YOU CAN(NOT) GIVE ONE LAST KISS.   作:tubuyaki

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前回は気付いて貰えただろうか? リツコの陥った状況とか諸々 さておき……

外典:正典に選ばれなかったが、正しくないとされたわけでもない。だが、正典に選ばれないだけの理由はあるのかもしれない。
そんなニュアンスのストーリーで、なんだこりゃ


外典:こりゃなんだコリアンダー

「碇君はわたさない」

 

 私の前に立ちはだかった女は、それだけ言うとトテテテと軽い足音を立てて、走り去っていった。後には街路灯に照らされる、暗い夜道だけが残った。

 

「……え? 今の、何?」

 

……立ち尽くしていてもしょうがないので、2歩3歩と歩いた。

 

「……碇君って、あのバカシンジ!?」

 

……考えてもやっぱり分からないので、再び歩き出すしか無かった。

 

 

 気が動転したまま帰る。混乱はあるが、いつも通り声を掛けた。

 

「ただいま~」

 

「おかえり、アスカ。すぐ夕飯の支度するね!」

 

 機嫌の良さそうなシンジに、何時あのことを切り出したものか、悩む。

せめて食事ぐらいは、落ち着いて済ませてからにしようかしら。

そんなことを思っていたら、夕飯を食べている最中に先手を打たれてしまった。

 

「突然なんだけどアスカ、明日は時間空いてる?」

 

「え? まあ明日は休日だし、特に予定は入れてなかったけど、なんで?」

 

「会わせたい人がいるんだ。僕の昔からの大切な友人でさ。この週末、たまたま近くに寄るそうなんだ」

 

「ふーん、あんたの知り合いねえ。ま、いいけど」

 

「ありがとう、アスカ!」

 

ニコニコと微笑んでいる。

眩しいぐらいの笑顔、ね……

こんな顔されたら、言い出し難いじゃない。

 

結局、明日の予定が済んでから聞いてみることにした。

 

 

   *   *   *

 

 

なーんて私らしくも無い遠慮をしてあげたのが運の尽きよ!

 

「あーっ! アンタは!」

 

「碇君、ダメ。この人はわがままよ。きっと苦労するわ」

 

待ち合わせ場所としたカフェで出会ったのは、間違いなく昨夜出会った根暗ストーカー女だった。

 

「あれ? もしかして、以前会ったことでもあるの?」

 

バカシンジはこんな呑気なことを言っている始末!

 

「いいえ、会ったというほどのことではないの。けれど、一目見れば分かるわ。彼女、自分勝手そうだもの。料理も掃除も洗濯もしないで、家事の一切をあなたに押し付けるつもりよ」

 

「黙って聞いていれば、余計なお世話よ!」

 

「違うの?」

 

「……それも余計なお世話! そもそも一体あんた誰よ! お節介なことばかり言って、まさか……!」

 

私の中に、一つの嫌な可能性が思い浮かんだ。

 

「まさかあんた、こいつの元カノとかじゃあないでしょうね!」

 

「彼にとっての大切な人よ。私は1番目(ファースト)。あなたは2番目(セカンド)

 

「ぬぁんですって~!」

 

「ちょっと、誤解を招くようなこと言わないでよ」

 

 ようやく慌て出したシンジが口を挟む。全部、やることが遅いのよ!

しかし、場を収めようとしたのは、相手のツレも一緒だった。

 

「レイ、落ち着いて。心配しなくても、シンジ君の心は君から離れて行ったりしないさ」

 

「それ、私にとっては大問題なんだけど!」

 

「だから、彼が言っているように誤解だよ。別に彼女はシンジ君の彼女ってわけじゃあないさ」

 

 今の言葉を確認するように、レイと呼ばれた女を睨み付けてやる。

女はただ一言、『そう』とだけつぶやいた。なんだか、メチャクチャ怪しいんだけど!?

 

「シンジ、一体どういうこと?」

 

 ドスの効いた声で尋ねてやると、シンジは若干の怯えを顔に浮かばせた。

 

「彼女は綾波レイ。僕の妹みた「あんたに妹はいないはずよね!」 ……だから、妹みたいなものだって、そう言おうとしたんだよ。遠縁の親戚なんだ」

 

『最後まで言わせてよ、もう』とシンジは一人ごちている。言うのが遅いのよ!

 

「やっぱり彼女は乱暴で狂暴よ。穏やかな性格の碇君には合わないわ」

 

「ああーもう! ブラコンだか何だか知らないけれど、アンタに口を挟まれるようなことじゃあないっつーの!」

 

 本当にムシャクシャさせられるわ。なんで私が小姑の文句みたいなもの言われなきゃならないのよ! 見た目、私と大して変わらないぐらいの年の癖に!

 

「だからレイ、落ち着いて」

 

「私は落ち着いているわ。彼女が興奮しているだけ」

 

「ウガァ―――ッ! もう―――っ!」

 

「いや、ちょっと……! アスカも落ち着いてよ」

 

「ハァ??? これが落ち着いていられるかっちゅーの! 私、ケチ付けられてんのよ! 大人しく黙って聞いてなんていられないわよ!」

 

 シンジは頭を抱えるそぶりを見せた。頭抱えたいのはこっちだってのに!

そう思っていると、向こうでも何やら話が進んでいた。

 

「分かったよ、レイ。けれど毒舌は禁止だ。シンジ君の隣にいる彼女のこと、悪く言うのはもう止めにしよう。碇君だって、それを望んでいるはずさ」

 

「仕方ないわね」

 

 どうやら落ち着いたみたい。でも、言い方がいちいち引っ掛かるのよね

 

 

 皆の席にドリンクが運ばれてくる。私は不機嫌になったまま、ラテをちゅーっと啜った。こんな気分じゃ、行儀なんか気にしてらんないわよ!

 シンジはどう話を再開したものか、延々頭を悩ませているみたい。待ってたら日が暮れそうね。そして向かいに座る二人は、なるがままにといった様子で自分から話し出す気ゼロ。私から動くしかないみたいね。

 

「それで?」

 

 大人しくなったレイという女に代わり、今度は男を睨みつけてやった。

 

「あんたの方は、一体何者よ? もしこの女と同類だっていうなら、ろくな奴じゃあないんでしょうけど」

 

 シンジは私の物言いに、あーもう諦めましたという表情をし始めた。あんたが遅いのがいけないんじゃない! けれどシンジの心配も、ただの取り越し苦労だったみたいね。だってこの男、私が強い口調で話しかけても飄々としたままだもの。

 

「僕はカヲル。渚カヲルさ。シンジ君とは、幼い頃に出会ってね。友だちになろうよと声をかけてもらって以来の仲なんだ。親友、と言っても構わないかな、シンジ君?」

 

「もちろんだよカヲル君。僕もそのつもりさ」

 

 ついさっきまでやさぐれた表情をしていたシンジが、ぱぁっと笑顔になる。

なんか、いつもと違う。なにかが違う笑顔……

こいつが、他人相手にこういう表情をするのって、初めて見るわね。

いや別に、男のこいつに嫉妬したりするような真似はしないけれど……

 

 私は少しもやっとした感情を抱えたまま、更に問い質した。

 

「シンジとの関係は分かったわ。じゃあ、その繋がりでこのレイって女とも仲いいわけ?」

 

「うん、まあ、そうとも言えるし、違うとも言えるかな」

 

……いや、だからどっちよ

 

「だって私たち、付き合っているもの」

 

 しばらく大人しくしていたと思っていたブラコン女が、とんでもない爆弾発言をしたものだから、私は思わず叫んでいた。

 

「はぁああ!? アンタ、彼氏がいるのに他の男の心配してあんなこと言いに来たわけ!? どんだけシンジに執着してんのよ!」

 

「そうよ? だって碇君は碇君、渚君は渚君だもの」

 

「いや、そりゃそうだけど、そういう意味じゃないわよ!」

 

「じゃあ、どういう意味?」

 

 信じられないものを見る思いで女を見つめるも、女の方はきょとんとしているというか、無感動に見えるというか…… その一瞬で、この不可解な存在は、私にはちょっと手に負えそうにないなと思った。かと言って、バカシンジも頼りにならない! 私は無難に、あいつのツレへと話を振ってみた。

 

「ちょっとアンタ、自分の彼女がこんなこと言っててなんとも思わないわけ? この女、昨夜私に向かって『碇君はわたさない』なんて言いに来たのよ?」

 

『ええっそうなの!?』と、バカシンジが驚いている。バカシンジめ

 

「そんなことしてたのかい? レイ」

 

「ええ。大切なことは、早めに伝えておいた方が良いと思ったから」

 

「うーん、そうだね。あるいは、そうかもしれないね」

 

 同意してるんだかいないんだか分からないような返事を男は返している。ともかく、全然驚いてないみたいね。こいつの性格なのかしら? 私はたまらず、もう一度男に問い質した。

 

「あんたもよく分かったでしょ、この女の本性! 大人しい顔しておいて、こんなこと仕出かす奴なのよ。改めて聞くけど、あんたは彼氏として、彼女がこんなんで良いわけ? 正直に言ってみなさいよ」

 

 男の回答は、先ほどまでの彼の言動から半ば予想していた、最悪なものだった。

 

「構わないさ。僕だってシンジ君が大好きだからね」

 

「でもこいつ、兄妹という枠に収まる気がなけりゃ、今にもシンジと結婚しそうな勢いじゃない。なにか思うところはないの?」

 

男は大きく頷いた。

 

「僕にも気持ちはよく分かるんだよ。なにせ、男じゃなければ僕も結婚したいからね」

 

「「え゛!?」」

 

バカシンジと私の声がハモった。

 

「けれど、この星の高次生命体は異性生殖を繁殖の条件としているだろう? 美しき生命の営みに制限があるというのは、一見悲しいことに思えるね。けれど、そのお陰で生まれる新たな出会いもある。レイとの出会いは、本当に掛け替えの無い尊いものだと言えるよ」

 

 カヲルとレイの二人は、そこでニッコリと微笑みあった。私はシンジの袖を引っ張って、小さな声で告げた。

 

「ねえ、ちょっと! こいつら、変よ」

 

「は、はははは」

 

 シンジは誤魔化すように笑ってる。そう言うところがダメなのよ、このバカシンジは!

私は全幅の確信を持って言ってやる。こいつら、絶対、宇宙人!

 

 

   *   *   *

 

 

「ド天然よ、ド天然! あいつら混じりっ気なし、仔魚稚魚幼魚から成魚に至るまで完っ全に自然界で育ったモノホンの天然モノよ!」

 

「僕にはアスカが何を言っているのか分からないよ」

 

うるっさいわねえ、察しなさいよ!

 

 私たちはあの宇宙人たちとの未知との遭遇を終え、ようやく家路へと付いたところだった。単にバカシンジの知り合いと顔を合わせればいいだけの予定だったはずのに! それがまるで、結婚に反対する旦那の家へ挨拶しに行ったみたいに疲れ果てるはめになるだなんて、予想外もいいところよ!

 思わずグッタリしてしまった私に、シンジが気付いて言った。

 

「ごめん、疲れさせてしまって。けれど、とっても良い人たちなんだ。二人とも、とっても……」

 

 ……シンジの言わんとすることは分かっていた。こいつにとって、あの二人は心から気を許せる、大切な友人なんでしょうね。私にとってのケンケンみたいに……

 

「だから、これは僕のわがままかもしれないけれど、アスカにはあの二人とも仲良くなって欲しくてさ」

 

「それは無理! 絶対に無理! 特にあの女なんか、敵よ敵!」

 

ハハハと、シンジは乾いた笑い声をこぼした。

 

思わずシンジを睨む。

 

「帰ったら説教ね」

 

「え゛!」

 

 シンジは驚くも、すぐに項垂れて、弱々しくハイと返事した。

 

「何で怒ってるか、分かってる?」

 

「いや、まぁ、うん。なんとなくだけど、分かるよ。アスカに任せっきりだったものね」

 

「そうよ! あんたの方から色々と説明してくれなきゃダメでしょ!? しかもあんな女なんだから!」

 

「あんな女って…… その言い方は止めてよ」

 

「……悪かったわね。止めるわよ」

 

「うん、ありがとう」

 

「……」

 

「でもアスカだって、昨日そんなことがあったっていうなら、言ってくれても良かったじゃないか」

 

「ッ……! 言 え る わ け ないでしょう! こんの大バカシンジ!」

 

「ああ、ごめん! ごめんってば! 帰ったらいくらでも話聞くからさ!」

 

 まったく、バカシンジと来たらバカばっか!

 

 

 こうして、私たちは家路を急ぐ。

 そして帰っても、やっぱり私のやることは決まっているの。

 今日も約束通り、意地張って喧嘩し合って、そして真心をこめてバカシンジと罵ってやる。

 キスはしないのかですって? お預けに決まってるでしょ当然よ!




                  終劇

最後までお読み頂きありがとうございました。
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