憧れのVtuberは未来の自分だったようで ~技術派Vtuberは未知の体験を生み出したい~ 作:Atlantis
「今日はマーガレット・エイミーちゃんとのコラボの日だね。彼女にいいところを見せなくちゃ!」
メアリーが声をかけて、気合を入れてくれる。……だけど。
「メアリー。夜風リンの3Dモデル、イジった?」
メアリーからもらった夜風リンのデータ。初めて見たときは、あまりのクオリティーの高さに心躍らされたものだった。
しかし、二回目の配信の時には、何故か夜風リンのモデルのクオリティーが低下していてある意味で驚かされた。想像できないような超技術で作られていた夜風リンの体が、現実的なレベルまで落ち着いていたのだ。
そして、コラボ当日の今日。夜風リンの体は平面になってしまったのだ。奥行きが全くなくなってしまった。
動きもかなり劣化しており、今まではかなり滑らかに動いていたのにもかかわらず、今はカクカクな動きしかできない。今までは口を開けたらゆっくり唇が動いていたのだが、今では閉じた口が一瞬で開いた口に変わるだけだ。これはおかしい。
ボイスチェンジャーに至っては、完全に機械音声の音になってしまい、とても配信で使えるようなものではなくなってしまった。
「……もう、潮時なのかな?」
メアリーが良く分からないことを呟く。……どうすればいいんだ、これ。夜風リンの姿に関してはまあ何とかなるだろう。可愛さは失われてないからな。
でも、問題は声の方だ。無機質な機械音声をずっと聞かされたらたまったもんじゃないだろう。かといって、ボイスチェンジャーを使わないと男の声を隠すことが出来なくなってしまう。夜風リンに男の声でしゃべる設定はいらないのだ。
配信まで後3時間。……こうなったら、今から俺がボイスチェンジャーを編集してどうにか使えるようにするしかない。
ボイスチェンジャーのアプリを開いて、設定の編集っと……うわぁ、何これぇ!
内部のデーターが、無茶苦茶に設定されていた。こんな滅茶苦茶な数値で、よく機械音声を出すことが出来たなって感心するほど中のデーターは荒れていた。一体何が起こったんだよ。
予想よりひどいことになっていたため、今からこれを直すには凄い時間がかかってしまう。
俺は今までデータを編集する知識は身に着けてきたが、あまりそれを試す機会がなかった。そのため、時間までに素早くボイスチェンジャーの調整を行うのは難しいだろう。どうすれば……
「やはり、早すぎた技術は……あっ、今のは気にしないで。こんなこともあろうかと、この時代のボイスロイドのデータを用意しておいたよ。著作権フリーの子の声を選んだから、配信でも使えるはず。ちょっと扱いは難しいと思うけれど、キミならうまく使いこなせると思うな」
メアリーからデータを受け取る。早速受け取ったデータを使用してみたところ、聞き覚えのある声が聞こえてきた。これは、解説動画でよく聞く声だ。
「ボイスロイドの瀬頭ふう香ちゃんだよ。キーボードで打ち込んだ文章を可愛い声で読んでくれるの。彼女にはたくさんの単語が登録されていて、それらを正しいイントネーションで読んでくれるから、調整なしでもある程度はうまくしゃべることが出来るんだ」
おお、そういう仕組みだったのか。意外と興味深い技術だ。もっと関心を持つべきだったな。
「とりあえず、今回のコラボは瀬頭ふう香ちゃんの声で乗り越えるよ。素早くタイピングを打つ準備をしておいてね」
正直、ボイスロイドを使った生放送なんて聞いたこともないんだけれど。本来ボイスロイドは生放送には不向きなんじゃないだろうか。……でもま、タイピング速度には自信がある。何とか乗り切るしかないか。
2000000人以上が視聴中です 40分前にライブ配信開始
「ふぅ」
動画を取り終えて、一息つく。
マーガレット・エイミー、それが私のバーチャルでの姿。本物の私とは全然違う。華やかなブロンドの髪をたなびかせ、幼くあどけない笑顔が愛くるしいが、どこか美しい雰囲気を漂わせている。
「いつになったら、たどり着けるのだろうか」
思わず独り言を呟いてしまう。歌はうまく歌え、ファンとのコミュニケーションも完ぺきだった。それらは、自分でも納得するほどうまくいったのだ。
だが、何かが及んでいない。自分でも分からないが、何かが足りないのだ。
「メアリー……」
あこがれの人の名前を呟く。あの人の配信に、心を動かされた。人の心を動かす何かを、彼女は持っているのだ。歌やおしゃべりのうまさではない。言葉にできない、何かを彼女は持っているのだ。
その何かを、私は知りたかった。その何かを、知るために私はVtuberになると決心したのだ。
今回のコラボ相手である夜風リン。メアリーと同じように、この世のものとは思えないほどの質の高い声とグラフィックを誇っている存在。雰囲気もどことなくメアリーと似ている。
もしかしたら、彼女もメアリーと同じものを持っているのかもしれない。少しだけ期待が膨らむ。
……そろそろ配信開始だ。私の求めるものが彼女にあるのか、確かめさせてもらう。
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え、なんで? 配信画面に現れた夜風リンの姿が完全に平面なんだけれど。あの時の高クオリティ3Dモデルはどこに行ってしまったの?
マーガレット・エイミーさん、こんにちは。夜風リンです。今日は貴重な時間を使って私とコラボしてくださってありがとうございます
何で、ボイスロイドを使っているの? 初配信の時の声を使えばいいじゃないか。姿は平面だし、声はボイスロイドだし……認めない。こんなの認めないわ。
……ふざけているのかしら? 私とのコラボという事を知っておきながら、こんなおふざけをするなんて。コラボは中止よ。中止っ!
……そうですか。事前に連絡しておくべきでしたね。コラボ直前にバタバタしすぎて連絡を怠ってしまいました。楽しみにしていた皆さん、本当に申し訳ありませんでした
夜風リンの伝説も、ここまでか。最後に謎の自滅をして消えてゆく……Vtuberとは儚いものだわ。
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彼女は、もしかしたら私の求めているものを持っているかもしれないと思ったのに。これは、とんだ期待外れ。彼女はVtuberを何だと思っているのか。
彼女との交流で、メアリーに一歩近づけるかもと期待した私がバカだった。コラボなんて、するべきじゃなかった。
……メッセージアプリから通知が来てる。ええと、これは……社長からだ!
「面白い情報を収集できそうだ。すまない、コラボを続けてくれないか? 彼女の不思議な点について、問い詰めてくれると非常に助かる」
……社長からの命令じゃ、しょうがない。コラボを続けるしかないか。
……仕方ないわね。本当はこんな失礼な方と一緒に配信するなんて反対だけれど、楽しみにしてくれてくれる人たちもいることだし仕方なく続けてあげることにするわ。感謝しなさいよね、夜風リン