サンタさんとクリスマスツリーからクリスマスプレゼントだ。
受け取ってくれたまえ。
2023/04/03 お兄さまに修正
我々の理事長、秋川やよいは問題児である。
あまりにも膨大すぎるポケットマネーだとか、年齢的に児童労働ではないのか、とか。
兎に角ツッコミ処は多いのだが、彼女の手腕については問題は無い。
生徒会長である私、シンボリルドルフとしてもそれでいいと思っていて。
今後も特に深追いするつもりはない。
少なくとも私は彼女が長だと認めているのだから。
とはいえ学園にとって彼女の成金趣味については賛否両論である。
ウマ娘のために投資として大量にばら撒いてくれるのは、個人的にすごーくありがたいのだが。
それが偶に変な方向へ向くのが困りものだった。
今回は理事長が学園の食堂に寿司バーなるものを設置しようとしたので。
秘書のたづなさんが私と連携して阻止するハメになった。
「後生! ちゃんと自分で管理するから!」じゃねーんだよ。
学園の設備は拾ってきた猫じゃないんだぞ。
貴女が居る内はそれでいいだろうけど、万が一のことがあったらどうするんだか。
最終的には、学園近傍の寿司屋と出前の契約を結ぶことで決着がついた。
今回は試験的に導入し、継続的な需要があるようならば理事長の理想も叶うだろう。
そんな需要があるかまでは知らん。
生徒達も理事長程に寿司が好きって訳でもないだろうよ。
魚はまあ、北海道出身の子には喜ばれるかもしれんが。
それよりも私は肉が食いたい。
ともかく、今回の仕事はちょっとしたイベント程度で済んでよかった。
それに昼前の仕事が食堂で、丁度食堂で終えたのだ。
これで久しぶりに食堂で食事ができる。
私は普段、会長机で昼を済ませているとはいえ。
それでもやはりカフェテリアで、食堂で食事をとるのが好きだ。
せっかくなら誰かと食べたいな。
スーパークリークはいないかな?
シンボリルドルフやマルゼンスキーをちゃん付けで呼ぶのは彼女ぐらいだ。
彼女の対人関係は大概バグっているが、私達はアレのそういう所を気に入っている。
ん?
私の賢さが何か不自然に開いている席を捉えた。
―ああ、そういうことか。
「ライスシャワーか。ここに座っても?」
「ヒィ!」
肩身が狭そうに平均的な食事を取る姿は、小柄な黒であっても目立っている。
周囲に緊張こそしているが自分の部屋や厠で食事を取ることもできただろうに。
彼女の名は極々最近、有名になったばかりだ。
「何を怯える? こないだの菊花賞の事か? 君にとっては想定外の結果だったな」
彼女は若き優秀なステイヤーであり。
その実力でミホノブルボンを打ち破った。
しかしまるで死角から現れたような彼女の勝利は、必ずしも喜ばれなかった。
圧倒的な走りにより三冠は確実と思われていたミホノブルボンに過度な期待が寄せられていたのもあって。
今回の件は、この漆黒の刺客の方向性を大きく決めてしまうことになったのだった。
「はい。ライスが勝つと、皆が不幸になっちゃうから」
「レースが怖いというのか」
クラシック三冠になれないっていっても、そんな変な話でもないのにねえ。
重賞どころか、一勝もできずに学園を去るウマ娘なんて珍しくもなんともない。
そういった意味では二冠も三冠も、そう変わらないと思うのだけどな。
まあ、私は三冠どこか七冠まで取ったんだが。
「しかし、勝つのが怖いとは。奇妙な事を言うのだな。悪者にされるのがそんなに怖いのか?」
しかし、どうしてあの”ライスシャワー”がこういうキャラになってしまったんだか。
世が世ならヒール系プロレスラーとして名を売っていただろうに。
目の前の彼女も、確かにプリティーなのは間違いないのだけどね。
そういえばアプリにおける私のストーリーは評判悪かったらしいね。
はて、ミスらしいミスを犯したつもりはないんだが。
「君も自分が負けるとは思っていないのだろう?」
「え? ええと、はい」
「そういった意味では、間違いなく君も”こちら側”だと思っているが。まあいい」
私も彼女も同じ高等部だとはいえ、年齢は離れている。
これも時代の流れというものか。
若い子の考えていることは分からんよ。
「予め言っておくが、私は誰かを悪者にすることはない。とはいえ。私としても自分が悪者にされるというのは、それなりに気分が悪い事だ」
勿論、観客が悪いとも私は言わない。
彼等の応援あってこそのレースなのだ。
期待を寄せるも悪意をぶつけるも、ファンと言う物はそういうものだろう。
だから全部アスリートは自己責任、と言ってしまうのはまた違うけど。
「か、会長さんも、そう思う事はあるんですね」
「私もジャパンカップで負けた時に、正に好機到来とばかりに叩かれたものだが。あれは流石の私も堪えたよ」
あれも今となっては懐かしいなあ。
勝ったのに認められないのは構わないが、負けて喜ばれるというのは頭にきた。
勿論、ふざけた真似をした新聞屋とカツラギエースには後でキッチリお礼した。
「君を見ると、ある先輩のことを思い出す」
強者は強者らしくあればいいと私は思っているが。
しかし、それが出来ない者たちもいるとは知っている。
勝つことに怯えるものと言えば、”彼女”もそうだった。
「彼女というウマ娘は優れていて。そして何より、人気者だった。流石にオグリキャップ程、という訳ではないが、その技術に関しては正しく”天才”と言うべき存在だった」
私にとって、尊敬できる先輩だった彼女。
もはや皆は忘れてしまったのかもしれないが。
彼女の生まれ持った雰囲気、まるでテイオーのような愛おしさを私はしっかりと覚えている。
「しかし。彼女はあるレースで、それこそミホノブルボンのように英雄視されていたウマ娘を打ち破ってね。そのことでバッシングを受けたのだ」
その時のレースを、ちょうど私はシービーと観ていたよ。
思い返してみても、特に可笑しい所はない極々普通のレースだったはずだ。
報を受けた時は衝撃だったな。
「君程に傷は深くなかったはずだが。たった本当に。それだけだった」
バッシングがあった、という事に関しても軽微のように見えた。
勝てば妬まれる、そんなありふれた話だろうと。
少なくとも当時の私は気にしなかったし、だからこそ大事となるとは全く思わなかった。
「それ以来、彼女はターフを去って、今は行方不明だ」
私は直後に彼女の部屋を見たが、自分の痕跡を一切残さない片付け方をされていた。
それはまるで忘れてくれと言わんばかりであり。
実際、世間一般で彼女の存在はそうなったのだった。
「何故辞めたのか。それは私の推測でしかないのだが、彼女は自らが悪であることに耐えられなかったのだろうな」
今でも私は、何故彼女より才の劣る私がここにいるのかと時たまに思い出す。
私は彼女より人気がある訳でもなく、強くもないとも思っている。
それを肯定してくれるのは、トレーナー君だけだけど。
「もし、もしもだが。彼女が己の悪を自覚しているのであれば、今でも彼女の走りを見れたのかもしれない。そう思うと心が痛む」
私が続ける理由は、もう既に忘れかけてしまったが。
シンボリルドルフとして活動するからには、自分と他人をぶっ殺してでも勝利すると誓ったのだ。
それだけはハッキリと覚えている。
「誰かを傷つけることを恐れて、挑戦することを辞めるようなことなど。そんなことは決してあってはならないのだよ」
彼女はまあ、そうじゃなかったんだろうな。
それは別に悪いことではない。
彼女は自らの善性によって自分の道を断った、それだけだろう。
「私は君の走りが見たい。そのことは君を応援する者も。君と競ったミホノブルボンだって思うことだろう」
「それはテイオーさんが負けることになっても?」
「無論。彼女は私を目指すと言ったのだ。私は彼女と君との対決も歓迎するよ」
少しだけ、彼女は考えるそぶりを見せるが。
しかし相も変わらず怯えたままだ。
「ライスは。それでも怖い」
「そうか」
己の悪を認めろ、というのは酷だろからな。
特に、この少女にとっては。
流石の私も強制まではできない。
「しかし。それでも君は走ることを辞めないだろう。ライスシャワー、その名に呪われ。その走りで多くの人を傷つけるウマ娘よ」
名前というのは、厄介なものだ。
ウマ娘になったとはいえ、その呪縛は強い。
いや、だからこそなのか?
「やっぱり、ライスは」
「ああ。そうだ」
とはいえアドバイスするとなると、この方法しか私は知らない。
私も彼女も、走ることから逃げるつもりはないだろうから。
そして、それが間違えているとも思っていない。
「呪いを知らぬ者から祈りは生まれない。呪いを宿す全ての挑戦者に。そして君に、どうか三女神の祝福があらんことを」
**
ライスシャワーには気になったから接触してみたが。
あの様子だと大丈夫そうだな。
彼女に関しては、お兄さまやブルボンに任せてしまうのが丁度いいだろう。
任せる、というのは難しいな。
何でもできるからか、私はつい自分で何でもしようとしてしまう。
現役中にエアグルーヴ達にも指摘されたが、私の悪い癖だ。
「全く。本来、期待や悪意などと言う物は、彼女たち年頃の学生に背負わせるものではないのだがな。しかし我々はプロである以上、それらを背負わねばならない」
その中でも、彼女は多少は恵まれている方だろうか。
挑戦者というものは、その殆どが道半ばで倒れ、そして忘れ去られていく。
しかし彼等は挑戦を辞めることはない。
何故なら挑まないことは”出来ない”からだ。
だからこそ私は挑戦者を扇動し、導かなければならない。
「君もそう思わないか、キングヘイロー?」
振り返れば、そこにはウマ娘の姿。
私に呼応するその姿は、どこか疑心というものを感じさせる。
「ご機嫌よう。会長さん。ちょっといいかしら?」
偉大過ぎる親を持ち、立ち振る舞いは正に悪役令嬢。
しかし、その顔立ちはやや幼い。
彼女というウマ娘は、才能だけならこの学園の誰にも負けないだろう。
「要件は想像ついた。先程のライスシャワーの話かな? 君の耳に入っていたようだね」
「ええ。悪いけど、聞き捨てならないことがあってよ」
聞かれていたか。
まあ自分で言っておいて何だが、あまり”善い”話ではないからなあ。
こうしてツッコミが入るのも仕方のない事よ。
「レースに勝つことが悪い事、というのはどういうことかしら?」
この話はアプリなら終盤でお嬢の母が指摘することなんだけどな。
今後そういう機会が彼女にあるかは分からないし、私が言ってもいいのか。
まだ彼女はデビューしてないんだし、ちょっと早い気もする。
いや、デビューする前にした方がいい話か。
「我々のレースは所謂、御遊戯会ではないからね。自分の夢の為に誰かの夢を踏みにじるのは、至極当前だろう?」
うわあ、すっごく哀しそうな顔をする。
私もたくさんのウマ娘の夢を踏みにじってきたとはいえ。
こういう目を向けられるとは中々くるものがあるな。
「そうね。でも、今の彼女を肯定しろ、というの?」
「ふむ。肯定したらどうなると言うのかな?」
とはいえ今更引くこともしない。
皇帝に後退の二文字は無い。
「すごく、危ういでしょ。あんな精神で走らせるなんて。ライスさんの身が持たないわ」
「”スピードの向こう側”のことが言いたいのか?」
それはトレセン学園の不良の間で語られる噂の一つである。
確かに存在すると言われるが、実際にたどり着いたものはいないとされる境地。
私としても、この世に生まれてこの方見たことは無いが、さて。
「走るな、とよりにもよって君が言うのか。やはり君は彼女の子供なのだな、ヘイロー」
「何で、すって?」
彼女の顔が面白いくらいに青ざめるが、この際気にしてられない。
中途半端が一番良くないからな。
「ライスシャワーは自らを救うために中央へ来たのだ。だからこそ私は彼女を走らせる。それが出来ないようであれば、君は”良い所のお嬢様”のままだよ」
キンヘ母は自分の娘に才能が無いとしきりに言っていたそうだが、こうして見ると分かりやすいのだな。
走る才能はあるんだ、それは間違いではないんだ。
その上で、彼女は勝負向きの性格をしていない。
「本当に。随分と、聞き捨てならないことを言うのね」
彼女の実モデルの方は、相当なお坊ちゃんだったらしいね。
一流を目指す彼女が、それをどこまで自覚しているかは分からない。
とはいえ、それを目指すなら避けられない現実でもある。
「キングとして皆の面倒を見る事に異存は無いわ。けど。このキングに手を汚せと?」
「君の母親の言葉を借りるならば、君には才能がない」
そんな顔をされても困るんだが。
キングは手を汚すの下手そうだからね。
ダートだとか、将来のオペラオー包囲網だとか。
流石にそこまでは口にはしないけど。
「こんな私を汚い大人と思うかな? しかし弱い者が善い者でなければ私としても困るのだよ。ピノキオの映画に出てくるロバ達を知らぬわけもあるまい? 悪を放置すると、さらなる邪悪を呼び寄せるのだから」
結局、学園にはリーダーが足りていないと言っても。
上に立てるかという点で、キングは微妙だなあ。
出来なくはない、という凄く微妙なラインだろう。
リーダーとして見ると、どうあがいてもスぺシャルウィークは及ばないか。
オグリと同様にナチュラル強者のスぺは比較対象として悪すぎるな。
「それは自らが悪であるということの、言い訳ではなくて」
「私は皇帝だ。こんな形でしか君たちを守れない」
私も偉そうにしてるけど、割と真剣にお嬢の善性は学園に必要なんだけどね。
ウララちゃんとか、カワカミの娘さんとか。
彼女にこっちの道へと向かわせるかは悩ましい所ではある。
「幸い君は、今のままでも”一流”である以上に”良い”ウマ娘だ。君は自分の脚で困難に立ち向かえるのだから」
お嬢の優しさは美徳ではあるのだ。
しかし、それをレースに持ち込むのであれば。
それは彼女の為にはならない。
「しかし。誰かが割を食うのが嫌、とは言わせんよ。せめてもの流儀として、負かしたものは自らの糧としろ。彼らを礎とすることで、彼らも私達の中で永遠となれるのだから」
相手の事を思うのであれば、結局は勝つしかないのだ。
自分以外を理由として戦う者というのは。
例外なく潰れてしまう。
「どのような選択をするにせよ、だ。君は誰かの為ではなく、君自身の為に走るがいい。他ならぬ自分自身を証明するために」
本日の楽曲はラジオネーム「マイケル・マイヤーズ」さんからのリクエストです。
それでは聞いて下さい、エルヴィス・プレスリーのアルバム「エルヴィス・トゥデイ」より「グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム」。