奈落の赤鬼   作:黒三葉サンダー

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パート4

エマさんに誘われた当日。

やむを得ずついていく事にしたとは言え、エンリさんにガッカリはされたくない為に身嗜みを整えお気に入りのコートを羽織る。最終チェックをしていると、とてとてと足音が聞こえてきた。

 

「おにぃ!今から出掛けるの?なんか気合い入ってるね」

「あぁうん。ちょっとエマさん達に誘われてな。あんまり時間は掛からないとは思うけど…」

「えー…エマさんってエンリさんの天敵じゃん。おにぃ、流石に引くわ…」

「待て待て待て!何に引いてるかは大体察しつくけど、俺とエマさんはそんな関係じゃないからな!?エンリさんだけじゃ心配だから俺もついていくんだよ」

「冗談だよ。そもそもおにぃがそこまでお洒落に拘る相手なんてエンリさんくらいだもんね」

「ぐっ、まぁ…分かればよろしい」

 

俺の慌てようを面白がってカラカラと笑っているのはエリナ。1つ下の妹であり、このように兄で遊んで楽しむような小悪魔に育ってしまった。それでも可愛い妹である事には変わらないので良しとする。

 

そんなエリナだが、この前エンリさんと引き合わせてみたところ一目で「可愛い!!ちょー美人!!」とエンリさんに懐いてしまい俺が話に置いてきぼりにされた。

それ以来エリナからは事あるごとにエンリさんを家に連れてこいとせがまれており、両親もエンリさんを気に入ったのか「また連れてこないのかい?いつでも歓迎するよ」と言われる始末。下手すると俺以上の反応を起こしている家族に小っ恥ずかしい気分だ。

幸いなのはエンリさんは嫌がってる様子は見られず、むしろ好意的に受け止めてくれているようだ。

 

「それで?エマさん達と何処にいくの?両手に花状態でさ」

「言っとくけど俺の他にも男はあと二人いるからな。ほら、なんか最近噂になってるあれだ。奈落だっけか?あれの噂の真実を確めに行くんだと。本当はエンリさんだけが誘われたんだけど、俺も無理矢理ついてくことにした」

「えっ…奈落ってすっごくヤバイ噂じゃなかった?遊び半分で行っていい場所じゃないって!やめようよおにぃ!」

「俺もやめたいけどね。でもエンリさんは放っておけないし、一応エマさんも友達だからさ。ヤバそうだったらすぐ帰ってくるよ」

 

目的地の話をすれば途端に不安そうに顔をしかめるエリナを安心させる為に頭を撫でてやると、大人しく撫で回されながらも小さく「…うん」と返してくれる。

 

「それじゃ行ってくる。エリナも出掛けるなら気を付けろよ」

「うん。行ってらっしゃい。今日の晩御飯はおにぃの大好きなハンバーグだってママが言ってたよ!だから、なるべく早く帰ってきてね。あ!なんだったらエンリさんも一緒でいいからね!」

「はいはい、帰りに聞いてみるよ。じゃあな」

 

ツインテールをフリフリと揺らしながら期待しているらしいエリナに笑いかけ、家を出る。

少し時間が経ってしまったけど、もう既に集まってるだろうか。遅れたらオリバーはともかくルーカスには何か言われそうだな。

変に何か言われるのも嫌なので軽く走って集合場所へ向かおう。

 

 

 

 

集合場所には既に全員集まっており、どうやら全員同じくらいに集合出来たようなので何も言われることなく森の中を五人で進む。噂の奈落と呼ばれる建物は町から少し外れた場所にあるらしい。

 

しばらく歩くと木々に囲まれるようにひっそりと佇む建物を発見した。森の中には不釣り合いなそれは謎の威圧感が漂っており、中に入るのが躊躇われる。

それを他の面々も感じ取っているのか、心なしか空気が少し重い。

 

「これが例の噂の建物か…いい結構雰囲気出てるじゃん…!」

「あぁ…それで、来たのは良いがどうするんだ?」

「どうするって……」

 

建物の雰囲気に呑まれ若干声を震わせながらも発言するルーカスにどうするか促すも言葉につまるルーカス。

正直このまま帰ると言ってくれれば解決だが……もちろんそんなことエマさんが許すわけないわけで。

 

「ルーカス君…私、怖ーい…」

「大丈夫だって皆いるんだから」

「ルーカス君…何か出たら…私の事、守ってね」

「あ…あぁ…もちろんだ!」

「えへへ…ルーカス君、ありがとね♪」

「でだ、セドリックも言ってたがどうする…?全員で中に入って確認するか?」

 

哀れルーカス…顔がひきつってる所を見るに帰りたいけどエマさんの発言で帰るに帰れない状況へと変わってしまったらしい。

そんなルーカスを他所に辺りを見回していたオリバーが

全員で入るかを提案するが、エマが首を横に振った。

 

「全員で入るのは止めておいた方が良いと思うな」

「なんでだ?」

「だって、ホラーの小説でもよくあるじゃん。全員で入ったら閉じ込められるとか」

「あぁ!確かにそれはよく聞くな~、エマ偉いな!」

「えへへ…」

「じゃあ、どうする?」

「一人だけ建物の中に入って調べるって言うのはどうかな?」

 

一瞬だけエマさんが俺の隣で静観しているエンリをチラ見すると、そう提案した。

なるほど、やっぱり彼女はこの為にエンリさんを誘ったか。着いてきて正解だった。

 

「お、俺は後ろの安全を確認しないといけないから俺以外だな!」

「私も…ちょっと…」

「はぁ…じゃあ行くのは俺かセドリックか…」

「俺が行く。女の子を行かせる訳にもいかないし、俺なら何かいてもすぐ逃げ切れる。ルーカスとオリバーはエマさんとエンリさんを頼む」

「え、セドリック君?」

「わ…悪いなセドリック!ここは任せとけ!」

「…いいのか?セドリック。無理するなよ?俺、護身用に鉈持ってきたんだけどいるか?」

「大丈夫。少し確認したらすぐ戻るよ」

 

目論みを出鼻から挫かれたエマさんの困惑顔に少しスッキリした。本来ならエンリさんに行かせようとしてたんだろうけど、こういう所に女の子一人だけ向かわせるなんて流石に俺も引く。

心配するオリバーに軽く笑いながら声をかけ、建物の前に立つ。

正直中に入るなんてリスクのある行動を取りたくないが、エンリさんの代わりになれるなら喜んで入ってやる。

ごくりと唾を飲み込んで、建物に足を踏み入れようと前に進もうとすると後ろから控えめに服を引っ張られる感覚がした。その慣れ親しんだ感覚に従い後ろを向けば、すぐ後ろでエンリさんがやはり俺の服を掴んでこちらを上目遣いで見上げていた。

 

「…えっと、エンリさん?どうした?」

「…」

「もしかして…一緒に行くって言ってる?」

「…(こくり)」

 

エンリさんの上目遣いに内心ドキドキしながらも、もしやと思い聞いてみればエンリさんは首を縦に振った。

…うーん。いや、エンリさんの申し出は凄く嬉しいしこんな場所でも魅力的なことなんだけども。

噂とは言え危ない所にエンリさんを連れていくのは気が引けるのもある。

 

「俺はエンリさんに待ってて欲しいんだけど…」

「…(ふるふる)」

「すぐ戻ってくるから」

「…(じーっ)」

「……わかった。わかったから!でも俺の側からあまり離れないでくれよ」

「…(こくこく)」

 

エンリさんの熱い「連れていけ」という視線に負け、側から離れないことを約束してもらい二人で建物の中へと足を踏み入れた。

後ろから刺さるエマさんの視線に気付かずに。

 

 

 

 

 

───────

───

 

 

 

 

 

建物の中に入ると部屋の中央に巨大な穴が空いており、その両側に扉のようなものが見える。

その不自然なまでに大きい穴からいやに不快に感じる臭いが鼻をつく。

 

「なんだここ…それにこの臭いはなんだ?」

「…」

「エンリさん?どうした…ってえぇ!?ちょっ!」

 

 

エンリさんは辺りをキョロキョロと見回してから、おもむろに青紫のドレスを脱ぎ始めたので慌てて背を向けて見ないようにする。

シュルシュルとドレスを脱ぐ艶かしい音が耳に入り激しく心臓が鳴り続ける。

 

「…(くいくい)」

「えっと…終わったのか?振り返って大丈夫?」

「…(くいくい)」

「…はぁぁぁぁ。いきなり脱ぎださないでくれよエンリさん…」

「…」

 

しばらくすると脱ぎ終わったのかエンリさんが服を引っ張って来たので恐る恐る振り返れば、灰色のワンピース姿になったエンリさんがおり、その顔は少し赤くなっていた。

脱ぎだした理由を問えば、部屋の端に綺麗に畳まれた青紫のドレスが置いてあり汚したく無いから脱いだということらしい。だからと言って異性の側で脱がないで欲しい。

 

「…?」

「あぁ。何の為の穴なんだろうな。何かを投げ入れる為とか?」

「…??」

「いや、俺も何を入れるかまでは分からないし適当に言ってるだけだから…」

 

一旦落ち着いてから二人で巨大な穴を覗き込むが、穴の先は真っ暗で何も見えない。しかし穴に近づけば最初に感じた異臭が強くなっているのは確かだ。両側のドアらしき所から入れば確認出来るかもしれないが、直感的にすぐ戻るべきだと感じる。

元々サクッと確認して戻る予定だったし、長居するべきではないのは分かったのでエンリさんを連れて帰ろうとした時だった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

「「!?」」

 

今の悲鳴はエマさんのだ!!

エンリさんと顔を合わせ、急いで外へと向かおうとすると慌てた様子でオリバーが建物の中へと走って逃げてきていた。オリバーの顔はまるで化け物にあったかのように真っ青になっていた。

 

「オリバー!!さっきの悲鳴はなんだ!?エマさんとルーカスはどうした!?」

「くっ!二人とも今すぐ隠れるんだ!!ヤツが来る!!早く!!」

「ヤツってなん……だ……」

「!?」

 

顔色の悪いオリバーに呑気に状況を聞いている場合じゃなかった。

彼の後ろからドスドスと走りながら赤く光る凶器を振りかざそうとしている大男の姿があった。

 

(まさか噂の巨人か!?あの噂は本当だったのか!?あぁくそ!!とにかくエンリさんだけでも逃がさなきゃ!!)

 

混乱し始める脳と強張る体を無理矢理動かして退路を探すが、出入り口は巨人の後ろだ。かといって穴の両側にあるドアに行こうにも開く確証はなく、開かなければその時点で全員終わりだ。

 

…いや、俺が一瞬でも時間を稼げればその隙にエンリさんとオリバーを逃がせる───

 

「…!!(ふるふる)」

「……くっ!」

 

ふとそんな思考をしながらエンリさんに視線を向ければ、思考読み取ったのかエンリさんは激しく首を横に振った。駄目だ。この調子じゃたとえ一瞬の隙が出来てもエンリさんは俺を見捨てる選択をしてくれない。

もっと!もっとだ!もっと考えろよセドリック!!

 

「く…くそっ!エンリちゃん!セドリック!俺を恨んでいい!ごめんっ!」

「はっ…?」

「!?」

 

ドンっ!という音と共に体に衝撃が走り、遅れて何が起こったのか理解した。

オリバーが俺とエンリさんを穴の下へと突き落としたのだ。穴は深そうだが奇跡的に運が良ければ俺たちは助かるかもしれない。

だがオリバーはそうではない。

 

 

 

 

 

 

「……!!オリバー!!!!」

「エンリちゃんを守れよ、セドリック」

「この……馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

凄い速さで落ちていく俺が見たのは全てを諦めたように、だけど満足気に笑うオリバーとすぐ後ろで凶器を構えた巨人の姿だった。これからオリバーがどうなるかは想像に容易い。

ヤツの太い腕がオリバーを掴み、そのまま引っ張られたのか姿を消してしまった。

もうオリバーを助けることは、出来ない。

でも、俺にはまだ絶対に守らなきゃいけない人が隣にいる。

 

「エンリさん!!手を伸ばせ!!こっちに!!」

「!!」

 

自分の判断の遅さを憎みながらも、一緒に落下しているエンリさんに必死に手を伸ばし、同じく手を伸ばしてくれたエンリさんを掴んで抱き寄せる。そして自分の体をなるべくエンリさんの下へと持っていく。

この子だけは。エンリさんだけは俺の命に変えても絶対に死なせない。死なせてたまるもんか!

 

「…!!…!!」

「大丈夫。エンリさんだけでも守るよ。絶対に」

「!?…!!」

 

何かを悟ったのか、エンリさんは涙を流しながら俺から離れようとするが生憎と離してあげられない。衝撃を緩和させる手段はこれしか思い付かなかったから。

 

(あぁ、エンリさんと過ごせるのもこれで最後か。もっと一緒にいたかったな…。また、笑った顔が見たかったな)

 

腕の中に収まる彼女をギュッと抱きしめ、来る衝撃に備える。なんとなくだけど、分かる。そろそろだ。

最後にエンリさんに視線を合わせ、安心させるように微笑み、そして……

 

 

 

 

 

 

ぐしゃっ、と肉が潰れる音が響いた。

 

 

 

 

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