愛という名の絶望   作:倉木学人

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カイチョーの話なら無限に描けるんだけど。

笹針刺して完全体から最終形態にパワーアップするカイチョーとか。
トレーナー君との距離が近いライトハロー先輩にけん制するカイチョーとか。
最近実装されたお嬢(200回で引けた)を歓迎するカイチョーが見たくないかって言えば見たいけどさ。

そればっかやる訳にもいかんので、別作品も手を付け始めます。

2023/04/03 タマちゃんのセリフを修正
2023/07/25 シチーさのセリフを修正
2024/05/02 シチーさのセリフを修正


ショービジネスは必ず決行であると

 

 悪夢から醒め、ぼんやりと意識が覚醒する。

 今日も、役立たずの目覚まし時計がうざい。

 

 酷い夢を見ていたような気がするが。

 忌々しいことに、その内容は全く覚えていないのだった。

 

 時計を見るとまだ朝の7時。

 他のウマ娘ならとっくに起きてる時間であり、アタシがいつもは寝ている時間だ。

 頭がくらくらする。

 

「最悪」

「あれ、シチーさん今日は早いっスね」

 

 ルームメイトのバンブーメモリーが覗き込む。

 風紀委員長だけあって、身だしなみは既に整っている。

 アタシの寝坊なんていつものことなのに、それでも真面目かつ真剣にアタシを見ている。

 

 彼女に八つ当たりしないよう必死にイライラを抑え。

 アタシは毛布にくるまって、彼女から背を向ける。

 

「二度寝する」

「全く。仕方のない人っすね」

「ん」

 

 

 結局、その日にトレーナーと会ったのは、昼も近づく11時の頃だった。

 

「やあ、ゴールドシチー」

 

 それはアタシの中に巣くう馬の名前。

 アタシはその名前を前世から知っている。

 そして、それが自分のウマ娘としての名前だった。

 

 ゴールドシチーはルックスに優れるウマ娘の中でも屈指の美少女。

 尾花栗毛のブロンド髪に大人びた顔、グッド・ルッキング・ホースと呼ばれた者の擬人化に相応しい姿。

 全ては私が神に臨んだ通りの結果。

 

 そして、この選択を今になってはひどく後悔している。

 何てざまだ。

 

「今日のトレーニングは、そうだな。休もう」

「は? トレーナー。アンタ、この時期に何言ってんのか分かってんの?」

 

 最近のアタシは負けが続いている。

 このままだと、引退も視野に入れないといけないかもしれない。

 ここが史実だとそうなるのだろうが、それだけは認めてなるものか。

 

「寝不足だろう」

「別に。眠くなんかない。練習するんでしょ」

「じゃあ今日の練習は保健室な」

 

 今日のアタシはそんなに酷い顔をしているのだろうか?

 マネジ(アタシのレースのトレーナーでなくて、モデル活動としてのマネージャーね)の目もあるし。

 保湿など肌の管理を間違えているつもりはないのだけど。

 

 今日は休みたくないと、トレーナーに駄々こねて。

 自分でも嫌悪するぐらいの結構な抵抗をしたが。

 それでもアタシは保健室のベッドに寝かされるのだった。

 

「眠れない」

 

 休まなければと思っても、緊張したままだと眠れるわけがないのだ。

 

 この頃ずっと、失礼なコメンテーターの言葉が忘れられない。

 何が”へえ、ゴールドシチーってレースも走れたんだー”だ。

 お前の顔と所属、覚えたからな。

 

「ちょっと顔を出して。ツボをマッサージするから」

 

 美容のためにツボもマッサージもわかるけどさあ。

 その手つきってアレだろ、知ってんだぞ。

 

「ねえ、アンタさ。あの安心院とかいう笹針女と関わるの止めない?」

「これもシチーのためなんだ」

「笹針刺して人間同士のレースに出る事がそんなに大事なんだ...?」

 

 そういえば長距離最速の動物は人間なんだってね。

 すごく、どうでもいい話だろうけど。

 それでもあの不審者、良くたづなさんから逃げきれるな。

 

 そう思っていると、マッサージによりリラックスしてきたのか。

 急激に意識が消えていくー

 

 

「-」

 

 誰かの声が聞こえる。

 あたり一面に広がるのは青空草原。

 

 その一区画には、自然にデパートの衣料品コーナーが生えていて。

 そこにアタシともう一人のウマ娘がそこにいたのだった。

 

「なあ、シチー。聞いとるんか?」

 

 タマモクロス先輩が、下からアタシを見上げて。

 いぶかしむような顔でこっちを見ている。

 

「聞いてますよ。タマモ先輩」

「じゃあ、この服ならどうや?」

 

 先輩が手に取ったのは、明らかに売れ残ってますみたいな?

 アタシの気をひかない奇抜なデザインの服。

 サイズはLLで、半額の値引きシールの自己主張が激しい。

 

「どうって。また服のサイズが合ってないじゃないですか」

「なんや。シチーはウチがチビやっていうんか?」

 

 先輩は腕を組んでこちらを睨んでくるが。

 それを小柄な美少女がやっているせいか、あまり怖さは感じない。

 

「そこは認めましょうよ。ブカブカの服を着ていたら、それこそ自分がチビだってことを強調しますって」

「ぐぬぬ。チビはチビなりのプライドがあるんや」

 

 タマモ先輩の身長はトレセン学園の中でも特に小さい部類に入る。

 貧乏で栄養状態もあまりよくないらしいので。

 その辺りは大変なんだろうなと思う。

 

「身長が低くても、安くても。オシャレはできますから」

「それって、子供服とかじゃないやろうな」

「そういう方向も無くはないですけどねー。クリーク先輩みたいにはしませんよ」

 

 とはいえ、それでファッションが大きく制限されるというわけではない。

 身体が大きすぎる(ドットさんとか大変そうだよね)、という場合はファッションが制限されたりはするけどね。

 

「あーもう。アカン。ウチはオシャレやないなあ」

「絶望することはないですよ。アタシもそういう時代はありましたから」

 

 今ではモデルやってるアタシも、最初っからファッションに詳しい訳じゃないからな。

 興味を持ち始めたのはこの身体になってからだ。

 

「ふーん。シチーも綺麗になりたかったんか?」

「そりゃそうですよ。例え中身が最悪であっても、見た目だけは綺麗にしたいですから」

 

 以前の自分は、ファッションに一切興味を持てなかったからな。

 それはー、まあ、どうせ自分なんかがという諦めもあったのだ。

 今はちゃんと勉強して、今ではファッションリーダーを名乗れるくらいには来ていると思う。

 

「見た目だけでも、なあ。ふーん?」

「先輩?」

 

 タマモ先輩の声が、一段低くなっている気がする。

 彼女のこんな感じの姿は大分レアだったと思うけど。

 

「シチーは、今のままでええと思うんか? 本当に、見た目だけで満足しとるんか?」

 

 確かに、アタシは美少女だ。

 それは周囲からさんざん言われ続けていることでもある。

 

 しかし、美少女だとしか言われないのは、それはそれで気に食わない。

 そして、それがアタシが走る理由でもある。

 

「良くはーないでしょうね。そりゃあ、アタシは自分の見た目が好きですけど」

「シチーには悪いけど。ウチらは先に行かせてもらうで」

「先?」

 

 アタシは彼女の目を見るが。

 先輩はアタシから目をそらす。

 

「ルドルフがな。ウチとイナリを呼び出してな。次の世代を任せるて言うとったんや。レースで成り上ったウチ等に、”お偉いさん”としての立ち振る舞いを知っとけっちゅー話やった。そりゃあウチが勝ってから、おとーちゃんやチビどもに、知らん兄弟やら親戚やらが増えて困ってんねんけど。ウチらが、偉いもんかあ」

 

 ルドルフの奴。ヨシモトの劇場の、売れない芸人みたいなことを言いよってからに。

 そう彼女がぼやくのが聞こえ、それがそのままアタシの耳を通過する。

 

「は? アタシ、そんな話聞いてない」

「そりゃそうやろ。シチーはその資格はない」

 

 あ?

 それはアタシの成績が弱いってか?

 そりゃそうだろうけど、流石に認められない。

 

「ずるい。嫌だ。アタシも、その先に行くんだ」

「ズル? アンタは何をふざけたこと言うとるんや」

 

 思わずアタシは声を荒げるが。

 それに対して、先輩の視線は冷え切っている。

 

「こっちに来たいんちゅーなら。レースに勝つことや。アンタにはそれが感じられへん。モデルがなんだか知らんけども、こっちのレースはそんな甘い世界やないで」

「先輩?」

 

 おかしい。

 先輩も気性難とはいえ、こういうことを言うウマ娘ではないはず。

 いや、そういうところがあるのは知っているけど。

 ここまで冷たくはなかったはず。

 

「確かに、ウチ等はウマ娘になったんやで。でも、ウチらがそれであのクソ人間共から解放された訳やない。そこを勘違いしとる奴は、ごっつ居るけどな」

 

 目の前の彼女は、誰だ?

 これはタマモクロス先輩、というより。

 虚無?

 

「”プリティー”はそれで終わりやないんや。だからこそ、今一度聞かせてもらうで。アンタはいつ、命を賭けた”勝負”を始めるんか?」

 

 違う。

 アタシだって、頑張っている。

 頑張っているけど、結果が出ないんだ。

 でも、貴方たちの所にアタシも行きたくってー

 

 

「シチー!」

 

 突然、アタシのことを呼ぶ男の声で意識が覚醒する。

 辺りを見渡すと、そこは学園の保健室の中。

 時計を見ると、寝る前からそんなに時間が経っていないようだった。

 

「トレー、ナー?」

「シチー? ひどい汗だぞ」

 

 トレーナーがアタシのことを心配そうに見ている。

 

 あれは、夢だったのか。

 ほっとしようとしたが。

 しかし、何も解決していない。

 

 そんなことを忘れたくて。

 アタシはトレーナーを手繰り寄せ。

 おびえるように、さっき起きたことから逃げるように。

 

「強く。抱きしめて。お願い」

 

 彼を自分の身体に強く引き寄せるのだった。

 




本日の楽曲はラジオネーム「午前10時の男」さんからのリクエストです。
それでは聞いて下さい、マンハッタン・トランスファーのアルバム、「メッカ・フォア・モダン」より「ザ・ボーイ・フロム・ニューヨーク・シティ」。
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