とある転生者が夢を叶える物語   作:モッティ

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先輩の躾

  

 

 

 

 ホームルームの後、俺、ルーデウス、ザノバの三人は昼休憩に食堂で待ち合わせる約束をした後、それぞれの行き先に分かれた。

 ルーデウスは図書館、ザノバは授業。

 俺は学校の至る所を歩いて回った。

 

 廊下、練習場、研究室、図書館、エトセトラエトセトラ……。

 基本は人族ばかりだが、魔族や獣族らしき生徒もちらほらといる。

 もちろん身分も様々だ。

 王侯貴族、従者、富豪の子女、平民、冒険者などなど。

 

 どこから聞きつけたか、俺の名を知っている冒険者が何人か群がってきた。

 おそらく試験の時にいた奴らだろう。

 適当に撒いて逃げたが、多分、今後もそういう連中は来るだろうな。

 

 しかし、こうして見ると、賑やかな大学だ。

 研究学園都市とかってのはこういうもんなのか?

 行ったことないからわからないが……。

 

 

「で、なんで外で飯食ってんだよ」

「遅いぞアムール、もう食い始めてるぞ」

「アムール殿、こちらだ」

 

 

 食堂の外、即席のイスとテーブルでピクニックみたいになっている二人を見て思わずツッコミを入れた。

 食べながら話を聞くと、どうも中でトラブルがあったせいで、こんなところで青空食堂をやっているらしかった。

 

 

「ほーん、ルーク・ノトス、ねぇ……」

「……ああ、やっぱりお前が居なくてよかったな」

「何で?」

「そんな顔してるから」

 

 

 ザノバの方を見る。

 

 

「どういう顔してます?」

「ふむ、餌を喰いそこなった豚の目であるな」

「正直に物を言うのは嫌いじゃないね」

 

 

 俺は親指の爪で人差し指の腹を切り、水魔術を蛇口のように出して喉を潤した。

 

 

「ところで、アムール殿と師匠はどのように出会われたのですか?

 先程聞きそびれてしまったので、良ければ是非聞きたいですな」

『俺とこいつの出会い?』

 

 

 目を合わせる俺とルーデウス。

 正直言って、あまり話したくない思い出だ。

 

 一方的に喧嘩を売って、後日不意打ちでボロ負けなんて。

 反抗する気が起きずそのまま再戦せずにいて、いつの間にかなあなあで仲良くなってるなんて。

 なんだかんだで魔法大学まで来てしまうなんて。

 

 

「――ほんと、胸糞悪いぜ」

「その割にはノリノリに話したな」

「ですな」

 

 

 馬鹿言え、んな訳あるか。

 しかたなくだしかたなく。

 

 背もたれに体を預けると、ルーデウスが思い出したように言った。

 

 

「そういえばさ、お前何であの時、俺に絡んできたんだ?」

「……さあ、なんでかな」

 

 

 別にはぐらかしている訳じゃない。

 俺にも本当に分からないのだ。

 

 ただ、ムカついた。

 それだけ。

 

 ……何にムカついたって?

 ハッ、俺が知りたいね。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 昼食を終えた俺は、そのまま教務員の控室に向かった。

 正確には、ジーナス教頭のところへ向かった。

 周りの教師の幾人かが握手を求めてきたが、軽くいなしてジーナスを連れ出した。

 

 

「……それでアムールさん、話とは何でしょう?」

「俺がこの大学に来た理由を、聞いていただきたくてね」

「ほぅ、それはぜひ聞きたいですな」

 

 

 誰もいない運動場の一つを貸し切った。

 ここにいるのはジーナスと俺だけだ。

 春先の涼しい風が吹く気持ちのいい場所に陣取った。

 

 

「ジーナスさん、俺は生まれつき、魔術を薄皮一枚でも外には生成できない体質なんです。

 この大学に来たのは、その体質について調べたかったからです。

 あわよくば改善できれば、とも思っていますが」

「……薄皮一枚、というと、体内に向ける形の魔術しか使えない、と」

 

 

 俺は頷いて実演を始めた。

 右手を運動場の中央に向ける。

 水弾を撃ちます――そう言って俺は魔力を指の先に集めていく。

 雑多な魔力が水球を形作り――霧散した。

 

 間髪入れずにまた魔力を集める。

 だが次に集めるのは指先ではない。

 手の内部だ。

 

 瞬間、右手が、爆弾でも握っていたかのように爆発した。

 筋肉や血管がむき出しになっている右手。

 あっけにとられるジーナスを尻目に、右手から発射された水弾は、放物線を描いて地面に落ちた。

 

 俺は即座に右手を治癒魔術で再生する。

 そして大口を開け、喉奥から水弾を放出した。

 放たれた水弾は、口内を傷つけることなく、先程と同じ軌道を描いて、落ちた。

 

 

「――まあ、こんなもんです。

 他の魔術師みたいに指先に魔力を集めても霧散してしまう。

 無理矢理にでも使いたければ、たとえ手が爆発しても、内部から魔術を撃ち出すしかない。

 口の中ならその限りじゃないようですが、火魔術や土魔術は使えません。

 熱傷と土を喰らう羽目になるのはごめん被りますからね」

 

 

 ゆったりと浮かび上がりながら話す。

 

 

「あとは試験の時に見せた重力魔術ぐらいですかね。これも自分の体重を軽くするくらいが関の山です。

 他にも使える魔術はありますが、そんなところです」

「……なるほど、興味深い事例です。

 恐らく、一番可能性が高いのは、アムールさんが呪子であることですな」

 

 

 俺は地に足をつけた。

 

 

「やはりですか、となると改善は難しいでしょうか?」

「調べてみなければ分かりません。

 失礼ですが、生まれはどちらです?」

「ミリスあたりと聞いています。両親はいません。

 拾い子だったんです」

「なるほど……いや、もし魔族の血を引いていれば、彼らの中にはそういう体質の者たちもいるかもしれないと思いましてね。

 ですが、寡聞にしてそういう部族がいるとは知りませんので、これも可能性としては薄いでしょうな。

 やはり、呪子の線で間違いないでしょう」

 

 

 ジーナスは腕を組んだ。

 釣られたように俺も唸り声をあげる。

 

 

「確か、呪いってのは未だに解除する方法が見つかっていないんでしたっけ?」

「その通りです。古代から研究が進んではいますが……」

 

 

 ジーナスが語った内容は、世間一般の常識よりも多少詳しい程度のもの。

 アムールには既知のものだった。

 

 ジーナスに礼を言って、俺は大学外へ足を運んだ。

 俺はルーデウスのように寮に泊まらず冒険者用の宿を借りる予定だったので、宿の見物目的だ。

 S級冒険者用の宿の方が寮よりも快適なのは確認済みだったし、前世で寮生活には飽き飽きしていたのもあった。

 冒険者ギルドに顔を出し、推薦された宿にチェックインした。

 

 

「ここに来た目的の一つが早くも潰れた訳だが……まあ、そこまで期待していたわけでもなかったしな」

 

 

 ポケットから出した酒瓶を呷り、ベッドに腰かけた。

 暇になったし、休んでからルーデウスの部屋にでも行ってみるか。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「――で、アレ本当なのかい?

 呪子がどうのって話」

 

 

 そうみてぇだな。

 あの人が言ってたのと然程変わりねぇ。

 

 

「でもボクらが話してた予想とは違ったじゃないか。

 ほら、精神が云々のやつ」

 

 

 そっちはまだ確証がねぇんだよ。

 まあいいじゃねぇか細かいことは。

 どっちの仮説が正しいにせよ、結局魔術に制限がかかってる状況には変わりねぇんだからな。

 

 

「不便だよねぇ、これだから雑魚にしか勝てないんだよ。

 何とかならないかなぁ」

 

 

 簡単に解決するなら苦労しねぇだろ。

 

 ……で? なんか他に話があるんだろ?

 さっさと話せよ。

 

 

「ああ、そうそう。

 ボクが見る限り、君たちに推薦状を送ったのは、生徒会長の一派みたいだね」

 

 

 ああ、あのルークにフィッツに金髪の女か。

 確かアリエルって言ってたが……そういやアイツ下の名前……。

 

 

 

「そう、アリエル・アネモイ・アスラ。

 アスラ王国の王女様らしいよ。

 大方、君たちを利用もしくは仲間に引き入れて、アスラへの手土産にするつもりじゃないかな?

 浅ましいねぇ、都落ちして逃げ延びて、まだ権力の座に就こうともがくなんて。

 余計な反乱を起こして、国民の命を危険にさらすのが目に見えてるじゃないか」

 

 

 そうかもしれねぇなあ。

 でも、俺は綺麗ごと並べて上っ面取り繕うよりも、欲望のままに玉座を狙うほうがいいと思うがねぇ。

 

 

「……ひょっとして君、彼女を助けるつもり?」

 

 

 いいや、まさか。

 アリエルがどうしても助けてくれって頼み込んできたら、話ぐらいは聞いてやるがな。

 

 

「それを聞いて安心したよ。

 君一人で手いっぱいなのに、もう一人追加なんて正直目も当てられないからね」

 

 

 分かってる分かってる。

 

 

「分かってるかなあ?

 君、ボクが普段どれだけ君の為に気を配ってるか知ってるかい?」

 

 

 知ってるさ、何回も言わせんなよ、お前には感謝してるんだ。

 気を使わせて悪いな。

 いつもありがとよ。

 

 

「そうそう、最初から素直にそう言えばいいんだよ。

 それじゃあ、利用されないように気を付けるんだよ?」

 

 

 おう、じゃあな。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ええっと、男子寮への道は……」

 

 

 夕暮れのぼんやりした空の下、俺は男子寮へ向かっていた。

 あの後ぐっすり寝た俺は、案の定中途半端な時間に起きてしまい、暇つぶしにルーデウスの部屋に行こうとしていた。

 あいつもA級冒険者なんだから、多少は良い宿紹介してもらえるだろうに、なんだかなあ。

 金が無いのか?

 

 

「……あ?」

 

 

 町の通りから大学に入ってすぐ、俺は反対に街へ繰り出そうとしている人影を二つ見た。

 ただそれだけだったなら、俺も口に出して反応したりしない。

 

 何故反応したかと言えば、その二つの影は、今日、確かに見たことがある二人だったからだ。

 強く印象付けられた奴らだったからだ。

 クソガキだったからだ。

 

 

「おう、来たニャ一年坊主、ちょっと面貸すニャ」

「時間は取らせないの、建設的な話し合いってやつなの」

 

 

 リニアーナ・デドルディアに、プルセナ・アドルディア。

 こんな夕暮れに少女二人だけで待ち伏せとは。

 舐められたもんだ。

 ……ああ、そういやザノバが言ってたな、こいつらはドルディア族のお姫様だと。

 

 どうりで、こんなに隙だらけな訳だ。

 威圧の仕方もど素人。

 箱入り娘の子猫と子犬、粋がったって怖くもなんともない。

 

 

「……お呼びじゃねぇんだ、失せろガキ」

 

 

 俺は今年で35、前世を含めれば60を超える。

 ガキの挑発でいちいち気炎を上げていては、大人失格ってもんだ。

 

 俺は近寄ってきた二人の間を強引に抜けようとした。

 

 

「まあ待つニャ、お前にとってもいい話ニャ」

 

 

 リニアーナに肩を掴まれる。

 爪が食い込んだ。

 

 

「私たちと組むといいの」

 

 

 何言ってんだこの犬は。

 

 

「聞いたの、お前がやり手の冒険者だって。

 なかなかデキるみたいだから、私が面倒見てやるの。

 私たちとお前が組めば、アリエルたちを叩き落としてこの学園のトップになれるの」

「そうニャそうニャ、アリエルみたいなのに良いようにさせとくと、息が詰まっちまうニャ」

 

 

 お前らが、だろうな。

 さて、素性がバレても結局舐められてることに変わりはないか。

 どうしたもんかな。

 

 そんなことを考えていると、リニアーナがニヤリと笑って言った。

 

 

「まあ、お前がどうしても嫌だってんニャら、やめとくニャ。

 その代わり、もう一人の一年坊主に集ってくるだけだニャ」

「……いい度胸してんな、俺に向かって脅迫とは」

「何言ってるの、そんな野蛮なことはしないの。

 ただ、ちょっとお話(・・)してくるだけなの」

 

 

 ルーデウスの顔が脳裏によぎる。

 揉め事は起こすなと、今日だけじゃなく旅の途中でも念押しされたもんだ。

 けど、まあ、限度があるだろう。

 

 俺は二人に向き直り、降参したように両腕を上げた。

 

 

「分かった、受けよう。

 ただ、一つだけ条件がある」

「おう、ようやくその気になったニャ?

 ようし、言うだけ言ってみニャ」

 

 

 にやけ面のリニアーナとプルセナ。

 その二つの顔面を掴んだ。

 音もなく、抵抗する間もなく。

 

 

「俺に絶対服従だ」

 

 

 吠魔術、それも飛び切りクラクラくるやつを、思いっきりぶっ放した。

 

 

「ゴオアアアァァァァ!!」

 

 

 突風が吹き、街路樹が木の葉を散らし、鳥は爆音から逃れるように飛んでいく。

 腕から伝わってくる重みは、二人の体重だ。

 二人とも、口から涎を出して気絶していた。

 

 情けない、仮にも獣族だろう。

 自分たちの固有魔術に抵抗する術くらい、心得ていてしかるべきだろうに。

 

 無造作に二人を放り投げた。

 薬でも盛られたようにピクリとも動かない。

 

 正直、若干、やっちまった感はある。

 でもまあしょうがないだろう、こいつらが先に手を出したわけだし。

 

 

「……あーあ、まあ、そりゃあ来るわなぁ」

 

 

 案の定爆音を聞いて飛んできた生徒たちは、誰も彼もパジャマ姿ばかりだ。

 というか、誰も彼もというか、彼女らというか……女ばっかりだな?

 

 

「アムール……!」

「ああ、よう、ルーデウス、今から向かおうと思っててな」

 

 

 何故か来ているフィッツを含めて、ほとんどの生徒が困惑と恐怖の表情をしている中、一人だけ制服姿のルーデウスは、いかにも怒っていますって感じの顔をしていた。

 

 

「お前……こりゃどういう……」

 

 

 経緯を話すと、ルーデウスは納得したが、心情の折り合いがついていないような顔をした。

 倒れている二人を見やりながらルーデウスは言った。

 

 

「あのなあ、そりゃ、俺のことを考えてやったことだってのは分かるけど……言わせてもらえば、これはいじめだ」

「いじめじゃねぇよ、躾だ」

「お前にとっちゃそうかもしれないさ、でも周りから見ればどうだ?

 こんな場所でこんな騒ぎになって、これじゃお前はただのいじめっこじゃないか」

「周りの目なんか糞食らえだ」

 

 

 俺は鼻を鳴らした。

 

 

「大体な、先に喧嘩ふっかけてきたのは向こうだぜ?

 テメェの子分にならなきゃ、ルーデウス、お前を襲うってな。

 それを鑑みりゃなんてことはねぇ、こちとら正当防衛しただけじゃねぇか、それも手加減してやってよ、これを見ていじめなんざ笑わせてくれるぜ」

「俺はな、アムール、俺が傷ついたっていいんだ。

 けどよ、友達のお前が誰かを傷つけて平然としてるような顔してるのだけは、我慢できない」

「……正当防衛をそんなふうに言われちゃたまらねぇよ」

 

 

 俺はルーデウスから目を逸らさざるをえなかった。

 俺のことを本気で心配していることが、否応にも分かったからだ。

 

 ルーデウスの方へと歩く。

 距離が縮まるにつれ、生徒たちの緊張感が高まっているようだった。

 俺は手を伸ばせば触れられる距離まで近づいた。

 途中から、苦笑いを浮かべながら。

 

 

「分かった、俺が悪かった。

 こいつらにも後で謝るし、寮まで丁重に運ぶ。

 それでいいな?」

「ああ、いいよ」

「……一応言っとくがな、俺も自分が傷つくのはかまわねぇんだ。

 友達傷つけられんのが嫌だったんだ」

「分かってる。

 ごめんな、嫌な言い方して」

 

 

 こつん、とルーデウスが俺の胸に拳を当てた。

 二人して笑っていると、周りの緊張も解けたのか、いつの間にか生徒たちが群がってきていた。

 その中で、一際目立つ白髪の美男子が、俺とルーデウスの間に割って入ってきた。

 

 

「日没後に女子寮に男子生徒が近づくのは駄目だよ、生徒同士の不文律なんだ」

 

 

 フィッツは、そう言って俺の方を睨んで言った。

 まあそうか、そういうルールがあって当然だろう、前の世界でもこの世界でも、人間の本質は変わらないしな。

 

 

「……ん?」

 

 

 そこで俺は、女生徒に囲まれたルーデウスを見てとある疑問をルーデウスに投げかけた。

 

 

「今更なんだがなルーデウス。

 お前こんな時間にこんな人数の女子に囲まれて何してたんだ?」

「あ……いやあ、その……なんか、下着泥棒の容疑をかけられていまして……」

「ああ、なるほど、お前ならやりかねんな」

「やめろよ!

 普通に無実だからな!?」

 

 

 それから疑いの晴れないルーデウスと女子多数でひと悶着あったものの、リニアーナとプルセナを失神させた俺が出張ると呆気なく収まった。

 フィッツが言うに、あの二人は以前この学校の頭を張っていたボス格だったようだ。

 

 俺と組んでもう一旗揚げようとしたわけだ。

 実に下らない。

 

 

 

 

 

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