愛という名の絶望   作:倉木学人

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ルナちゃんの話は筆が乗るけど、あんまり書き続けるのもな。


これは地獄へと続く道

 

 ちょっと遅めの昼食の時間。

 私は普段忙しいのでカフェテリアで食事をとる事ができず。

 昼食は自作の弁当で済ませている。

 

 で、いつもの会長机で弁当箱を開けたのだが。

 そこで私は少し眩暈を感じている。

 

「茶色いな」

 

 すごく、肉ばかりです。

 これ、私が本当に作ったのだろうか?

 一切記憶にございません。

 リンゴを入れるなど野菜バランス良く取るように心がけてはいるのだが、ちょっと気を抜くとすぐこれになる...

 

 む、人の気配?

 音は殆どしなかったが、誰かが入ってきている?

 ドアで左半身を隠し、見つめ返されることを期待してこちらを見つめている。

 

「マンハッタンカフェか。ノックは。したようだな、うむ」

 

 前を向いてみれば、透き通るほどに黒い髪と白い肌のウマ娘の姿。

 暗く静かだが、しかし確かな血の暖かさを感じる。

 その姿はとっくの昔に亡くなった友人が会うためだけに蘇ったかのような、そんな印象を与えるのだ。

 

「はい。お願いが。ありまして」

 

 生徒会長にお願いか。

 普通は教師を通すのだろうが。

 大抵のことは私でも対応できなくはない。

 そのぐらいの権限を私は持っている。

 

「続けたまえ」

「自由に使える部屋を、暫くお借りしたくて。一人になれれば。ユキノさんに、迷惑をかけたくありません」

 

 彼女の同室、ユキノビジン関連か。

 

 カフェ君は問題を起こすような性格ではないのだが。

 どうも”憑いている”らしく、何かとオカルト的なトラブルに巻き込まれている。

 そのため周囲の評判はあまり良くはない。

 

「もっと詳しく理由を聞いても?」

「”お友達”の。機嫌が悪くて」

 

 勿論、私は彼女に問題があっても責任は無いと考えている。

 私は霊的なものが見えないのだが、存在の実在を疑ってはいない。

 とはいえ世間一般はそうじゃないからね。

 

「成程。課外活動でなく、完全に私的な理由か。私に頼もうとしたことを理解した」

 

 私は手を組んで、考えるそぶりを見せる。

 彼女の瞳が不安に揺れる。

 

「君も知っているだろうが。学園としては、個人が設備を私物として用いることを認めていない」

「駄目。ですか」

 

 学園の設備は皆の物(あるいは理事長の私物)だからなあ。

 それを生徒が個人的に用いるのはどうしても許可できない。

 規則上はそういうことになる。

 

「うむ。しかし何とも都合の良いことに、この学園はとても広い。誠に遺憾なことであるのだが、私も忙しくてね。全ての部屋を管理しきれていないのだよ」

 

 私はわざとらしく強調しながら。

 うんうんと頷いて見せる。

 

「そこで、この部屋の管理を君に任せたいと思うのだが、どうだ? 引き受けてくれるかね?」

 

 私は机の中に入っていた部屋番号のタグがついた鍵を取り出して。

 彼女の前で吊って見せる。

 

「喜んで。ありがとう。ございます」

 

 カフェ君はややぎこちないながらも、少しだけ表情を緩ませる。

 

「それと。この部屋について君がどう扱うかは、私は一切詮索しないさ。例えば、そこに誰が来ようと、ね」

 

 何でこんなカギを私が管理しているんだとは思っていたが。

 いやあ、持っていて良かった良かった。

 

**

 

 

「やあやあ会長! ご機嫌いかがかな?」

 

 部屋の扉がわざとらしく開かれる。

 その行動は丁寧ではあるが、丁寧が過ぎてやや無礼ですらある。

 

「アグネスタキオンか。ああ、そういうのはいい。私に何か用かい?」

 

 美しい紅茶の色合いだが、顔色は優れない。

 自信はあるが、目に光がない。

 彼女というウマ娘は知的であるのは間違いないとはいえ、同時に退廃的だとも感じてしまう。

 

「聞いたよ。カフェ君に部屋を貸したそうだねぇ?」

「ああ。そうだ。私が責任者として認めた」

「私も、新しい研究のためのスペースが欲しいと思っていたところさ。私にも一部屋貸してくれないかね?」

 

 カフェ君が来たからもしやとは思っていたが。

 まあ、私の元に来るよね。

 とはいえ彼女への対応は既に決めている。

 

「タキオン。君は模擬レースに出ていないようだね?」

 

 言外に問題児に貸す部屋なんてねーよと伝える。

 

 さっきのカフェ君への対応が随分と違うなー、と自分でも思ってしまうが。

 実の所、タキオンの立場はめちゃくちゃやばい。

 まずは彼女をどうにか保全する方向に持って行きたい。

 

「それが何か問題かな?」

「ああ。大問題だ。君はデビューする気があるのか?」

 

 タキオンも塩対応に慣れているのか、動じている様子は一切ない。

 こういう態度を学園は問題視しているんだけどなあ。

 

「出席日数は最低限、試験は合格ギリギリ、トレーナーのスカウトは断固拒否、校則スレスレの問題行動。色々言いたいことはあるのだが。一言でいえば”可愛く(プリティーじゃ)”ない」

 

 学園に問題児は多かれど、ギリギリ追放レベルなのはよっぽどである。

 

 例えを上げるならナリタタイシン、ハルウララ、ゴールドシチー。

 彼女たちは気性難で別ベクトルの問題児だが、それでも彼女たちは守るべきものは守ろうとしている。

 だが、タキオンはそれらのいずれも守ろうとしていない。

 

 それでも私は誰も見捨てはしないけど。

 

「ふうん? 彼等の指導は必要じゃない、私がそう判断したまでだよ」

 

 私はわざとらしく深いため息をつく。

 こうなるとわかってはいたが、やはり言わねばならないか。

 

「アグネスタキオン、君は賢いつもりか? 君の脚の問題は私も知っている」

「ッ!」

 

 正直タキオンは問題児であるが、その才能は”異端”としか言いようがない。

 素晴らしい素質とガラスの脚。

 未完の大器は世に多かれど、彼女程に”成功してしまう”者も珍しいだろう。

 

「だからこそ忠告しよう。うだうだ言い訳してないでレースに出ろ。君は保護者や慕ってくれる後輩たちを裏切るつもりか?」

 

 タキオンの表情が映すのは驚愕。

 そして、僅かに恐怖。

 

「おやおや。私としては走るのが中央である必要はないのだよ?」

「地方か海外かね? 随分と分の悪い賭けだ。中央のレースに出る方が幾分マシだな」

 

 中央でなくともやっていけるだなんて、私はとてもそんなことは言えない。

 私でも出来ないのに、出来るだなんて言えない。

 特に海外なんかは。

 私の世界は所詮、中央と実家ぐらいだ。

 

「ふうん。何か根拠でもあるのかねぇ」

 

 タキオンは余裕を崩さない。

 その仮面が本当はどこまでかは知らんがね。

 さっきの反応を見るに、内心穏やかではないだろう。

 

「忘れたのか、タキオン? 君は自らの(あし)でここまで来たのだ。ここが終点だ。今更何処に行けるというのかね」

 

 何で私が転職を引き留める上司みたいなことを言わねばならんのだ。

 

 中央で走ることを諦めたウマ娘達を私は沢山見てきた。

 ある者は地方へと身を移し、ある者はレースの世界から完全に身を引いた。

 彼女たちは決して速くはないし目標も達成できなかったが、それでも逃げ道を見つけることが出来た。

 それならば自分の脚で歩いていけるだろう。

 

 彼女たちは中央がどのような意味を持つのか理解できたのだ。

 そのことには十分な価値がある。

 

「出ていく必要はない。しかし、我々は君の転入手続に協力しないと思ってくれ。今の君はとても他所に推薦できる状態じゃない」

 

 だが、アグネスタキオンにはそれが出来ない。

 何故なら彼女が脆いからだ。

 それは、きっと、この学園にいる多くのウマ娘と同様に。

 

「部屋の事だってそうさ。君は私に頼み込む前に、身近な者に相談することから始めることだ」

 

 

**

 

 

 私も自分が生徒会長であることに不満はないのだが。

 トレーナー君達という資源も足りてないし。

 もうちょっとリーダーシップが出来る奴増えないかなーとか思ってしまう。

 

 以前、ウイニングチケットを無理誘ってガチ泣きされたのを思い出すな。

 そんなにリーダーが嫌か?

 こんなにたのしいのに。

 

 と、また誰かが来ているな。

 今日は予定の無い来訪者が多い。

 

「皇帝サマ」

「シリウスか。ノックぐらいしたらどうだ」

 

 そのウマ娘は勝ち気で、少しだけ私に似ている。

 彼女は私を敵視、およびライバル視している数少ない存在だ。

 そして、”開拓者”という分野では、彼女も私には負けてなかったりする。

 

「アグネスタキオンが荒れてたぞ」

「うん? 彼女が何か?」

「持っていた試験管を落として割ったらしくてな。今は自発的に掃除をしているんだとよ。あの割れ方は自分で割ったな」

 

 私はあえて詮索していないが、彼女は普段から不良ウマ娘たちの面倒を見ている。

 そうやって彼女たちの面倒を見てくれることは個人的に凄く有難い。

 勿論、これを直接言うとシリウスは嫌がるがね。

 

「シリウス。彼女のことで。私と君に出来る事はないよ。彼女には私が警告したのだ。もう暫くは誰も何も言わないだろう」

 

 トレーナーがいない子の面倒は教師が一括で面倒を見るが、それをタキオンは拒否している。

 トレセン学園は生徒の自主性を重んじている以上、教師の先生方の権限は強くなく強くは出れない。

 そうなると、そういう生徒に対して干渉できるのは私を頂点とする生徒会だったりする。

 

「おい皇帝サマ。アイツを見捨てるってのか?」

「見捨てないさ。最も、これ以上は生徒の権限に触れるから踏み込む予定もないがね」

 

 まあ、一応手は打ってある。

 

 今度また新しくトレーナー君たちが入ってくる。

 私の方から委員会に無理を言って、”やる気はあるが能力の劣るトレーナー君”も入れてもらっているのだ。

 多分、彼女が推定モルモット君だろう。

 カフェ君のデビュー予定から推測するに、恐らく次が彼女の最後のターニングポイントとなる。

 

 もし彼女がモルモット君ではないとなると。

 その時は史実沿いになるのかな?

 私はカフェ君のストーリーを見れていないから確証は持てない。

 

 どういう結末になろうと、せめて私だけは最後まで彼女の味方でありたい。

 

「アンタは変わらないな。小さい頃みたいに、そうやってまた逃げるつもりか。臆病者」

 

 逃げ、ねえ。

 私って逃げるの好きなんだよなあ。

 

 追われるってのは気分が良い、自分が頂点なのだという事が実感できる。

 勝つために先行・差しを選ぶことも多々あったが、やはり逃げは良い。

 私がやっても格下殺しにしか使えないのが個人的には残念だったりする。

 

「ふふ。私は小さい頃から歯向かう者を全員しばき倒してきたが。最後まで残ったのは君だけだったな。シリウス」

 

 私もドリームトロフィーシリーズに移籍するまで色んなライバルと切磋琢磨し合ったはずなんだけどなー。

 皆何処に行ったんだろうねー。

 

 今も残っているのはシリウスだけだ。

 はあ。

 

「君と久しぶりに喧嘩するのも悪くは無いが、さて。勘違いしてはいけないが、タキオンは問題児だが恐らく私より速いぞ?」

 

 まあ、誰が相手だろうと走れば私が勝つんだが。

 

「分からんぞ。速いからって何だ? 走るのが怖いって訳じゃないだろ」

「そのまさかさ。彼女は頭が良すぎる」

 

 頭が悪かったら走って結果残して故障して終わりで済んだのだが。

 彼女はそれが読めてしまっているからなあ。

 

「速いくせに怖いから走れない。そんな彼女をも君は受け入れるつもりだろうが。じゃあ君の傍の子はどうかな?」

 

 しかし、それでも彼女は走らねばならない。

 いかなる挑戦者にも敗北は無い。

 敗北者がいるとするならば、それは挑戦しなかった者なのだから。

 

 普段シリウスが面倒を見るのは”芽の無い”ウマ娘だからなあ。

 彼女たちとタキオンみたいな才能の塊は相性が悪いだろう。

 

 残念ながら、弱い者は弱いものと仲良くは出来ない。

 それがわたしの持論なのだ。

 彼等は一見似ているようで、その溝は深い。

 

「己の資源が有限であると気づけるのは、ウマ娘の中でも正に希少価値。だが彼女には、”その先”に気づいて欲しいものだよ」

 

 ”最高”のその先、それに気づけるウマ娘は本当に少ない。

 その先を”知っているし、分かっててやっている”ウマ娘は。

 私が知る限りではマチカネフクキタルとカレンチャンしかいないのだけど。

 

「さて、シリウス。君ならどうするかね?」

「悪かった。私の負けだよ。畜生が」

「だから君と私に出来る事はないと言ったのだ」

 

 残念だが怪我が怖くてで諦めるようであるのならば、彼女はそれまでのウマ娘だったということだ。

 勿論、タキオンは違うだろうがね。

 

「そもそも変な話だろう。真面目に勉強していないのに怪しげな研究に手を出すなんて。アレは研究者というより我流だな」

 

 彼女の走りは私にとって理解できないものだが。

 何故、そんな知識で走れるのか。

 ウマムスコンドリアって何じゃい。

 

「どの分野でも教科書通りやれば一着なんて簡単だろうに」

「相変わらず賢明なことで。それが出来れば苦労はしねえ」

「私は出来る」

 

 実際の所はシンボリルドルフが強い理由なんてのも、わたしは知らないんだけど。

 ああ、わたしが強い理由なんて本当にどうでもいいんだよ。

 私は優等生であり、問題児はアグネスタキオンなのだから。

 

「彼女が社会というものを信用していないという事実について、学園としては恥ずべき事だよ。そして残念なことに我々はそういった者を助けることは出来ん」

 

 恐らく、原因は親だな。

 放任主義と聞いていたが、ウマ娘の名家とは一体...

 とはいえ彼女のような逸材が生まれている以上、間違っているとも言い切れないのがなあ。

 

「彼女にも私と同じ道を歩んで欲しいものだがね」

「アンタには、一生アイツ等の事なんて理解できねえよ」

「それは大変結構」

 

 そりゃ知ってるさ。

 こんなのは、所詮私の傲慢でしかないことを。

 

 わたしの無知と蒙昧でこの世界が救われるのであれば。

 私はこれでいい。

 




※カイチョーはプリティを理解していない。

余裕があるなら、次はシチーさんかヤエノちゃんかマベちんの話を描く。
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