煌めくは御使いの翼 作:巫女巫女茄子
ゴールして後ろの馬達にリーダーらしく振る舞ったら、冷たく無視されたり、憎悪を向けられた。
俺の群れにしてやるから、また走ろうと言ったんだが、彼らは言った。
『飼われている馬の分際で、他の人間に飼われている馬をどう養うって言うんだ』
『お前のせいで終わりだよ。ここで俺は』
また一緒に走れば良いじゃないか。
また俺が
そう言った瞬間、一匹の馬以外、全ての馬が俺に背を向けた。
確か、俺の次に着いてきた馬だったと記憶している。
その一匹は言った。
『…じゃあ俺たちは一生勝利とは無縁だな。それがどういう意味か理解してるのか?
誰もお前とは走りたくないよ。
そして、このメンバーで走る事はもう二度と無い。永遠に。絶対に』
そして他の馬と同じ様に背を向けて去った。
何でだ。
分からない。
俺が悪いのか?
誰か分かりやすく答えを教えてくれ。
そうだ。
上で良い気になって浮かれているマルコー。
お前なら分かるだろう。
考えるのはお前の仕事だろう?
…いや、流石にマルコーに話す事も伝わらないし、マルコーが何か鳴いても俺には伝わらない。
なあ誰か教えてくれ。
何故俺が群れの
エアグルーヴ。勝ったよ。
『どうした? 誇るが良い。
それが血統を守った者の義務だろう』
いやさ、何故か責められたんだよ。
俺の下でこれからも走らないかって言ったら、全ての馬に断られた。
『…本気で、そう言ったのか?』
きっと俺が悪いんだろう。
考えるのは苦手だからよく分からないんだ。
また今度謝れたら良いのだが。
『…何匹かには、その今度は無い』
…ああ、そんな事言ってる奴もいたな。
教えてくれエアグルーヴ。
誰も俺に教えてくれない。
『勝負の世界において悪とは弱さだ。
傲慢さこそ正義だ。
だが、その上で言おう。
貴様の無邪気さは、吐き気を催す邪悪だと』
どういうことかさっぱり分からない。
教えてくれ。
速ければ長になれる。
速ければ家族を幸せに出来る。
そう言ったのは君だろ?
『そうだ。
速ければ貴様の家族は幸せになれる。
だが…敗者の家族は不幸になる』
なら俺の藁でも人参でも分けてあげればいい。
リーダーとしてそれ位はするつもりだ。
『どうやってだ。ここに居ない馬にどうやって施す』
どうすれば良いんだろうか。
ニンゲンが何とかしてくれると良いんだが。
『────このたわけが』
エアグルーヴの声は完全に冷え切っていた。
『遅い馬は死ぬのだ。
誰にも愛される事なく、誰にも期待される事なく、無慈悲に死ぬのだ』
何故?
馬だって弱くないし、ニンゲンだって守ってくれる。
『そのニンゲンが、速く走れない馬などに食わせる意味は無いと殺すのだ』
まさか。
ジビーもマルコーもジャンヌもガブリエルもポールも、皆俺の事が好きだった。
俺も彼女たちの事が大好きだ。
皆、俺の群れの仲間だぞ。
『貴様は本当に愚かだ。
何故それ程優しくされたか分かるか?』
家族だからだ。
大切な家族だから大切にする。
俺だってそれくらい分かる。
『愛されるのは貴様が速いからだ。速くなければその価値は無い』
嘘だ。
俺が速くなくても皆俺の仲間だ。
それだけは絶対に否定させない。
『…貴様は、本当に純粋に愛されてきたのだな』
その声は、優しさと呆れと、憐れみが混じっていた。
『貴様の生まれた牧場は豊かで余裕があった…のかどうかは分からない。
こうしてここに流れて来たのだからな。
…貴様は美しい。
それだけで、走れなくても十分な価値があったからか』
エアグルーヴだって美しい。
『悪いが今の貴様に口説かれても、幼子に憧れられた様にしか思えない』
それは本当に残念だ。
『だが、一緒に走っただけの相手を群れと思うのはやめておけ。
貴様が先程名前を挙げた人間達。貴様の血を分けた親族。そしてここにいる馬たちだけが貴様の群れの全てだ』
エアグルーヴも俺の家族。
『…そうだな。
周囲の誰も教えてくれなかった貴様に私が教えてやる。
全ての馬の命は人間が握っている。
そして走れない馬は人間には不要だ。
分かるか?
ハッキリ言ってやる。
競争とは殺し合いだ。
己の血統を繋ぐ為に、他者の血統を潰す。
貴様の家族の為に誰かの家族を殺すのだ』
違う。
そんなはずはない。
馬が走るのは当たり前のことだ。
当たり前のことを当たり前にしているだけだ。
『そう。
その当たり前が劣った一族は潰える』
それなら、次は誰かに勝たせれば良いのか?
『母や妹の命が大事ならやめておけ』
何だそれ。
まるでニンゲンって魔王じゃないか。
『だとすれば、貴様は魔王に飼われた堕天使だ。
貴様はもはや対等とは思えん。
暫く話しかけるな』
じゃあ最後に聞かせてくれ。
エアグルーヴは、それでも走るのか?
『当然だ。
全ての戦いにおいて、私は勝つ』
…そうか、ありがとう。
少し考えてみる。
だってエアグルーヴの声には迷いなんて無かったから。
「エールダンジュ。ゲンキナイナー」
マルコー。
お前も魔王なのか?
「オレ、ニホンゴベンキョ、シテル」
やっぱり、こんな楽しそうに笑うお前が邪悪には見えないな。
「ニホンタノシイヨー。エールダンジュハ、ホームシック…カナ?」
相変わらず何言ってるかよく分からないんだけどな。
「ハハーン。エアグルーヴニ、フラレタナ?」
エアグルーヴって部分は分かった。
「ゲンキダセヨー。キョウモハシロー」
そう言って俺の上に乗るマルコー。
仮に話す事が出来たとしても、あまり考えていなさそうなマルコーではあまり学べる事は無さそうだ。
考えるのが苦手な者同士、お似合いだと思う。
今は走ろう。
例えニンゲンが邪悪な種族でも、マルコー達はそうじゃないと俺は信じてる。
それに、俺がニンゲンの邪悪さを見た事がある訳じゃない。
エアグルーヴが間違えている可能性もあるんだから。
今はそう信じたい。
もし、全ての馬が何も難しい事を考えずに自由に走れて、その群れの長になれるのなら、きっとそれは幸せな夢だ。
「ソウソウ。シツレンハ、ハシッテワスレヨー」
マルコーはまた両方の前足…手と言うらしい部位を広げている。
「ヒコーキ、ブーン」
マルコー、疲れ切るまで付き合ってもらうぞ。
「キョウハ、ツキアウゼ」
俺が何考えてるかは、マルコーには伝わらないだろうけどな。
「エールダンジュ。ホシガ、キレイダナ」
沢山光ってる。
全ての馬の数とどっちが多いんだろう。
「スッキリーシタカ」
マルコー。
お前俺に意味が伝わってると思ってるのか。
分からないに決まってるだろ。
精々指示位のものだよ。
何となく分かるのは。
それにしても、少し気分が晴れた気がする。
そう言ってもマルコーには伝わらないけどな。
「ニホン、ワルクナイダロ」
お前、以前の鳴き声どうしたんだよ。
正直、以前の方が分かりやすかったよ。
ジビーたちの鳴き声に似てたから。
それにしても凄いな。
二つの鳴き声を使い分けるなんて。
俺は馬の言葉しか分からないのに。
お前、凄いよ。
どっちの言葉も俺には分からないけどな。
「ニホンノオンナノコカワイー」
でも、伝わっているつもりで話しかけてくれるの、実は嫌いじゃない。
「ダカラニホンデ、イチバンナロー」
だから一緒に走ろう。
お前の指示、凄く楽しかった。
「エールダンジュ。ガンバルゾー」
マルコー、一緒に頑張ろう。
『無断で朝帰りか。一勝して随分偉くなったものだな』
話しかけてくれたの久し振りだな、エアグルーヴ。
『貴様の鞍上も、向こうでお説教されてるぞ。
貴様もお説教だ』
何でだろうな。
俺には、その理由も分からないが。
『勝手に出掛けて朝まで帰って来なかったからに決まっているだろう』
そういえば母に聞いたことがある。
夜遅くになると、肉を食らうオオカミが襲ってくるって。
『向こうにはそんな危険があるのだな。
だが、それとは別の理由だ』
教えてくれエアグルーヴ。
俺はそれ以外の理由が浮かばない。
『心配するからだ』
エアグルーヴが?
『…………私も、だ』
なら気を付ける。
『…そうか。
で、答えは出たか?』
いや、分からない。
『貴様は考える気はあるのか?』
いや?
だから暫く考えるのを止める。
考えずに、全力で走る。
『逃避だぞ、それは』
ああ、大きく大きく逃げて逃げて逃げて、思いっ切り加速してぶつかれば、疑問も壊れるかもしれない。
俺の下に集めれる馬は全部集めて、その王になる。
そうすれば、その群れは俺の群れ。
俺が先頭にいる限り群れは守られるのだろ?
『そんな都合の良い話でもないぞ』
なら、それも考えない事にする。
『……全く成長してないな』
マルコーの能天気が移ってしまったみたいだ。
『安心しろ、貴様は元からだ』
ニンゲンが、沢山の馬に沢山の餌を持ってこれるように頑張るさ。
『競馬の人気を底上げすると?
だとしても結局────』
ほら、結局俺が一生懸命考えても正しい答えなんて分からない。
だから、逆に正しい答えなんて今は要らない。
だからさ、ここで一番の俺の群れとして呆れながら待っててくれ。
バカなりに走ってみる。
最長を、最速で。
何処までも遠くへ、誰よりも速く。
難しさよりも遠くへ行けたなら、きっとそこに答えがあるから。
『今はそれで良いか。
だが忘れるな。
貴様より────私の方が速い』
それなら俺の方が先へ行くまで走り続けるよ。
それが俺のリーダー道だ。