奈落の赤鬼   作:黒三葉サンダー

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チョコチョコカイテクヨ


パート6

 

扉の鍵を壊して階段を登る。やはりところどころにベッタリと黒く滲んだ血痕が至る所に付着している所を見るに、ここは奴が人を殺すために利用している施設なのだろう。

俺たちのように逃げる人間を追いかけて殺すのが好きなのか、はたまた殺せれば何でもいいのか。

どこまで考えたところで殺人鬼の考えなど理解出来ない。

ただ、一刻も早くこの地獄のような場所からエンリさんを連れ出したかった。

 

引き続き奴と遭遇しないように細心の注意を心掛けながら進むと、何やら紙が落ちていることに気付いた。こんな場所に落ちてる紙なんて何か書いてあっても血濡れで読めたものではないと思ったが、いざ拾い上げてみれば不自然に真新しい紙だ。

…こんな所で血にも濡れずに?

 

「なんだこれ…やけに新しい紙だな。それにパスワード……”ヤ”?なんでこんなものがここに…」

「……」

「ん、そうだね。一応持っておこう。もしかしたら脱出するための糸口になるかもしれない」

 

 

何か引っ掛かりを感じながらもそのメモを折り畳んでポケットに突っ込んで、再び奥へ進む。時折ぴちゃりと靴底を打つ血の音と粘り着くような感触に不快感を得ながら曲がり角を確認する。

…とりあえずはまだ安全らしい。いつ遭遇するか分からないストレスは酷く体力を消耗させられる。それを実感する嫌な時間だった。

 

通路の端に転がる肉塊のようなものを極力視界から外しながら様子を伺うと、少し広けた場所へと出た。

左側には重厚なシャッターと大きな箱みたいな台座、奥に通路が続いておりその手前右側にも通路があるようだ。しかし奥と右側の通路は大量の血で飾られている。一旦すぐ側の壁に案内が書かれていたので確認する。

 

「…”第2処理場”か。俺たちが落ちてきた場所のことだよな」

「……(こくり)」

「奥側と右側は嫌な感じがするし、先に左側を調べてみよう」

「……」

 

二人でシャッターの前に行き確認する。見たところ取っ手のようなものはなく、軽く持ち上げてみたりしたもののビクともしない。少し叩いてもみたが重苦しい音がなるばかりで、とても蹴破れるような感じはしない。

となると、なにか開ける方法があるはずだが……

 

「……(くいくい)」

「エンリさん?なにか分かった?」

「……(すっ)」

「あれは……」

 

エンリさんに裾を引かれ、彼女が指差した場所にあるのは大きな箱みたいな台座だ。その横には何かのスイッチがある。試しにスイッチを押してみるとカチッという軽快な音がして隣の台座にほんのりと赤い光が溢れる。どうやらこれは台座というより大型の機械らしい。二人で調べてみると、何かを嵌めるような穴が2つ空いている。

 

「これ鍵穴っぽいな。2つ揃えばシャッターが開く仕組みってことか」

「……?」

「そうだな。ここに来る途中には鍵なんて見つからなかったし、そもそも一本道だった。それにこの施設があの殺人鬼のものなら、そもそもここを開けるための鍵なんて自分で持ってるだろうし…」

「……」

「うん。とにかくここは今はどうしようもないし、奥の通路も見てみよう。案外別のルートがあるかも」

「……(こくり)」

 

我ながら楽観思考だが、そうとでも考えなければ気が滅入る。なによりエンリさんを不安な気持ちにさせたくない。だから今は努めて明るく振るまう。

奥の通路付近へ行くとさっき見かけた案内と同じものが目に留まる。書かれていたのは”第1処理場”と”第2処理場”の2つ。

第1処理場の案内を指す矢印は通路の奥に向けられているので、右側の通路が第2処理場へ繋がっているのだろう。

 

確かに思い出してみれば第2処理場からは階段を登ってきたし、第2処理場の中では上に血が滴る穴があった。あれは死体を投げ込むための穴だったんだろう。

ということは右側の通路はその穴に向かう道だということか。

 

「…ここは奥の第1処理場に行ってみよう。もしかしたらまたパスワードの紙とかあるかもしれない」

「……」

「鍵があるならあるでラッキーってことで。あとは身を守るためのものもほしい」

「……」

 

軽口を叩きながら二人で歩いていく。第1処理場までの道はそこまで長くはないみたいで、すぐに辿り着いた。

着いたけど……そこで問題が発生していた。

 

俺たちの目の前には大きく反り立つ壁があり、行き止まりだったのだ。

 

ここまで来て行き止まりとかマジか、と思いつつ調べてみるとこれはただの壁じゃなくて大きな肉の塊。文字通り肉壁であることが判明した。

流石にこんな不衛生かつ気持ちの悪いものに進んで触れたり蹴ったりしたいとは思わない。ともすればこの肉壁を壊すための道具が必要だ。ここまでの間に何か見つけれそうなのは第2処理場だけど…何かあるだろうか。

 

「…だめだ。流石に触りたくないなこれ。下手に触って変な病気に掛かったりなんかしたら終わりだ。何かこの肉壁を壊せるような道具を探そう」

「……?」

「俺も同じこと考えた。というより何か見つけれそうなのは第2処理場だけだね。せっかくだからさっきの通路で第2処理場に行こう。多分その先は第2処理場へ落ちるための穴だろうから、上から探せるかも」

「……(こくり)」

 

エンリさんも同じことを考えていたので、サクッと第2処理場の方へ向かうと通路の先にはやはり大きめの穴が空いていた。読み通りここからなら第2処理場の中をよく見渡せそうだ。

……わかってはいたけど至る所に死体の山が積み上げられており見ていて気分のいいものではない。目を凝らして血の海から使えそうなものを探していると、一瞬なにやら光るものが見えた気がした。

 

「今なにか光ったような。確かあそこらへん……ってぇ!!」

「……!?」

「うわぁぁぁぁ!いだっ!」

 

夢中になって探していたせいで足下の注意が疎かになっていた俺は足を滑らせて第2処理場へと滑り落ちて背中を打ち付けた。

いくら下が死体の山だからといって死にはしなくとも痛いものは痛いのだ。

強かに打ち付けた背中と腰を擦りながら、とりあえずエンリさんに無事を伝えようと上を見上げると迷いなくこちらへと滑り落ちてくるエンリさんの姿があった。

 

「え!?ちょっ!!あぶっ!!」

「……っ!」

「ふっ!…ととっ。ふぅ……ギリギリセーフ…」

 

まさか自分から降りてくるとは思わず突如滑り落ちてくるエンリさんに慌てるものの、しっかりと受け止めることに成功した。

エンリさんは線が細いとは思っていたけど、驚く程に軽いので結構余裕で受け止めれて助かった。

それにしてもすっぽりと腕の中に収まっている。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。こちらを見てくるエンリさんの瞳は僅かに揺れていた。

 

「いきなり落ちてくるのはやめてくれよエンリさん…心臓が止まるかと思った。というかもうしないでくれよ…」

「……(ぎゅっ)」

「……あー…もしかして1回目のこと思い出しちゃった?だとしたらごめんね。まさか滑るとは思ってなくてさ…今度からはもっと気をつけるよ」

「……(こくり)」

 

なんでいきなり滑り落ちてきたのかと思ったけど、どうやら初めてここに落下した時の事がフラッシュバックしたみたいだ。それで慌てて落ちてきたってことか。

……うん、もしかしたらエンリさんの中で軽くトラウマになってるかも。元々今回は俺の不注意のせいだし、そのせいでエンリさんまで危険な目に合わせるなんて以ての外だ。ちゃんと反省しよう。あと出来ればトラウマも払拭したいところだ。というかしないと。

 

 

「あ、そうだ。そういえば上から見た時に何か光るものがあったんだ。ちょうどこの辺りのはずなんだけど…」

「……」

「ありがとう。助かるよ」

 

抱っこしていたエンリさんをゆっくり下ろしてから二人で協力して足元を探る。役立つものなら嬉しいんだけど……どこだろうか?ここら辺のはずだが上から見たのと近くで見るのとだと意外と探すのが難しい。

靴で死体を避けながら探していると、エンリさんに裾を引かれた。こちらに差し出すように伸ばされたその手には緑色の鍵が乗せられている。

 

「お!この鍵ってもしかしてあのシャッターを動かすための鍵かな?見つかったのは嬉しいけどなんでこんな場所に……死体を投げ込む時に誤って一緒に投げたとか?」

「……」

「うーん……どうにも作為的なものを感じる気がするんだ。都合よく動かされているというか、誘導されているというか。不気味な感覚だ…」

「……?」

「いや、あの殺人鬼がそこまで立ち回るような相手にも思えなかったけど…でも用心しておこう。欲を言えばもうひとつの鍵も見つかって欲しいけど──」

 

エンリさんとこの流れについて相談していたその時。

 

 

 

 

 

───ドサッ!グチャッ!

 

 

 

 

「「!?」」

 

俺たちの後ろ側…少し離れた場所から嫌な音が聞こえてきた。

妙に生々しく、まるで肉と肉がぶつかるような粘着質な音。

そんな音がここから聞こえたということはおそらく……死体。

そしてそんなものが投げ込まれたということは犠牲者が出たということ。

 

最悪な結末が頭から離れない。だってそうだろ?

俺たちはついさっき殺人鬼に襲われたばかりだ。その上で現状無事だとわかってるのは俺とエンリさんの二人だけ。

となれば……残るのは三人。

 

本能が、頭が後ろを振り向くなと告げる。心臓が痛いほど跳ね、息も次第に荒くなる。

見ちゃダメだ。理解しちゃダメだ。まだ、もしかしたら。

そう考えながらも、俺の体は…顔は音のなった方へと向けられ……そして………

 

 

 

 

────誰のものか判別できない程にグチャグチャにされた肉塊の、かろうじて残っていた手に握られているのは見覚えのある鉈だった

 

 

 

……あ、あぁ………あぁぁぁ……!!

 

 

 

 

俺はその時理解した。それが誰のものであったのか。

理解してしまったのだ。

 

 

 

 

「……オリバー……オリバァァァァァァ!!」

 

 

 

俺の友達が、俺たちを助けてくれた友達の命が……目の前で失われたことを。

 

 

 




オリバー

セドリックの数少ない友達であり貴族。
大概の貴族は傲慢で平民に対して当たりが強かったり見下したりしているが、彼だけは平民であるセドリックと友達として対等に接していた。また気配りにも長けており、奈落への探索にエンリが選ばれた時は本人のことを気にしたりセドリックに護身用の鉈を渡そうとしたりと、彼自身の優しさが感じられる。
大穴へと2人を突き落としたものの、セドリックとエンリの命を救ったのは間違いなく彼だろう。
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