2024/6/22 一部表現を修正
2024/9/28 一部表現を修正
天国。
それは古く、ありふれた物語。
神話に出てくるような竜や悪魔といった災害。
それと命がけで何度も戦って。
得られるのは僅かな報酬。
まるでライトノベルや、なろう小説みたいな。
そんな話が好きだった。
そんな事を言うと良く馬鹿にされたが。
今でも、その理由は良く分からない。
クオリティの面で他の文学と劣っているようには見えないのだが。
恐らく、理解しあえる事ではないのだろう。
しかし。
善いことをしたら、少しでも報われたい。
そんな当たり前の考えは、そんなに馬鹿にされるものなのか?
しかし祈りはむなしく。
往々にして、虚空へと吸い込まれる。
「え”!? ワイ、天国に行けないんですか!?」
見ず知らずの力士を助けたと思った瞬間。
俺は死んでしまった。
俺のやったことに後悔はない。
死に場所としては、悪くなかった。
これでようやく天国に…
と思いきや。
どうも雲行きが怪しくなってきた。
「俺達には権限が与えられてなくってね。俺達に出来るのは、
目の前には三女神を名乗る、獣耳の生えた謎存在。
色合いは信号機みたい。
その中で赤で褐色肌の、一番恰好がヤバい女が一通り説明をしてくれた。
俺が助けた人間がどうなったかも気になったが。
それは非常に残念なことだが、どうも分からないらしかった。
俺がやったことは全て無駄だったのだろうか?
何気に気になっていたのだけど。
…分からないのか。
「そう悲観することはないわー。貴方が転生する世界はきっと、いい世界よー」
青色の糸目女が俺を慰めるように語り掛ける。
転生、そうか異世界転生かあ。
絵にかいたような美しい世界がいいなあ。
「それって。天国みたいな世界ですか?」
「現世と同じような、厳しい競争の世界よー」
「そこは否定してほしかったなあ!」
そこは嘘でもいいから、厳しいと言うべきではないんじゃないかな。
苦労は別にいいけど、また競争は本当に辛い。
「フン。天国が欲しいなら。己の手で勝ち取ることだ」
「いやいや、その条件でハイとは言えないんですけど」
黄色の軍人風の女が腕を組んでいる。
こちらの言葉に唸るあたり、あまり強く出たくないようにも見える。
「うーん、困ったな。俺達、ぶっちゃけ人手不足というか。どうも最近、”二度と産まれたくない”って子が多くってね。レアな適正を持つ君には、是非とも協力して欲しいんだけど」
死後の世界も人手不足とか世も末だな。
もう一度生まれたところで、その先が真っ暗であれば。
まあ、生まれたくなんかないよね。
「なんか、こう。転生特典とかないんですか」
「なりたい希望のウマ娘があれば聞くよ?」
ウマ娘、かあ。
その耳は馬の耳なのね。
「これは確認ですけど、ウマ娘って。あの野球場やジャンプ裏表紙の広告とかでやってるあの?」
「うむ。あまり知らないようだな」
ぶっちゃけ良く知らない世界だ。
学園もので、なんか走って、踊るやつ。
「馬のことなんて、ハルウララぐらいしか知らないんですが」
「知らないようだから一応、忠告するけど。彼女は地獄だよ?」
そう言われても、なりたい馬が有るとか無い訳で。
ハルウララの、過酷な競争社会の上での地獄とは一体…
アレもテレビで聞きかじった程度でしかないからな。
「じゃあチートというか、めっちゃ強いやつにしてくれるとかないんです?」
「ああ。それは、聞けない要望だな」
一応それなりにアスリートだったが。
馬の技術に利用できるのだろうか。
流石に、俺も足にそんな自信があるわけじゃないのだけど。
「何しろ、君なら絶対なれるだろうから。何者も、超える者のないウマ娘にね」
「いや。もっと何か、ないんすか」
その手の言葉は生前に何度も聞いたし。
せっかく神様やってるんだから、そこんところを確実に保証してくれないだろうか。
「う、うーん。何って。他に、何かあったっけ?」
「…刺身醤油とか。じゃりじゃりする最中とかに困らないとか、かしら?」
赤と青の女神が困ったように相談している。
どんな恩恵だそれは。
「神様なのに与える恩恵ショボい…」
「し、仕方ないだろう! 俺達は西欧的な”何でも出来るすごい神”じゃないんだから!」
こういうのって、実は神様を語る悪魔だった!
みたいなパターンもあり得たりするのだろうが。
多分、目の前の神様は違うんだろうな、とか思ってしまう。
このすばみたく単に神様側の能力が足りないパターンって。
実は一番面倒なんじゃないかな。
「このバカ女神共が。我々は三女神なのだから、叡智を授ければ良いだろう」
「ああ、そうだそうだ。叡智を授けよう! カンニングペーパー、原作知識というやつさ!」
じょうち?
並んだ言葉の雰囲気からして、馬の辿った歴史的なものが特典として貰えると。
「それって、他の人なら持ってるものだったりしません?」
「そんなことはないかな。持ってない子は持ってないし。ネイチャとか」
薄々、気づいていたけど。
他にもいるのか、転生者的な存在。
どういう人たちなんだろうね?
その人たちとも仲良く出来たらいいなあ。
アイドル&レースの世界らしいけど、皆とギスギスしたりはしたくない。
自分の飲物に禁止薬物が入っていないと警戒しないといけないような。
そんな世界は二度と見たくない。
「原作よろしく俺達の叡智で、継承やスキルが身につくワケではないけど。ま、『覚悟は幸福』なんて言うだろう?」
「それを言った奴は、覚悟が出来てないんだよなあ」
いや、知らないほうが幸福なんじゃないかな。
同じジャンプのチェンソーマンで、何かそう言う奴いたよね。
「ちなみに、転生しなかった場合はどうなるんです?」
そういうことだったら断った方がいいんじゃないか。
聞いている限り、そう思わなくもない。
選択肢があるってなら、断った先はどうなるんだろう。
「その場合は、元の場所に帰るだけよー。無に、つまりは非存在に」
「…これを選ぶやつも、最近は少なくないが」
断ったら、そのまま消えてなくなるってことね。
無、か。
なんか、それが良い選択だと想像できない。
「はあ。わかりましたよ。消えるのも嫌だし、ウマ娘やります」
「おお、ありがたいね! 俺達が精一杯、祝福するよ!」
今まで頑張ってきたのだ。
それが全部無に帰ってしまうのは、とても嫌だ。
であるならば、もう一度生きてみよう。
「賢い者は皆、無へと消えた。その選択は、ひょっとしなくともバカな選択なのかもしれないわ」
「貴様が天国へと行ける可能性があるとは言えん。だが、正直に言って同情はする」
「子羊君に、生きることの呪いと祝福。俺達三女神が、その両方を与えようじゃないか」
それが、最善の道であると信じて。
**
そうして、私がこの世に生まれて数年が経った頃の話。
「三女神様の言ってた、原作知識とやらは来ないなー」
キタサンブラック、という名前に聞き覚えはないのだが。
どうも女神の言ってた事。
つまり、私は”偉大なウマ娘”だというのは間違いでもないようだった。
物凄く見覚えのある演歌歌手を親に持ち。
絵にかいたような金持ちの幼馴染を持つ。
恐らく彼らと彼女達の手によって。
私は中央へと向かうのだろう。
そんな運命的なものを感じるのだ。
「キタサン、そろそろ寝る時間よ」
「はーい」
今日は、幼馴染のサトノ家の豪邸へお泊りに来てる。
アタシの実家も、まあまあデカい家だったけど。
お城みたいなベッドはすごい快適だなあ、なんて。
そんな単純な感想を抱きながらフッカフカのベッドに潜り込む。
「クラちゃん、ダイヤちゃん。おやすみなさーい」
「おやすみなさい」
今日も一日、子供らしく動き回ったので。
いつも通りに。
すんなりと睡眠に入ることができた。
しかし、そこからは何時もとは違った。
簡単に言うと原作知識という名の悪夢を見たのだ。
それは私が、自分に良く似た馬になった夢。
競走馬が死ぬほど頑張った先、皆の夢の後の話。
栄誉あるキタサンブラック号の、簡単に言えば”種馬”としての生活であった。
「うーん。牝馬ちゃん、おちんちん激しくしないで」
人間たちに縛られて。
出会ったばかりの好きでもない馬と、無理やりに交配させられる。
繁栄はあるけど、幸福は全く無い。
そんな家畜としては当たり前、かつ比較的には”マシ”な。
苦痛に満ちた毎日。
そんな実在する悪夢を感じさせるものだった。
「キタちゃんは何の夢を見てるのでしょうか…?」
まあ、分かってはいたのだが。
何で私が天国に行けないのだろうかと。
三女神の存在を、何度も呪わずにはいられなかった。
本日の楽曲はラジオネーム「君と眺める夏の花」さんからのリクエストです。
それでは聞いて下さい、ドリー・パートンの同名のアルバムより「ジョリーン」。