憧れのVtuberは未来の自分だったようで ~技術派Vtuberは未知の体験を生み出したい~ 作:Atlantis
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凄い数のコメントが流れてくる。え? 嘘だろ。どうして初投稿動画のダンスでこんなにコメントが流れるんだ? 歌だって初心者だし、ダンスだって精通しているわけじゃない。魅せる動きをしているわけでもないのに。
……自分は今、踊っている。一人だけしかいない自分の部屋で、パソコンの上についているカメラを見つめながら踊っているのだ。
パソコンの画面の中では、青髪の少女が豪華な着物を着てダンスを踊っている。きれいな少女が美しいステージで踊っている様子はとても素敵だ……しかし、少女のそのダンスは、自分の動きと連動している。
Vtuber。実際に存在する人間が、二次元のアイドルのような存在へと変わった、つい最近ネットで話題になり始めた存在。どうやら自分はそれになったらしい。何故そうなったのか、それは少し前にさかのぼる。
「はぁ、4月も始まったしそろそろ学校か。めんどくさいな」
部屋の中で独り言を呟く。抑えられない憂鬱感。ベットに腰を下ろして、ため息を吐く。
学校に行っても、何もアイディアが思い浮かばない。大好きな「何かを作る事」、それを妨げる学校の始まりは、俺にとって望ましくない事である。
「……ただいま」
気分が落ち込んでいたところ、チャイムの音と共に母さんの声が聞こえた。お出かけから返ってきたようだ。
「萩之、高かったカバン壊れちゃったから、直してくれないかしら」
母さんは俺に修理のお願いをしてくる。……まったく、母さんは勘違いしている。俺が好きなのは何かを作る事であって、何かを直すことではないのに。でも、何度言っても覚えてくれない。
「今気分が悪いから今度ね。今はちょっとゆっくりしたい」
母さんのお願いを後回しにする。疲れたときは何かを作る気になれない。そういう時はいつも決まって漫画やアニメ、そして動画を見て過ごしている。今日は漫画やアニメを見る気分ではないので、動画を見ることにする。……おっ、このサムネ、見覚えがある。その人は確か……!?
「…………え、メアリーさん? メアリーさんが、生放送しているっ! これは早速見なければ」
動画サイトのあなたへのおすすめの欄に、ここ最近活動していなかった、俺のあこがれの人の生放送動画が現れた。早速クリックして動画をつける。
……はぁ、懐かしいなぁメアリーさん。
俺がまだ小さかったころ、何気なく開いた動画サイトで運命の出会いをしたのだ。実際に存在する人のようなリアル感に、二次元キャラクターの魅力が合わさった最強の存在であるメアリーさんだ。彼女の動画は、小さかった時の俺の心を完全に奪い去ってしまったのだ。
まず最初に、表現の発達に興奮した。自分自身がキャラクターとなって、皆に動画を届ける。今までではありえない事だった。
そして次に、技術発達の可能性を想像して興奮した。人の動きを読み取って、キャラクターを動かす。初めての体験で凄くワクワクした。これから数年が経過し、技術がより発達したら、キャラクターと一体化する事だってできるかもしれない。未知の技術は、俺に刺激を与えてくれる。
もちろん、メアリーさん本人にもドキドキした。リアルと二次元が融合した姿、それはとても衝撃的な存在で、彼女の声、仕草、性格、それぞれにとてつもない魅力を感じた。
もう会えないと思っていた、そんな人の新しい動画を見ることが出来る。……最高の喜び体験だ
しばらく待つと、動画が始まりメアリーさんが画面に映る。……ヤバイ、本物だ。いや、本物なのは分かっていた。でも、部屋の中をデザインした今までの動画で使用されてなかった背景に映る、昔と変わらないメアリーさんを見ていると、本物だ! と思いたくなってしまう。
でも、しばらくしてこの動画は偽物なのではないかと思うようになった。この動画の再生数も、評価も、コメントも、すべて0なのだ。おかしい、少なくとも俺がこの動画を見ているはずなのに。
「こんにちは♪ あなただけのメアリ―だよ」
俺が来てからすぐに挨拶を始めるメアリーさん。うん、凄い偶然だ。動画を付けたとたんに挨拶をしてもらえるなんて。普通の生放送動画は見た時には既に途中だったり、運よく最初から見ることが出来たとしても何故か再生してから2分くらい無言になった後に開始される傾向にあるのに、今回は再生してからすぐに挨拶が始まった。ツイている、のかも。
……再生数が低すぎるし、動画を再生してすぐに挨拶されたし、なんだかちょっと怖いな。でも、憧れの人が動画を配信してくれて嬉しい気持ちもある。なんだか、曖昧な感情だな。
「ん~、どうやらキミは落ち込んでいるようだね。……元気出してね」
!? どうして、メアリーさんは俺の体調を知っているんだ? 生放送は一方通行なはず。視聴者の顔は投稿者には見えないのが普通だ。何か、なにかがおかしい!
「そんなに怖がらないでよ。私はキミがよ~く知っている人物だよ」
よく知っている人物? 俺に親しい人なんていないぞ。知っているのはせいぜい父さんと母さんだけだ。……まさか、メアリーさんは俺のお母さんだった?
それ、一番気まずいやつじゃん。俺は母さんに恋に似たような感情を抱いていたってことなのか? ヤバイ、やばすぎる。
「あ、安心してね♪ 私は君のお母さんじゃないよ」
なんだ、母さんじゃないのか。それなら安心……出来るかっ!
母さんじゃなければ、父さんってことになるじゃん。母さんの方が100倍マシだよ。
「ど~してそ~なるのっ! お父さんな訳ないじゃん」
えっ? メアリーさん、俺の心を読んでいる? 一体、彼女は何者なんだ。
「私の正体、それは……」
メアリーさんの正体は、一体…………
「未来のキミ、のような存在かな?」
あひ? 彼女は一体何を言っているのだろうか? メアリーさんが未来の俺……そんなわけないじゃん!
……でも、色々不思議なことがあったし、もしかしたら……そうなのかもしれない。