遊戯王世界に転生したら、ラスボス達に懐かれました 作:今こそ一つに
この作品もそろそろ五年目らしいんですが、どうやらまだデュエル二回目なんですって。信じられませんね。私もです()
迂闊だった。まさかイシュがこの場所にやってきた事で、
当初の予定では、研究者たちから隠れて、ボクとe・ラーだけで遺跡に侵入し、究極神と戦うつもりだった。周りを、何よりイシュを巻き込みたくなかったのに。
なのに、それは失敗した。ボクの考えの甘さが、この事態を招いてしまった。
イシュは──究極神に身体を乗っ取られ、ボクとこうして相対していた。
『「
周囲には、崩れた遺跡の一部。研究者たちは逃げだし、機材は故障したのか、煙を出して火花を散らしている。
そんな中で、戦いの火蓋は切って落とされた。もう、後戻りはできない。
キョウジ LP4000
究極神 LP4000
『妾が先攻だ』
対峙するのは、イシュの身体を乗っ取った究極神《アルティマヤ・ツィオルキン》。衣服やデュエルディスクこそ変化は無いが、瞳の白黒が反転し、彼女がしないような闘争心むき出しの笑みを浮かべている。
そして、全身から放たれる、プレッシャー。こうして立っているだけで、足が震えそうになる。戦うと決めたはずなのに、折れそうになる。
『見せてやれ、キョウジ。我と貴様で生んだ、カードの力を!』
「まだ引いてないし、あと言い方なんとかならないのか」
どうしてこう、変な言い方をするんだ。
けど、手札は悪くない。そのままe・ラーがいつも通りの調子で居てくれれば、多少はやりやすい、はず。
『手札が5枚以上あるとき、《邪神官チラム・サバク》はリリースなしで召喚することができる!』
現れたのは、いくつもの蛇を従え下半身とする、邪悪なる神官。漫画5D'sでゴドウィン・・・・・・いや、究極神なのか? ともかく、奴が使ったカード。
『更にカードを二枚伏せる。
これで妾はターンを終えよう。さぁ、貴様の力を見せてもらおうか』
チラム・サバクの攻撃力は2500。前世のデュエルだったなら、容易く対処できるけど、今のボクにとっては脅威でしかない。
更に言えば、あのカードは戦闘破壊されるとチューナーとして蘇る能力を持っている。無警戒に攻撃すれば、究極神の召喚条件を整えてしまう。
「ボクのターン。ッ、ドロー!」
恐怖心を振り切るように、カードを引く。
「《インフォーマー・スパイダー》を召喚。
更に魔法カード《エクシーズ・レセプション》を発動だ。その効果で、手札の《冥界の麗人イゾルデ》を特殊召喚する」
現れたのは、暗視ゴーグルを身に着けた蜘蛛と、美しい容貌のアンデッド。どちらもレベルは4だ。
「ボクは二体のモンスターでオーバーレイ、エクシーズ召喚!
現れろ、ランク4! 《絶望皇ホープレス》!」
二体のモンスターが小さな銀河へと飲み込まれ、爆発と共に現れたのは、黒い鎧を纏った絶望の使者。
本家である《
『キョウジ、良いのか? 《デッドリー・シン》ならば
「わかってる! けど、これは──このデュエルは、負けられないんだ」
下手な動きは出来ない。一つのミスが、ボクの、ひいてはイシュの。そして世界の終わりへと繋がってしまう。
拳銃を常に突きつけられていると錯覚しそうなほどだ。いや、それも間違ってはいないんだろう。フィールドのモンスターは質量を持っていて、ライフポイントへのダメージは、ボクの身体を直接傷つけるのだから。
「・・・・・・カードを一枚伏せる。これでターンエンドだ」
『フン、
妾のターン、ドロー』
イシュと究極神の声が二重になってターンを宣言し、カードを引く。
『妾は《地神官アスカトル》の効果を発動する。手札を一枚捨てることで、自身とデッキの《赤蟻アスカトル》を特殊召喚だ!』
「っ!?」
アレは、ゴドウィン長官のカード!? いや、劇中で使われた訳では無いんだけど──ともかくマズい。
『そして《赤蟻アスカトル》はチューナーモンスター。見せてやろう、我が力の一端を!
レベル3《赤蟻アスカトル》で、レベル5の《地神官アスカトル》をチューニング。
シンクロ召喚! 《玄翼竜ブラック・フェザー》!』
鳥類を思わせる咆哮と共に飛翔する、黒き翼の竜。『
まさか、ここまで早く出てくるなんて。
『バトルだ! ブラック・フェザーよ、まずはそのモンスターを蹴散らせ!』
「《絶望皇ホープレス》の効果発動! モンスターの攻撃宣言時、
ムーンバリア、と言うには禍々しい盾によって、玄翼竜の攻撃は防がれた。のみならず、絶望の瘴気に触れた事で自由な飛行を奪われ、地へと墜とされる。
ひとまず攻撃を
『待てキョウジ、気を抜くな!』
『ほう、防ぐか。
ならば《蛇神官チラム・サバク》で《絶望皇ホープレス》に攻撃!』
「なにっ!?」
攻撃モンスターの攻撃力と守備モンスターの守備力が同じ場合、どちらも戦闘破壊されないのが遊戯王のルールのはず。
混乱しかけたボクだったが、その意図はすぐにわかった。
モンスターとモンスターが激突し、大地が揺れる。邪なる神官は下半身より生えた蛇を黒き戦士へと噛みつかせ、戦士もまたそれらを防ぎつつ黒剣で押し返す。
モンスターの巨体によって周囲の地面にはヒビが入り、巻き上げられた砂が舞う。
「ぐっ、うううあ!?」
『しっかりしろ、キョウジ! 貴様にまで攻撃は届かない!』
パニックになりかけるボクの視界を塞ぐように、e・ラーが正面から声をかけてくる。
『カカカカカ! これは滑稽だな! それだけの力を有していながら、戦うのを恐れるか、人間!
どうする!?
究極神の
そうか。サレンダーすれば。今ここで降参すれば、これ以上苦しまずに──
『キョウジ! 絶望するのは良いが、希望を捨てるな! ええい、なぜ我がこのような事を言わねばならんのだ!』
e・ラーが何か言っているが、あまり耳に入らない。
だって、怖いんだ。死ぬのは。身体からどんどん熱が失われていくのがわかって。もう絶対に目を覚まさないと自覚して。なのに眠くて仕方が無くて。
あんなのは、もう──
『うぷっ、ちょ、待っ・・・・・・』
口元を押さえたe・ラーが、地面にへたり込む。その拍子に、フィールドを挟んで向かい合う、
そうだ。ボクがここでサレンダーしたら、イシュはどうなるんだ。ラスボスに身体を乗っ取られて、平気な訳が無い。このまま究極神が完全に復活すれば、本当に助からないかもしれない。
今からズァークに連絡しようにも、いま彼は
「ボクが、戦わなきゃいけないんだ・・・・・・!」
決めたんだ。そう決心したんだ。
今にも逃げ出しそうな足をなんとか踏ん張って、ボクは顔を上げる。ディスクを構える。究極神と、対峙する。
『カカカカ、そうでなくてはな! 腑抜けが相手では、食らい甲斐が無い!
妾はこれでターンエンドだ!』
「ボクのターン、ドロー!」
ターンが移る。ボクの盤面にはまだホープレスがいて、引きも悪くない。まだ諦めるには早い。
「・・・・・・で、なんでそんなところに蹲っているんだ、e・ラー」
『き、貴様が・・・・・・あまりに早く絶望するからだろうが・・・・・・!』
そのあまりに頼りない姿に、ボクは何も言えなくなる。
『ぉぶ、あぇ・・・・・』とか
「《冥界騎士トリスタン》を召喚! その効果で、墓地の守備力0のアンデッド──《冥界の麗人イゾルデ》を手札に!
そしてイゾルデはトリスタンが存在する場合、特殊召喚できる!」
二枚セットじゃないと使いづらくて仕方が無い効果だけど、今は心から頼もしい。
「トリスタンとイゾルデのレベルは4。ボクはこの二体でオーバーレイ!
エクシーズ召喚! ランク4《デッドリー・シン》!」
現れたのは、どこからか糸を垂らして降りてきた巨大な蜘蛛。八雲興司のエースの一枚。
『よ、よーしキョウジ! 我と貴様の絶望の結晶、その力を見せてやれ!』
「努力の結晶みたいな言い方しないでくれないか!?
バトルだ、《デッドリー・シン》で《玄翼竜ブラック・フェザー》に攻撃!」
攻撃力は2400。ブラック・フェザーの守備力は1600しか無いため、破壊することは容易──そのはずだった。
『果敢にも向かって来るか。
だが妾は永続
「なんだって!?」
発動宣言はしっかりしてくれないかな!? 多分バトルフェイズ開始時に発動していたんだろうけどさ!
『その効果により、フィールドのカード一枚を破壊する!
貴様のその厄介な盾を打ち砕いてやろう! ホープレスを破壊だ!」
ヒビの入った大地に更に亀裂が走り、ホープレスの真下の地面が崩れ落ちる。
これでボクは、防御の要を失った。
「というか、あのカード・・・・・・」
効果までは覚えていないけど、確か漫画版でゴドウィンの使っていたカードのはずだ。OCG化された記憶は無いし、e・ラーの生み出したカード以外では初めて目にするオリカだ。
『そして《地縛共振》の更なる効果! エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが効果で破壊された時、その攻撃力の半分のダメージを互いに受ける!』
「お互いへのバーン効果!?」
ホープレスの落ちた大地の裂け目から炎が吹き出し、ボクと究極神へと襲いかかる。
身を焦がすような熱に、ボクは耐える事しか出来ない。
「ぐうううう!」
キョウジ LP4000→3000
究極神 LP4000→3000
『カカカカカ! 良いぞ、この痛み!
五千年ぶりの痛みだ!』
究極神は堪えた様子もなく、痛みすらも楽しんでいるように見えた。
冗談じゃない。その身体はイシュのだと言うのに。
『そして《玄翼竜ブラック・フェザー》の効果発動!
自身がダメージを受けた際に、デッキより五枚を墓地に送り、その中にモンスターがあれば攻撃力を永続的に400ポイントアップさせる』
怪鳥のような咆哮が、黒き翼竜より響いた。そういえばそんな効果だった、なんでちょっとシナジーあるんだ!
『《スーパイ》が墓地に送られた事により、攻撃力が上昇する。だが──』
「防御力には関係ない! 攻撃続行だ、《デッドリー・シン》!」
ボクの指示を受けて、大蜘蛛が翼の決闘竜へと喰らいつく。バキバキと明らかにアレな音が聞こえるので、ちょっと目を背けさせてもらった。
「
これでターンエンドだ」
『うむ、悪くない展開だ。このまま行くぞキョウジよ』
やめてくれないかな、そういうフラグっぽいこと言うの!
『妾のターンだ。
リバースカード、《くず鉄の神像》。その効果により、墓地より
舞い戻れ、《玄翼竜ブラック・フェザー》!」
「なっ!?」
また知らないカード、しかも今回は完全に初見だ。
『くず鉄』の名前を持ってるのに、なんで究極神が! いや、どっちかって言うと『赤き竜』なのか!?
『そしてこの
ではバトルフェイズだ。チラム・サバクよ、その身を捧げよ!』
「しまっ、」
《デッドリー・シン》の攻撃力は上昇し、2700になってる。チラム・サバクが戦闘で負けて破壊されるラインだ。
蛇人の攻撃は大蜘蛛が張り巡らせていた見えない糸に引っかかり、そのまま反撃される。
究極神 LP3000→2800
『ダメージを受けた事で、《玄翼竜ブラック・フェザー》の効果。デッキより五枚を墓地へ。
そして《蛇神官チラム・サバク》の効果! 戦闘で破壊された事により、墓地より守備表示で復活する』
蛇の神官が腕を組んだ状態で蘇生され、玄翼竜はさっきの雪辱を晴らすためか高く舞い上がる。
『そして《太陽の神官》が墓地へ送られた事で、ブラック・フェザーの攻撃力は上昇している!
《玄翼竜ブラック・フェザー》よ、その虫ケラを葬るがいい!』
「くっ!」
伏せカードを使うべきか迷ったが──迷っている間に攻撃宣言がされ、カードを切るタイミングを逃してしまった。頼むからフェイズ移動とかチェーン確認とかしてくれないかなぁ!
ブラック・フェザーはその翼を羽ばたかせ、いくつもの黒い羽根を飛ばして《デッドリー・シン》へと攻撃する。周囲に張り巡らせた糸ではそれを防ぎきれず、更に羽根の一部はボクにまで飛んできた。
「
キョウジ LP3000→2500
咄嗟に顔を庇ったが、それでも遅かったのか羽根は頬を掠めていった。腕にも刺さったような痛みがある。
そして、ボク以上に羽根を受けてハリネズミ状態の《デッドリー・シン》は、耐えきれずに地に伏せた。
『では、見せてやろう──究極神の力を!
自身の効果で蘇ったチラム・サバクはマイナス・チューナーとなっている!
妾はマイナス・チューナー《邪神官チラム・サバク》で、《玄翼竜ブラック・フェザー》をマイナス・チューニング!』
復活したチラム・サバクが闇のオーラを纏い、ブラック・フェザーと共に黒く輝き出す。
その圧倒的なオーラに、ボクは声すら出せなくなる。
『混沌の次元より湧き
この
そして一部が発掘された天空遺跡・セイバル──その奥部から目も
『
究極神《アルティマヤ・ツィオルキン》!!』
その光はボクのよく知る姿を取り、降臨した。『赤き竜』と酷似した、しかし正反対の存在。
圧倒的な存在感。その場にいるだけで、本能的な恐怖を感じる。同時に起きた地揺れも相まって、立っている事すらままならない。
「・・・・・・ッ!」
『完全な状態では無いが・・・・・・見せてやろう、究極神の力を!
妾はカードを二枚セット。そしてこれにより、究極神の効果が発動する!』
《アルティマヤ・ツィオルキン》の効果。前世でも『赤き竜』が散々タクシーだの何だの言われていたが、実際その通りの効果である。
究極神は聞き馴染みある──しかし、比にならない音圧で咆哮する。
『妾は
現れよ、《煉獄龍オーガ・ドラグーン》!』
地面を突き破って現れる、赤黒い煉獄の龍。
マズい。あのカードには手札が無い時に魔法・
『これで妾はターンを終えるが・・・・・・。
カカカ、唯一残ったその伏せカードも、オーガ・ドラグーンの前では飾りにすぎん』
究極神のフィールドには伏せカードが三枚。うち一枚は《くず鉄の神像》だとわかっているけど、それにしたって驚異だ。永続
「ボクのターン、ドロー」
それに、今にも地面が崩れそうだ。《アルティマヤ・ツィオルキン》の登場の際に、セイバルが崩れ始めたのもあって、足場が非常に不安定で、心許ない。
なにより、イシュの身体が心配だ。究極神に乗っ取られている上に、デュエルでダメージを受けている。もし勝てたとして、彼女が無事でいられるかはわからないけど──ともかく、早く何とかしないとだ。
「・・・・・・ボクはモンスターをセット。カードを更に伏せて、ターンエンド」
だっていうのに、何で
焦りを抑えながら、慎重にターンを終える。
『カカカカカ! 早くも万策尽きたか!
ならばその終了時、妾はリバースカードを発動する! 《くず鉄の神像》により、
地割れの狭間から、漆黒の翼持つ竜が飛翔する。そして、《くず鉄の神像》の効果は──
『この効果で特殊蘇ったブラック・フェザーはターンの終わりにエクストラデッキへと戻るが──
《くず鉄の神像》は再びセットされ、究極神の効果が起動する!』
『マズいぞ、キョウジ!』
「わかってる!」
『現れよ、新たなる
《アルティマヤ・ツィオルキン》が咆哮し、鋼の逆鱗を持つ機巧の竜が上空から現れる。
「レッド・デーモンじゃないだけマシか・・・・・・・」
『ほう。人間よ、
妾のターン!』
《玄翼竜ブラック・フェザー》がエクストラデッキへと戻ったけど、相手の場には
『妾は伏せてあった装備魔法《トラップ・ギャザー》を発動! 《機械竜パワー・ツール》へと装備する!
そしてパワー・ツールの効果、
新たな手札を得た究極神は、イシュの顔で不敵に笑った。
『どうやら貴様はここまでのようだぞ、人間よ!
妾はフィールドカードをセットし──もう、説明は必要あるまい?
《妖精竜エンシェント》!』
まばゆい光と共に、蛇のようなしなやかさを持つ竜がパワー・ツールの隣へと並び立つ。
そして、セットされたのがフィールド魔法ということは──
『フィールド魔法《
更に《妖精竜エンシェント》の効果で一枚ドロー!』
ひび割れた断崖が光の差す森へと塗り替えられる。けれどボクはその木々に、温かさよりも不気味さを感じた。
突然に明るくなった事に驚いたのか、ボクの伏せていたモンスター《蜘蛛男》の姿が
『《古の森》にはリバース効果を封じる効果もあったが──壁にもならん弱小モンスターとはな!
《妖精竜エンシェント》の更なる効果、
己の領域に相応しくないと判断したのか、妖精竜は蜘蛛に裁定を下すように尻尾で貫き、破壊した。
その姿に、ボクは自分の結末を重ね見る。
『これで貴様を守るモンスターは居なくなった!
《妖精竜エンシェント》よ、あの人間も葬ってやれ!』
『キョウジ、防げるな!?』
「くっ、リバースカード! 《進入禁止!
森の木々の間を縫うように、キープアウトのテープがフィールドへと張り巡らされる。それに塞がれて、神に従う竜たちは不満そうに喉を鳴らした。
究極神が手札を持ってくれて助かった。《煉獄龍オーガ・ドラグーン》の効果が不要になるほどのカードを引いたか、あるいは慢心か。もし後者なら、まだボクに付け入る隙があるかもしれない。
『止めてみせるか。
だが、切りどころを間違えたな! バトルフェイズの終了時、《古の森》の効果により、攻撃宣言を行った《妖精竜エンシェント》が破壊される!
そして《地縛共振》の効果によって、互いにダメージだ!』
古き森に共鳴するように、妖精竜の肉体が弾け飛び、それが炎となって両者へと襲いかかる。
「ぐあああッ!」
キョウジ LP2500→1450
究極神 LP2800→1750
身を焼く痛みに、ボクは苦悶の声を抑えられない。
ライフは半分を切った。即ち、ボクの命が、もう半分も無いということ。
身体から、力が抜けていく。膝が折れて、視界がぼやける。
『キョウジ!』
e・ラーの声が、遠くに聞こえた。意識が薄れていく。遠のいていく。
「まだ、ボクは・・・・・・」
まだ、負けていない。負けられない。なのに、身体が言うことを聞かない。
ボクは、戦わないといけないのに。こんなところで終われないのに。
ボクは、ボクは──
沈んでいく。痛みと、恐怖に。無力感と、不甲斐なさに。絶望に、沈んでいく。
冷たい水の中にいるような心地よさの中で、意識が沈んでいく。混濁していく。
ボクは、どうなったんだろう。死んだんだろうか。それにしては、意識がある。
じゃあ、デュエルは? あの戦いはどうなったんだろう。
負けられない戦いだった。前世を通しても、味わったことのない緊張感と切迫感、焦燥感。
結局ボクは、駄目だったんだろうか。まだ、戦えるのに。逆転のカードは、デッキに眠っているのに。
『──キョウジよ。底知れぬ絶望の中に
・・・・・・ヤバいな。とうとう幻聴まで聞こえてきた。ボクはもう駄目かもしれない。e・ラーの声に聞こえるって事は、もし幻聴じゃないならボクは精神にまであの絶望の神様に握られてるって事で、やっぱりお終いだ。
『誰が幻聴か! 貴様、状況がわかっているのか!?』
・・・・・・なんとなく、わかってるよ。ボクが死にかけてるって事くらい。
『安心しろ、死にはしない。今はな。
だがこのまま貴様が気絶していれば、あの究極神とやらは貴様に
我もなんだかんだ力を溜め込んでいるしな、
うん。そういうの含めての『死にかけてる』だったんだけど。
『馬鹿者、わかりにくい言い方をするでない! これじゃあ我が滑稽ではないか!』
お前が滑稽じゃなかった場面の方が少なかった気がするんだが・・・・・・。
『き、キサマ! そんなこと言って良いのだな!? 知らないぞ、我もう知らないぞ!?
貴様を手助けする手段を持ってたのに、そんな態度で良いのだな!?』
・・・・・・ボクが負けたら、お前も困るんじゃないのか? お前も究極神に取り込まれるんだろ?
『ッ!? ・・・・・・キョウジ、よく聞け。お前をすぐに目覚めさせ、
露骨に話題を逸らしたな・・・・・・。
『ええい、少しは真面目に聞かんか! 今は世界の命運を分ける瀬戸際なのだぞ!
良いか、我と契約すれば、貴様は力を手にすることが出来る。代わりに──』
いいよ。しようか、契約。
『これから先の──は?』
それしか無いんだろ。だったら、そうするしか無い。
ここで勝てなかったら、意味が無いんだ。それに、勝つんだったら早くしないと。イシュが心配だし。
『貴様! ・・・・・・キョウジ、よく考えるのだ。我と契約すれば、我との結びつきが強くなり、
だが代わりに、これから先の人生、その全ての『希望』を、我に捧げる事になるのだ』
うん。
『つまり、お前はこれから先、ずっと絶望する事になる。いま目の前の敵を倒せても、また同じように、今度はそれ以上の苦難が立ちはだかる!
簡単に終わる事も出来ない、そんな『絶望』だ』
・・・・・・うん。
『よく考えろ。もしこのまま敗北しても、ヤツは我だけを取り込んで、貴様を見逃すかもしれない。いや、貴様が望むなら我が交渉しよう。あの女が気がかりなら、それも開放するよう伝える。我を喰らえば、あんな器は必要ないからな。
その後は世界を滅ぼされるかもしれないが、貴様は我から解放され、束の間の安息と平和を手に入れる事が出来るのだ!』
うん。
『キョウジ!』
それでもだ、e・ラー。
ボクは戦う。この先に絶望しか無いとしても──でも、決めたんだ。できる限りは、やってみようって。
それに。ここで勝っても負けても、その先は
『キョウジ・・・・・・』
それから。ボクは主人公じゃなくて、前世の記憶とかあるけど、極めて一般的な人間だからさ。
『しゅじ、は? 前世の記憶??? きさま、なにを言って、』
これだけ長く一緒に居たら、例え相手が絶望の神様でも、
それこそ、こんなところで別れるのが惜しいと思えるくらいには、な。
『────?????? はぇ、』
わかったらボクと契約しろ、e・ラー。早くしないと、究極神の勝ちになるんだろ。
『ま、待て。情報の処理が追いつかぬ。わ、我はいま何を言われたのだ・・・・・・?』
あーもう、肝心なところでポンコツになるな、このなんちゃって絶望神!!
『なんちゃってではないわ!
だったらさっさとボクと契約しろ! ボクの絶望くらい、いくらでもくれてやる!
『ちょ、待っ、心の準備がっ!!?』
『フッ、気絶したか。
どれだけの力を持とうと、所詮は人間。このデュエルに耐えられるはずも無かったか』
遠くから聞こえたその声に抗うように、ボクは目を覚ます。
暗い海の底から、這い上がるように。獲物目がけて進む、一匹の蜘蛛のように。
「──それはどうかな?」
口をついて出たのは、そんな言葉だった。アニメや漫画で、よく目に耳にした、有名なフレーズ。
『なにっ!?』
驚いた顔をしている究極神の姿に、思わず笑みが
ボクは自覚していた。立ち上がった自分の姿が、さっきまでとは異なっている事に。髪は重力に逆らって逆立ち、服装もただの長袖から短いコートのような上着と、やたら長いロングブーツ。
そして目元には、
「ボクはもう絶望しきったぞ。
次はお前の番だ、究極神!」
待って、ノリで言ったけどこの決め台詞ダサくない!?
キョウジ
カードの知識が連載開始時で止まっているため、それ以降のカード全てがオリカに見えている。
大量に新規が来ているズァークと戦うことになれば、阿鼻叫喚は必須。
e・ラー
キョウジと契約し、より深い繋がり(意味深)を得た。
アストラルポジションなら、俺とお前でオーバーレイ!(意味深)しないとなので。
究極神アルティマヤ・ツィオルキン
イシュの身体を乗っ取り中。
ちなみに、ここで勝ってe・ラーを取り込んでも、その後でズァーク(暴走モード)に勝てるかは五分五分だったりする。
ズァーク
実は、参加している大会の優勝者に贈られる称号が天錠覇王だったりする。