まで使用していた言語とかけ離れたものだったからだ。
(あぁ、異世界転生だから、神様が与えてくれたのかな)
「助けて頂き、ありがとうございました」
彼の事情はさっぱり分からないが、森の中で一人になっている自分を助けて貰ったのは間違いないだろう。
「……驚いたな。姿から異邦の者だろうに、第一声が感謝とは。いや、そこまで畏まる必要はないよ、見返りを期待して助けた訳じゃない」
そう言うと、男性は近づき手をかざして唱える。
「彼の者に安らぎを”ヒール”」
淡い緑の光が手の平から自分の体に移り、それに触れた体の傷が癒えていく。
「……魔法?」
ヒールと唱えられた魔法は直ぐに終わった。彼は少し自慢げに語る。
「知識として知っていても、見るのは初めてだろう。白魔術を扱える魔術師はギルドお抱えの者を除けば、数えるほどしかいないからな」
魔法と見違えるのも無理はない。そう語る彼は、自分の体調を確認して、離れて行く。
「経過は順調だ。後は適切な食事と睡眠で回復するだろう……どうした?」
瞬きを忘れるほどの視線を感じ、男性が尋ねる。
「僕に魔術を教えて下さい!」
その言葉に一瞬呆気にとられ、そして大きく笑う。
「はっはっは、そうだな。君に素質があれば私の弟子にしてもいいだろう」
そして、男性が名前を告げる。
「私の名はプイだ。よろしく」
読了ありがとうございます。
これから毎日小説をアップしようぜ(某ジ風
ようやく私もこの長い長い異世界転生という海に漕ぎ出しました。ボートに乗って、オールを握りましたが、まだまだ足も手も砂浜に着きます。
どっぷり浸かることになるのか、道程の途中で引き返すかは……いつか答えが出てくれるのかなぁ?
理想に溺死するのも、やむなし、ということで。
それではまた、明日以降の暇時に。