Fate/Grand Order-仮想虹彩乱戦にじさんじ-   作:七倉八城

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プロローグ~Fate/Zero AnotherStory~

ロシア某所。

 

薄暗い廃墟で一人の男はとある研究に没頭していた。

部屋は小さなランプだけで照らされており、ランプの炎が揺らぐ度に部屋の影も動く。

机の上は水が入ったガラス製のコップと無数の古い書物が乱雑に積まれており、床には丸められたレポートのような紙が転がっていた。

男は一心不乱に紙に文字や記号を殴り書きする。

 

「これが……こうで……これが……くそッ!!」

 

頭を乱暴に掻きむしるとさっきまで書いていた紙をクシャクシャに丸め、床に投げ捨てる。

 

「違う……違う……違うッ!!」

「随分、荒れているな。アダモフ」

 

空きっぱなしの扉から別の男がやってきた。

青い癖毛で鋭い目つきをした中年の男だった。

部屋の主。アダモフは急な来客に苛立ちながら男を睨みつけた。

 

「何の用だ。ゾォルゲン」

「そう睨むな。…………まだ、そんな研究をしていたのか?」

「そんな。だと……?」

 

ゾォルゲンと呼ばれた男の言葉にアダモフは反応する。

 

「私の研究をそんなものだとッ!!」

 

アダモフは勢いよく立ち上がり、机の上に積まれていた書物をゾォルゲンに向かって薙ぎ払うように投げつける。その衝撃でコップも倒れ、水がこぼれる。

書物は何冊かゾォルゲンに当たるがゾォルゲン本人は無反応だった。

 

「私の研究はマキリをより良くさせる!! それこそ、アインツベルンや遠坂を超える!!」

「まだ、そんな妄想を追いかけているのか」

「何……?」

 

ゾォルゲンは布で覆いかぶされていた棚に視線を向けると、布を掴み、そのまま思い切り引っ張った。

すると棚には黄金に輝く器が無数に置かれたいた。

 

「こんな贋作を作り、いったい何がマキリをより良くさせるんだ?」

「が……贋作だと?」

「あぁ、そうだ。『聖杯の複製』……それがお前の悲願だったな。アダモフ」

「そうだッ! もう直ぐだ! もう直ぐで……『聖杯の複製』は完成する!!」

「……くだらない」

 

興奮気味に喋るアダモフにゾォルゲンは「くだらない」と吐き捨てた。

そして、持っていたステッキを振り上げ、棚に並べてあった黄金の器を叩き割った。粉々になった器の破片がアダモフの足元に散る。

その行為にアダモフは絶句していた。

 

「な……な………」

「こんな玩具を作っているなら、私の手伝いをしろ」

「ふ、ふざけるなぁ!! ゾォルゲンッ!!」

 

アダモフは右手を目の前に出すとこぼれていた水が渦巻き、宙に浮いてアダモフの右手に集まった。そして、その水は槍のような形に変形する。

水の槍を持ったアダモフは矛先をゾォルゲンに向ける。矛先がゾォルゲンの喉元に少し触れ、ゾォルゲンの喉元から血が流れる。

 

「私の研究を愚弄するかッ!!」

「その研究に意味が無いと言っている」

「本来、聖杯を生み出すには【マキリ】、【アインツベルン】、【遠坂】の三家が揃わないと不可能だ! だが、私の研究が成功すれば一つの聖杯を作り出せば、あとは無限に聖杯を生み出すことが可能だッ!!」

「だが、その複製した聖杯はまるっきり同じ機能を果たしているのか?」

「っ!?」

 

痛いところを突かれたのか、アダモフは言葉を詰まらせてしまった。

動揺しているのか、持っていた水の槍も震えているのが分かる。

 

「貴様が作り出した贋作は本来の聖杯の数十倍の魔力を必要し、願望機としての小聖杯を作り出すこともままならない」

「た、確かに……今の技術では完璧な複製することができないが……ゆくゆくは完璧な複製を……」

「もう一度聞く。その研究に意味があるのか?」

 

アダモフの言葉を遮るように同じ質問をするゾォルゲン。アダモフは完全に論破されてしまい、言い淀んでしまう。

 

「黙れ……黙れ……黙れぇぇッ!!」

 

アダモフは水の槍を振りかぶる。

しかし、ゾォルゲンはステッキを軽快に回し、アダモフの膝の関節にステッキを突き刺す。バランスを崩したアダモフは水の槍の形状を保てなくなり、そのまま水を被り、地面に倒れ込む。

それをゾォルゲンは冷たい視線で見下ろす。

 

「イヴァン・ミハイロヴィッチ・アダモフ…………貴様をマキリから追放する。破門だ」

「はっ?」

「今すぐ、この工房を破棄しろ」

「ほ……本気で言っているのか? この私を破門だと?」

「二度は言わん。さっさと失せろ」

「ふざけるなよ……この私が……私の研究が……ここで終るわけには……」

 

アダモフは正気を失い、虚ろな目で呟く。すると、アダモフの足元が徐々に液体化していく。

 

「私の悲願は必ず、遂行させる!! どんな手を使ってもッ!!」

 

完全に肉体を液状化させたアダモフは部屋の隙間から逃げ去った。

物が散乱している部屋に取り残されたゾォルゲンはため息を漏らしながら、アダモフが座っていた椅子に腰を下ろす。

そして、床に転がっていた丸められた紙を拾い上げ、広げる。

 

「『聖杯の複製』…………何が、そこまで貴様を執着させる……イヴァン・ミハイロヴィッチ・アダモフ」

 

 

 

 

 

――――――――――。

 

 

 

 

 

時は1980年代の日本の冬木市

60年に一度、この地で行われる大規模な魔術儀式、聖杯戦争が起きようとしていた。

7人のマスターが、かつてこの地球上で偉業を成し遂げた英雄の影法師、サーヴァントを率いて、最後の1組になるまで、殺し合いをする。

 

最後の1組になれば、万能の願望器、聖杯が与えられ願いを叶える事ができるという儀式だ。

7人のマスターの内、3人はその聖杯と聖杯戦争の実現化に関わったアインツベルン、間桐、遠坂の三家から選出され、残りの4枠は聖杯が選出した者に与えられる。

7人の魔術師が揃い、聖杯戦争が開始された。

 

1人、また1人と敗れていき、残りはセイバー陣営の衛宮切嗣。ライダー陣営のウェイバー・ベルベット。バーサーカー陣営の間桐雁夜。アサシン陣営の言峰綺礼。の4人に絞られた。

いよいよ、第四次聖杯戦争の大詰めを迎える。という所でイレギュラーが発生した。

 

円蔵山内部の大空洞。

そこに設置された大聖杯に全身、黒いローブで姿を隠した人影が近づいていた。

人影は手に持っていたアタッシュケースとボストンバッグを地面に置くと、それぞれ開いた。アタッシュケースには何も入っておらず、ボストンバッグの方には複数の書物やガラス瓶が詰められていた。人影はボストンバッグの方を漁り、書物やガラス瓶を取り出す。

ガラス瓶は3つあり、赤色、銀色、黒色の三色の液体が入っている。人影は赤い液体のガラス瓶の蓋を開けると液体を垂らし、地面に何かの魔法陣を描き出す。魔法陣が完成すると今度は小さい器を二つバックから取り出し、並べるように置いた。そして、銀色の液体と黒い液体をその器に移す。注ぎ終わると今度は銀の短剣と鏡と宝石を取り出して、魔法陣の中心に置いた。

人影は元の場所に戻ると書物を広げる。

 

「源は血と銀と銅。理は反転し、黄金と化す。三種の神器は揃い、これを持って儀式とする。写せ(みたせ)写せ(みたせ)写せ(みたせ)写せ(みたせ)写せ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされることを待つ。――――告げる。今、ここに我の前に顕現せよ。黄金の杯よ―――!」

 

詠唱の途中から魔法陣が青い光を発する。脈打つ様に段々と光は強くなり、次第に大聖杯から黄金の光が漏れだす。黄金の光は魔法陣の中心に置かれた銀の短剣と鏡と宝石に集まる。そして、二つの器に注がれていた銀色と黒い液体が飛び出し、黄金の光と混ざり合う。詠唱の最後には目も開けられないほどの光が辺りを照らし、魔力の残滓が風となって吹き荒れる。その風でローブが外れる。人影は中年の男性だった。男性は笑みを浮かべ、持っていた書物を投げ捨てる。光が収まると、そこには大聖杯が存在していた。既に存在していた大聖杯とは別にもう一つの大聖杯が現れた。

 

「あぁ……素晴らしい……私の研究は間違っていなかった。ついに成功したのだ」

 

男は涙を流す。一粒の涙が頬に流れ落ちる。男は手を広げると、現れた聖杯が引き寄せられるように男の元に移動する。聖杯を掴むと、そのまま空っぽのアタッシュケースに入れる。

 

「よし、これで次の段階に移行できる」

「そこで何をしておる」

 

男が立ち去ろうとすると、いつの間にか男の背後に老人が立っていた。男はアタッシュケース持ちながら老人の方を振り向く。老人は杖を突きながら近づいてきて、その周囲には無数の蟲が羽ばたいていた。

その姿を見て、男は微笑んだ。

 

「いやー…………久しいな」

「貴様は何者じゃ? それに先ほどの儀式は」

「おや? 数百年生きてボケてしまったか? ゾォルゲン。……いや、今は間桐臓硯だったか」

 

老人。間桐臓硯は顔をしかめながら男の顔を見る。その顔を確認した時、一瞬、驚いたような表情を浮かべた。しかし、また無表情に戻った。

 

「もしや……貴様はイヴァン・ミハイロヴィッチ・アダモフか」

「数十年……いや、数百年ぶりか」

 

アダモフは口元を抑えながら笑みを浮かべていた。

 

「……と、いうことは今の儀式は」

「そうだ! 私はやり遂げたッ! 『聖杯の複製』を!!」

「それを持って立ち去ることは許さぬ」

 

臓硯は杖を地面に強く突くと、臓硯の足元から大量の蟲が湧き出した。そして、蠢きながらアダモフの周囲を囲んだ。

 

「その老いた姿……水属性ではなく、蟲を使役…………随分、地に堕ちたな。ゾォルゲン」

「ほざけ。貴様をここで殺す。やれ」

 

臓硯の指示で蟲たちが一斉に襲い掛かる。アダモフの裾から液体が飛び出し、アダモフを包むように渦巻く。襲い掛かる蟲は渦巻く液体に遮られ、粉々に潰されていく。波のように押し寄せる蟲の集団をアダモフは顔色を一切変えず、防いでいく。やがて襲い掛かる蟲が尽き果てる。

 

「そんなモノか、お前の魔術は」

「…………イヴァン・ミハイロヴィッチ・アダモフ。貴様の目的は何じゃ?」

「目的? そんなのお前なら分かっているだろ?」

 

アダモフは持っていたアタッシュケースを臓硯に見せびらかすように目の前に出す。

 

「『聖杯の複製』。ゾォルゲン、私はそれのみを求めていた。それに私は別にお前の邪魔をしようとは思わない」

「何?」

 

アダモフの言葉に顔をしかめる臓硯。

 

「私の要件はもう済んだ。この大聖杯にも興味はない。あとは好きにするが良いさ」

「貴様…………何をするつもりだ?」

「さ、私はこれで退散させていただくよ」

 

アダモフは指を鳴らすと体を液状化させ、地面に潜り込んだ。持っていたアタッシュケースも一緒に液状化させ上手く回収させた。

置き去りとなった臓硯はため息を漏らしながら、大きな岩に座り込んだ。

 

「儂も貴様も自らの執念によって、この世に生き続けているのか」

 

アダモフが行っていた儀式の跡と大聖杯を眺めている。

 

「それによりによって……あの聖杯を複製してしまったのか……いったい、どう転ぶか見物だのぅ……」

 

 

 

 

 

――――――――――。

 

 

 

 

 

とある廃物置。

複製した聖杯を回収したアダモフは日本での拠点兼工房としている廃物置に戻っていた。

臓硯と対峙していた時は笑みを浮かべていたアダモフだが、今は苛立ちを浮かべていた。聖杯の回収に使用したアタッシュケースを乱暴に蹴り上げる。

 

「どういうことだッ!!」

 

アダモフは乱暴に頭を掻きむしりながら回収した聖杯を見つめる。

 

「複製は完全だったはず! なのに……なんだ、この聖杯は!! この聖杯の中身(・・・・・)はなんだッ!!」

 

聖杯の中身を知ったアダモフは取り乱す。

複製した聖杯は何かに汚染されていたのだ。

 

「これは悪意……? 憎悪の概念か? くそッ! 私の研究が!!」

 

物が乱雑に置かれた机からウィスキーのボトルを取ると、ウィスキーを一気飲みした。

ウィスキーを飲み干し、口元に垂れていたウィスキーを拭う。

 

「ふっ……肉体が水となった私にアルコールは無意味だがな…………クソがッ!!」

 

飲み干したウィスキーの空瓶を壁に投げつけた。空瓶は粉々に砕け散った。砕け散ったガラスに絶望した表情を浮かべるアダモフが映し出される。

 

「私の研究はここで終るのか……? まさか既に大聖杯が欠陥品となっていたとは……いや、待てよ」

 

アダモフはあることが頭を過った。

そして、複製した聖杯を掴んだ。

 

「もし、聖杯の複製が完璧だったとしたら、この聖杯の中身も複製したということか? この中身は一体なんだ?」

 

一つの疑問がアダモフを駆り立てる。

 

「まずは複製した聖杯の中身を解析しなければ……もし……」

 

アダモフは一つの仮説をたて、笑みを浮かべる。

 

「もし、この中身が悪意の塊だったら……私は見てみたい。私が作り出した聖杯から……どんな化け物(悪意)が生まれだすのか……もう直ぐだ……もう直ぐで私自身の聖杯を作り出せる…………クククッ……」

 

新たな研究を始めるアダモフは子供のように目を輝かせながら、一心不乱に紙に殴り書きをする。

それはまるで子供の自由研究のように無邪気に心を躍らせながら、最恐最悪の化け物(悪意)を作り出そうとしている。

 

 




【イヴァン・ミハイロヴィッチ・アダモフ】
ロシア人。モスクワ州リュベルツイ出身。
捨て子だった所を間桐臓硯(当時のマキリ・ゾォルゲン)に拾われ、養子としてマキリの魔術を学ぶ。
魔術師の適性は高く、幼少期の頃にはマキリの基礎である水属性の魔術を完全にマスターする。学生の頃のある日、臓硯に聖杯を見せられ、その姿に魅了されてしまう。そして、自分自身の聖杯を作るために『聖杯の複数』の研究に没頭するようになった。しかし、研究の成果は特になく、見かねた臓硯によって破門されてしまう。

その後は一人で研究を進め、第四次聖杯戦争で、ついに『聖杯の複製』に成功する。しかし、複製元となった大聖杯は汚染されており、本来の聖杯の機能をしていなかった。

目的を果たせず、絶望したアダモフはその聖杯の中身が気になりだし、その中身がどのように誕生するかを追求するようになった。

アダモフは『自分自身の聖杯を作り出す。』という目的から『自分自身の聖杯を作り出し、その中身を誕生させる。』という目的に上書きされた。

現在は肉体を液体に変換させ不老となり、臓硯同様に数百年間、生き続けている。
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