Fate/Grand Order-仮想虹彩乱戦にじさんじ-   作:七倉八城

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第三節~吸血少女のゲリラライブ~

凛に案内され、マシュと負傷した立香はオフィス街を歩いていた。負傷した立香はエミヤに背負われていた。

 

「さぁ、こちらですよ」

 

先頭を歩く凛が立ち止まると、そこはただのオフィスビルだった。凛はそのまま自動ドアをくぐり、入っていく。立香を背負ったエミヤも後に続くように入っていき、マシュも恐る恐る入っていく。

すると、ロビーには男女の二組が楽しそうに談笑していた。

 

「あれ? 凛先輩」

「あー、お疲れ様です」

 

女の方は和服姿に獣耳。男の方は軍服のような服を身にまとい、長い髪を一つにまとめていた。腰には刀が差してあった。

 

「おや? フミさんに、長尾さん。どうも」

 

凛は和服の女をフミ、軍服の男を長尾と呼んだ。

にじさんじライバーのフミと長尾景だ。二人は『フ景罪』としてコラボを行っている。

 

「健屋さんっています?」

「確か……スタジオで収録してたかと……」

「ってか、その人たちは」

 

長尾が立香を覗くように見つめる。

 

「あー……今回のイベントの参加者? です」

「へぇー、【聖杯乱戦】の参加者ですか」

「ん? 【聖杯乱戦】ってライバー限定ですよね? その人、ライバーじゃないっすよね?」

「いんや、長尾。あの後ろの子はサーヴァントじゃね?」

 

フミがマシュの方を指差すと、長尾の方もつられて見る。

 

「へぇー、区別つかないっすね。ってことは戦えるってことっすか?」

「まぁ……そうなんですけど。先に治療させてあげないと」

 

長尾は不敵な笑みを浮かべると、腰に差していた刀に手を置く。それを見た凛は静止させるように言葉を遮る。

 

「そうっすね」

 

残念そうに刀から手を放す、長尾。それを見ていたフミは呆れていた。

 

「では、その子が回復したら挨拶に伺いますので。さ、行くぞ。長尾!」

「りょ、了解っす!!」

 

フミがマシュ達に手を振ると長尾を連れて、外に出ていった。

 

「…………嵐のように去っていきましたね。それに普通の人には見えませんでした」

「あー……そこら辺の説明も後で。先に収録スタジオに向かいましょう」

 

凛はフミが言っていたスタジオに向かう。

スタジオの部屋の前に着くと、ノックをして室内に入る。そこには修道服を着た少女と、金髪で派手な格好をした少女、そしてナース服を見た少女の三人が談笑してた。

 

「失礼しますね」

「あ、凛センパイ! ちわーっす!!」

「あぁー!! こんにちは!」

「お疲れ様です」

 

三人は各々、凛に挨拶をした。

 

「健屋さん、収録中に申しわないんですが……この人の治療をお願いします」

 

健屋と呼ばれたナースが立香を見ると、慌てて立ち上がった。

 

「怪我人ですか!! 見ます!」

 

エミヤが立香を下ろして、寝かせると健屋は立香の方に駆け寄り、身体を触る。

 

「……骨折してますね。幸い、命に別状は無いようです」

「そ、そうですか……良かった。先輩」

 

マシュは安堵して、いつもの呼び方に戻ってしまっていた。

 

「ですが、念のために……【ナイチンゲール】さん」

「治療ですね」

 

健屋の隣にいつの間にか軍服を着た女性が立っていた。

 

ナイチンゲール

奉仕と献身を信条とするクリミアの天使、フローレンス・ナイチンゲール。

絶対に挫けることなく、誰であろうと──たとえ大英帝国の君主であろうとも、告げるべき言葉を告げる強靱な精神を有している。

異名は「小陸軍省」。たったひとりの軍隊とでも言うべき不屈性の持ち主である。

 

ナイチンゲールは立香を観察すると、腰のポーチから無数の注射器とメスを取り出した。

 

「まずは殺菌ですね」

「ちょっ!? ナイチンゲールさん! ストップ!! 手術はいいのでスキルを使ってください!!」

 

不穏な動きをするナイチンゲールを静止させる。

 

ナイチンゲールは動きを止めると、先ほど出していた注射器やメスをしまった。そして、立香に触れると淡い光が立香を包み込んだ。

 

ナイチンゲールのスキル『鋼の看護』。

魔力で形成されたメスや薬品を使用して仲間の治療を行う。人を救う逸話により強化されているため、重症でも治療可能。

 

ナイチンゲールのスキルにより、立香の怪我は一瞬で治癒され、立香は目を覚まして起き上がった。

 

「あれ? ここは……」

「目が覚めましたか! 先輩!!」

「マシュ……僕、気絶していたみたい……エミヤに運ばれている所までは覚えているんだけど」

「実は……こちらの方々が助けてくれたのです」

 

マシュは凛や健屋の方を振り向くと、お辞儀をした。

立香の2人にお辞儀をした。

 

「そうだったんだ……助けてくれてありがとうございます」

「良いですよ。私としても、あのまま見過ごすわけにはいきませんでしたから」

「私もです。医療関係者として助ける義務がありますから」

「…………それで……質問なのですが……どうして、サーヴァントであるエミヤやナイチンゲールがここに」

「サーヴァントはそれだけじゃないですよー!!」

 

立香の質問を遮るように金髪の女の子が手を上げた。

 

「せっかくだから紹介しちゃおうか! 私の名前は星川サラ。それで私のサーヴァントは……【清少納言】!!」

「へいへーい! 呼んだー!!」

 

金髪の女の子。星川サラの横に派手な髪形の少女が現れた。

 

清少納言

村上天皇の命で結成された文化人グループで、『万葉集』の訓読などに関わった「梨壺の五人」が一人、清原元輔の娘。

男性中心の平安時代において、その型破りな行動力で己の才覚を世に示した女傑。

一条天皇の皇后・中宮定子に生涯を通して仕え、最後の時までその傍を離れることはなかった。主に捧げられた散文の数々は、後に『枕草子』として集成されることになる。

現在は絶賛パリピ中である。

 

「では、私もですかね。私はシスタークレアと申します。それで……」

「そう言うと思い、準備はしてありますよ。マスター」

「ありがとうございます。天草さん」

 

修道服を着た少女の隣に神父の格好を着た男が現れた。

 

「初めまして。サーヴァント。ルーラー【天草四郎時貞】です」

 

天草四郎時貞

江戸時代初期に起きた一揆「島原の乱」で指導者を務めた少年。

とある惨劇にあって彼は抱いた怒りや悲しみを全て捨て去り、「万人が善性であり、万人が幸福である世界。あらゆる悪が駆逐された『この世全ての善』を手に入れる」という野望を抱く。

「人類全ての救済」。それが天草四郎時貞の最終目標である。

 

「では、改めまして。健屋花那って言います。そして、私のサーヴァント、ナイチンゲールさんです」

「エミヤに……ナイチンゲール……清少納言……それに天草……ってことは全員がマスター?」

「それについてだが」

 

エミヤが手を上げて発言をする。

 

「どうやら互いの情報を交換した方が良いようだ。彼と、そこの盾のサーヴァントは【聖杯乱戦】のシステムを理解していないらしい」

「そうですね……ここは話し合いましょうか。では、あそこに行きましょうか」

「あそこ……?」

 

立ち上がる凛を横目に立香が首をかしげる。

 

「はい。この【聖杯乱戦】のゲームマスターの所です」

 

 

 

 

 

――――――――――。

 

 

 

 

 

立香とマシュは凛や他のライバーに連れられ、にじさんじの事務所から徒歩5分にある、とある喫茶店を訪れていた。

喫茶店のドアには『CLAUSE』の看板が掛けてあったが凛は気にせず、そのまま入っていった。

 

「いらっしゃい」

 

カウンターで青い髪の中年男性がグラスを丁寧に磨いていた。

男性はスーツをキッチリ着こなし、眼鏡を掛けていた。

 

「お邪魔します」

「おや? 凛さんに、サラちゃんに、シスタークレアさん…………おっと、見ない顔がいるということはイレギュラーだね」

「話が早くて助かります」

「あ、マスター! 私、クリームソーダ飲みたいです!」

 

星川が席に座ると、勢いよく手を上げた。

 

「かしこまりました。他の方々は?」

「では、私は紅茶を。クレアさんと健屋は?」

「私も紅茶を頂きます。藤丸さんとマシュさんはどうしますか?」

「私も紅茶で!!」

「あ、えー…………アイスコーヒーで」

「わ、私も紅茶をください」

「では、準備しますね」

 

マスターはお辞儀をすると棚からティーカップを取り出して、準備を始めた。

 

「あの……静さん」

「はい? それと凛でもいいですよ」

「で、では凛さん……あの方がゲームマスターなんですか?」

「はい。今回の【聖杯乱戦】のゲームマスターであり、立案者の間桐奈切(まとう なきり)さんです」

 

凛が間桐奈切と呼ばれた男を紹介するとマスター改めて、奈切がお辞儀をした。

 

「お初にお目にかかります。この【聖杯乱戦】のゲームマスターである間桐奈切と申します。よろしくお願いいたします」

「いえ……こちらこそ」

「お待たせいたしました。クリームソーダ、紅茶、アイスコーヒーです。ご一緒に自家製のクッキーもどうぞ」

「わー! いただきます!!」

 

星川は真っ先にクッキーを手に取り、一口かじる。シスタークレアとマシュもクッキーを食べる。

優しい甘みが口いっぱいに広がった。

 

「お、美味しいです」

「でしょー! 分かってるぅ、マシュちゃん」

「…………それで、凛さん。こちらの方々は?」

「あ、そうでした。こちらは藤丸立香さんとマシュさん。マシュさんは……」

「サーヴァントですね。それに……セイバーでもアーチャーでもない。エクストラクラスのようですね」

 

奈切はマシュの正体を見ただけで暴き、立香とマシュは驚いていた。

 

「見ただけで分かるんですか?」

「私も長く魔術師をしていますからね……ですが、彼らはライバーではないようですね。運営からの通達もありませんし、私も登録した記憶がございません」

「そうですね……藤丸さん。貴方達のことをお聞きしても良いですか?」

「……そうですね。お話しします」

『ちょっと、待ったぁー!!』

 

立香が説明しようとした瞬間、モニターからダヴィンチが映し出された。

 

「うわぁ!! ダ、ダヴィンチちゃん!?」

『やっと繋がったよー!! 大丈夫かい、藤丸君』

「は、はい。何とか……」

『そうか、良かった良かった! 音声は聞えていたから事情は大体、把握している。これまでのことを話してもオッケーだよ』

「分かりました」

 

立香は今までのことを全て話した。

複数の特異点を回ったこと。自分たちの世界が白紙になり、自分たちの世界を取り戻すため、異聞帯を回っていること。

そして、どうして自分たちがこの特異点にやってきたのか。全てを話した。

その間、凛や星川たちは黙って話を聞いた。

 

「---以上。これが僕たちの現状です」

「特異点に、異聞帯ですか……どう考えます? マスター」

「そうですね……特異点の原因を解明させたいのでしょうが……申し訳ございませんが、そちらの関しましてはお力沿いすることができません」

「っ!? どうしてですか!!」

「第一にその特異点の原因がこの【聖杯乱戦】なのか、確証がありません。それに先ほども仰いましたが、この【聖杯乱戦】を開催しているのは私です。私が望んで、この【聖杯乱戦】を開催しているからです。そして、この【聖杯乱戦】は勝者が決まるまで終わりません」

『それは貴方の意志かい?』

「いいえ、そういう儀式だからです」

『…………』

「…………」

 

ダヴィンチと奈切は互いの間合いを図るように沈黙する。

 

『少しいいかい?』

 

沈黙を破るようにモニターの先にいるホームズが手を上げる。

 

「あれ? ホームズさん?」

 

モニターに映ったホームズに反応する星川。

 

『おや? 私のことを知っているのかい?』

「知っているも何も……昨日、シェリンさんが負けたからホームズさん消えたはずじゃ?」

『私が【聖杯乱戦】に参加していた?』

「え? そうですよね」

「そういえば、そこら辺の説明をしていませんでしたね」

 

奈切はポンと手を叩いた。

 

『質問したいことがあったが、先に【聖杯乱戦】のシステムを聞こうではないか』

「そうですね……では、こちらから条件を提示させていただきます」

『条件……?』

「えぇ、藤丸立香さん、マシュ・キリエライトさんの【聖杯乱戦】の参加です。そして、ルールは教えますがシステムに関しましては【聖杯乱戦】で勝ち続けたらお教えしましょう」

「【聖杯乱戦】に参加!?」

「私たちがですか?」

「えぇ、そうです。貴方達の参加を希望いたします。理由はそうですね……面白そうだから。ではダメですか?」

『……どうする、ホームズ』

『どちらにしろ【聖杯乱戦】が原因か調べるには参加するしかあるまい』

『…………はぁ……そうだね。私たちは参加することを認めるが、藤丸君。君はどうする?』

「この特異点を修復させるのに必要であるのならば参加します!」

「素晴らしい」

 

立香の返答に拍手をする奈切。

 

「では、登録と通達は私の方で処理しておきます。では、【聖杯乱戦】のルールを説明いたします。まず、この【聖杯乱戦】はにじさんじのイベントとして行っております」

「イベント?」

「えぇ、そうです」

 

立香の疑問い答える凛。

 

「マスターがイベントとして、にじさんじの運営が許諾し、行っています。もちろん安全管理なども徹底しています……と、言いたいところですがさっきの戦闘のように本気で戦っているライバーもいますので、どうしても負傷者は出てしまっています」

「ちなみに、ライバー全員が参加しているんですか?」

「そうですね」

「ライバーって何人くらい所属しているんですか?」

「今って何人でしたっけ?」

「この前、エデン組の6人が入ってきましたね。ちゃんとは数えてませんがざっと100人は超えてますね」

「100人!?」

 

 

現実離れした数字に驚愕するカルデアメンバー。

 

『つまり100体のサーヴァントが召喚されているってことかい? 儀式にしては大規模すぎる。それに聖杯で魔力のリソースが足りるとは到底、思えない』

「そこは企業秘密で」

『ぐぐぐっ』

「おっと、続きを。そして、その100人のライバーとサーヴァントで1人の勝者を決める。そして、最後の1人になった方のどんな願いも叶えることができます」

『そこは聖杯そのものシステムと変わりないのか……』

「そして、さきほどのホームズさんの件ですが……本来、サーヴァントは座から召喚されますが、今回の【聖杯乱戦】で召喚されるサーヴァントは座からコピーしたサーヴァントであります」

「座からコピーしたサーヴァント……つまり本物ではないっていこと」

「本物か偽物か。と言われると難しいところですね。意思や記憶はありますし、サーヴァントとしてのステータスも変動していません。平たく言えば、シャーロックホームズは座または他の場所で召喚されていても、ここでは別のシャーロックホームズを召喚することが可能。ということです」

「うん? うーん……」

「そこまで深く考えないでください。そして、戦闘のルールですが……一つ、マスターを殺してはいけません。二つ、深夜0時~3時までの間にランダムに戦う相手が発表されます。その相手とは必ず戦闘を行ってください。三つ、それ以外の戦闘も許可します。以上が大まかなルールです」

「それだけですか?」

「えぇ、変にルールを凝っても仕方ないですからね」

 

ルールを聞いた立香は深く考え込みながら、コーヒーを一口飲む。

 

「…………分かりました。ルールについては問題ありません」

「では……マスター、藤丸立香。サーヴァント、マシュ・キリエライトの参加を許可します」

 

 

 

 

 

「へぇー……そいつと戦っていいんすか?」

 

 

 

 

 

突然、店のドアの方から声が聞えた。

皆、一斉に声が聞えた方を振り向くと、そこには銀髪で赤い瞳の青年と髪を後ろで結び、カーディガンを羽織る青年が立っていた。

 

「おや? 葛葉さん、叶さん」

「どうも。お邪魔してます」

 

凛が声を掛けると叶と呼ばれたカーディガンの青年が手を振った。

銀髪で赤い瞳の青年は葛葉。カーディガンの青年は叶。どちらもにじさんじのライバーだ。

 

「そこのマスター!!」

 

葛葉が立香に指を指す。

向けられた立香はきょとんとしていた。

 

「ぼ、僕ですか」

「やい、この俺と戦え!!」

「えぇー!!」

 

突然の宣戦布告に驚く、立香とマシュ。

他のライバー達は呆れたような顔をしていた。

 

「と、突然、何ですか!?」

「どれぐらい強いのか試したくってよぉ! 拒否権はないぜ!」

 

葛葉が令呪を掲げると、葛葉の目の前にピンクのアイドル風衣装を着た少女が現れた。

少女は角と尻尾が生えており、黒い槍を持っていた。

 

「何? ライブ?」

「ちげぇよ! バトルだ、ランサー!!」

「えぇー! ちょっと子豚ァ! ライブ以外は呼ばないでって言ったでしょ! それでも私のマネージャー!!」

「うるせぇ! 何がライブだ! それに俺はお前のマネージャーじゃなければ、子豚でもない!! いいから戦うぞ」

「はぁ……これだから使えないマネージャーは。良いわ、私の可憐で美しい戦いを見てなさい!!」

 

葛葉と少女は何か言い争っていたが、少女の方もノリノリで戦おうとしていた。

 

「えぇ……どうしよう、マシュ」

「相手はエリザベートさんです……話は聞いてくれないかと」

 

葛葉のサーヴァントは【エリザベート・バートリー】

「血の伯爵夫人」と言われたエリザベート・バートリ。

結婚当初から使用人に暴虐を働くことがあり、サディスティックな人物だった。夫婦仲は円満であったが、程なくして夫と死別。

このころから彼女の狂気は本格化し、己の美を保つため、多くの少女を初めとする領民を拷問し虐殺するようになる。

 

「さぁ、ライブの開催よ」

 

エリザベートは軽快に槍は回しながら決めポーズを取る。

そして、一瞬でマシュとの距離を詰めた。そして、そのまま槍も振り上げる。

 

「っ!?」

 

マシュ咄嗟に盾を展開させ、振り下ろされた槍を受け止める。しかし、エリザベートはそのまま力任せに槍を振り、マシュを入口まで吹き飛ばした。

マシュは何とか着地して、体勢を整えた。

 

「マシュッ!!」

「店は壊さないでくださいね」

「大丈夫です。もしもの時は私たちで守りますから。そうでしょ、アーチャー」

 

凛がそういうと隣にエミヤが現れた。

そして、エミヤ以外にもナイチンゲール、天草四郎、清少納言も現れていた。

 

「分かっているさ」

「すみません、お騒がせして」

 

葛葉と一緒にいた叶は皆に謝りながら椅子に座り、クッキーを手に取った。

 

「葛葉のヤツ、さっきの話を盗み聞きした瞬間に笑みを浮かべたから、何を企んでいるかと思えば……」

 

叶は慌てて飛び出した立香を見つめながらクッキーを齧った。

 

 

 

 

 

――――――――――。

 

 

 

 

 

喫茶店の外ではマシュとエリザベートが戦闘を繰り広げていた。

エリザベートはまるでダンスを踊るかのような華麗なステップで槍を操る。マシュはただ盾で受け止めるしか出来なかった。

エリザベートの猛攻により、マシュは攻撃する暇が無かった。

 

「くっ……攻め手が」

「さぁ! 踊りなさい!!」

 

エリザベートは右側から槍を振り回す。マシュは盾で受け止め、バックステップで距離を取ろうとするが、エリザベートはすかさず詰め寄り今度は左側から槍を振るう。

マシュは焦りながら盾を槍に叩きつけて、攻撃を弾く。その行動を見透かしたようにエリザベートの尻尾が伸び、マシュの脇腹に突き刺さる。

 

「くっ!?」

 

苦悶の表情を浮かべながら後退するマシュ。

 

(……あの槍の動きも厄介ですが、尻尾の攻撃もあるとなると……実質、二本の槍を扱っているようですね)

 

「もう終わり?」

「いいえ、まだです!!」

 

マシュは盾を構え、走り出す。盾を両手で持ち、正面に構えてタックルの体勢を取る。

物凄い勢いでエリザベートに迫るマシュ。エリザベートは跳躍し、マシュの真上を回転するように飛び上がる。そして、着地と同時に槍を突き刺す。

マシュも突進の勢いを利用し、回転して盾を振り回す。突き刺してきた槍を盾で弾くと、そのまま回し蹴りを放つ。エリザベートはバックステップして、間一髪でマシュの回し蹴りを躱す。

 

「うわっ!! 危ないわね!!」

 

エリザベートは槍を振り回し、再度構える。そして、姿勢を低くする。

 

「少し、本気を出してあげる♪」

 

そういうとエリザベートが一瞬で消えた。

 

「えっ?」

 

マシュが見失った瞬間、いつの間にかエリザベートがマシュの背後に回っていた。

一瞬で出来事でマシュの反応が遅れる。

エリザベートはその隙を見逃さず、槍を振り上げる。

 

「しまっ……」

 

盾で防ごうとするが、間に合わず、エリザベートの槍が腹部に入る。

メキメキと骨が軋む音が聞こえる。マシュは力を入れ、耐えようとするが、そのまま吹き飛ばされてしまう。

受け身も取ることができず、地面に転がる。

 

「はぁ……はぁ……ぐはっ……」

 

内臓にダメージが入ったのか、血を吐くマシュ。

エリザベートはくるくると槍を回しながら可愛く決めポーズを取る。

 

「どう? 今のは決まったでしょ?」

「はぁ……はぁ……ま、まだです」

 

盾に体重を掛けながらなんとか立ち上がるマシュ。

 

「マシュッ!!」

 

立香がマシュに駆け寄ろうとするが、葛葉が立ちはだかる。

 

「どいてください!!」

「駆け寄ってどうする?」

 

葛葉は立香に詰め寄り、長い爪が立香の首に突き刺す。爪先が首に触れ、立香の首から血が流れる。

 

「くっ!!」

「アンタが言っても邪魔になるだけじゃない? 魔術師でもなければ俺みたいな化け物でもないし」

 

葛葉は爪に付いた血を舐めとる。

 

「化け物……?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 俺、吸血鬼なんだよねー」

「吸血鬼ッ!?」

「そんな訳で俺が本気を出せば、マスターであるアンタも簡単に殺せるってわけ。まぁ、【聖杯乱戦】のルールで殺すことは出来ないけど、動けないようにすることはできるし」

「マスター!!」

 

立香を心配したマシュが立香の元に駆け寄ろうとする。

 

「あら? 貴女はマスターと仲良しなのね。でも、よそ見は厳禁よ」

 

隙を見せたマシュにエリザベートは槍を振り回し、マシュの後頭部目指して全力で槍をフルスイングした。

フルスイングした槍はマシュの後頭部にクリーンヒットし、マシュは吹き飛んだ。

エリザベートの攻撃で脳震盪を起こしたマシュは起き上がることができなかった。

 

「マシュッ!!」

「だから、近づけさせないって言ってるっしょ!!」

 

葛葉が立香の足を蹴りで払い、体勢を崩して倒れ込む立香。

しかし、立香は諦めようとせず、体を引きずりながら手を伸ばす。

 

「マ、マシュ……」

「これでフィナーレね」

 

エリザベートはマシュに近づけ、槍を振り上げる。

 

「マシュゥゥゥ!!」

 

叫ぶ、立香。

エリザベートは無情に槍を振り下ろす。

 

 

 

 

 

「待ったぁぁぁぁぁ!!」

「ぴぎゃっ!!」

 

 

 

 

 

槍を振り下ろそうとした瞬間、エリザベートが何かに轢かれた。

 

「はっ?」

「えっ?」

 

突然のことで唖然としている立香と葛葉。

葛葉が慌ててエリザベートを引いた正体を確認すると、そこには二頭の牛と巨大な戦車(チャリオット)だった。

チャリオットに乗っていたのは大柄な男、二人組だった。

その内の一人が葛葉に気が付くと、飛び降りて近づいてきた。近づいてきた男はバーテンダーの服を着ていた。

 

「おや、葛葉君。ごめんね」

「ちょっ、ベルさん!!」

 

ベルと呼ばれたバーテンダー風の男は立香の方を見ると、軽々と立香を抱え上げ立ち上がらせた。

 

「怪我はないかい?」

「え? あ、はい」

「そりゃ、良かった。俺の名前はベルモンド・バンデラス。にじさんじ所属のライバーさ」

「ちょっとぉぉぉぉ!! この私を轢いておいて謝罪は無いの!!」

 

轢かれたエリザベートが復活し、チャリオットに乗っている男に指差す。

 

「何、これは【聖杯乱戦】であろう? なら、乱入しても文句な無いはずだ」

「くうぅぅー!!」

 

二頭の牛とチャリオットが消えると、乗っていた男が腰に差していた剣を取り出した。

 

「さぁ、やるか? 小娘」

「ちょっと待った。【イスカンダル】」

「なんだ?」

「戦うのは話を聞いてからだ」

「何? わざわざ対話するのか? こやつは余に啖呵を切った。戦うには十分な理由だ」

「だから、待ってくれ。いいな」

 

ベルモンドは真っ直ぐイスカンダルと呼ばれた男を見つめる。

 

イスカンダル

マケドニアのアレクサンドロス大王。真名「イスカンダル」はペルシャやアラビアでの呼び名である。

最果ての海(オケアノス)を目指して東方遠征を行い、道中の国々を蹴散らしてはその国の王や兵士達を配下に加えていった。

しかし、東の果てに辿り付く前に遠征は中断となり、その後病死した事で叶わぬ夢となった。

 

真っ直ぐ見つめてくるベルモンドにイスカンダルはため息を漏らし、剣を戻した。

 

「まったく……なぜ、こう。余のマスターは頑固者が多いのか」

「ありがとう」

 

ベルモンドは笑顔で感謝すると、葛葉の方を向いた。

 

「それで、葛葉君は彼女と戦っているんだ?」

「え、えーと……」

(やべぇー……喧嘩吹っ掛けたとは言えねぇ)

「葛葉が喧嘩を吹っ掛けました」

「叶!!」

 

いつの間にか現れていた叶にチクられた葛葉。

 

「そうか……俺は【聖杯乱戦】には反対だったが……ライバーは強制参加だったからな。まぁ、そのおかげでイスカンダルに会えたのは良いことだけどね。だけどね……俺は言ったよね?」

 

ベルモンドの雰囲気が豹変した。

 

「なるべくライバー同士で争って欲しくない。もし、俺の近くで戦うなら俺が止めるよ。って……確かに彼女はライバーじゃないけど、争う姿は見たくないし、誰かが傷つく姿も見たくない」

「ベ、ベルさん」

「忠告はした。申し訳ないが、俺は彼女の味方に付くよ。イスカンダル!!」

「応とも!!」

 

ベルモンドとイスカンダルの威圧が葛葉を襲う。

冷や汗を流す葛葉。

 

「スーーーー…………了解っす。ランサー! ここで終わりだ」

「ちょっとぉ!! まだ、私のライブは終わってないわ!」

「いいから帰るぞ!!」

 

葛葉はエリザベートに近づくと、首根っこを掴み、引きずりながら去っていった。

 

「ちょっ! 分かったわ! 帰るから、離しなさい!!」

「あーあ、ここで終わりかぁ」

「叶君はどうするのかい?」

「いやー……ベルさんとは戦いたくないから僕も撤退するよ。じゃあね、藤丸立香君」

 

叶は立香に手を振ると葛葉の後を追いかけていった。

 

「あ、ありがとうございます。ベルモンドさん」

「いやー、こっちこそごめんね。そっちのお嬢さんも大丈夫かい」

「あ、はい!!」

「まったく情けないの」

 

立香とマシュを見て、イスカンダルが呟いた。

 

「おぬしらの戦いっぷりを見ていたが、互いが互いを心配して戦闘に集中しておらんかった」

「「……………」」

「もう少し、互いに信頼しないか」

「まぁまぁ、その辺で……さて、一回落ち着くために奈切さんの喫茶店に行くか。君達も途中だったんだろ?」

「そ、そうですね」

 

4人は奈切の喫茶店に戻った。

 

(…………互いに信頼。か……僕はマシュを信じ切れていない……? いや、何もできない自分に腹が立っているんだ)

 

百貌のハサンの戦いでも、エリザベートとの戦いでも何もすることができなかった。逆にマシュの足手まといになってしまった自分に嫌気を指していた。

 

(…………もっと強くならないと)

 




【エリザベート・バートリー】
「血の伯爵夫人」と恐れられた貴婦人。
現在はアイドルとして、その名を轟かせようとしている。
マスターである葛葉をマネージャーとして扱い、暴走列車の如く連れまわしている。
葛葉自身は暴言を吐きながら止めようが半分、諦めながら嫌々、言うことを聞いている。

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