YOU CAN(NOT) GIVE ONE LAST KISS.   作:tubuyaki

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時は戻らない
やり直されもしない


あなた無しで生きてる私

 考えれば考えるほどに懸念は強まっていった。私は何か、とんでもない記憶の欠落を引き起こしているのではないか? 正直、ネルフ時代にはそんなことが起きてもおかしくないような経験をいくつもしている。今までの私はそのことに自覚的でなかったから気付けなかっただけで、今回それが明らかになったのだとしたら、今の状況と辻褄は合う。

 

 あいつのことを調べるつもりが、こんなことになるなんて思いもしなかった。けれど気付いてしまった以上、無視するなんて出来やしないし、もはや手段だって選んでなんかいられない。私は自ら禁じ手と決めていたアレを使うことに決めた。

 

 破棄することを惜しまれ、新機関へと引き継がれたネルフ最大の遺産、有機スーパーコンピュータの傑作機MAGIとそれに連なるデータベース群。戦略自衛隊の機密情報から一般市民の個人情報に至るまで、あらゆる情報を収集していたこのマシンは、ネルフ解体と同時に新規の情報収集活動を停止。以降、スタンドアローンとなって維持され続けている。

 

 誰もが利用できるわけではないこのマシンの利用権限を、私も一応は持っている。

問題は、リツコね。

 

「あなた一体、何を考えているの? 現在、MAGIに許可されているのはシミュレーションのみ。私的な情報収集は厳禁よ!」

 

MAGI管理者のリツコは、私の頼みごとに予想通りの反応を示した。

 

「確かに今も、MAGIに連結されたデータベース上には非合法に収集された機密情報や個人情報がそのまま残っているわ。けれどそれらを削除していないのは、情報を有機連結するMAGIの性格上、それが不可能というだけよ。より正確には、情報を削除した場合、計算機能の大幅な低下と引き換えになるわね」

 

いつも通りの冷たい反応だが、私も引き下がる気はなかった。

 

「確かにその通りでしょうね。致し方ないから情報を残している。悪用出来ないように、用途はシミュレーションのみを許可。表向きはそうでしょうとも」

 

「何が言いたいの?」

 

 とぼけたふりを続けるリツコに、私は言ってやった。

 

「ネルフ自体の機密情報のことを言ってるのよ。ネルフの後始末をも目的としている今の組織が、その実態を探るためにMAGIに記録されたデータを活用しないはずは無いわ。それに、当時のネルフの人・モノ・金の動きを追うためにも、違法に収集された外部情報は必須。違うかしら? 」

 

「あら、よく分かってるじゃない。その通りよ」

 

リツコは、眉一つ動かさなかった。

 

「もう隠さないのね」

 

「意味がないもの。既に察しているなら、あえて取り繕うのは時間の無駄よ。けれど、このことを知ったところでMAGIを自由に使えるとは思わないで。これでも大義名分があって利用しているの。ネルフ時代のように、どんな事に対してでも使っているわけではないわ」

 

「分かってる。けれど、私だって知りたいのよ。私自身の過去を…… 物心付いた頃から在籍していて色々あったわ。被検体として無理もしたし、きっと私、その影響で記憶に大きな穴が出来てる。ネルフへの関わりによって損なったものを、ネルフの遺産を利用して取り戻そうとするのがそんなにいけないことかしら?」

 

「重大な規律違反よ」

 

「お願い。私にとって、本当に大事なことかもしれないの」

 

 リツコは黙ったままでいる。私も黙ってリツコを見返し続けた。

この真剣な思いが少しでも伝わるように……

 

 

 長い沈黙を経て、リツコは天を仰ぎ、そして短く溜息を吐いた。

彼女は、ミサトが死んでから少し変わった。

 

「いいわ、特例よ。あなたにMAGIの利用を許可します。けれど忘れないで。あなたの場合、経歴が経歴だから、これ以外に手がないと思って認めるの。必要以上の利用は、必ず自重して。私の信頼に応えて頂戴」

 

「分かってるわ。ありがとう、リツコ」

 

 私が感謝の言葉を返すも、リツコは目に見えて落ち込んだ様子になった。

 

「私も甘くなったものね。ミサトに人のこと言えなかったわ」

 

「気に病むことないじゃない。だって、それはリツコがミサトの想いを受け継いだ証でしょ?」

 

「だから気にしているのよ。ミサトの短所まで引き受けなくてはいけなくなるだなんて、とんだ悪夢だわ!」

 

 これはもう、何を言っても無駄そうだと諦めて、私はその場を後にした。




時には、嘆きたくて嘆いていることもある
そこに、その人を感じられるから
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