一応この話の時間軸は前回(もうひとりの王族妖精-2)で言及していた『一人遠征』よりも前
道化茶会-1
書類仕事に飽きたロキの一言から始まった。
「せや、ちょうどおらんし休憩がてら昔の話でもせん?」
遠征関係の書類を消化している時、休憩にと手を止めた3人と1柱。
優雅にティータイムと洒落込みながら出会った頃に思いを馳せる。
シグが出掛けている隙に。
「どう思っているか、か……初めて会った時は本当に同胞、それも同じハイエルフなのかと疑問に思ったというのが正直なところだ」
最初に口を開いたのはリヴェリアだった。
シグの第一印象についてそう答えたリヴェリアは手に持っていたカップを口に付け、湯気の立つ紅茶を一口飲むと言葉を紡ぐ。
「あいつのことは知っていた、いや話には聞かされていたといったほうが正しいかもしれないな。ラキアによる侵攻で滅びた聖地、精霊の王が下界に降り立った最初の場所─ユグドラシルの森を治める王族、その唯一の生き残りの話を」
「お前達も知っているだろうが、ラキアによって大小多くのエルフの森が焼かれ、数多の同胞が死んでいった。数百年も昔の話だ、お前達からすれば先祖の話だと思うだろうが我々からすれば親や祖父母の時代、ラキアを、クロッゾを恨んでいる者も多い」
カップに口を付けながら出会った当時の、ボサボサで艶のないくすんだ髪、光の宿っていない幽鬼のような深紅の瞳、全てを呪い殺さんとする目つき、リヴェリアは頭の中で昔のシグの姿を思い出しながら続ける。
「ましてあいつは当事者、目の前で導くべき民が惨殺され、守るべき森が焼かれ、自分を守ろうとしたが為に家族を、親を、姉を失った。何より自分自身囚われの身となり辱められ──全てを奪われた。死を選ばず生きていることが奇跡とすら思えるほどに」
この場にいる3人と1柱はシグ本人から全ての事情を聞いている、聞いたことを後悔する程に凄惨な過去を。だからこそリヴェリアは自分がまだ里にいた頃に聞いた話をそのまま口にする。
「最初は哀れみからだったのは確かだ。ロキの眷属として、何よりも同胞の、同じハイエルフであるシグの助けになればと。まぁ、差し伸べた手は振り払われて見事に拒絶されてしまったがな」
目を閉じ、今思い出してもあの頃の私は中々に愚かだったとため息をつくように小さく呟く。
「百年以上経っていたあの頃でもあいつにとって家族というのはラキアに殺された両親と姉、それに里の同胞だけだった。前の主神のことはそれなりに信頼していたようだが……少なくとも私達のことはなんとも思っていないようだった。ロキについては前の主神に頼まれた手前何かしら思うことがあったらしいが私には分からない。ただ私達の中で最も敵視されていたのは間違いなく私だった」
自らの意思で出奔し、里を、立場を捨てた王族、リヴェリア。方や他人に里を、民を、家族を、何より自分自身を踏み躙られ、全てを奪われた王族、シグルーン。
奪われたシグが自ら捨てたリヴェリアのことを忌み嫌うのは当然だった。
しかしそれも過去のこと、ファミリア結成以来数十年一緒に過ごしてきて少しずつ関係はよくなってきた、今では見る者が見れば姉妹とすら思えるほどに。
そんなリヴェリアだからこそ。
「私は今でこそいい関係を築けているとは思っている、それにあいつ自身昔と比べると安定しているからな。それでも私には不安なんだ。あいつが語った野望はあまりにも遠く険しい、長い道のりの途中でなにかの拍子にあいつが潰れてしまわないか、私達の前から消えていなくなってしまうのではないか……それだけが不安で仕方ない」
そう絞り出すように呟くリヴェリアに近付き肩に手を置きながら告げるロキ。
「確かに、シグたんは誰よりも強い、強さだけならフレイヤんとこの【猛者】なんて足元にも及ばん。なんせ元はウチの兄貴の、雷神の眷属やからな」
いつもは閉じている糸目を開いてロキが続ける。
「あの子がウチんとこに来た時に持っとったトールからの手紙にな、書いとったんや。下界に降りたばっかりで眷属を持たんウチに神を造った神になってみんか、ってな」
リヴェリアから離れて自分の机に向かい、引き出しの中身を漁り始めるロキ。
しばらくするとあったで!という声と共に小さな封筒を持って戻ってくる。
「これや、トールの手紙」
ロキの持ってきた封筒の中に入っていたのは手紙としては小さめの便箋だった。1枚目にロキが下界に降りてきたことに対する驚きから始まりトール自身が下界でどう過ごしているか、2枚目以降はシグについて手紙の最後である5枚目までびっしりと神聖文字で綴られていた。
神聖文字を読むことのできるリヴェリアが手紙を手に取り、さっと目を通していき、5枚目の最後を読み上げる。
『シグを拾い、恩恵を授けて数十年、お前が下界に降りてきたことを聞いて私も彼女を連れてオラリオに行きたかった……がやらなければならないことが出来た。もうこの世界には戻ってこられないだろう、だからロキ、私の自慢の
シグとの出会いから始まり旅をしている途中での出来事など色々と書かれていた手紙の最後にはロキに対しシグを頼む、そう綴られていた。
「器を昇華させて神に成り上がるのを勧めたんはトールや、兄貴はあの子にそれを成し遂げられるだけの可能性を見出した。ま、それでなくてもあの子が自分で復讐を遂げるには神に成り上がるしか方法はないしなぁ」
ロキは手紙をしまい、腕を組んで頷く。
「神に成り上がり自らの手で軍神アレスを送還する、それもラキアの国民に見せ付けながら……初めて聞いた時は何を正気を疑ったのぅ」
「私もだ、あまりに壮大すぎてな」
結成直後のまだ剣呑な雰囲気だった頃、ロキの勧めでお互いの野望を初めて言い合った時のことを思い出す。
熱闘を求めてオラリオに来たガレス。まだ見ぬ世界を、未知を求めて里を出たリヴェリア。
2人は理解できなかったと呟く。
「僕は何となく感じるものはあったかな?」
小人族の再興を願い一族の光となる為に冒険者となったフィンは感じるところがあったと言う、あまりにも大きすぎる野望だとは思うけどね、と苦笑しながら自分の持つカップに口を付ける。
「次は儂かのぅ」
持っていた酒瓶を机に置いて目を細めて語り始めるガレス……がしかし。
その様子を見ていた2人からツッコミが入る。
「「なんで酒なんだ!」」
ガレスは笑いながら誤魔化そうとし、ロキは──
─持っていた酒瓶を隠そうとしていた。
途中まで重そうな話しておいて最後ネタみたいな終わり方してる……
あくまで番外編だからこっちはちょこちょこ更新
相変わらず色々と下手