2人分の武器が手に入ったとはいえ、これだけの大きさだとまたロープを登って戻るのは無理だ。
エンリさんは斧と鉈で、俺は大鉈と包丁だし。ワンチャン俺は大鉈の柄に長い鎖が付いてるからそれで背負えるけど、エンリさんはそうもいかない。
となればもう片方の道、赤い線が張られた方に行くしかない訳だが……次はなんの罠が動くのか検討もつかない。
パスワードまで掛けて保管してたくらいの場所だし、侵入者対策にこの通路全体を押し潰すような罠が無いとも限らない。
しかし作動させるためのものもないし、本当に通路全体を押し潰す罠だったらどこにいてもアウトだ。
「仕方ない。覚悟決めて突っ切るか」
「……」
エンリさんが無言で俺の隣に立ち、俺に顔を向ける。
その目は「私も一緒に行く」と雄弁に語っている。まぁそうだよね。今のエンリさんも結構覚悟がキマってるというか、俺が死ぬ時は一緒に死ぬって想いがひしひしと伝わってるんだよな。どうしてこんなことに……
「俺が先に……って言いたいところだけど、もしまた押し潰す系の罠ならどのみち逃げられないしな。エンリさん、一緒に行ってくれるか?」
「……(こくり)」
即決するエンリさんに苦笑すると、せーのっ、と声掛けして一緒に赤い線へと踏み出した。もう聞きなれた反応音が耳に入り反射的に上を見る。しかし意外なことにこちらを害する罠の様子は無く、後ろから扉が閉まる音とカチャっという音が聞こえてきただけだった。
振り向けば先程パスワードを入力した場所へ続く通路が閉じられている。幸運なことに、どうやらあの先に行かせないように設定されていた罠だったみたいだ。
無意識に流れていた汗を拭い階段を登ってシャッターの前まで戻ってきた。結構時間が掛かったからいつ殺人鬼と再開してもおかしくはない。今のうちに抜けて行けるならさっさと行ってしまいたい。
「ここは……レバーと、スイッチ?何をすればいいんだ?」
「……」
「そうだね。先に進めるかどうかを確かめてみよう」
念の為に先に進めるかどうか確認してみたが、この部屋でなにか謎を解かないと進めないみたいだ。
ここにあるのはレバーが3つと、反対側にスイッチが同じく3つ。
試しにレバーを1つ引いてみるが特に変わったところはない。反対側でエンリさんがスイッチをぽちぽちと押しているがあちらも反応なし。
となるとこのレバーとスイッチは一緒に動作させないとダメってことか?
今度はレバーを引いてからエンリさんにスイッチを押してもらえばカチッという音がした。なるほど、つまりレバーを引いて対面のスイッチを押すことで鍵を開けられる仕組みか。1人だったらレバーを引いて走ってを繰り返さないといけないところだったな。
仕組みが分かれば後は楽で、残る2つもパパっと作動させればすぐに扉の鍵は解除された。拍子抜けするほどにスムーズな流れはありがたいが、こういう時は大抵ろくなことにならない。
第六感が急げと告げてきているし、足早でここから出ようと扉をくぐった瞬間。
嫌な足音がこちらに近づいてくる音が聞こえた。エンリさんもその音は聞こえたようで、表情は険しい。多分俺の足の事を考えて戦うかどうかを考えてるのかもしれない。
「エンリさん、走るぞ」
「ッ……」
「いや、いける。信じてくれ…頼む」
「……(こくり)」
「っ!よし!行くぞ!」
心配してくれるエンリさんの目を逸らさず見つめ続ければこちらの本気を悟ってくれて頷いてくれたので、体に喝を入れて2人揃って走り出す。多分この先にここから脱出するための移動手段があるはずだ。
考えてみれば、俺たちが最初に落ちてきた第2処理場はこの建物の中でも最深部である可能性が高い。初めて見た時にこの建物にそこまでの奥行を感じなかったし、おそらく構造的には縦長だと思われる。じゃあこの深い場所を全て徒歩で移動するのかと考えるとあまりにも効率が悪い。ここまで人を大量に殺せるような場所で、見たこともないものが沢山ある場所だ。移動する時間を効率化させるためのものがあってもおかしくない。
そして思い出すのは初めて建物に入った時に確認した両側の扉。もしあれが地下と地上を繋ぐための移動手段だったなら?それならば殺人鬼がこの深い地下にすぐ移動してこれたことが納得出来る。
ここまでの道程ではそういった移動手段は確認できなかった。ということは今なお進み続けているこの先にそれがある可能性が最も高い。それを向こうも理解しているからこそ、ここら辺で張っていたんだろう。
「エンリさん!もしかしたらこの先に逃げ込める場所があるかもしれない!」
「……!」
「追いついてきたか…っ!」
後ろから殺人鬼が追いついてきているのが気配で分かる。
ここで追跡を振り切れないと流石に厳しい!なにか足止め出来そうなものはないか!?
視界を素早く動かせば、俺たちが走ってる正面の壁にレバーが取り付けられているのが見えた。次にサッと見渡せば少し狭い壁配置。もしかしたらこれなら!
「エンリさんっ!正面のレバーを引け!!多分それが扉を作動させるレバーだ!」
「ッ……!」
「頼んだっ!これで3度目だなぁ殺人鬼!!」
先頭を走る抜けるエンリさんにレバーを任せ、振り返って大鉈を振り抜く。遠心力を利用した横振りは殺人鬼に防がれたが、その重さと威力で殺人鬼を後方に吹き飛ばすのに成功した!
少しだけ距離を稼いだのを確認して、道を駆け抜ける。エンリさんが俺が抜けたのを見てレバーを引けば俺たちと殺人鬼を分断するように扉が閉まる。一先ずこれで時間が稼げる。
そのまま先に走ると今日一番の頑丈そうな扉があり、その脇にレバーがある。エンリさんが駆け寄ってレバーを引けば扉の上のランプが青く点灯する。青い光は1個ずつ順番に点灯していることから、ここが開くのに少し時間が掛かるみたいだ。
遠くから扉を激しく殴りつける音が継続的に聞こえてくる。奴が扉を破壊しようとあの怪力で殴り壊そうとしてるんだろう。
大鉈を振った反動で血が吹き出した足を抑えて扉が開くのを待つ。俺もエンリさんも背中を嫌な汗が伝う。
間に合え……頼むぞ……!
そうしてランプの光が残り1つになった時、扉が破壊される音が聞こえた。怒り狂ったような荒々しい足音が凄い速度で迫ってきている。エンリさんが俺を庇うように前に出て、斧を構える。もし間に合わなかったらエンリさんが時間を稼ぐつもりのようだ。
扉が開く前に殺人鬼の姿が見えた。奴もこちらを視認するとそのままの勢いで駆けてくる。と、同時。後ろからピコンと軽い音がして扉が開いた!
「飛び込めっ!」
「……!!」
「■■■■■■!!」
俺は先に中に転がり込むと目の前のレバーを掴み、エンリさんが飛び込んで来るのを見てからレバーを引く。すると扉が閉まっていき殺人鬼が飛び込んで来るよりも早く閉じきってくれた。
間一髪だった……!!反応が遅れてたら殺されてたぞ……!
中は行き止まりだったが、全体が揺れ始めて動き出したのがわかった。感覚的に上に登っているのだろう。やっぱり一気に移動する手段があったか……。
「いっつ……ごめんエンリさん。ちょっとここ縛り直してもらえるか?」
「……(こくこく)」
「手間かけるね…助かるよ」
そろそろ本気でヤバくなってきたな。少し吐き気もしてきた。疲労のせいか眠気もある。
寄りかかるように大鉈に凭れかかれば、大鉈に少し亀裂が走ってるのに気付いた。
マジか……どんだけ硬いんだよあいつ……!いや、この大鉈が意外と脆いのか?
そう考えれば耳をつんざく程のノイズ音がまるで抗議してるかのように頭に響いた。
いて!いてて!うるさいっ!!ほんとになんなんだこれは!?
武器のくせにおかしいことばっかりじゃないか!!
あまりのノイズ音に頭を抑えていると、ふと視線を感じた。見れば縛り直してくれたエンリさんが俺を心配する目で覗き込んでいた。流石にノイズ音の事を言っても通じないと思うので適当に誤魔化しておいた。
「……ん?振動が止まった……着いたのか。お、開いた」
「……」
「うーん、まだ外じゃないのか……でもここまで登ってこれたって事は地上は近いはずだ」
「……?」
「ん?やべ!」
部屋から出て少し落胆していると、エンリさんが横にあったレバーを見た。俺もつられてレバーを見ればレバーが動こうとしてる。奴もこれで上がってこようとしてるってことか!
急いでレバーを抑えるがレバーが止まる様子はない。使えなくするなら1発壊すしかないかっ!
「エンリさん下がって!」
「……」
「こいつなら、壊せるだろっ!ふんっ!」
大鉈をレバーに叩きつければ派手な破壊音と共にレバーと大鉈が壊れた。やっぱり大鉈も限界だったらしい。でも命を救ってくれたことは感謝だ。ありがとうよ、大鉈。
「これでまた時間は稼げるだろ…でも流石に別の移動手段もありそうだし、すぐにここから離れよう」
「……」
もうすぐここから脱出できる。そんな希望を抱きつつ俺たちは先を急いで歩きだした。