ラビア「あー、吸血鬼のラビアだ。なんだ自己紹介って……誰か見てんのか?」
よく分からなさそうに台本の続きを開く。
ラビア「吸血鬼について? あぁ、色々と伝承があるみたいだな。にんにくが苦手とか、十字架が苦手とか、銀の銃弾に弱いとか、というか銀だろうとなんだろうと銃弾は痛いだろう、馬鹿なのか? まぁいいや、この世界においての吸血鬼とは吸精種、つまりは自己の魔力生成だけではなく、他者の魔力を吸い取ることを糧としている種族の事を指す。方法は血を吸うのも、エネルギードレインだったり、体液を交換する種族とかもいるぞ、私は会ったことがないがな。というわけで上記の話は種族によって本当に効くのもいるぞ、勿論効かなかったりもするから自己責任で対策してくれ」
欠伸をかみ殺して、台本を捲る。
ラビア「ああ、もう時間か。私はもう寝るぞ、おやすみ」
重症化しかけていた患者達を何人か治癒魔術で治すと、少し周りに目もいくようになる。バリケードで封鎖している為、感染者が急増することこそないが、バリケード内にも感染者は多い。健全な人間と感染者の数が逆転するのに然程時間は掛からなさそうだ。
「分かりました、ちまちましていても解決しそうにないですね」
そう呟くと、治癒魔術を切り上げ、地面に魔方陣を描き始める。
「少し時間を稼いで下さい。五分ほどで仕上げます。そしたら……」
フーリの提案に、リーダー的な立ち位置の人間が驚く。
「正気か!? そんなことをしたら!」
「大丈夫です! 私がまとめて治して見せます!」
迷っている村人達に、ドンと見栄を切る。
「大白魔導士の弟子ですから!」
バリケードの内側に、もう一層バリケードを作る。とはいえ、材料が十分にあるわけでは無いので厚みも薄く、破られやすくなっているだろうが、一瞬でも持ちこたえられればそれでいい。
「3,2,1……ゴー!」
フーリのかけ声と共に、外側のバリケードが破れ、内側のバリケードにゾンビ化した村人が雪崩れ込む。内側からバリケードを押し返そうとするが、やがて押しつぶされるのは目に見えている。中に居る女性が祈る様に目をつむり、手を合わせている。
「地に巡る龍脈よ、大気を漂う精霊よ、いと慈悲深き御身の安らぎを与えよ!」
地に描かれた魔方陣が、魔力を伝い淡い緑色に発光する。
「”リザレクション”」
魔方陣の中にある魔力が一度魔方陣に取り込まれ、再び魔方陣の内側にいる人間達に注ぎ込まれている。その際に全身を巡り、活性化して広範囲の治療を行う魔術だが、魔力生命体に感染している村人達は一斉に奇声を上げて倒れる。
「……やった」
寄生されている模様が消え、治癒魔術に回復も含めて村人達が解放されていく。フーリは村人達に感謝され、褒め称えられる。
「やりましたよ、師匠!」
長い闘いになる、プイはそう感じていた。戦闘技術こそ拙いものの、膨大な魔力量と腕力、そして再生能力は常に補充される魔力によって底を見せることはなかった。
「どうしたの!? 疲れてきたんじゃ無い!?」
振り下ろされる腕を捌き切れず、肩に受け表情を歪めるプイが距離を取る。
「へへへっ、結果が見えてきたんじゃ無いかな?」
舌なめずりをして、距離を詰める為に歩み寄る少女。だが、治癒魔術によって怪我は直ぐに回復する。
「えー、なにそれ。ずっるー……い!?」
白魔術に怪訝な表情をしたかと思った次の瞬間、膝を折り体勢を崩す。なにが起こったのか分からない、という表情だったが、魔力供給が突然途切たことと接続が途切れた負担が掛かった事による一時的なショック現象だ。それをプイが見逃す事はなかった。
「えっ?」
杖が腹部を貫き、床に叩きつけられる。
「暗く、深く、黒く、泥の様に、土の様に、鉛の様に……檻に沈め」
唱える魔術は白魔術にして、相手の魔術を妨害するための魔力操作。
「”コンフュディション”」
困惑の名を冠する通り、体内を直接かき混ぜられる様な、水中でおぼれている様な上下左右を失う様な感覚に陥る。
「ふっ……ざけんな」
振りほどこうと杖に手を伸ばすが、先ほどまでの腕力は見る影も無い。
「こうなると再生も出来まい……」
そのまま腹部から溢れる血が、少女の残された時間を示している。
「それは困りますね」
突如現れた男に、白魔導士は驚き杖を引き抜いて距離を取る。
「貴様は!」
その男から溢れる魔力の量は、想像を逸している。地上ではあり得ない、地下ダンジョンでも余程深くに潜らなければ出会う事の出来ない、魔人と呼ばれる程だ。
「初めまして、大白魔導士さん。お会いできて光栄です。私はダノンと申します」
深々と礼をする男は、ただただ異様だった。
「何が目的だ?」
短く問うプイ。少女との闘いで消耗している為、下手に動けば直ぐさま倒される予感がしている。白魔導士を警戒せずに白髪の少女を回復していても、隙だらけだったとしても、どうにもならない。そんな直感がプイの脚を止めた。
「貴方に会いに来たんですよ。高尚な魔術師は貴重だ。更に言えば白魔導士は……貴重な実験材料ですからね」
声が遅れて聞こえた、そんな気がした。ダノンの右手が顔を覆い、視界が塞がれる。
「アナタは、どうなりますかネ?」
感染していた村人を一通り確認し、魔力生命体が綺麗に剥がれたことを確認すると、フーリはプイの家を目指す。
「へへっ、村を救っちゃった! これで師匠褒めてくれるかな?」
村人から感謝された事にご機嫌になっているが、あまりプイが褒めてくれる状態を想像できなかったのか、然程足取りが軽いとは行かなかった。
「ただいま~、師匠?」
敷居を跨ぐと、違和感を感じる。
「師匠?」
違和感を覚えるが、その正体が分からない。
「……師匠?」
その場に溢れるマナが、異常だったのだ。全く知らない異質なそれが、フーリの感覚を鈍らせる。
「ねぇ……返事をしてよ」
目の前に蠢くそれに、触れるまで気がつかない程に。
「な……にこ、れ?」
変化している、それはその瞬間にも蠢いている。液体の様に流動している、形が留まらない。だがしかし、名残がある。見たことは無い。知らない。だけど、そんな感じの物を感じ取ってしまう。視覚と触覚に違和感に三半規管が悲鳴を上げて、膝が立ち続けることを諦めた。
「……」
探している物がソレだと言うことを、脳が否定し続ける。
「……嘘」
フーリの口からでたはずの言葉が、まるで遠い波音の様に響いた。
ギルドによる吸血鬼の対応組織が編成され、村に着いたのは三日後のことだった。
「……これが被害に遭った村、ですか。討伐隊の編成がこんなに早いことなんてないのに」
隊員の一人が呟く。
「早いと行っても、それは俺達の基準だ。今回は既に吸血鬼は去った様だから被害の拡大は大きくないだろうが。村が一晩で滅んでも可笑しくないんだぞ」
隊長に隊員が唾を飲み込むと、村の惨状をみて驚く。
「バリケード、でしょうか」
「ゾンビ化した時の対応が早ければ、犠牲者を追い出す事も可能だ。最も、ゾンビ化していない人間の方が多い場合に限るが、随分と手際が良かったのだろう」
これも大白魔導士様のおかげかもな、と呟く。奇しくも、治療を望む人間が村外れを目指す、という環境のおかげで初期症状の人間が村の中心から離れた為、対応が出来る状態になったようだ。
「それでも……生存者はいない事も少なくない」
むしろ、吸血鬼が離れるということは、獲物がなくなった時が多い。つまりは生きている人間がいなくなった場合だ。それでも、そこから拡大感染を抑える為に討伐隊が組織される。
「ケインズ隊長、生存者がいました!」
村に入った隊員からの声が上がる。偶々犠牲を逃れた人間が居たのだろうか、あるいは奇跡的に抵抗力があったか、どちらにしても迅速な保護が必要だろう。
「行くぞ!」
そう言って村にのりこんだケインズには、想像していない光景が広がっていた。
「な……んだ?」
驚き、硬直する隊長の目に映った村は被害をうけた所を復興しようとする住民の姿だった。
「なんだ~、隊長脅かしすぎですよ。皆元気そうじゃ無いっすか」
隊員の一人が肩の力を抜いた。無論、この光景が喜ばしいことではあるのだが、
「どういうことだっ!?」
村の中で中心人物らしい人間にケインズが尋ねる。
「はははっ、驚くのも無理はありません。白魔導士様が助けて下さったのですよ」
その言葉に、息を飲むケインズ。
「そうか、大白魔導士!」
その言葉に、もう一度村長が笑う。
「勿論、大白魔導士様にも感謝しております。だが、今回村を救って下さったのはお弟子様ですよ」
村を救った。その言葉に俄に信じられないが、ゾンビ化を治療したという話を聞いて、白魔術による治療が可能だということに頷く他なかった。
「なら……その白魔導士に挨拶くらいはしていくか」
村の外れに向かうまでに、死体が幾つかあった。恐らくはゾンビ化に耐えられなかった人間達だろう。彼らには同情もするが、今は目的の場所に向かう方が優先だ。
「しかし、大白魔導士様はどうしてこんな辺鄙な場所に……」
そう呟いたケインズに、隊員の一人が答える。
「白魔術の研鑽の為に引きこもってるだけですからね。しょっちゅう人に来られるのが嫌だ、と言ってましたし」
渇いた笑いで答えた隊員は、慣れた足つきで坂を上る。
「そうか、大白魔導士は父親だったんだな、アレス」
辿り着いた民家に異変を感じる。
「これは……何者かと争った跡か?」
所々に壊れている家具や柱は、激闘の証拠だった。
「まさか、村で争った跡がなかったから……もしかして大白魔導士が吸血鬼を?」
討伐したのか、とアレスが唾を飲むとケインズが言葉をかける。
「いや、危険と感じて逃げ出したのかも知れないぞ。それでも、ここまで激しく争うとなると、吸血鬼本体が現れていても可笑しくないな」
そう呟くと、部屋の奥から物音がするのに気がつく。
「……妙だな」
自分たちが家に入ってきた事に気がついていないとは思えないが。慎重に近づいていくことにする。
部屋の奥に脚を踏み入れると、信じられない光景が広がっていた。
「そうか、私が治せばいいんだ」
そう呟いたフーリが、魔方陣を描きだす。
(何をするつもりですか?)
リリィの言葉にフーリが答える。
「師匠のマナはまだ感じる。だったら、身体を元に戻せば蘇るはず」
まだ死んでいない、と呟くフーリ。
(しかし……)
「リリィも手を貸して。肉体の再形成の白魔術とマナの流出保護の魔術の準備を」
反射的に言われたとおりの魔術の段取りをこなすリリィ。だがしかし、あくまで彼女の知識にあるのは、人間、或いはそれに準じる動物までだ。元の形すら判別出来ない目の前のそれに対して行うことは、出来ないだろう。
(これは白魔術の範囲を超越しています。推奨出来ません)
リリィの言葉に耳を貸さずに、魔方陣を描き続ける。まるで何かにとりつかれている様な恐ろしささえ感じていた。
(既に大白魔導士様の肉体は消滅しています。目の前にある物は、その残滓にしか)
「だから?」
その続きを遮る様に言葉を発するフーリ。
(……その行為は無駄かと考えます)
「そう……でも、やらないと分からないじゃない」
そうして魔方陣を完成させ、マナの流出を抑える。次に、肉体の再生の魔術を発動させる。
(発動を確認。体組織の複製を促進。失敗、元となる細胞の正常な反応がありません)
それなら、と親指を噛み血を液体に染み込ませる。
「血液から細胞分裂を促進。一定まで増殖した段階で、師匠の体組織に変換させる」
(細胞分裂の促進、増殖を確認。液体の中に残る情報を元に、細胞を変質……細胞分裂が停止しました)
今行っている魔方陣を書き換え、次の魔術を発動させる。
「分裂の促進を停止、変質させた細胞の疑似体の作成を……」
次の魔術を発動させた段階で、フーリの肉体に異変が起こる。鼻血が流れ、目が充血している。
(脳の処理の限界を確認。血圧の増加に因る内出血と発熱の為、これ以上の魔術の使用を控えることを推奨します)
「脳とその付近の血管に治癒魔術を、脳細胞に常に正常に保つための魔術を」
肉体に対して、回復魔術を行うことは幾度もあった。だが、繊細な脳に対して行う事は本能的に避けていたが、非常時故か、本能すらも押さえつけての行動か。
(脳に対する再生魔術、及び頭部に対する治癒魔術を発動。現状のダメージは軽微、引き続き同様の白魔術を継続します)
身体の一部ができあがり、液体の中で再び崩れ、再度形成しなおす。最早、失敗に対して何も感じなくなるまで。
「何をしているんだっ!?」
ケインズが叫ぶ声に、何の反応も示さない。只管にぶつぶつと呟きながら、魔術を行使し続ける。その視線の先には、人の身体を模した何かが作られていた。
「……父さん?」
アレスの反応に、作られている肉体が大白魔導士に似せられているのだと理解する。だがしかし、
「マナの反応を感じられない。アレが目を覚ます事は無い。君は大白魔導士の弟子か?」
ケインズの言葉に、反応はない。フーリの肩に触れ、揺さぶるが一切の反応がない。
「止めたまえ。治療行為をしているのだろうが……これ以上は生命への冒涜だぞ」
初めて、フーリが、魔術以外の反応をする。
「……ない」
ぼそりと呟いた言葉は、虚空に吸い込まれていくようだ。
「どう……、治せ……。か……のに」
焦点の定まらない瞳は、果たして本当に目の前の現実を見つめているのか、分からない。
「もういい、君は良くやった……今は少し、休み給え」
アレスがフーリの肩に手を回し、抱きしめる。それは見た目以上に細く、そして冷たかった。
「ごめん、なさい」
頬に流れる涙と掠れる声が、フーリが限界であるということを、伝えた。
「白魔導士殿は?」
ケインズがアレスに声を掛ける。
「今は眠っています。栄養失調と睡眠不足、極度のストレスによるものでしょうから……いずれ目を覚ますと思います」
それを聞いて、一先ず安心する。
「その……隊長の方は?」
答えづらそうにしていたが、一呼吸をおいて口を開く。
「家の裏に埋葬したよ。アレが本当にそうかどうかは置いておくとしても……放っておくのは酷だろう」
「……ありがとうございます」
アレスは頭を下げる。
「止めろ、俺だって良心はある。辛いのはお前の方だろう。肉親がああなっては……」
ケインズの言葉を隊員は遮る。
「いえ、父が冒険者だったころから、死に目に会えない事は覚悟していましたので。むしろ、歪でも助けようとされる存在だったことが……少し嬉しいぐらいです」
その言葉にケインズは首を傾げる。
「白魔導士といえば、どこでも尊敬されるものだろう?」
その言葉に、渇いた笑いを返す。
「それは患者に対して、ですよ。仲間や家族には厳しい人でした。僕に白魔術の素養がないと知った時には、関心はなくなったみたいで……今じゃ、地獄の様な鍛錬から解放されて良かったとさえ思います」
その中に居たフーリから尊敬されているのであれば、理解は出来ないものの、父親に対して良い感情を向けることができる。
「難しいな……あとは白魔導士が良くなってくれれば良いが」
目を覚ましたのは、知らない天井。
(意識を回復したようですね)
リリィの声に、眠ってしまっていたことを理解する。だが、その前の出来事が靄が掛かったように思い出せない。
「……身体が重いね」
なにやら無茶をしたのだろう、ということは理解した。回復魔術をかけ、肉体のチェックをする。どうやら魔術で回復出来る範囲のようだ。
(記憶については……追々蘇ると思われます)
「いや……大体は思い出したよ」
体がある程度元の調子に戻れば、記憶をさかのぼれる様になった。何が起こったのか、自分が何をして、結果として何を失ったのか。
「おおっ、もう目が覚めたのか」
見覚えの無い男に名前を尋ねると彼はアレスと答えた。
「君に白魔術を教えた大白魔導士の息子だ。よろしく」
最初こそ驚いてはいたが、プイと比べてかなり紳士的な対応でフーリの方が挙動不審になっていた。
「いやぁ、親父が弟子をもったって聞いて半信半疑だったけど、今はもっと信じられないよ。まぁ、その白魔術の腕を見て疑うことはないけどさ」
「肉親っていう割には、今まで一度も会ったこと無いけれど……どうして?」
その言葉に、アレスは少し表情を硬くする。
「肉親だからさ。親父は俺に魔術の才能があるかどうか試す為に教えてくれたけどな。親父ほどどころか……並の魔導士以下だったのさ。俺もきついだけの訓練は嫌だったからな、親父も俺に興味はないし、俺も態々嫌な思い出を思い出したくも無い」
むしろフーリが白魔導士として継いでくれるのであれば、遠くの薬屋に脚を運ぶ理由もなくなって助かる、と言う。
「……ごめんなさい。勝手な憶測で疑って」
フーリの謝罪に気にする必要はないと答える。
「ところで、アレスさんは何をしているの?」
薬屋を頻繁に利用する人間といえば、冒険者だろう。他にも多くあるが、頻繁に魔物と闘うのであれば一般の仕事ではない可能性もある。
「残念ながら、近くの街の警備兵さ。直接下級の魔物と闘う、下っ端から数えた方が早いくらいのね」
警備であれば、地域に接触する魔物から、近隣に生息する魔物が生息域を移動しないように警戒することもある。
「そっか。うん、お師匠と同じとは行かないけど、薬屋は続けていくから、良かったらご贔屓にどうぞ」
フーリの言葉に再び驚くアレス。
(魔術士である人間は、あまり商業にせいを出すことは少ないのです。自分の研究が第一であることが多いので)
リリィの説明で成る程と感じるフーリ。
「村の人も警備隊の人も、急に薬屋が無くなると困るでしょ?」
読了ありがとうございました。
これから毎日小説をアップしようぜ(某ジ風
前書きいる? いらない?
半分ぐらい設定の備忘録みたいなのだから読み飛ばして貰って大丈夫です(オイ
それではまた、明日以降の暇時に。