ペルーサ「何よ、自己紹介? 私はペルーサ、黒魔術を得意とする魔術士よ」
指示されることが億劫なのだろう、台本を捲るのにも不機嫌だ。
ペルーサ「魔物の亜種について? そんなのもっと詳しいのがいるんじゃない? わかった、わかったから……私も詳しくはないのよ。だけど、有名なのはゴブリン種かしら。色んな名前のゴブリンがいるわ。通常種、ホブ、キング、シャーマン、あとは忘れたわ。基本的には、近縁種の事を亜種と呼ぶの、例えばその土地のマナに適応して明確な種族としての差がある場合は間違いなく亜種。生物学的な差もあるみたいだけど、それは専門に聞いてね。ゴブリンがなんで有名かっていうと、どの土地にも一定数いるから、亜種と個体差の境目が非情に曖昧なの。ホブやキングなんて、体が大きかったり、群れのリーダーだったりぐらいしか違わないもの、ただ見た目があんまりにも違うから、別種だ亜種だ別名だのついて回る訳」
喋り疲れたのか、気怠げに台本を捲る。
ペルーサ「よかった、これで終わりね。さっさと本編にいって頂戴」
元いた道まで戻ると、三人が殆どのゴブリンを殲滅した後だった。
「あ、どこいってたの!?」
どうやら、三人とも無傷というわけにはいかなったようだ。
「すみません、後ろの道からゴブリンが現れたので……」
そういうと、三人の状態を確認する。幸いに大きな怪我はないし、進行方向のゴブリンはいない。
「後ろから、一本道だったはずよね? まぁいいわ。さっさと奥まで進んでしまいましょう」
ペルーサがその言葉を出した瞬間に、リーデに寄り添う。
「待って下さい! 皆さん怪我してますよね!?」
治療する必要がある。特にゴブリンの武器には毒が塗ってあることも多い。実際、掠った弓の毒を治療したばかりだ。
「はぁ!? この程度の怪我で休んでられないわ」
「そうだよ。既に敵陣に入ってるんだ。時間を掛けた方が危険だ」
ヒイロが話し、リーデが先に進もうとするが、膝を折れる。
「……だ、大丈夫だか、ら」
太股に短刀をかすめたからだが、傷口が紫色に変色している。
「これ以上進むのは無謀です!」
リーデの様子をみて、ペルーサも折れる形になって横道まで戻る。
「治療します、傷口を見せて下さい!」
傷口に消毒液をかけ、縫い合わせて出血を抑える。
「回復魔術で治せないのか?」
ヒイロが問うと、フーリは首を横に振る。
「今はまだ毒が体に残ってます。回復魔術を使うと、毒も活性化して体力を奪われます……最悪の場合、死に至る可能性も」
表層の治癒のみを行うと、包帯で止血する。最後にリーデに意識の確認をする。
「うん、大丈夫……歩けるよ」
顔は青白く、空元気であることは明白だ。だが、冒険者としての意地だろうか、立ち上がってみせる。
「私は、フーリと一緒に洞窟を出るわ。二人には迷惑を掛けたくない」
そう言って笑顔を見せるリーデに、ペルーサは肩を落とす。
「まるで私が悪者じゃ無い……分かったわよ」
ヒイロは頷く。
「そうだぜ。一緒に帰るぞ」
フーリはリーデの肩を持ち、一番前にヒイロが、その後ろにペルーサが立ち、最後尾をリーデとフーリが歩く。
「フーリがゴブリンを倒したとはいってるけど、周囲には気をつけて」
ペルーサがヒイロに注意するが、道すがらゴブリンを見つけることはなかった。
「……警戒しすぎだったな、もう入り口だぜ」
暗い洞窟から脚を踏み出すと、目映い光に目を眩ませる。
「……え?」
巣の周りを取り囲むゴブリン達とその中心に佇む、約2メートルの背丈を持つ、強靱な肉体をもつホブゴブリンが立っていた。
ホブゴブリンの振りかぶった棍棒が、ヒイロが立っていた地面を叩き、大地を揺らす。
「くそっ!?」
なんとか避けたが、ヒイロが剣と盾を構えて向き合う。満身創痍で無ければ、善戦する事が出来たかも知れないが、洞窟内で消耗している現状では、棍棒の一撃が致命傷になりかねない。
「おいっ、お前達だけでも逃げろ!」
ペルーサが杖を構えようとすると、ヒイロが叫ぶ。恐らくこのままでは全滅すると考えたのだろう。その中で、フーリの思考は冷静だった。
「リリィ、ホブゴブリンを倒すことは出来る?」
(三人の保護を無視すれば、討伐は可能です)
リリィの返答に、拒否する。
(……全員の生存であれば)
リリィの言葉に頷くと、リーデに声を掛ける。
「ちょっと待っててね」
少女を洞窟の壁にもたれかけさせると、ヒイロがホブゴブリンの棍棒に吹き飛ばされ、森の木に衝突する。盾で受けたので表面的に怪我は目立ちはしないが、衝撃で気を失ったようだ。
「ファイアボール」
ペルーサの魔術によってホブゴブリンの胸部に炎の塊がぶつかる。だがしかし、ダメージを与えられている様には見えなかった。
「……っ」
ペルーサが状況に絶望している瞬間に、フーリはホブゴブリンの懐まで潜り込んでいた。
(ホブゴブリン相手であっても、ゴブリンの毒は有効です)
ホブゴブリンが炎を払った左腕にゴブリンの短剣を突き立てる。
「ヒール」
緑色の光と、短剣に刻んだ魔方陣が輝く。短剣が突き刺さったままの腕に、回復魔術の効果が現れ、あっという間に傷口が塞がっていく。
「えっ」
左腕の痛みに苛立ちを覚えて振り払うと、フーリが軽く吹き飛んで転がる。その姿に正気を疑うペルーサだが、ホブゴブリンが呻き出した事に気付いた。
「どう……して?」
よく見ると、左腕の突き立てられた短剣の周りが紫色に変色している。
「あっ」
ゴブリンの毒が、回復魔術によって急激に回るのが早くなっているのだ。慌てて短剣を引き抜いたが、状態が良くなるわけでは無い。うめき声を大きくしながら、その場を離れて行くホブゴブリン。
「……助かった?」
フーリはホブゴブリンになぎ払われた時に打った体をさすりながら立ち上がる。
「痛いなぁ……。さぁ、取りあえず帰ろっか」
そう言うと、柔らかい笑顔でリーデに手を差し伸べる。
朝日が差し込み、目を覚ますと掛けられた布団を剥がし、外に出る。
「あ、おはよう。もう元気そうね」
フーリがあっけらかんと笑うと、リーデは気が抜けた様に笑う。
「貴女もホブゴブリンの一撃をうけたはずなのに元気そうね」
その問いに、白魔術師だから、とフーリは返す。リーデはその返答に納得出来ていないようだが。
「なんにせよ、お礼を言っておくね。ゴブリンの巣から生きて帰れたのも、ホブゴブリン相手に逃げられたのも、ついでに今治療して貰っているのも貴女のおかげだし」
「気にしなくて良いよ。一緒に冒険する、ってそういうことでしょ?」
決してそれが常識と言うことはないが、それならば、リーデが提案する。
「なら、何かお礼をさせてよ。助けられてばかりっていうのも、嫌だしね」
そういうと、フーリが返答する。
「ふーん、じゃあ、武術を教えてくれないかな?」
独学で肉体を鍛えては居るが、ゴブリンとの闘いでは手慣れたとは言えない。対魔物であれば、まだまだ未熟の域を出ることはない。
「オッケー、お礼だから全力で教えてあげる」
先ずは武術の型から、フーリに武術を教え始める。
ゴブリンがいた洞窟にヒイロとペルーサが立ち入る。
「うわぁ、本当に気が滅入るな」
ゴブリン達が残していった物の臭いを嫌いながら、歩くヒイロ。そして、一つ一つ魔方陣を刻みながら歩くペルーサ。
「本当に悪趣味。だけど、アイツ等が戻ってくる前に終わらせないと」
顔を歪めるが、歩みを止めない二人。
「えっ、あの二人は洞窟に向かったの!?」
鍛錬の休憩中に話していると、少女は驚く。
「ホブゴブリンが傷を癒やしている間は、ゴブリン達は居ないはずだからね」
その間に対抗策をこうじる、と言うわけだ。
「……危なくない?」
危険かどうかなら、勿論危険だ。だが、ホブゴブリンを含めるゴブリンの軍勢に正面からぶつかるよりかは、まだ安全だろう。
「大丈夫、二人だけなら、逃げるくらいわけないよ」
フーリは二人を信用している様だ。
「ふーん」
手合わせを再開すると、フーリはリーデの腕の動き、脚捌き、体重移動など、備に観察する。
(一朝一夕の鍛錬で模倣は難しいかと)
真似をしようとして脚を絡め、青い空を眺めながらリリィに呟かれる。
「手厳しいね」
リーデがフーリに手を差し伸べる。
「あはは、そう簡単にはいかないよ」
洞窟のいたる場所にペルーサが魔方陣を描いていく。マナで描かれたそれは、最初の内は発光しているが、徐々に色を失う。
「なるほどなぁ、これでゴブリン達は気付かないだろう、ってことか」
ついでではあるが、結果としてゴブリンがこの洞窟に戻ってくるかどうかを確認する方法にも繋がる。重要な事なんだ、とヒイロに忠告すると、少し嫌そうな顔をする。
「言われなくても、分かってるよ。それに、お前が考えた案でもないだろ?」
ヒイロがそう言うとペルーサも嫌そうな顔をする。
「何時戻ってくるのか分からないのだから、急ぐわよ」
ヒイロとペルーサは村に戻り、問題なく準備が終わったことを報告する。
「ヒイロ、やるじゃん。ペルーサもお疲れ様」
リーデが二人を労ると、フーリがお茶を淹れる。
「ありがとうございます。これでゴブリンがあの洞窟に戻ってきても対策が出来ました」
フーリの言葉にペルーサが疑問を浮かべる。
「実際、これに効果はあるの? ゴブリンが洞窟に戻ってくるのかも分からないし、傷が治り次第村に来る可能性はあるんじゃない?」
フーリがその言葉に頷く。
「確かに、その可能性はゼロではないので、対策をしておくことに越したことは無いと思います。ホブゴブリンの毒の回復には、大凡一ヶ月から一ヶ月半ほど掛かるかと。あの洞窟には守りやすくマナも豊富なので、利用できると気付けば利用するはずです」
ヒイロはフーリの言葉に頷いた。
「まぁ、深く考えすぎても仕方がないって。広いところで闘えるんならそれはそれで問題ないだろ?」
多数のゴブリンを相手にするに当たって、ホブゴブリンなどの上位種に警戒することは当然だが、それ以上に気をつけないといけないことは、狭い空間で多数と戦闘することだ。消耗戦になれば、地形に有利なゴブリンに敗北する可能性も高くなる。
「確かに、どっちに転んでも私達には有利になるか……」
それから、一ヶ月が経つ。洞窟に罠を仕掛けてから一週間程でゴブリン達は洞窟に戻った様だ。洞窟から多数のゴブリンが出てくれば、ペルーサの張った魔方陣の効果で分かるが、その様子は無い。
「それじゃ、行きますか!」
ヒイロが大きく声を上げ、志気を上げる。武装を整え、英気を養い、準備は万全と言っていい。
「全く、洞窟前で気付かれない様にしてよね」
リーデが勇むヒイロを咎める。
「さぁ、始めるわ」
洞窟から少し離れた位置で魔方陣を起動させる。
ドォン
派手な爆発音と共に、洞窟内が崩れる音が聞こえる。続く爆発音、そして岩が崩れる音、遅れてゴブリン達の悲鳴が聞こえ、そして音が聞こえなくなっていく。
「……上手くいった?」
低い咆哮が、地下から響き渡る。四人はその咆哮に聞き覚えがあった。
「……ホブゴブリン」
左手の傷は跡として残り、歪な形にふくれている腕を見ると、痛む度にどこかに打ち付けていたのかも知れない。だが、その動きは以前相対した時と変わらない。
「へっ、前と同じ様には行かないぜ」
ヒイロが剣を構える。ホブゴブリンはそれ程ダメージを受けている様には見えない。だが、ダメージを受けていないのはこちらも同じだ。
「おっと!」
振り下ろされた棍棒をひらりと避けるヒイロ。返す刀で腕に斬りかかるが、僅かな傷がつくだけだ。
「ちっ」
ファイアボールの呪文が聞こえて、炎の塊がホブゴブリンの右腕で払われる。
「……そんなにダメージが通っている様には見えないね」
払った腕に傷は殆ど無く、動きが鈍くなることは無い。繰り返せば結果は変わるかも知れないが、それに比べてホブゴブリンの一撃は重い。現状四対一でも、危険な事には変わりない。
「それじゃ、頼んだぜ!」
ホブゴブリンの動きを見切り、攻撃の一つ一つを避けていくヒイロ。反撃の数は少なく、だが確実にホブゴブリンの攻撃を誘う。
「はぁぁぁぁあ」
リーデが深く呼吸をする。武闘家にとって呼吸は大気中のマナを取り込む重要な動作である。深く息を吸い、体中にマナを巡らせて身体能力の向上を行う。
奥義 深心高剛
一時的ではあるが、動くスピードも、膂力も跳ね上がる。その代償として、それを行っている間は己の肉体を傷つけ、消費し続ける。
「はぁ!」
時間稼ぎをしていたヒイロと入れ替わる様に、リーデの拳がホブゴブリンの腹部を捉える。一瞬ホブゴブリンがよろめくが、決定打にはならない。
(身体能力の向上は長くは持ちません)
「持って十秒ってところだったね」
フーリが呟くと、短く詠唱を唱える。ホブゴブリンの攻撃を避けながら、顔面に蹴りを叩き込み、よろけた隙に更にもう一発蹴りを浴びせる。
ガアアァァァァアアア
苦し紛れに棍棒を振り上げるホブゴブリン。だが、振り上げきった瞬間には、リーデが懐に潜り込んでいた。
奥義 昇り龍
「はぁぁああああ!」
魔力による身体強化と、全身のバネで拳を振り上げる。下顎を捉え、脳を揺らし、更には巨体が宙を浮くほどの衝撃がホブゴブリンを貫く。
「……はぁはぁ」
リーデが、ホブゴブリンを倒れる様を見据え、構える。鮮やかな一撃は、倒れた後動く気配すら見せない。
「やったな! お前はちょっと休んでろ、残党は俺達でやるからな」
そう言うとヒイロとペルーサが、逃げ出していったゴブリン達を駆除し始める。
リーデが構えを解いて息を抜くと、膝をつく。
「お疲れ様」
そういうとフーリは治癒魔術をリーデにかける。
「どう、私の奥義? 凄いでしょ?」
細かい呼吸を何度もしているのは、かなり肉体に負担を掛けているからだろう。
「うん、凄かった」
フーリの言葉は正直だったが、その凄さをしっかりと理解していた。
ゴブリン達の討伐を終え、ギルドに報告する事にした。
「ありがとう、貴方のおかげで無事に任務を達成できたわ」
リーデが柔らかな笑みともに礼を告げる。ヒイロも同様に礼を言う。
「ま、まぁ、珍しい白魔術師だったわけだし。あんたのおかげ……のところもあったわけだしね」
ペルーサも礼を言うと、踵を翻した。
「それじゃ、また貴方が冒険する時に会えるかもね」
読了ありがとうございました。
これから毎日小説アップしようぜ(某ジ風
隙あればウマ娘、ということで推しが増えていくことに若干の危機感を覚えてます。
財布の紐が緩む理由が増えるのは、不味いでしょ。
憧れは止められねぇんだ!(思考放棄
それではまた、明日以降の暇時に。