魔人街   作:苗代

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訪問者

 イギーは、リーシャと共に街を歩いていた。

 活気のある街だ。

 この星で最も辺境にあるアルバトロス地区だが、種族戦争のときに得た膨大な財産によって、中央の大都市に勝るとも劣らない発展を遂げている。

 区外から輸送される食糧や地元でとれる作物を保管する巨大な倉庫群や冷蔵庫群。区の住民や区外から来た客をもてなす賭博場やホテル、娼館、酒場などなど、人々を飽きさせないための施設がひと通り揃っている。

 リーシャはフードで特徴的な耳を隠していた。

 エルフと分かれば、この街の冷酷な殺し屋や賞金稼ぎどもが襲ってくるからである。

 初めて訪れるこの街に、不安を感じながらも、少し観光気分に、街を見歩いていた。

 リーシャから見て右手には、武器屋や薬局、医療センターなどの闘いに身を置く者にとって欠かせない施設が並んでいた。

 そして、左手には、酒場やダイナーなどが並んでいる。

 旨そうなにおいが鼻孔をくすぐり、食欲を誘う。

「この街は初めてだったな」

「はい」

「ここはギルドが仕切っているから治安は悪くない。だが、油断はするなよ。おまえやおれのことが、いつ出回ったっておかしくないんだからな」

「気を付けます」

 ふたりは、ダイナーの角を曲がり、裏路地へ入ってゆく。

「この先に武器屋がある。顔馴染みだから、一晩くらい泊めてくれるだろうさ」

 裏路地の狭い道を真っ直ぐ進み、さらに左に曲がる。

 ふたりの眼の前には、シャッターで閉じられた建物があった。

 イギーは、シャッターの横にあるドアの前へゆき、ドアノブをまわして、建物の中へ入って行った。

 建物の中は、不気味なほど静かであった。

 壁には、無数の戦闘兵器が並んでいる。

 サーベル、日本刀、鉈、偃月刀、戦斧、ハルバード、狼牙棒、朴刀──

 さらには、拳銃や猟銃まで並んでいる。

 部屋の真ん中には、鍛冶屋が使うような道具が置いてあり、木製のテーブルの上には淹れたてのコーヒーが置いてある。

 部屋の隅には、緑色のシートで覆った何かがほかられている。

 イギーがシートをめくろうと手を伸ばした瞬間、

「死ねい!」

 何者かが、横からイギーにタックルをしてきた。

 銀髪の男だった。

 イギーが、男の左眼に針を寸止めすると同時に、男は武骨な黒いハンドガンをイギーの額にくっつけていた。

 いつでも殺せるよう、トリガーに指がかかっている。

「耄碌したかジジイ」

「むっ、その声と口の悪さは······イギーか!」

「そうさ。久しぶりだな」

「半年ぶりくらいか」

「うむ。そんなところだろう」

 ふたりは起き上がると、ハグをした。

 どうやら相当親しい仲のようである。

「それで、こちらの別嬪さんは?」

 ハンドガンを腰のホルスターにしまいながら云った。

 イギーにジジイと云われた銀髪の男は、ブルーの作業着を着ており、頭にごついゴーグルをかけていた。

 ずんぐりとした身体つきをしているが、筋肉質でたくましそうな腕が、捲り上げた袖からのぞいている。

 レイン──それが、この男の名前である。

「あっ、わたしはリーシャと申します。昨日、イギーさんに助けていただいたです」

「わしはレインだ」

「昨晩、帰り道で、人狼どもに襲われていてな──」

「それを、おまえさんが助けたのか」

「ああ。だが、今朝、妙な連中に襲われたんだ」

「どんな奴らだ」

「ギルドが雇った殺し屋さ。ギルドマスターはどうやらリーシャを狙っているらしい」

「むむっ、それはそれは、とんでもなく厄介じゃな」

「生憎、取り逃がしちまったから、この街でうろうろすることはできん。奴らのことだ。もうすでに諜報部門のエージェントたちを派遣して、情報収集しているだろう」

「まあ、あそこは仕事が早いからな」

「それで、ここなら隠れ家として最適だと思い、飛び込んで来た訳よ」

「迷惑極まりないな」

「おれとジジイの仲だろ」

「まあ良い。しばらくはここにいろ。だが、わしの命が危なくなったら、ギルドにてめえらをチクってやるからな」

「ハイハイ、ありがとうよ」

「ふん」

 レインは折り畳み式の小さな椅子に座ると、机の上に置いてあるマグカップを持ち、熱いコーヒーを啜った。

「さっそくで悪いんだが、武器が欲しい」

「そういえば、いつも腰にぶら下げている剣はどうした」

「今朝の闘いで、刃を折られた」

「そうか。で、何が欲しい?」

「最高によく切れるナイフと帰ってきたら渡すと云っていたチャクラムだ」

「承知。他に欲しいものは?」

「おれはない。おめえは?」

 リーシャが訊いた。

「私もありません」

「そうかい」

 レインは、作業場を出てゆき、ふたりだけになった。

「イギーさんとレインさんは、仲がよろしいのですね」

「ふふん。昔からの付き合いさ」

「そうなんですか」

「お前も何か武器を頼んどいたほうがよかったんじゃないか」

「いえ、やはり慣れ親しんだ武器の方が、いざという時に困らないので······」

「意外とわかってるじゃねえか」

 

 

 

 

 リオンとジャックの住まいに客が訪れたのは、夜半過ぎのことであった。

 普段、来客など滅多にないのだが、最近の事情から察するに、ギルドから派遣された職員だろうと、ふたりは思った。

 万が一、襲撃されても、そう簡単に内部へ侵入させないために、ドアは木製のものから鋼鉄製の武骨なドアへと取り替えられ、玄関はスイッチを押すと落とし穴になったり、登録した人間以外が通ったらレーザー攻撃を浴びせるように設計されたセンサー付きの壁など、様々な仕掛けが、この家には施されている。

 リオンは、監視カメラでギルドの人間であることを確認すると、トラップを解除し、室内へ招き入れた。

 広々としたリビングで、3人の男がソファーに腰かけ、リラックスした状態で話していた。

 3人の内ふたりはリオンとジャックである。

 もうひとりはギルドからの来客だ。

 とてつもなく奇怪な男であった。

 おかしな被り物をしている。

 よく見ると、その被り物は、人間の皮であった。

 しかも、恐ろしく丁寧に剥ぎ取られており、眼と鼻と口の部分だけが、男のものであった。

 髪の毛すら、この男のものではない。

 おそらく、皮を剥ぎ取られた人物のものだろう。

 糊でくっつけたとしか思えないような雑さで、頭部に無数の髪の毛がくっついている。

 服装は、カーキ色のズボンを穿き、動物の革かなにかで造った羽織りを身につけている。

 ズボンのベルトには、先の大きく曲がった大型ナイフが差し込まれている。

 グルカナイフだ。

 近接戦闘はもちろん、ブーメランのように扱えたり、サバイバル道具としても使用できる万能な武器である。

 3人ともリラックスしているとはいえ、油断しているわけではない。

 相手が仕掛けてきたら、すぐに対応できるよう、悟られないように構えている。

「用件は何だい? シャグさん」

 奇怪な来客──シャグに、リオンは用件を訊いた。

「女エルフと一緒にいる男の正体が判明した」

「本当か!」

「ああ。調査団によると、名前はイギー・シグナス。職業は傭兵。年齢は27歳。2年前に父親を肺尖カタルで亡くしている。それ以外は不明」

「それだけか」

 ジャックが炎の眼で、シャグを睨み付けた。

「これだけだ」

「ちゃんと調査したのか」

「したさ。お前たちの飛行車のカメラに写っていたものを元手にな」

「団長は誰だ」

「キーバート卿だ」

「あのジジイ、適当な仕事しやがって」

「無礼者! 本来なら、リオンはともかく、わけのわからん傭兵にぶちのめされた貴様は、除名されても仕方がなかったんだぞ。リオンの弟ということで特別に許されたということを理解しろ」

「けっ」

 ジャックはそっぽを向いた。

「シャグさん、あんたがここに来たのは、それを伝えるだけではあるまい」

「うむ、実は暗殺部隊が編成された。つい3時間前の話だ」

「いきなり殺すのか? 早計すぎると思うが······」

「おれも思ったが、ギルド長の命令でな」

「メンバーは?」

「キラー・チップ、ボンハート三世、タフト、ロイヤル、オズワルド、九重丸の6人だ」

「全員、ギルドの選り抜きの連中だな」

「それだけではない。話を聞いた幹部たちが、子飼いの暗殺者どもを野に放っている。近いうちに、この区は戦場になる可能性がある」

「それはまずいな」

「確かにまずい。しかし、だからといって何かできるわけではない」

「まあな。おれたちは謹慎中の身だしな」

「そういえば、お前たちの謹慎は事態が片付くまで、或いは暗殺部隊が危機に陥るまで続くそうだ」

「わかった」

「おれからは以上だ。何か質問は?」

「特にない」

「そうか。ならば、ここらで失礼する」

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