YOU CAN(NOT) GIVE ONE LAST KISS.   作:tubuyaki

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なんてことは無かったわ

「ええー! ケンケンに彼女が出来たぁ!?」

 

驚いたアスカの声は、静かな店内によく響いた。

 

「そうなんだよ。趣味の出先でたまたまよく出くわす人がいてさ。それで話をしている内に仲良くなって、ついに付き合うことになったんだ。今度、アスカにも紹介するよ」

 

 幸せに満ち足りていますと言わんばかりの表情を浮かべたケンスケの話を、アスカは少しばかり顔を引きつらせながら聞いていた。

 

「へぇー、ふーん…… ケンケンが、ねえ」

 

しばしの沈黙を経て、アスカは言った。

 

「まさか、あんたに先を越されるとは思わなかったわ」

 

「うん、アスカは人気者だからな。今でも言い寄られることがあるんだろ?」

 

アスカは、吐き捨てるようなため息を付いた。

 

「本当、何もいいことないわよ。みんな、ただ自分の見たいところだけ見て好意を寄せてくるだけ。その中に、本当に私を見てくれている人なんて誰もいないのよ」

 

「まあ、初めは皆、そんなもんじゃないのか? 実際に付き合うかどうかは別として、日々の関わりの中で、お互い本当の相手の姿を知っていくんだと思う。今は駄目でも、そのうちアスカにだって、きっと良い人が見つかるさ」

 

「とてもそうは思えないわね。そんな気にもならないし」

 

 遠くを見つめるようにしてそう言ったアスカは、改めてケンスケに振り向くと、問うた。

 

「ねえ、それでどんな人なの? ケンケンの彼女って」

 

「うーん、そうだなあ。俺もかなり趣味に入れ込んでいて、その道のことは勉強もして来たつもりだったけど、その人は本当に知識欲が旺盛でさ。俺が舌を巻くようなことまで知ってるし、更に知ろうともしているような人なんだ」

 

「今や軍事評論家のあんたにそう言わせるなんて、相当ね」

 

ケンスケはすぐさま頷いた。

 

「本当に凄いんだよ。だけど、それだけじゃない。いつも明るくて、周りのことをよく見ていて、気遣いを欠かさない。落ち込んでいる人を見つけたら、上手く元気付けて回るような、そんな素敵な人なんだ」

 

「つまり、ケンケンみたいな人ってこと?」

 

ケンスケは、びっくりしたような表情を浮かべるも、やがて顔を綻ばせた。

 

「ありがとう、アスカ。そういう風に思っていてくれて」

 

「私も、あんたには感謝しているもの。初めはあんたの生き方が理解できなかったけど、不思議ね。いつの間にか、あんたの言ってることも分かるようになってきた。今落ち着いた生き方をしていられるのも、あんたの影響だと思うわ。私、昔のままじゃ、きっと壊れてた」

 

「アスカは、人一倍頑張る方だからな。今でも、たくさん苦労を抱えているように見える。もし困ったことがあったら、話してくれよ。俺で良ければ、何時でも相談に乗るからさ」

 

「うん、ありがと」

 

 二人はグラスに手を伸ばし、しばらく会話のないまま時を過ごした。

その後はぽつり、ぽつりと世間話に興じては酒を嗜むことを続け、そうして再び会話が途切れたところで、ついにアスカの方から切り出した。

 

「もう遅いし、私はこれぐらいにしとくわ。ケンケンはまだ残るの?」

 

「そうだなあ。もう少し飲んでから帰ろうかな」

 

「そう。じゃあ、またね、ケンケン。 ……彼女のこと、おめでとう」

 

「ああ、ありがとうアスカ。また今度」

 

 

彼女が去って、ケンスケはカウンターに一人きり残された。

 

「すまないな、アスカ。けれど、君が俺に向ける眼差しは、きっとそれじゃあない。自分の幸せを見つけろよ、アスカ」

 

 ケンスケはそうつぶやくと、マスターを呼び寄せ、最後の一杯を注文した。

酔いが回りつつ帰路に就いたケンスケは、携帯に彼女からのメッセージが届いていたことに気が付くと、小躍りして喜び、そんな幸せな気分のまま帰宅した。




アフターストーリー オブ シン・エヴァンゲリオン

1話1話は短いですが、続けていきます。
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