2025/02/08 誤字脱字関係の修正
授業後の時間、ナイスネイチャのトレーナーがトレーナー室のカギを開ける。
理事長から、自分にと割り当てられた部屋なのだ。
特に躊躇することなく部屋のドアを開けた。
「ゲッ」
そこには自分の担当であるウマ娘、ナイスネイチャの姿があった。
現役ウマ娘らしい優れたボディライン、しかも彼女は運が悪いことに下着姿。
着替え中に、彼女の領域に入ってしまったのだ。
こりゃ、もうだめかもしれんな。
そんな事をトレーナーは思ったのだが。
「…どうしたの? 早く入ったら?」
そんなトレーナーを見て。
ネイチャは眉一つ動かすことなく、不思議そうにしていた。
実に堂々とした佇まいで、恥ずかしいとかはないようだった。
「君は羞恥心というか。裸を見られての恥じらいとかないのか?」
「アタシは別に。ヒトに見られて恥ずかしい身体はしてないですし。…トレーナーさんならウマ娘の身体なんて珍しくもないでしょ」
「へそ出しの服は嫌がる癖に、よく言うよ。ウマ娘の感覚は良く分からん」
トレーナーは落ち着いて部屋に入り、ドアを閉めた。
とりあえず目頭を押さえながら、ネイチャへと近くにあったバスタオルを投げた。
「で、トレーナさんは、アタシに何か用?」
「ああ。君に伝えようと思ったことがある。丁度よかった」
探していたわけではないが、会えたなら話をしよう。
そうトレーナーは続ける。
「まずは確認なんだが、君はSNSのウマッターをやっていないんだよな?」
「やってる訳ないじゃん。あんなの」
学園ウマ娘の殆どはスマートフォンを持っており、何かしらのSNSをやっている。
その行為はとても現代の若者らしいともいえる。
その中でネイチャは珍しく。
スマートフォンやSNSを活用していない側に分類される。
「君のウマッターのアカウントを作ることになった」
「はぁ?!」
ネイチャは明らかに不快感を示す。
その姿から、そういった類の物を嫌悪しているのがハッキリしていた。
「とりあえずさ、どーゆーことか説明してくんない?」
「君は人気のウマ娘だろう? そんなウマ娘がSNSをやっていないことは売り上げの損失だと、上層部の間で話題となってな」
ネイチャはGⅠこそ取れていないが、その割に人気のウマ娘である。
少なくとも、同期であるトウカイテイオーさえ比較できる程度には。
しかも一般のファンだけでなく、URA運営からの注目も浴びている。
その動向が知りたい、という人の声は決して小さいものではなかった。
「なんでアタシがこんな目に。その理屈だとカイチョーさんやオグリ先輩はどうなんのさ」
「ルドルフ会長については分からんが。オグリキャップには専属の広報がついてるな」
人気のウマ娘には、ウマ娘自信にそれなりの対応が求められる。
ウマ娘はアスリートであるが、求められるそれは人間のアイドルと比べても遜色ない。
「あたしゃ、そーゆーの
「君はそう言うウマ娘だからな。活動は俺が代わりに行う。ちなみに上からの命令だから、君に拒否権はないぞ」
ネイチャは表にこそ出さないが、内心では目立つことを嫌がるウマ娘。
トレーナーはネイチャの意思を認識しているが、その上で固い態度をとっている。
嫌がっても辞めることはない、と踏んでの発言だった。
「その態度は肯定と取らせてもらうぞ。…そう心配するな。君はSNSを頑なに見ないだろうが、マヤノ達の眼もあるからな。君に迷惑をかけることはないさ」
とはいえ、”ここまでならやってもセーフ”のラインを認識しているつもりである。
彼女としても、トレーナーの行為が行き過ぎれば何かしらのアクションを取るだろう。
そういう問題が起きないように、こうして話をしているのだから。
「活動のため、学園の動画や普段ダイタクヘリオスが撮ってる写真を、俺もアカウントで公開するだろうが」
「プライベートがない。…これだから水商売みたいなコトしたくないんだってば」
「水商売言うなし。君は勝負しに来たのだから諦めろ」
ウマ娘が水商売、というのは随分と言い方が悪いのだが。
彼女達がアスリートやアイドルの側面を持つ以上、勝負やパフォーマンスは時の物。
突き詰めると、じゃあ何で水商売やってるのかという問題になるので彼女も項垂れている。
「全く。君も勉強やスポーツばっかりやってないで、ネットやゲームもしなさい」
「アンタそれ、自分が何言ってんのか分かってんの…?」
「俺も思う所がないわけではないがね、君等は学生だがプロでもあるからな。理事長や会長曰く、ファンサービスは仕事の範疇らしいぞ?」
普通は逆じゃね、と思わなくもないのが両者の共通認識ではある。
とはいえネットで活動するのもゲームするのも、ウマ娘の仕事としてよくあることなのだが。
「ネットやゲームさせたいってんなら。ターボにでもやらせなよ。あの娘、そういう陰キャ趣味好きなんだし」
「君は偶に、古い感覚を持ち出してくるな。…今時の子は、誰だってネットやゲームするだろうに」
ネットやゲームが悪、という時代は確かにあったのかもしれない。
とはいえ時代は異なり、ネットやゲームは空気のように当たり前の時代だ。
ネイチャの発言は、かなり時代遅れだった。
「それ、人前で口にするなよ? 俺は構わんが、君の人気を損なうのだけは御免被る」
「…あー。なんか、デパートのゲームセンターだっけ? それでゲームのイメージアップの話を聞いたような」
「ウマ娘のコンテンツも、同様にイメージアップを続けてきたコンテンツだからな。他人事とは言えん」
**
「とは言ったものの。俺もSNSに関してはプロじゃないからな」
さて、トレーナーがネイチャと離れ。
いざSNSアカウントを作るという話なのだが。
トレーナーはプロであったが、ネットの経験が豊富という訳でもなかった。
「不安にならなくてもいいですよー。カレンもそういう時期はありましたから」
「わーい。ネイチャちゃんのアカウントだー!」
そこでトレーナーがアドバイスを求めたのは二人のウマ娘。
中等部新入生ながらウマ娘のトップインフルエンサーであり。
カワイイの化身、カレンチャン。
ネイチャの友人であり、普段から謎のコスプレやウマ娘のレース予想などのネット配信を行っている。
気まぐれ天才少女、マヤノトップガン。
「トレーナーさんから見てネイチャさんって、どう見ているんですか?」
「思っていたより気性に問題がある訳ではないが。とにかく、勿体ない娘だ」
ネイチャは出来ないことを出来る、と言うウマ娘ではないのだ。
トレーナーは、そう溜め息をつく。
彼女自身、ネットは自分の手に余ると分かっているようだ。
故に、SNSの件はトレーナーに丸投げしてくれているのだし。
「結果は出しているが。だからこそ、惜しいと思ってしまう。本人にその気さえあれば、メジロマックイーンになれたかもしれないのに」
ネイチャはレースで現状結果を出している。
出してこそいるが、”その先”に向かって欲しい、というのがトレーナーとしてのエゴだったりする。
例えば、GⅠで勝利を目指すとか。
彼女はその点に関してやる気を見せてはくれない。
「ごめんなさーい。カレンはちょっと”そっち”は分からなくて」
「マヤ、”そっち”は分かるけど。でもネイチャちゃん人気者だよ? 人気の方が重要じゃなーい?」
「そうか」
まあ、ネイチャが人気者なのは良い事である。
本人がそれをどう思っているとか、これからGⅠを勝つとかは怪しい所だが。
今後も安泰、というのはトレーナーとしてもうれしいのだ。
「出来たみたいですねー。ネイチャさんのアカウントをフォローしましたよー。『あのネイチャさんと友達になれちゃった! RTと♡よろしくね』っと」
「判断が早い」
で、早速ウマッターでネイチャのアカウントを作ったのだが。
すぐさまカレンにアカウントの拡散をされてしまった。
「カレンチャン。あんまり、こう。拡散されると。ネイチャが困るというか」
「でも、フォローしたら挨拶や儀礼って必要ですよね?」
「微妙に否定しにくいことを言う。社会人としては、まあ。そうなんだが」
カレンチャンのネットでの圧倒的影響力。
その数字の力は測りしれない。
トレーナーの嫌な予感は的中し、携帯に恐ろしい程の通知が来る。
「なんか。見たことのないペースでフォロワーが増えて行ってるんだが。怖っ」
これ俺がトラブルに合ったら対処するんだよな、とか。
思わずトレーナーは頭によぎる。
目立ちたくない、というネイチャの感情に。
あまり良くないことだが今回ばかりは思わず共感してしまう。
「ネイチャさんは、ウマッターでどんな活動をするんですか?」
「普通に、宣伝だな。ある意味、企業アカウントみたいなものだからな」
とはいえ、トレーナーがやることは普段と変わらない。
自分の担当のことを、世間にアピールするだけだ。
社会人として基礎的なネットマナーは研修で知っているし、それ以上のことはウマ娘たちから聞けばいい。
「じゃあ、ネイチャちゃんはマヤ達とゲームしないの?」
「どうも趣味じゃないらしい。彼女ギャル組がゲームしている、という話は聞かんからな。して欲しいとは思うがね」
「言われてみれば。カレンも、あまりゲームはしないかなー?」
「ぶー」
面白くなーいとマヤノは言うが。
それは極めて的を射た表現だ。
トレーナーがネイチャと共に築き上げるものは地味であり、華やかさに欠けている。
しかし、地味であることは良いのだとトレーナーは思っている。
強さ=人気ではないが、人気=売り上げなのだ。
人気を取るのに、奇抜さや邪道などはむしろ邪魔なのだから。
「あ、ゴルシちゃんたちが今、ゲーム実況やってるよ。これ参考にしたらどーう?」
「ふむ、どれどれ」
**
「みんなのウマドル! スマートファルコン☆ よろしくお願いしまーす!」
「エイシンフラッシュです。本日は、よろしくお願いします」
場所は変わって学園の放送室。
一通りの設備が揃っており、ウマ娘たちが学園内外に向けてインターネット配信できる場所。
そこに集まるのは、やはりウマ娘たち。
強者集まる中央の中でも歴代ダート最強とも呼ばれる、スマートファルコン。
スマートファルコンとは友人・同室でもあるグッドルッキングウマ娘、エイシンフラッシュ。
「どうしましたか。ゴールドシップさん。俯いて」
そしてエイシンフラッシュとは友人であり。
ルックスはフラッシュにも決して劣らぬ葦毛のウマ娘、ゴールドシップ。
今回はこの三ウマ娘で集まって実況を行っていた。
「なんかさー。アタシの出番、少なくない?」
「私にそう言われましても」
ゴールドシップの容姿は、ウマ娘という点を加味しても神秘的でモデル体型なのだが。
それを台無しにする程の気性難さが露骨に出ていた。
「ぱかちゅーぶの広報にコロコロのコミカライズを持ってて、まだ不満なんですか?」
「看板番組を持ってない娘の方が多いのに…」
その態度に、ゴルシ程までの人気は流石に持たない両者が不満を示した。
メディアの主役を張る程のウマ娘は、ウマ娘の中でも極稀であり。
残念なことにファル子とフラッシュは、まだどちらも該当していないのだから。
「というわけで、はい。では、今回遊ぶコチラ、大乱闘スマッシュブラザーズですけど」
「超有名タイトルだね」
とはいえ、こうして複数のウマ娘で集まってする機会にはまだ恵まれている。
こういう活動の積み重ねで、いつかウマドル・センターの座を得るのだと。
そうファル子は信じている。
「ファル子、フラッシュさんがゲームをしているところは見ないのだけど。できるの?」
「問題ありません。今回のために完璧に予習してきました」
「すごーい! フラッシュさん、ファル子と一緒に頑張ろうね!」
そしてこのエイシンフラッシュもファル子の親友らしく。
地道な計画を良しとする性格である。
こうした活動に真面目に取り組んでいた。
「おいおい、ゴルシちゃんの事も忘れちゃいけねえぜ!」
「ゴールドシップさんは、普段から多くのウマ娘方とゲームされているようですからね。今回は正々堂々戦いましょう」
「おうよ!」
さて、今回遊ぶスマブラだが。
説明はいらないだろうが、国民的格闘ゲームである。
様々なゲーム作品のキャラが参戦しているが。
操作キャラを選ぶ段階で、それぞれの個性が現れる…気がする。
ゴルシは一頭身の戦士、カービィ(白大福カラー)。
ファル子はマッチョの賞金稼ぎ、キャプテン・ファルコン(ピンクカラー)、
フラッシュは美形の剣士、マルスを選んだ。
特に特徴のないことが特徴の戦場で、いざ戦いが始まる。
そこで、ファル子とフラッシュは極めて強烈な違和感を抱いた。
普段からゴルシの奇想天外な動きに振り回されているからこその”既知”な感覚。
(そ、そんな☆ そんなことってアリなの?)
(バカな…こんなの。私のデータにありません!)
それはカービィの上Bであるカッターや、下Bのストーンで激しく上下運動する動き。
ある意味、初心者向けとされるキャラのワンパターンさ。
勿論簡単に対処されるのだが、時たま思い出したように他の操作をし始める。
そういう動きを見ると、それなりに経験を積んだファイター達はある事実に気づかされるのだった。
(こいつ、戦いの中で成長している! 何故今まで練習してこなかったんだッ!)
エイシンフラッシュは激怒した。
必ず、かの不沈艦を除かなければならぬと決意した。
フラッシュには、いい加減が分からぬ。
けれども定められたレシピを守ることに対しては、ウマ娘の中でも敏感であった。
「えー、ということで、大乱闘スマッシュブラザーズでした!」
「やるなー、おめー。これはリベンジするしかないな~」
この後、ムキになったフラッシュのマルスがゴルシのカービィをボコボコにした。
ちょっと大人気ないかなとファル子は思ったが、特に止めはしなかった。
ウマドル的に、予行練習をしないのはNGである。
「じゃあな、お前ら。SS評価とここすき、感想を待ってるぜ~」
若干おこ気味のフラッシュ、
それを何とも言えない顔のファル子、
そして挟まれるいつものゴルシ。
という何とも締まらない空気で放送は終わるのだった。
本日の楽曲はラジオネーム「Tubarão」さんからのリクエストです。
それでは聞いて下さい、ウェザー・リポートのアルバム「ヘヴィー・ウェザー」より「バードランド」。