煌めくは御使いの翼   作:巫女巫女茄子

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美少女に出逢えるのなら極東も悪くない

 ジャポンとやらに着いた。

 長かった。

 散々鳴いた。

 誰も返事もしてくれなかった。

 ジャポンに来るのは楽しくなかった。

 

 

「これは見事だ!! 正しく黄金とはこの事だ。脚だけが深紅だが、これもなまら素晴らしい!!」

 

 ニンゲンがいたが、前のニンゲンと鳴き声が違った。

 でもどうでも良かった。

 

 母…ジビー…嗜虐好き兄…ポール…ジビーの母と父。

 

「早速走っているところがみたいが、今は疲れてるだろうな。

今日は休ませよう。明日から楽しみだ」

 

 

 

 

 ニンゲン達は去っていった。

 何というジャポン。何という地獄。

 そうかジャポンとは地獄の事であったか。

 ジャポンなんて嫌だーー。

 

『煩いぞ』

 

 横から聞こえた。

 そちらを覗き込む。

 

 美少女がいた。

 もう美少女としか言えない美少女がいた。

 

 ジャポンは天国なのかもしれない。

 それとも地獄の鬼を征伐する為に天使(ペガサス)が現れた可能性もある。

 

 天使ちゃんと呼ぶと、「エアグルーヴだ脆弱な軟派者め」と返された。

 その日は天使に何度話し掛けても相手にされなかった。

 寂しくて暇なので眠った。

 

 

「今日は走ってもらうぞ。エアグルーヴと併走だな」

 

 ほう、天使ちゃんとデートか。

 ジャポンの鬼ニンゲンにしては気が利く。

 これはジャポンの評価を上方修正せざるを得ない。

 

『誰がこんな奴と…仕方ない』

 

『よろしく』

 

 …無視された。

 隣にいたエアグルーヴがどんどんと速度を上げていく。

 そうなると此方も速度を上げざるを得ない。

 

「馬鹿な!! この私に追いつけるだと!?

ならばこれでどうだ!!」

 

 更に速度が上がるが、嗜虐兄よりは速くはない。

 まだ着いていける。

 エアグルーヴが更に速度を上げた。

 それも着いていけた。

 

『大したものだ。だが、負けてたまるか!!』

 

 エアグルーヴは本当に速かった。

 あの兄と同じくらいかも知れない。

 兄の本気は見たことが無いけど、エアグルーヴは速かった。

 俺は多分着いていけないだろうと思った。

 一瞬だけ本気の速さで試してみようと思ったものの、結局今の速度を保つ事にした。

 

 

 暫くして呼吸が荒くなったエアグルーヴが止まった。

 

『私は貴様を認めない』

 

 その目は軽蔑の眼差しだった。

 何故負けた位でそこまで蔑まれるのか訳が分からなかった。

 少しショックだった。

 

 もしかしたら、牡の優秀さを示す為に速く走る事が大切なのかもしれない。

 だとすれば軽蔑されたのも分からなくもない。

 しかし速く走るとは?

 どれだけの時間を走るのかで適切な速度は変わるのだ。

 まさか群れを率いる者が僅かな距離を走ってバテるのでは話にならない。

 群れの仲間が着いて来られない速度で走ってもリーダー失格だ。

 本能はそう教えてくれている。

 仲間を置き去りにして自分勝手に走って、勝手にバテる。

 そんな牡の何処がカッコイイのかが分からない。

 アレだろうか?

 少しワガママな牡の方がモテるとか、そういうやつだろうか?

 よく分からない。

 

 エアグルーヴにもそう説明したかったが、多分無視されると思って何も言わなかった。

 

 次の日もエアグルーヴと併走した。

 あいも変わらず俺を置き去りにして行こうとする。

 俺はそこまでは頑張ろうとは思えず、エアグルーヴよりやや遅い速度でのんびり走り続けた。

 この日もエアグルーヴは無言だった。

 

 その次の日もエアグルーヴと併走した。

 当然の様に俺を無視して走り抜けて行く。

 俺は昨日と同じ速度で走り続けた。

 遂に、エアグルーヴがキレた。

 

『貴様ッ!! そんな走りをして両親や姉妹に恥ずかしいと思わないのか!!』

 

 その意味が分からない。

 俺は弟や妹を置いてけぼりにはしたくない。

 それこそ母に申し訳が無い。

 

『…理解していないようだな。

私達は走る為に生まれ、その成果は血統の評価となる。

つまりだな…』

 

 俺が速ければ家族の為になると?

 

『そうだ』

 

 そうか、それなら仕方ない。

 理由は分からないけど、本当にそれが家族の為になるのなら仕方ない。

 

 何処まで走れば良い。

 どれだけ走れば良い。

 教えてくれエアグルーヴ。

 

『…ふっ、私を抜けるまで走ってみせろ』

 

 そう嘶いてエアグルーヴは走っていった。

 俺はやはりそれより遅い速度で走っていく。

 

『話が違うぞ。やる気を出したのでは無かったのか』

 

 まだだ、俺が追い付くまで走り続けろエアグルーヴ。

 話は追い付いてから聞いてやる。

 

『スタミナ勝負か? 面白い』

 

 悪くない。

 こうして誰かと走り続けるのは不思議と気持ちいい。

 

『余裕そうだな』

 

 確かに余裕はある。

 

『涼しい顔をしていられるのも今の内だ』

 

 より脚を大きく動かせ。

 より流れる様に走れ。

 

『まだだと!? 余裕振りおって』

 

 悪くない。

 俺たちは一匹で走るんじゃない。

 群れで走る。

 そういう風に出来ているんだから。

 先頭を独走?

 やりたいなら最後にやればいい。

 目的地を群れに見せるまでは責任。遊びはそれからだ。

 

『はぁっ、はぁっ、冗談じゃない』

 

 エアグルーヴ、速度が落ちてきていないか?

 

『私をっ!! 嘗めるな!!』

 

 本当に速い。

 凄い事だと思う。

 でもそんな走りでキツくないか?

 俺みたいに走った方が楽だろう。

 

『血統に恥じぬ走りをせねばならんのだ!!』

 

 更に速くなった。

 凄いな。

 此処が目的地で後は休めるのなら、それもいい。

 でも、俺の目的地はここじゃない。

 君が俺に追いつかれる場所。

 それが何処まで遠くても、俺の目的地だ。

 

根っからの超長期間(スーパーステイヤー)という訳か。

見縊っていたのは悪かった。

──だが、負けてたまるか』

 

 群れの長は道を示さなければならない。

 なるほど、先頭に立つ速度は長には必要だろう。

 俺にはその意識は欠けていた。

 群れの長になんてならなくても生きていけるから。

 しかし長なら先頭に立ち尾を後ろに見せねばなるまい。

 なるほど、常に先頭か。

 群れを治めるにはそうあらねばならないのかもしれない。

 エアグルーヴが言っていたのは、群れの長になれば食事を家族に優遇させられるということだろう?

 しかし露骨な依怙贔屓はリーダー失格では?

 

『はっ? いや違うが後で答えてやる。

貴様が音を上げた後でなっ!!』

 

 悪いが俺は群れを持ったら、それらは全て家族だと思っている。

 お前も俺の後ろを走る(群れにしてやろう)か?

 

 

『自惚れるなよ。

やれるものなら、やってみろ』

 

 そうか、じゃあ二往復程付き合ってくれ。

 それまでには抜けると思う。

 

『これを二往復だと!? 冗談じゃない』

 

 冗談じゃないのはこちらの話だ。

 俺は真剣に、エアグルーヴに追い付くまで走るつもりなのだから。

 さあ、何処までも走ろう。

 

 

 

「そこまでだーーーー」

 

 煩いニンゲンだ。

 

「止まれーーーー」

 

 ジビーの声より図太くて耳に付く声だ。

 …仕方ない。

 エアグルーヴも止まったし、今日はこれで終わり。

 俺の負けか。

 ふん、少しだけ悔しかったな。

 ここで楽しみを止められたのは。

 俺は────もっと走れたのに。

 

 

 俺たち二匹は身体を拭かれた後に、再び柵の中に戻された。

 

『貴様の事を見縊っていた事は謝罪する。貴様は十分な素質を備えている』

 

 美少女にそう言って貰えると、本当に嬉しい。

 

『たわけっ!! おちょくるな。

だが貴様には足りないものがある』

 

 何だろうか?

 楽しく走る。

 周りに無理させずに走る。

 それ以外に何か必要な事があるのだろうか?

 

『私達は人間が決めた距離において先頭で走らなければならない。

そうする事で、家族が人間から優遇されるのだ』

 

 人間に優遇されなくても問題は無いのでは?

 

『人間に飼われていない馬などもはやいないそうだ。

馬が生きるのには人間に愛されなければならない』

 

 …そうか。

 時折夢に見る、何処までも続く草原を群れを率いて走る事は出来ないのか。

 

『随分と野生を夢見ているのだな』

 

 それが俺のあるべき姿だと思ってる。

 嫁さんと子供たちと仲間たちと何処までも何処までも笑いながら走る。走り続ける。

 そんな群れになりたかった。

 

『叶わぬ夢かもしれん。だが、多くの馬と走る事は出来る』

 

 そうか。

 一匹で走るよりはそっちの方がずっと良い。

 自分勝手な独走は好きじゃないけど。

 

『そんな日和った家庭主義では競争に勝ち残れるものか』

 

 別に勝ち残りたい訳じゃないけど、勝ち残れないと俺の家族に影響出ちゃうんだよな。

 

『そうだ。貴様は早く走り勝つ事を期待されている。

貴様の家族も同様だ。

兄が遅ければ弟も期待されない』

 

 

 教えてくれエアグルーヴ。

 俺は何処までに先頭に立てばいい。

 

 

『3600だ。3600までキッチリ走れ』

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