煌めくは御使いの翼 作:巫女巫女茄子
何だか最近変な人間が増えた。
揃いも揃って黒い四角で顔半分を隠して、微妙に不快な音と、まあまあ不快な光を出してくる。
顔隠す族が来ると、エアグルーヴは凄く嫌そうにする。
気持ちはとても分かる。
あの光は俺も好きじゃない。
そもそも昼は元々明るいのに、光を出す意味あるのか?
あの光は、危険なものかもしれない。
あのエアグルーヴが警戒するのだから。
顔隠す族は何で顔を隠すのか?
馬にも顔を隠しているのもいるけど関係があるのか?
…待て、もしかしてあの馬たちも光るのか?
だとしたらかなり強いぞ。
一斉に光れば、オオカミも追い返せるのでは?
誰か教えてくれ。
やはり俺には難しい事は分からない。
俺は他者に頼ることにおいてもリーダーシップを発揮する牡馬だ。
「スンゲースポーツの小鳥です」
エアグルーヴ、顔隠す族がまた来たみたいだぞ。
『顔隠す族? 何だそれは?
…ああ、あいつらの事か。
知らん、私は寝る』
エアグルーヴ顔隠す族苦手なんだな。
はっ、もしかして信用出来ない人間って、顔隠す族の事か?
『…暫く起こすなよ。
私は寝る。
貴様が引き付けるか追い払うかしろ』
安眠しろエアグルーヴ。
俺は静かな眠りを守る事に関しても頂点に立つ馬だ。
俺に任せろ。
マルコー、出番だ。
お前が頑張れ。
俺は適切に任せる事に関してもリーダーシップを発揮してしまう長なのだ。
マルコー、頭はお前で俺は翼だ。
お前が全て判断して何とかするんだ。
なるべく穏便にだぞ。
向こうには小さな仔馬もいるんだ。
ここからは見えないけどお昼寝しているかもしれない。
穏便に、穏便に済ませるんだ。
相手を怒らせずに、穏便にだ。
そうだな、まずは鳴き声で制止してくれ。
「Piacere di conoscerti.
はじめまして。おうつくしーおじょーさん」
おっ、珍しく俺の言葉を理解したな。
そうだ。凄いぞマルコー。カッコイイぞマルコー。
マルコーが顔隠す族を止めてくれてる。
流石だマルコー。立派だな。
…いや、抱き着こうとしてるな。
もしや、発情してるだけか。
流石だマルコー。いつも通りだな。
「エールダンジュ、本当に美しい馬ですね」
「いえいえ、おじょうさんとくらべたら、へらじかみたいなものですよ」
恐らくマルコーは、こう言ってるんだろう。
馬たちを食うなら、代わりに俺を食えと。
両手を広げて鳴いているんだ。
あれは、間違いなく背後にいる俺たちを守ろうという意志の表れ。
なんて、リーダーシップだ。
マルコー。少しでも疑った俺が悪かった。
「あはは…。それにしても前回のレースは壮絶でしたね。
勝利、おめでとうございます」
「いやあ…でも、あのしんろぼうがいはんていには、なっとくしてないんだ」
シンロボウガイ。
前にも聞いた事があるな。
以前もだったが、シンロボウガイと言う時、マルコーの声から温度が消える。
きっと良くない言葉なのだろう。
はは〜ん。
これはその良くない言葉で、顔隠す族を威嚇しているんだな?
ならば俺も良くない仕草で威嚇を手伝わなければならない。
マルコーだけに威嚇を任せるとなっては、俺のリーダー神話に翳りが生まれてしまう。
見ろっ!! 顔隠す族。
これがパカパカシタイだっ!!
首を大きく縦に振る。
見るが良い。
これ程大きな首振りは、まだナッチャンにも見せてないぞ。
「エールダンジュも、頷いてますね」
「かれはほんとうにかしこい。このぼくのつぎにね」
顔隠す族は、尖ったのと、四角いのを取り出した。
マルコー危ないぞ。
気を付けるんだ。
「これ、記事にしたいですけど、判定に不服って大丈夫ですか?」
「ペンをはしらせておいて、それをきくのはナンセンスさ」
顔隠す族が、四角いのの後ろに尖ったものを隠したぞ。
何か動かしている。
油断するなマルコー。
顔隠す族は何かをするつもりだ。
「ところで、ほかにききたいことはあるかい?
ぼくのじょせいのこのみとか、なんでもこたえるよ」
「あ、あはははは。
じゃあ幾つか聞く前に、エールダンジュの前に立ってもらっても良いですか?
一緒に写真を撮らせて下さい」
「おやすいごよーさ」
顔隠す族が遂に黒く四角いアレで顔を隠した。
マルコーは俺の前に立って、指を立てて力強く顔隠す族を睨み付けている。
指を立てる。
これは尖ったものを持つ顔隠す族に対抗する為に、身体を尖らせるマルコーの精一杯。
マルコー、お前は俺の次に強い雄だ。
カシャカシャカシャと何度も音と光が乱舞する。
幸いダメージは無い。
この程度で怖気付くものか。
俺の前でマルコーが耐えているんだ。
後ろに庇われた俺が怯んで何がリーダーだ。
俺は、俺たちは、顔隠す族に負けはしない。
そうだろうマルコー。
俺たちが辿り着く光は、こんな邪悪な光じゃない。
もっと神聖な光なんだ。
音と光が止む。
マルコーが顔隠す族を何処かへ連れて行った。
見事だマルコー。
オオカミを追い払う役目の犬のジルデーを思い出す。
オオカミは声しか聞いた事が無いが、その声がするといつもジルデーは駆け出して行っていた。
あいつは今何をしているんだろうか。
おい、エアグルーヴ!!
危機は去ったぞ。
マルコーがやったんだ!!
大した雄だ。
マルコー万歳!!!!
『煩い。私は暫く寝る』
そういえば安眠中だった。
マルコーは俺たちを守ったというのに、俺はエアグルーヴの安眠を守れなかった。
くっ、次回に活かそう。
俺は反省する事においても優れたリーダーなのだから。
次の日も、別の顔隠す族がやって来た。
部屋から引き離されて、一匹で俺は耐え抜く羽目になった。
グラビアサツエーとかいう、毛皮無さ過ぎな人間が俺にペタペタ触れて、それを昨日の比ではない光と音で襲う。
このグラビアサツエーという人間、明らかに弱そうなんだが、何でここまで余裕があるんだ。
見た目で弱そうだと侮っていたが、これ程の光と音に少しも怯んでいるようには見せない。
何というリーダーシップ。
俺も見習わなければならない。
俺より弱いグラビアサツエーに、俺が守られてばかりではリーダーが廃る。
グラビアサツエーは指を二つ立てている。
この状況におけるこの動作は、きっと意味がある。
これは、もしかすると攻撃力二倍の威嚇だな。
これほどまでに攻撃的な威嚇とは、即ち恐怖の表れかもしれない。
今日の俺は、マルコーに守られるだけだった昨日の俺とは違う。
俺は日々成長する事においても、頂点に立つ馬だからな。
グラビアサツエー。
何時でも逃げられる様に俺の背に乗せてやる。
さあ、共に耐え抜くぞ!!
「いやぁー、良い写真が撮れたよワカちゃん」
「きっとこの子のおかげね。香水付けてきちゃったの失敗したと思ったけど、この子は大人しかったわ」
何と言ってるのかはさっぱり分からない。
だが、互いに休戦して引くという話をしているのは分かる。
そんな空気だ。
顔隠す族たちは、あの大きく光るものを引き下げていく。
グラビアサツエー。
お前は弱い人間だろう。
警戒臭を強くて、強がる事しか出来ない弱い人間なのだろう。
だが、その心は強かった。
誰が否定しても、共に戦った俺が否定させない。
お前と戦えて、光栄だった。
『何か臭うな。臭いが取れるまで近寄るな』
エアグルーヴ。
これは俺の戦友の警戒臭なんだ。
臭いとか言わないでやってくれ。
『私にはフェロモンに似ている様に思えるが』
グラビアサツエーは俺の戦友だぞ。
あの光と音、君は知らないだろ。
やましい事など無い。
あれは邪悪なる光との戦いだった。
実際のところ、あの光と音には攻撃力は皆無だと分かったが。
顔隠す族は俺たちを食べに来た訳でも無い様だな。
でも、恐ろしく思うのは恥ずかしい事じゃない。
『…イライラするから寝る。
今日はもう話し掛けるな』
そうか。
俺にとっては戦いの跡だが、エアグルーヴにとっては恐怖の残り香だからな。
血生臭い気配に怯えるのは当たり前だ。
俺としたことが、牝を労る気遣いに欠けていた。
母親に知られたら怒られてしまうだろう。
だが俺は反省する。
何故なら、俺は気持ちを察する事においても、類稀なるリーダー性を発揮する馬だからだ。