例えば君に好きな人、気になる人がいるとしよう。
その子が大変そうだったり、苛められていたりすると君は助けにいける人間だろうか。
俺は助けにいける人間でいたいと思う。悲しんでるなら側に居てあげたいし、苦しんでるなら手を差し出せる人間であろうとも思う。そして最後にその人が笑ってくれれば言うこと無しだ。
たとえその先の未来で自分が人間じゃなくなったとしても……
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王都十王学園。
俺が通うこの学園では、ちょっと気になる人がいる。
その人の名前はエンリさん。
青い長髪に赤い瞳が綺麗な女の子だ。
この学園は本当に美男美女ばかりであり、しかも大概が貴族様だから俺たち一部の庶民はちょっと大変な思いをしたりするのだが、それは今は置いといて。
個人的には一番可愛い人だなとは思ってる。でもそれが気になる人になった理由ではない。
実は彼女が声を出している所を見たことも無ければ、聞いたこともないのだ。
無口で無表情。そしてとっても物静かな子。それが俺から見たエンリさんだ。でも決して人付き合いが嫌いな訳ではなく、挨拶すればぺこりと会釈してくれるし、少なからず反応は返してくれる。
大抵の貴族様は庶民に話し掛けられるのは嫌ってるし、庶民だって貴族様を怒らせたくないから積極的に関わろうとはしない。俺は、まぁ、別に貴族様だから庶民だからと壁を作ったりはしてない。幸いなことに両親のおかげで頭の作りも悪くないし、運動能力だって負けてない。顔はまぁ……貴族様には遠く及ばない。仲が良い相手だって殆どいる訳じゃないが、それでもめげずに友達作りである。
そんなわけで、貴族様と関わっていくとある程度はどういう力関係なのか、どういう人間性なのかは朧気ながら見えてくるものだ。
そう、例えば大貴族であるホワイト家の娘、エマさんとエンリさんの関係とか。
「あっ!エンリちゃん!」
「……(ぺこり)」
俺の視線の先でエンリさんに笑顔で話し掛けに行ったあの黒髪の女の子がエマさん。彼女も例に埋もれず美少女で、可愛らしい笑顔や愛嬌で男子からも人気な女の子だ。もちろん俺から見ても可愛いとは思う。
しかしそれは外側だけであり、内側は結構黒い。
「ねぇ!ねぇねぇ!エンリちゃーん!ちょっとお願いがあるんだけど」
「……?」
「エンリちゃんってさー、今暇だよね?暇なんだよね?」
「……???」
「私今すごく忙しいの!だからこの教材とか道具を職員室にいるぺリア先生の所まで持っていってくれない?というか~、これ重くて私じゃ無理だからお願いね♪」
「……」
「それじゃあ~しっかり頼んだからね~♪」
「……」
ニコニコと上機嫌にエマさんは大量の荷物をエンリさんに押し付けていなくなっていった。
あぁいうところがエマさんにはあるんだよなぁ……。
言ってしまえば、エンリさんはエマさんに苛められている。エンリさん自身が物静かで、しかも自分の意見を強く言えないタイプの人柄だからエマさんに都合よく使われていると見える。
どう見たってエンリさんもエマさんと同じように力持ちには見えないし、オロオロしているエンリさんの腕も荷物の重さで震えているのがわかる。
チラホラと人の姿は見えるも、ここでタイミング良くエンリさんを助ける人もいない。それは彼女がクラスで浮いてしまっているからかもしれないし、大貴族であるエマさんに変に目をつけられないようエンリさんに関わらない人が大抵なのかもしれない。
エンリさんは結局誰にも助けを求めようともせず、震える手で荷物を抱えて職員室に向かおうとする。
……こういうことは見過ごせないよな。
「エンリさん、それ重いだろ?俺が持つよ」
「……?」
「ん?どうしてって顔か?そりゃ、女の子が持っていくような重さの物じゃないだろ。俺ならそれくらい余裕だしな」
「……」
「あぁ、まぁエマさんに目をつけられるのはちょっと面倒くさそうだけど。でもエンリさんも困ってたろ?人間誰しも助け合いが大切って親父に教え込まれてきたからな!」
「……(ふるふる)」
「はいはい、いいからいいから!よっと!」
エンリさんは無口だから会話は成り立たないが、なんとなく表情や雰囲気で何を言いたいのかは漠然とは伝わってくる。
多分エンリさん的には「どうして?」「エマさんに何か言われるかも」「私が運ぶから大丈夫」って所だと思われる。無論これは俺の予測であり、実際エンリさんが言いたい事はまた変わってくるのだろうが、ここは声を出さないエンリさんに悪いがそう解釈させてもらおう。
「こんくらいなら余裕だな。これは俺が運んどくから、エンリさんはエマさんにこれ以上厄介事を押し付けられる前に帰った方がいいぞ」
「……(ふるふる)」
「えーっと……多分だが、一緒に行くって言いたいのか?」
「……(こくり)」
俺の質問に頷いたエンリさんは、俺が持った荷物の半分くらいを持ち上げて視線で訴えてくる。
どうやら俺が考えてた以上にエンリさんは責任感が強く、そして優しいらしい。
こんな良い子が苛められるのは心苦しいものがあるが、残念ながら俺は庶民で相手は大貴族だ。流石に大貴族相手に下手なことは出来ない。
だから別角度からのアプローチ。
「…なぁ、エンリさん」
「……?」
「もし良ければ、俺と友達になってくれない?残念ながら他の貴族様は庶民に少し厳しくてさ。友達作ろうにも向こうから拒否されるんだよ……話を聞いてくれるのなんてオリバーくらいさ……」
「……??」
「もちろん。エンリさんが嫌じゃなければ」
「……(こくり)」
「ほんとに?やったぜ!これでまた一人友達ゲット!じゃあこれから宜しくな、エンリさん!」
「……(こくこく)」
気になるあの子とお友達成立である。
これでエマさんに目をつけられる可能性はグッと上がったが、少なくとも俺がエンリさんに話し掛けていけばクラスでも彼女は多少浮かなくて済むかもしれない。
エンリさんは無口で無表情だけど、よくみれば少しの表情変化は顔に出ているし話が通じない訳でもない。
何より、エンリさんからほんの少しだけポワッとした雰囲気を感じる。きっとエンリさんが喜んでくれてるのだと信じたい。目指せ苛め撲滅。腹黒貴族様なんかには屈しない。
「うっし!じゃあささっとこの荷物を先生のとこに届けて、少しだけ遊びにいこうぜ。最近出来た雑貨店が気になっててさ。妹にも下見を頼まれてるし、エンリさんもいい?」
「……(こくり)」
「おっけー!楽しみだなぁ」
「……」
二人で並んで廊下を歩く。
思いがけない場面に遭遇してしまったが、結果的にエンリさんと友達になれたし、友達と遊びに行くことも出来る。これで両親や妹から友達いない説も取っ払うことが出来る!
あの腹黒貴族様には今回だけは感謝することにしよう。
ありがとうエマさん。おかげでエンリさんと友達になれました。
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───後にこのことが俺にとっての幸せの始まりであり、しかし絶望への始まりでもあったことをこの時の俺は知る術もない。
セドリック・アンバー
本作の主人公。
庶民ではあるが貴族相手にも臆せず対応する良くも悪くも度胸がある人間。しかしその態度故か貴族とは殆ど上手くやれず、友達が非常に少ない。
頭の回転は良く、運動能力も高いが顔は普通。
両親と妹の四人暮らしであり、妹のお願いを断れないタイプ。
同じクラスのエンリさんが気になっている。